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中島川に架橋された出島表門橋と景観に調和した護岸整備について
江島良

キーワード:出島表門橋、中島川、石積み護岸

はじめに
出島は、寛永13 年(1636)、江戸幕府が長崎の有力町人に築造させた人工の島である。
当初はポルトガル人が居住したが、その後、同18 年(1641)、平戸のオランダ商館が出島に移転し、オランダ商館が廃止される安政6 年(1859)までの218 年間、出島はヨーロッパとの唯一の貿易地であった。
幕末の開国に伴い、その役割を終えた出島は、次第に周囲の埋め立てが進み、明治37 年(1904)の長崎港港湾改良工事の完成により完全に内陸化し、その姿を失った。その後、大正11 年(1922)に国指定史跡「出島和蘭商館跡」となった。

中島川の変流工事
中島川は、その源を烽火山に発し、長崎市の繁華街を貫流して長崎港に注ぐ2 級河川であり、下流域の左岸側には出島が位置している。
幕末から明治初期頃までの中島川の河口は現在と違って十八銀行本店付近に河口があり、中島川の上流から送出された土砂は河口付近で堆積し時間とともに広大な干潟を形成するに至った(図-2 参照)。
中島川河口の土砂堆積により、この事態を放置すれば長崎港は機能不全に陥ると考え長崎県は港湾改良工事を決断した。

長崎県は明治10 年8 月に政府に長崎港の調査を依頼し、これを受け政府は当時、港湾の水理に精通していたオランダ人の土木局御雇外国人デ・レーケを長崎に派遣し、長崎港に流入する河川を巡視した結果、出島を変流して中島川からの流出土砂を港の不要部分に排除することが決定された。
中島川は、長久橋の上流付近から直進し、出島の南側と長崎税関側が河口となり、長崎港の主要部分に土砂が堆積していた。この中島川を、出島の背後(北側)に変流させ、同時に川幅を約20m拡幅し、大波止付近を河口にした。新しい河道を開削すると同時に、江戸町側の屈曲部を埋め立て、滑らかな河道を構成し、新河川護岸は切石で石垣が築かれ、河口の先端には導流堤を構築し、水流が円滑に流れるような構造となっている(図- 3 参照)。

出島復元整備事業について
戦後、昭和26 年(1951)、オランダ政府と日本政府の協議を経て、長崎市が主体となり史跡の公有化及び整備計画に着手した。
平成8 年(1996 年)に15 年程度を目標にした短中期計画と完全復元を目指す長期計画が答申され、これを受けて出島復元整備事業が開始された。

出島表門橋の架橋について
短中期計画のなかで『出島の和蘭商館跡と長崎の街とを結ぶ唯一の出入り口である歴史的な正面からのルートを確保するために、できるだけ早い時期に旧出島橋を架橋する。』としたうえで、出島完成(1636 年)から、380 年後となる平成28 年(2016 年)架橋を目指すことから、長崎市が主体となり、出島表門橋及び周辺整備デザイン検討会議が設置され、県・市が一体となって整備に取り組むこととした。

出島表門橋及び周辺整備デザイン検討会議
平成28 年10 月供用開始を目指し始まった出島表門橋の架橋は、出島表門橋及び周辺整備に係る基本設計、実施設計及びエリア全体の景観デザインを構築するために具体的かつ技術的な検討を行うことを目的に設置された会議であり、学識経験者及び長崎市景観専門鑑や各施設管理者(橋梁、公園、河川)を始めとする長崎県・長崎市の職員で組織する。

橋梁デザインコンセプト
1.確実な遺構保存
出島側護岸での杭や基礎の設置は、文化財保護の観点から制限される。このため、出島側は現地盤を深く掘り下げた橋台及び基礎工の設置は不可能である。

2.出島を引き立てるデザイン
出島はどの歴史の教科書にも出てくるような重要な史跡であり、長崎、日本、ひいてはオランダにとって非常に重要な意味を持ち、国際的に見ても非常に価値がある場所である。出島への眺望を遮らない出島を引き立てる橋のデザインである。

3.河川内橋脚の設置を避ける
河川景観上から単径間が望ましい。発掘調査など時間を要する工程が多く、河川内橋脚の設置を避け、工期短縮を図る。

4.ここにしかないユニークな橋梁形式
死荷重時、活荷重時で構造システムが変化するというユニーク構造形式の橋は、河川条件、出島側の遺構保護という境界条件から生み出されている。

5.歴史的風景の中でつつましやかな現代の橋
長崎の歴史的な建造物、身体スケールに配慮した素材選択、スケール感の調整を行う。具体的にはプレート桁に軽快な開口を設けると共に補鋼材(フィン)を設け、床材には、木デッキという繊細な素材を採用する。

6.最先端の構造解析と日本および長崎の技術力
FEMによる最先端の構造解析によって設計し、施工には日本、長崎の技術を活かすこととする。

橋梁形式の比較検討
設計条件や歴史考証、デザイン基本計画を踏まえ下記評価基準を選定し橋梁形式の比較検討を行った結果、中路鈑桁橋片持ち形式が採用された(図- 7 参照)。

出島表門橋上下流の護岸整備について、左岸(出島)は改修済みのため、右岸(江戸町)の改修となる。
右岸背後地は市の公園整備が計画されており、河川断面を狭めることは困難なため、既設の石積みと同じ法線での護岸整備となる。

既設石積みについては明治時代の変流工事により施工された切石の石垣が法面の下側に存在しており、歴史的価値があると判断されることから、学識経験者に意見を伺い、その石垣を残した状態(動かさずに)で護岸整備ができないか検討することとした。

また、現場は国指定史跡「出島和蘭商館跡」であるため、護岸掘削範囲について、遺構調査を実施しながらの設計・施工となる。

遺構調査、工事(河川、橋梁、公園)が同時期に同じ現場で実施されるため、工程会議を開催し、工程、施工ヤード、石積み護岸の構造、施工方法について月1 回以上の会議を実施した。工程会議のメンバーを表- 2 に紹介する。

石積護岸工事方針
○明治期の既設石積み石材はできる限り再利用し、足りない石材は新材で積み直し、当時(明治期)のおもむきを復元する。
○既設石積護岸の根入れ部分は積み直しは行わず、その上に石積みを積み直す。
○練積みで強度は確保しつつも、石積み表面からコンクリート等の人工物が見えない工夫を行う(写真- 2 参照)。
○石積みはきれいに積み過ぎない。(目地のライン、石積み表面の加工)

既設の石積みについて
既設の石積みについて、配置状況を記録し、再利用可能な石在(縦45㎝以上)と再利用不可な石材(縦45㎝以下、傷、石の目全体の形が不定型なもの)を選定する。

水抜パイプと目地について
水抜きパイプを通常の2㎡に1 箇所で設置すると、石積みに使用する石材の諫早石が、パイプからの排水により変色する可能性があるため低水護岸の高さに設置する。
目地、水抜きパイプについて、表から見えない配置とする。

遺構調査により明治時代の石積みの基礎部まで掘削を行った。

遺構調査にて検出された遺構

既設の空石積みの基礎状況等を確認した結果、既設空石積みの上部に練り石積みを施工すると不安定となるため、既設石積みを積み直し、基礎部の前面及び背面に松杭を打設し、杭天端に間詰めコンクリートを施工することで、既設石積みの安定を図った。(松杭の打設について、施工時の振動により地盤が乱され既設石積みの沈下が懸念されたことや、松杭の打設長やピッチを検討するために、試験打ちを行って決定している。)

おわりに
出島表門橋の供用開始について、平成28 年10 月を目標としていましたが、橋台部の遺構調査にて遺物が確認されたことから、設計の見直しを行ったこと、また、周辺整備事業(河川・公園)との調整により平成29 年11 月に変更となった。
工程会議の開催は17 回、施工管理協議は19回開催され、現場条件にあった工法や施工が議論されたことで現場の進捗が図れたことと感じております。
また、石積みの施工に関してご指導頂きました学識経験者、調査・設計・施工に携わった請負者の皆様に心から感謝申し上げます。

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