中九州横断道路における盛土材の改良について
国土交通省 九州地方整備局
佐伯河川国道事務所 工務課長
佐伯河川国道事務所 工務課長
佐 藤 晴 章
国土交通省 九州地方整備局
佐伯河川国道事務所 工務課
佐伯河川国道事務所 工務課
衞 藤 ともみ
1.はじめに
中九州横断道路は,大分市と熊本市を結ぶ延長約120kmの地域高規格道路であり,現在,大分県豊後大野市犬飼町~大野町間,約13kmの事業を推進している。
当該道路は,図ー11)に示すようにほぼ全域が火山灰質土の分布域を通過し,現在事業中の切土区間においても,火山灰質土が土工の大半を占めている。
一般的に火山灰質粘性土は,地山の状態では安定しているものの,練り返しにより軟質化する性質があり,当地区における切土材についても,盛土材として使用するにはトラフィカビリティーの確保が困難であることから,切土盛土の土工バランス,環境面,コスト等を考慮し,生石灰による改良を行うこととした。
盛土材の改良を行うにあたり,1)合理的で経済的な石灰添加量の決定方法,2)盛土の施工管理方法,3)添加量の目安となる火山灰質土の分類方法等の提案を目的とし,コーン指数試験による配合試験を行い,三軸圧縮試験による盛土の強度評価を行った。
2.分布する火山灰質土の物理的性質
当地区に分布する火山灰質土は写真ー1のように複数の層に分かれており,それを模式的に示したのが図ー2である。この模式図の上位から2層目が当地区で「豆っ子」と呼称されている軽石層であり,それより上位層を上位ローム,下位層を下位ロームとし,さらにその下位に阿蘇4火砕流堆積物が粘土化した灰土が分布している。
これらの4層が火山灰質粘性土に分類される。
これらの物理特性及び締固め特性の一部を表ー1に示す。表中の土粒子の密度ρsは若干大きめであるが,これは湿潤法2)で得たものである。ここで上位ロームLo3c-Uについては,含水比Wnは110%と高いものの液性指数ILは0.58と安定した状態であり,下位ロームLo3c-LはWn=60~100%とばらつくが,ILは1.0に近く液状化しやすい不安定な状態である。豆っこLo3pは粒度的には砂質土に分類されるもののWn=110%,塑性指数Ip=19,IL=3.98であり,かなり不安定な粘性土(高液性限界シルトMH)に分類される。
灰土A4n(c)も同様に低含水比,低塑性指数であるが,IL=1.15というように不安定な状態を呈する。
3.合理的に評価するための試験方法の提案
一般的に生石灰の添加量を求める室内試験方法として,一軸圧縮試験による配合設計が多く実施されている。この方法は,一軸圧縮試験を行い,一軸庄縮強度quよりコーン指数qcを推定し施工性の判定,石灰配合量の決定を行い,盛土の安定性については,標準的な粘性土として「粘着力C=qu/2,内部摩擦角φ=0」で評価するものとしていた。
そこで,一軸庄縮強度quよりコーン指数qcを推定する際の係数に含まれている誤差(本地区の土と標準的な土の係数の差)や,盛土の内部摩擦角を0として評価することは,過小評価なのではないかと考え,コーン指数qc,粘着力c,内部摩擦角φを図ー3のように直接室内試険により求め,土を評価することとした。
当地区では,湿地ブルドーザーによる施工でのトラフィカビリティーが確保できるコーン指数qc=300kN/m2 3)に安全率を見込んだQc=400kN/m2を室内試験の目標値とし,練り返しに弱い特性を考慮し,突固めエネルギー(突固め回数)を変化させた突固め試験と室内コーン試験より最適な生石灰配合量を決定することとした。
また,実際に配合した材料で供試体を作成して三軸圧縮試験を行い,得られた強度定数c,φより盛土の強度を評価するという方法とした。
4.突固めおよびコーン試験結果
(1)自然含水状態でのコーン指数
図ー4は表ー1の各試料の自然含水状態での突固め回数Ncとコーン指数qcの関係を示したものである。突固めは2.5kgランマー,10cmモールド,非繰り返し法による4)。
自然含水状態では,目標現場コーン指数qc=300kN/m3を満足するのは,液性指数の安定していた(IL=0.58)上位ロームLo3c-Uのみであった。他の試料は突固め回数Ncが増えるとともにコーン指数qcは低下し,特に豆っこLo3pや灰土A4n(c)は突固め回数Ncが増えると液体状になり,コーン指数qcは殆ど0に近くなった。
このことより,上位ロームLo3c-Uを除いては,盛土材として使用する際には改良等の処理が必要なことがわかる。
(2)石灰添加後のコーン指数
図ー5は図ー4で示した3種類の試料に対して,土量1m3あたり生石灰40kgを添加し1日放置した後のコーン指数qcと突固め回数Ncの関係である。同じ添加量でも土の種類や突固め回数Ncによりコーン指数qcの大きさに違いが見られ,改良効果の大きい試料(灰士A4n(c)や下位ロームLo3c-L(B))と改良効果の小さい試料(下位ロームLo3c-L(c))があることがわかる。
(3)盛土の施工管理基準
生石灰を添加した試料の締め固め度Dc,空気間隙率Va,コーン指数qcと突固め回数Ncの関係を図ー6に示した。
Dc-Nc関係ではデータのばらつきが多いが,VaNc関係では突固め回数Ncが10回を超えると全データともに空気間隙率Vaは8%以下の一定値にほぼ収束しばらつきも少ないため,盛土の管理基準値としてqc=300kN/m3と合わせてVa=8%を設定した。
また,qc-Nc関係ではNcが10回を超えるとqcが低下する傾向が強いため,配合試験の目標値をqc(Nc10)=400kN/m2となる配合量とした。
5.火山灰質土の分類方法
諸戸5)は青森県に分布する火山灰質粘性土に対して,液性指数ILと自然含水比Wnをもとに4種類に分類することを提案し5)それを施工時のブルドーザーの種類選定や改良の必要性についての判断材料に活用することを提言している。
その方法に従って当地区の火山灰質粘性土を分類したものが図ー7である。図中矢印で示した試料については配合試験を実施し,qc(Nc10)=400kN/m2を確保するのに必要な生石灰配合量を表示している。
この図より,自然含水比Wnが70%以下の試料の方が液性指数ILの幅が0.3~1.8と大きく,Wnが70%以上の試料はILの幅は0.6~1.3程度と若干小さくなった。また,LL(低含水比,低液性指数)に分類される試料は,そのままの状態でトラフィカビリティーが確保できる場合が多い。これらのことは,諸戸が分類した青森の火山灰質粘性土と同様な傾向である5)。
qc(Nc10)=400kN/m2を確保するのに必要な生石灰配合量は,LHで30kg/m3程度,HHで10~40kg/m3であり,今後は図ー7を利用して生石灰配合量を決定できるよう,データを蓄積したい。
6.現地での試験施工
室内コーン指数試験と現地での転圧後の盛土のqc値を比較する目的で,図ー8に示すように10m×55mのエリアを利用して1回,2回,4回の転圧に対する試験施工を実施した。
転圧は16t湿地ブルドーザーで行い,30cmのまき出し厚さに対して転圧し,各転圧区域中9地点でコーン指数qc及び空気間隙率Vaを測定した。試験に用いた材料は生石灰を41kg/m3添加した下位ロームLo3c-L及び無添加の上位ロームLo3c-Uの2種類である。
図ー9に転圧回数とVa,qcの関係を示した。図より,Vaおよびqcの管理基準値を満足していることがわかり,2回転圧時にqcはピークを示す。
また現地と室内のコーン指数qcを比較する目的で,縦軸に現地の1,2,4,8回転圧後の盛土のコーン指数qc,それに対応して横軸に現地1回転圧に対して室内5回突固め時のqc,2回転圧に対して室内10回突固め時のqc,というように整理したものが図ー10である。
この図より,現地と室内試験のコーン指数qcの比は,0.5~1.85程度となった。この現地での転圧試験についても,今後データを蓄積して分析することで,調査精度を高めたいと考えている。
7.盛土の強度
(1)三軸圧縮試験
三軸圧縮(CU)試験の供試体は,上位ロームLo3c-Uは無添加で突固め回数Nc=10回時の密度とし,他の試料については突固め回数Nc=10回時にqc=400kN/m2となるように生石灰を添加し,その時点の密度に合わせて作成した。試験結果は側圧σ3と軸差応力σ1-σ3の関係として図ー11に示した。この図より,粘着力Ccuは25~45kN/m2,内部摩擦角Φcuは20~30゜程度にばらつき,上位ロームLo3c-UはC,Φが小さく,灰土A4n(c)は大きいことがわかる。
(2)一軸圧縮強度との比較
三軸圧縮試験の供試体と同様の方法で作成した供試体で一軸圧縮試験を行い,三軸圧縮試験で得られた粘着力Ccuと比較したのが図ー12である。縦軸はquから求めた粘着力Cqu(Cqu=qu/2)であり,横軸はCcuである。
図より,土質に関係なく含水比Wnが40~70%の比較的低含水比の試料ではCcuとCquはほぼ一致するが,Wnが70~110%の高含水比の試料ではCcuがCquよりも2倍ほど大きい傾向となった。
また,図ー11に示したように,内部摩擦角φcuは20゜程度は見込めるため,盛土の強度評価に反映することとした。
(3)地層毎の限界盛土高さ
図ー11に示した地層毎のc,φの平均値を求め,標準盛土形状に対して修正フェレニウス法の円弧すべり解析を行い,安全率Fsと盛土高さの関係を求めたものが図ー13である。ここで,すべりに対する許容安全率を1.25とすると,限界盛土高は,無添加の上位ロームLo3c-Uでは28m程度,改良した下位ロームLo3c-Lで30~32m程度,灰土A4n(c)は40m以上になり,現在計画の盛土高であればすべり破壊に対する対策工は必要ない。
8.最後に
物事を合理的に決定するには,目的を明確にし,目的を達成できる合理的な方法を選択することが重要である。当地区の改良では,「トラフィカビリティーを確保する」という目的に対し,室内コーン試験を中心に改良の必要性及び生石灰配合量を決定し,盛土強度については三軸圧縮試験で適切に評価した結果,従来の石灰配合量よりも少ない配合量で施工が可能となり,コスト縮減になっている。
なお,本稿作成にあたり,甚礎地盤コンサルタンツ株式会社の協力を得ており,ここで謝意を示す。
参考文献
1)九州・沖縄の特殊土,土質工学会九州支部.pp.96~124,1983.
2)土質試験の方法と解説第2編第2章土粒子の密度試験,地盤工学会,pp.54-60,2000.
3)土質試験の方法と解説第5編第3章締め固めた土のコーン指数試験,地盤工学会,pp.266-273,2000.
4)設計要領第1集,日本道路公団,page 2-74,1998.
5)諸戸靖史,東北地方の地盤工学3.1火山灰質粘性土,地盤工学会東北支部,pp.53-71,1997.