一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
平成21年7月中国・九州北部豪雨災害について
~南畑ダムの洪水調節効果について~
福岡県 吉武範幸
1.はじめに

平成21年7月24日から26日にかけての梅雨前線豪雨により、県下の多くの地域で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、死者10名、住宅の全・半壊24棟、床上浸水1,494戸、床下浸水4,210戸、県内15水系・30河川の観測所で氾濫危険水位を突破し、近年まれにみる甚大な被害を受けた。
本稿では、豪雨状況とその時の南畑ダムの状況及び洪水調節効果について報告する。

2.気象の概要

西日本では7月19日から26日にかけて梅雨前線の活動が活発になり、県内では24日夕方から25日朝にかけてと、26日早朝から昼過ぎまでの二度の大雨を記録した。状況は以下のとおりである。
・7月24日~25日
前日まで九州の南海上にあった梅雨前線が、九州北部まで北上し、九州の西海上の低気圧が対馬海峡に進んだ。梅雨前線と低気圧に向かって湿った空気が流れ込み、夕方から降り始めた雨は、1時間に福岡市博多区(福岡空港)で116㎜、篠栗町で100㎜、飯塚市で101㎜を記録するなど、県の中央部を中心に80㎜を超える猛烈な雨となった。48時間雨量では飯塚市では400㎜を超え、県内の広い範囲で200㎜を超える大雨となった。
・7月26日
引き続き梅雨前線が停滞し、梅雨前線と低気圧に向かって湿った空気が流れ込んだため、1時間に那珂川町で80㎜の猛烈な雨が降ったほか、一部で50㎜を超える非常に激しい雨が降った。日雨量は、那珂川町で300㎜を超え、県内の広い範囲で100㎜を超える大雨となった。
24日から26日にかけての累計雨量は、太宰府市で618㎜、飯塚市で568㎜、那珂川町で562㎜、篠栗町で517㎜を記録(ともに観測史上1位)、各地で300㎜を超える雨量を観測し、場所によっては、7月の月間平均降水量の2倍近くがこの3日間で降ったこととなる。

3.南畑ダムの状況概要

南畑ダムは、二級河川那珂川の上流に位置する県営の多目的ダムである。
那珂川は、福岡市の中でも特に人口や資産の集中する天神・中洲地区を南北へ流れ、博多湾に注ぐ流路延長35km、流域面積124km2の河川である。
今回の降雨では、南畑ダム上流の小川内雨量観測局において、24日から26日にかけて累計雨量601㎜を観測した。特に、26日5時~14時の9時間で累計雨量305㎜、10時~11時には時間最大82㎜の降雨を観測した。
この豪雨により、那珂川が氾濫し、那珂川町役場付近では甚大な浸水被害を受けた。
南畑ダムでは26日11時5分に最大流入量357m3/s(計画高水流量:320m3/s)を記録し、洪水時満水位276.20mに対して、完成後最高水位となる274.98mに達した。

ダムの効果としては、最大流入量が357m3/sに対して、最大放流量が125m3/sだったことから、232m3/sを調節することができ、総量では、177万m3(福岡ドーム約1杯分)を調節することができた。ダム下流14㎞にある治水基準点(福
岡市南区下日佐)では、約3.0mの水位低減効果があったと推定され、ダムによる洪水調節の効果が発揮された。

4.危機的状況からの回避
(1)危機的状況

計画を超える流入量を記録すると共に、ダム周辺道路の土砂崩壊によりダムが孤立する中で、異常洪水時操作に移行するか否か非常に厳しい判断を迫られた。さらに、土砂崩壊に伴う通電線、電話線の切断により、自家発電、及びNTT回線、携帯電話が接続できない状況でのダム操作を強いられた。

(2)経過

7月26日
  1. 9:40大雨洪水警報発令
  2. 10:30福岡市避難勧告発令
  3. 10:58異常洪水時操作について内部決裁
  4. 11:00ダム地点観測所において時間雨量82㎜を
    観測
    (これ以降の降雨は減少傾向となる)
  5. 11:05ダムへの最大流入量 356.7m3/s
  6. 11:35那珂川町役場の浸水被害報告を受ける
  7. 11:50福岡市から放流量増に対する延期要請有り
    (那珂川下流域キャナルシティ付近で満水状態)
  8. 12:05ダム貯水位最高水位を観測 274.98m
    (洪水時最高水位(サーチャージ水位)276.2mに対し約1.2m下がり、異常洪水時操作開始水位を18cm超過)
  9. 13:00頃ダム周辺での土砂崩れにより停電し、自家発電によるダム操作を行っていたが給油が必要な状況となる
  10. ダム及びダムに隣接したキャンプ場に約100名の一般客が孤立
  11. 14:00頃孤立者の救出、自家発電用の燃料補給を自衛隊に要請
  12. 18:00頃自衛隊による燃料補給完了
  13. 河川下流の状況を踏まえ、以降、降雨、貯水量の状況を判断しながら、異常洪水時操作の見送りを決断

(3)創意・工夫した事項

NTT回線、携帯電話が接続できない状況で、職員の機転により、システム化していた専公接続(防災無線で県庁を経由して自動でNTT回線へ接続する手段)により、防災無線で接続できない警察署等との連絡手段を確保した。
このことにより、
  1. 自衛隊による自家発電用の燃料補給によりダム操作を継続することが出来た
  2. 隣接キャンプ場での約100名の孤立一般客の救出要請を行った
  3. 下流域での水防活動への情報伝達
などが可能となった。
異常洪水時操作開始水位を超過したものの、下流域における浸水被害の状況を踏まえ、時々刻々と変化する降雨状況に対して、きめ細かく貯水位の予測を行った結果、異常洪水時操作の見送りを決断し、下流の洪水被害を最小限にくい止めることが出来た。

5.おわりに

上述のような状況の中、結果的にダムの効果を最大限に発揮したが、ダムが溢れる危険が指摘され、一部ではダムの操作が疑われた状況もあった。
豪雨後に、浸水被害を被った那珂川町役場に出向き、町長と役場の職員の方に、当時のダム操作について説明を行った。新聞記事の中で、「南畑ダムの放流が被害を拡大したという声も聞くが、私は県の説明を聞き、ダムがあったからこそ被害が最小限に抑えられたと思っている。」と、町長の言葉があった。
近年、地球温暖化の影響と思われる局地的集中豪雨が多発しており、既存施設の有効活用や、住民の方にダム操作についての理解を深めてもらうことが必要と考える。
南畑ダムの洪水調節効果を発揮したにもかかわらず、那珂川では甚大な被害を受けた。このため、県では被害の再発防止を目指し、床上浸水対策特別緊急事業と五ヶ山ダム建設事業の進捗を図り、安全・安心な暮らしの実現に向け努めていく。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧