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丸尾滝橋の維持管理方針について
~温泉腐食環境下に建設した橋梁~
諏訪正啓

キーワード:丸尾滝橋、シラスコンクリート、橋梁維持管理

1.はじめに
丸尾滝橋は、宮崎県境近くの一般国道223号霧島市小谷地内に新設した橋梁であり、建設地周辺は、霧島錦江湾国立公園第2種特別地域に指定されている。現道は道路幅員が狭小で急カーブが連続し、斜面崩壊や路肩決壊による通行止めが発生していることから、丸尾滝橋を含む460m区間を平成12年度からバイパスとして整備を行ってきた。

2.丸尾滝橋の概要
丸尾滝橋は、国立公園内の景観や地形改変の抑制を考慮した、橋長302mの5径間PCラーメン箱桁橋として計画され、また、下部工は逆T式橋台とRC橋脚で構成され橋脚基礎は大口径深礎杭基礎を採用した。
橋脚の施工は、国内でも例を見ない100℃を超える高温地熱と硫化水素を含む火山性ガス、強酸性土壌の極めて厳しい温泉環境下であることから、A1、P1~P4の基礎部については、コンクリートは、「シラスコンクリート」を使用するとともに、安全対策と施工管理、品質管理について学識経験者や専門的な知識・経験を有する技術者からなる「施工技術検討委員会」を設置し、課題や問題点を抽出、検討しながら施工を行った。また、供用後も厳しい温泉環境下等にあることから、適切な維持管理のもとで長寿命化が図れるように、「維持管理技術検討委員会」を設置して本橋の維持管理方針を検討した。
橋梁の建設は、平成13年に工事着手し、平成24年には上部工事に着手、平成27年3月30日に供用開始したところである。橋梁の計画諸元を表-1、図-2~3、写真-1~2に示す。
※シラスコンクリートとは、鹿児島県本土に広く分布する「シラス」を細骨材として使用したコンクリートのこと。長期の強度特性に優れ、温泉環境下においても非常に高い化学抵抗性を有する。

3.丸尾滝橋の特徴
本橋の大口径深礎杭基礎の施工では、予め実験供試体及び実機による実験や各種シミュレーション解析等を繰り返し行い、設計及び施工を確実なものとしていった。また、国内で初めて大口径深礎杭基礎の材料として「シラスコンクリート」を採用するともに、施工では仮設工程で地盤冷却工と遮断工(薬液注入工)を併用し、掘削工程と土留め工程では無人化施工を行い、全ての下部工基礎建設工事を無事故で完成させた。

1)計画、設計における特徴
(1)橋梁形式は、経済性、構造性、施工性周辺環境など様々な比較検討を行った結果、PC連続ラーメン箱桁橋とし、橋脚基礎形式は、国立公園第2種特別地域内での地形改変を抑える必要から大口径深礎杭基礎を選定した。
(2)設計の課題は、①基礎コンクリートの品質と耐久性の確保②基礎施工時の安全対策であり、①に対しては、地盤冷却工法による養生環境の確保と化学抵抗性に優れるシラスコンクリートの採用、②に対しては遮断工による高温蒸気やガス噴出対策と無人化施工計画を行った。
(3)橋梁基礎へのシラスコンクリートの採用に関しては、大型供試体やオートクレーブ施設内による高温養生実験により強度特性を確認し、40℃~60℃の養生環境と低熱ポルトランドセメントの使用を決定した。
(4)コンクリート躯体の化学腐食対策としては、鋼材かぶりを確保し、基礎コンクリートは硫酸イオンの浸透に対する劣化期間を考慮してコンクリートを増厚し、柱基部には防食ライニングを計画した。

2)施工における特徴
大口径深礎杭の施工では、「施工技術検討委員会」の意見により比較的施工リスクが少ないA2橋台より進め、施工における実証を繰り返しながら順次施工し、施工環境が厳しいP1橋脚を含め無事に施工を終えた。

3)維持管理における特徴
丸尾滝橋は、温泉腐食環境下にあって、シラスコンクリートを大口径深礎杭基礎に採用した橋梁であることから、本橋独自の維持管理方針を定め、深礎杭躯体内に埋設された熱電対と中性化、鉄筋腐食センサーによりモニタリング管理している。また、これら維持管理計画についても、「維持管理技術検討委員会」の意見を伺いながら、計画を策定した。

4.大口径深礎杭の温度腐食対策
1)構造物の品質と耐久性の確保技術
(1)シラスコンクリート
温泉腐食環境に対して耐久性を確保するため長期耐久性に優れ、温泉環境においても非常に高い化学抵抗性を有する事が確認されているシラスコンクリートを採用した。また、採用にあたっては現場条件を再現した高温養生実験等で強度特性を確認した(図-5参照)。

(2)地盤冷却工
大口径深礎杭の底面付近の地盤温度は80℃~120℃と高温で、坑内掘削時の作業環境改善と若材齢コンクリートの品質確保を目的に、地盤に冷却管を埋設し冷水を循環させて地盤温度を制御する地盤冷却工を実施した。地盤冷却管は遮断工として薬液注入を行った鋼管(AGF-R管)を再利用した(図-6、写真-3参照)。

(3)計測管理
熱電対とひずみ計を埋設して施工中の温度応力とひずみを計測し、施工後のモニタリングを目的とした中性化センサーを設置した(写真-4参照)。

2)施工の安全性の確保技術
(1)遮断工(薬液注入工)
大口径深礎杭掘削時の突発的な高温蒸気や有毒ガスの噴出リスクに対して、作業員の安全性を確保するとともに、施工後も腐食因子から躯体保護を目的に薬液注入工を実施した。薬液注入工は外郭注入→内郭1次注入→内郭2次(3次)注入の段階施工を実施し、施工品質管理は注入圧管理、現場透水試験、管理水温試験、チェックボーリングを実施しながら確実な薬剤注入を行った(写真-5参照)。

(2)換気シミュレーション
坑内の作業環境と有毒ガス等に対する安全性の確保を目的に、事前に坑内の換気シミュレーション解析を行い、ガス希釈に必要な送・排気量と換気設備の配置を検討した。

(3)無人化施工
有毒ガスの発生リスクに対して、大口径深礎杭の掘削と土留め工施工は極力遠隔操作による無人化施工として作業員の安全確保を図った(写真-6参照)。

5.維持管理方針
1)基本方針
県策定の「橋梁定期点検マニュアル」を補完する位置づけとし、直接温泉腐食環境下にある橋脚の基礎部分は、建設時に設置した腐食センサー、鉛照合電極データ等のモニタリング結果によりコンクリートの劣化や鉄筋の腐食状況について評価することを基本とした。

2)維持管理計画及び体系
本橋における維持管理については、原則として点検頻度、点検部位等について橋梁定期点検マニュアルに準拠するとともに表- 3 に示す維持管理計画表(案)及び表-4に示す丸尾滝橋維持管理の点検(案)に従い、維持管理を確実に行うこととしている。厳しい環境下で将来に渡ってコンクリートの品質について、モニタリングすることが重要となっている。以下にモニタリング方法等について記述する。

3)モニタリング
不可視部分のうち下部工基礎部の劣化状況については, モニタリングにより確認し、コンクリート中の腐食物質の浸透状況及び鉄筋腐食状況を把握し、推定することとした。
P1橋脚~P3橋脚の基礎部コンクリート中には、コンクリート中の腐食因子の浸透状況を確認するための腐食センサーと鉄筋の腐食を確認するための鉛照合電極の2種類のもモニタリング装置を埋設した。
また、温度計も設置し、補助的な位置づけで橋脚基礎内部の温度を計測することとした(図-9参照)。

4)モニタリング基準値
下部工基礎部は極めて過酷な温泉腐食環境にあり、これまで同様な腐食環境に建設された構造物が県内に事例がないことから、モニタリングの実績もなく、示方書等においても、腐食環境でのコンクリートの劣化あるいは鉄筋の腐食に対する基準値は定められていないため、「施工技術検討委員会」で独自に基準を設定しており、表-5に評価基準点を示す。

5)モニタリング装置
平成16年10月にP3橋脚基礎、平成18年11月にP2橋脚基礎、平成20年12月にP1橋脚基礎のモニタリングが順次開始された。昨年点検時に装置の不具合が生じ、原因は未だ不明であるが、高温地熱など想定を超える苛酷な温泉腐食環境下による何らかの不具合が生じたものと推定される。
そこで、今年度、不具合の生じた腐食センサーを補完する目的でP1橋脚近傍に観測孔を設け、モルタル供試体を設置し、モニタリングを継続することとしている(図-10参照)。

6.おわりに
今後も、引き続き橋梁定期点検マニュアル及び丸尾滝橋独自の維持管理方針に基づき「シラスコンクリート」の品質に注視するなど適切な維持管理に努めることとしている。
最後に貴重な資料や情報の提供をいただいた「施工技術検討委員会」や「維持管理技術検討委員会」の鹿児島大学の武若教授をはじめ各委員の方々はもとより、設計・検討に携われた株式会社長大福岡支社には多大な協力をいただき厚く感謝の意を表する。

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