第4回「技報賞」懸賞論文 『佳作』
中山間地域を中心とした国土計画
中山間地域を中心とした国土計画
福岡大学 大学院 環境まちづくり研究室
修士1年
修士1年
山 住 修 平
1 はじめに
現在、我が国では人口減少時代に突入しており様々な問題が発生している。本論文では、人口減少から発生している問題の一つである「低密度居住地域」、その中でも、平野の外縁部から山間地に位置する「中山間地域」に注目し、国土形成のあり方について考える。山地の多い我が国では、このような地域が国土面積の69%を占めており、また耕地面積の42%、総農家数の43%、農業産出額の38%、農業集落数の50%を占めるなど、我が国の農業の中で重要な位置を占めている。
これまで中山間地域が担ってきた役割について見ると、農業や林業をはじめ自然資源を活用した様々な産業が営まれており、これらの活動を通じて①米や野菜といった食料の供給。②健全な森林が維持管理されることにより洪水や渇水の緩和等の自然災害に強い安全な国土の形成。③清浄な水や空気の提供、美しい自然景観の保全等都市にはない潤いと安らぎのある空間の提供。といった役割を担ってきた。
このように中山間地は、我が国の食料供給源、災害に強い国土の形成、安らぎの場の提供など、国民の生活を多方面から支えてきた。さらに近年では、中山間地域に存在する森林が、地球温暖化の原因の一つである二酸化炭素を削減する効果も有しているということもあり、中山間地域を維持していくことの重要性は増してきている。
2 中山間地域の現状と課題
しかしながら、中山間地域はかなり厳しい現状におかれている。それはなぜか。中山間地域はその立地条件の悪さのために都市部から離れており、産業復興や社会生活の上で不利な条件にある。それに加え、現在の我が国では、中山間地域の基幹産業である農業や林業のみで生計を立てることが困難な時代となっている。これらの要因から、中山間地域では都市部に比べ、過疎化(図-1)や高齢化(図-2)が進行しており、地域の活力が著しく低下している。
このような中山間地域の現状は、様々な負の連鎖を引き起こしている。その例を挙げる。まず、地域の人口が減少することにより、十分なインフラ(道路整備、公共交通、商店や学校、病院の維持等)を提供することが不可能になる。その影響で、地域の住民はよりよい生活環境を外(都市部)に求めて移住する。その結果、地域の住民が減少しインフラの整備ができなくなり、居住人口が減る。といった負の連鎖が続き、最終的にはその地域に人が住むことが出来なくなってしまう。これは小範囲の地域について示した例であるが、さらに広範囲で詳しくこの負の連鎖が与える影響を見ると、我が国全体の問題であることがわかる。
まず、前述したようにこのような中山間地域は我が国の国土面積の69%を占めており、また耕地面積の42%、総農家数の43%である。この地域が全て無人になってしまうとどうなるだろうか。考えられることとして、農業や林業を営む人がいなくなり、農地や森林の耕作放棄地が増加する(図-3)。その結果、①食料や木材の安定供給ができなくなる。②憩いと安らぎを与える豊かな自然環境の提供ができなくなる。③森林管理を行う人がいなくなることにより、森林のもつ雨や地震に対する防災力がなくなり、災害に弱い国土が形成されてしまうといったことが挙げられる。特に②や③については、自然や景観に対する住民意識の高まりや野生動植物の生息の場の保全、地球温暖化防止の観点と森林の持つ二酸化炭素の吸収力の適切な発揮といった観点からも対策が必要である。
3 地域コミュニティーを形成する道の駅
このように、今後の日本国民の生活を維持していく上で重要な役割を担っている中山間地域であるが、現在の我が国ではこのような地域を維持していく手法が確立していない。そこで、本論文ではそれを解決するための手法を提案したい。
まず、これまでに挙げてきた課題を解決するには、定住人口の増加(維持)が欠かせない。しかし、人口減少時代に突入した我が国にとって、これは非常に困難なことである。なぜなら、単純にインフラを整備し良好な住環境を形成しても、必ず定住人口が増加するという時代ではなくなったからである。
そこで私は、この問題を解決する方法として「地域コミュニティーを向上させることのできる国土づくり」を提案したい。具体的な手法として、私は「クラインガルテン」、「グリーンツーリズム」と「道の駅」に注目した。
「クラインガルテン」とは、都市の人々が気軽に楽しむことの出来る市民農園である。ここにはラウベと呼ばれる簡易宿泊施設が設置されており、ラウベに滞在しながら自分の菜園づくりを楽しみ、地域住民と交流することが出来る場所である。「グリーンツーリズム」とは、農山村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動である。私が考えるこの2つの取り組みの狙いとしては、外(都市部)から人を呼び込み、外と地元の人々とのコミュニティーの形成を図ることである。
続いて「道の駅」とは、休憩施設と地域振興施設が一体となった施設であり、24時間利用可能な一定数の駐車スペース、トイレ、情報提供施設などが設置されている。また、その地域の自主的工夫のなされた施設が設置され、その地域の文化・名所・特産物などを活用したサービスが提供されている場所である。「道の駅」では「地域独自の活用が可能」ということを利用した様々な取り組みが行われている。私が注目したのは、この取り組みの一つである地産地消である。地産地消とは、地域で生産した農作物を皆で持ち寄り、持ち寄った品で生活するという考え方であるが、私が考える地産地消の狙いは、地域住民のコミュニティーを形成する場を提供することにある。道の駅という場を提供することにより、地域の住民が触れ合う回数が増し、地域コミュニティーが形成されるのではないだろうか。つまり、「道の駅」で考える私の狙いは、地域住民間の地域コミュニティーの形成である。
このように私は「クラインガルテン」「グリーンツーリズム」と「道の駅」について注目して考えてきた。これらの取り組みは今まで全国的に実施されており、それなりの効果が上げられている。しかし、この三つの取り組みは複合的に実施されている事例は見受けられない。そこで私は、これら三つの手法を複合的に実施することを提案したい。イメージとしては、「クラインガルテン」や「グリーンツーリズム」の活動を通じて生産した農作物を「道の駅」で売る。そしてこの活動を通じて、外から来た人同士のコミュニティー、外と地域の人々とのコミュニティーが形成できれば良い。そしてコミュニティーが形成された結果、地域に定住する人が増加すれば良いのではないかと考える。
4 おわりに
私は、定住人口を増加させるためのコミュニティー形成の手法として「グリーンツーリズム」「クラインガルテン」「道の駅」を複合的に使うことを提案した。しかし、現在の我が国の中山間地域では十分な道路整備ができておらず、上記三つの取り組みをスムーズにつなぐことができるインフラづくりができていない。だからこそ、今後の国土形成を考える上で、上記三つの取り組みに関係する場所(都市、中山間地域、道の駅)をうまくつないだインフラ整備(道路整備、公共交通)を進めていくべきだと考える。