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七隈川における総合治水対策

福岡市 道路下水道局 河川部長
箱 嶋 次 雄

1 はじめに
本市の市域は、海岸線から山間部までの奥行きが短いことから、市域内の河川には一級河川がなく、二級河川などの中小河川が24水系130河川となっている。

図-1 福岡市鳥瞰図(博多湾より望む)

本市では、過去、幾度となく水害に見舞われてきたが、近年は、市街化の進行による流域の保水・遊水機能の低下に加え、地球温暖化等の影響による集中豪雨が頻発する傾向にあり、水害の発生リスクが高まるとともに被害が拡大する傾向にある。
1999年と2003年の豪雨では、相次いで博多駅(乗降客人員数約34万人/日)周辺をはじめ市内各所で水害が発生し、市民生活や社会・経済活動に甚大な被害を及ぼした(写真-1、2)。

写真-1 博多駅周辺の浸水状況

写真-2 地下街への流入状況

特に、1999年には地下街の浸水や地下鉄の運行停止等に加えて、地下室から逃げ遅れた方が亡くなられる惨事となった。
このため本市では、このような水害を三たび繰り返さないため、現在、河川改修とあわせ、流域からの雨水の流出抑制を図る流域対策や、防災情報伝達の強化などによる被害軽減対策(ソフト対策)を一体的に進める総合的な水害対策に重点的に取り組んでいる。
今回、その取り組みの一環として七隈川流域で進めている、福岡大学と連携した雨水流出抑制の取り組みについて紹介する。

2 福岡大学と連携した雨水流出抑制の取り組み
(1)経 緯
1999年の豪雨は、本市城南区を流れる七隈川(延長約5.7㎞)の流域においても浸水戸数約170戸と甚大な被害(写真-3)を及ぼした。その対策として、現在河川改修を推進しているが、流域では地下鉄の開業や幹線道路の整備等によりさらに市街化が進展し、流域の保水機能が低下しつつあることから、河川改修とあわせて、流域からの雨水の流出抑制対策に重点的に取り組むこととした。

写真-3  七隈川流域の浸水状況(1999年6月29日)

雨水の流出抑制対策については、流域内に多く存在する学校、公園、ため池等を有効活用する方針とし、2007年1月から2008年2月にかけて関係者(福岡大学、独立行政法人都市再生機構、福岡市関係局)で構成する協議会により計画づくりを行った。
さらに、七隈川流域の約10%の面積を占め、雨水の流出抑制に大きな役割が期待される福岡大学において、雨水の保水・浸透機能を有する人工芝グラウンド(写真-5)の整備を契機に連携協定(写真-4)を2007年5月に締結し、雨水の保水・浸透機能に関する技術開発を進めている。

写真-4 福岡大学との連携協定調印式(2007年5月25日)

写真-5 福岡大学人工芝グラウンド

(2)保水・浸透機能に関する技術開発
取り組み内容は、福岡大学の仮設サッカー場(約10,000m2)を活用して雨水の保水・浸透機能を有する人工芝グランド(写真-5)の効果を実証研究するものである。
この人工芝グランドは、上層部がゴムチップを充填した新型人工芝と廃タイヤを再利用したクッション材で構成されており、下層部は透水性・保水性の高い改良土壌層となっている(図-2)。この構造により、次の3つの効果が期待できるものとなっている。
① 人体に優しい衝撃緩衝効果
② 保水・浸透による雨水の流出抑制効果
③ 保水された水が蒸発する時の気化熱による温度上昇抑制効果(ヒートアイランド対策)

図-2 人工芝グランドの模式断面図

下層部の改良土壌は、元々あるグランドの土に、団粒化材(高分子ポリマー)と固化剤(セメント系)を、混ぜ合わせたものである。改良後の土壌は団粒構造(図-3)になっており、土の中に連続した大小の隙間が形成される。その中で比較的大きな隙間で水を排水し、小さな隙間で保水する仕組みになっている。

図-3 改良土壌

なお、この人工芝グランドは国際サッカー連盟(FIFA)による現場テストを受験し、人工芝ピッチとしては最高レベルの「2スター」を日本で初めて取得している(図-4)。

図-4 FIFA認定書

(3)雨水流出抑制効果の実証研究
2007年6月から人工芝グランドからの流出量の観測を実施している。図-5は2007年7月2日から8日にかけての積算降雨量と積算合計流出量の関係で、積算降雨量の88%が、保水、浸透、又は蒸発により流出抑制されていることが明らかとなっている。

図-5 積算降雨量と積算合計流出量の関係

図-6は2007年7月から9月にかけての降雨イベント毎の総降雨量と総直接流出量の関係で、図中の点線は1対1の関係を示している。いずれの降雨イベントも総降雨量に対する流出率は概ね20%以下で、極めて小さいものとなっている。

図-6 総降雨量と直接流出量の関係

(4)今後の展開
現在までの実証研究の結果より、本グランドは雨水の流出抑制能力が高く、水害対策や地下水涵養、さらにヒートアイランド対策に大きな効果を発揮できると考えられている。

写真-6 福岡大学人工芝グラウンド(降雨時状況)

写真-7 福岡大学人工芝グラウンド
(グラウンド周辺の側溝をグラウンド面より高く設置すること
により人工芝部も雨水が貯留される構造となっている)

今後は更に多様な降雨現象(梅雨等の長雨)に対する保水・浸透効果等の検証を大学と連携し行い、その効果をより明確にしていく予定である。
また、開発された技術を流域内の公共施設に広めていくことで、水害に強い、水循環型のまちづくりを推進していきたいと考えている。
2008年からはその第一歩として、近くの小学校に雨水流出抑制施設を導入するため、学校関係者や市民の意見を聞きながらの計画づくりを行う予定である。

3 おわりに
2007年11月に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書」では、大雨の頻度は引き続き増加する可能性が高いと予測されており、その対策は世界共通の重要課題となっている。
将来の水害リスクを低減させるため、都市の保水機能を高めることの重要性は今後益々高まるものと言える。
一方で、その取り組みは一朝一夕には成し得ない。地道な施策の積み重ねが必要である。
本市では、今後も引き続き、将来を見据えた流域対策を着実に推進していきたいと考えている。
今回紹介した人工芝グランドにおける雨水流出抑制の技術開発等、本市の取り組みが他都市の総合的な水害対策の推進に少しでも参考になれば幸いである。

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