一般廃棄物最終処分場の跡地利用のための調査研究
長崎県土地開発公社技術部
竹 島 幸 則
福岡大学教授,
廃棄物学会会長
廃棄物学会会長
花 嶋 正 孝
応用地質株式会社長崎支店
支店長
支店長
吉 長 健 二
応用地質株式会社長崎支店
技術課課長補佐
技術課課長補佐
八 村 智 明
1 はじめに
近年,環境問題に関心が高まる中で,一般廃棄物最終処分場用地の確保は年々困難となってきている。一方,これまで投棄を終了した最終処分場は都市空間の広大な平坦地として,都市計画上に重要な位置づけとしてとらえられ,都市用地として最終処分場の跡地利用について関心が高まりつつある。こうした中で環境庁は最終処分場跡地の適正な管理と利用に関する検討を行ってきている。
本報文では最終処分場の跡地利用を有効に進めるための手法の確立に向けて,調査研究した結果について報告する。
2 最終処分場の概要
今回対象となった最終処分の跡地は,最終処分地の「最終処分場に係る技術上の基準を定める命令(総理府・厚生省第1号,昭和52年3月)」や「廃棄物最終処分場指針(厚生省環境衛生局水道環境部,昭和54年9月)」が施行される前の跡地である。
埋立構造は底部に遮水工がないもので浸出水集排水管を設置した改良型嫌気的衛生埋立構造に類すると考えられる。施設の概要は表ー1に示すとおりである。
3 跡地利用の条件と調査項目の選定
跡地利用までの手順は図ー1に示すような流れで行うのが一般的である。しかしながら,従来の最終処分場では,ごみを安全に効率的に埋立処分することに重点がおかれ,跡地の利用を前提とした最終処分場の計画がされていないものも多い。
当該跡地においても例外ではなく,ごみの処分に重点がおかれており,埋立ごみの種類や量および埋立範囲,また覆土材等に関する資料がない状況であった。
当該跡地の跡地利用上で要求される条件と調査項目は表ー2のように考えられる。
これら各種調査の進め方は図ー2に示す。
現地調査での重要な点は,下記の事項であることは理解されているもののその詳細な進め方には確立されたものがないのが現状である。
① ごみの分布と物性の把握
② 帯水層と地下水の流動方向の把握
③ 浸出水・湧出ガスの濃度の経時変化
このため,再現性があり,いつでも同じ評価ができるようにするための現地調査の手法について調査・研究した結果について以下に詳述する。
4 各種調査方法と結果
4-1 ごみの分布調査
従来の最終処分場では,ごみの投棄に関する資料が少ないため,ごみの投棄範囲,種類,投棄時期の詳細な情報を得られないことが多い。
ごみの分布調査では,地形図等の情報に加えてボーリング調査を行なうことが一般的であるが,旧地形の凹凸が激しい場合には精度上問題があることやごみ連続性の把握をするには難しい点がある。ごみの調査では埋立地盤に穴をあけて水を入れたり,空気を入れることで水質および湧出ガスの値に影響が出ることもあり,現場での乱さない調査手法で分布を確認する必要があることから,非破壊的な調査手法を検討した。
そこで新しい手法として,ごみと地山の音響インピーダンスの差を利用した「浅層反射法」や比抵抗値の差が予想される「比抵抗映像法」によるごみの分布調査を行った。予想される物性値と物理探査の諸元をそれぞれ表ー3,4に示す。
これら2つの方法を図ー3,4に示した。
図ー3,4から明らかに,旧地山および盛土を含めた廃棄物の分布調査に「浅層反射法」が有効であることがわかった。
4-2 湧出ガス調査
湧出ガスの調査は,埋立地盤の安定化を判断する指標となるとともに跡地利用のための施工時の安全性あるいは周辺環境への影響を考え,対策工法を検討するうえで重要なものとなる。
現地で測定されるガス濃度は,気温,地中温度,気圧,観測時期,観測時間により変化すると考えられ,これらを考慮した調査方法を用いることが肝要である。また,孔内ガスの圧力や発生量の大きさも極部的なガス溜りのガス量を測定している場合もあり,これを全体のガス発生量とするような誤りもあるので注意しなければならない。
分析項目としては,ごみ層の嫌気的な雰囲気の中で発生するガスは,メタン(CH4),二酸化炭素(CO2),アンモニア(NH4),微量ではあるが硫化水素(H2S)等がある。これらについての孔内のガス圧,ガス流量,ガス濃度,地中温度,気圧を対象とした調査計画をたてた。
その為,まず孔内のメタンガスの経時変化について測定したところ,図ー5のようにきわめて短時間のうちに低濃度になり,ガス発生量も小さいことがわかった。
一方,ガス濃度は気圧とも関係しており,気圧が低い時は,メタンガス濃度も増加する傾向にある。こうしたことから,孔内ガス濃度の測定にあたっては,孔口付近での測定は,空気の流入の影響を受けやすいため,孔底付近での現場測定を行うとともに,テドラーバッグ等のガス採取容器にガスを捕集し,室内分析も行った。
測定項目は,気温,地温,気圧のほか,各種ガスを携帯用ガス測定器と検知管により測定した。その結果は表ー5に示すとおりである。
なお,測定時の地温は,16~20℃,気圧1000~1021hpa,ごみ全体に対する有機物含有量14.4%と低く,分解・発酵熱の存在は認めがたい状況であった。
参考までにボーリング孔のガス測定用の孔口装置の概要を図ー6に示した。
4-3 ごみの試料採取
跡地利用上,埋立地盤の安定化の指標となるものの一つに地盤の沈下速度があげられる。その測定方法のひとつには地表面に設置される沈下板等による沈下測定がある。
今回はこの測定に加えて,ごみをできるだけ乱さない方法でサンプリングする方法を試みた。
今回,利用したサンプラーは,従来,行なっていた送水による方法ではなく水を使わず,送気(送気圧1~2kgf/cm2)により2重管サンプラーでごみ試料を採取できる特徴がある。
このため,原位置状態に近い試料が得られること,また,内管は,アクリルパイプでできているため,試料の状況が現状のまま良く観察できること等の利点があげられる。
なお,埋立地で一般的にみられる還元地盤中への送気について,ガス濃度の変化が懸念されるが,この点については,送気直後と1週間放置した後のガス濃度の経時変化とがほぼ同じであることから送気の影響はほとんどないと考えられる。
送気を使ったサンプリング装置の概要を図ー7に示す。また,2重管式サンプラーの概要を図ー8に示す。
このサンプラーにより採取した試料と従来,岩盤でのコア採取によく使われているコアバック付きダブルコアチューブにより採取した試料の比較を写真ー1,2に示す。
写真ー1には,従来の方法により採取した試料を示したが,ごみによりコアパックのビニールが破れたりし,原位置とは考えにくい試料となっている。写真ー2は今回採取したサンプラーのアクリルチューブの試料であるが原位置に近い状態での試料と考えられる。
なお,上記以外にシンウォールサンプリングの方法も行ったが,試料採取ができなかった。
ところで,今回の方法によるごみの現場密度測定結果は,表ー6に示すとおりであり,正確な値が得られたと考えている。
4-4 水質モニタリング孔の設置
水質モニタリング孔は,処分場から排出される浸出水が周辺地下水へ影響を与えるのを監視する役目をもっている。したがって,設置するにあたって重要な点は,周辺地下水の利用状況や水質状況を踏まえた上で,次の点に留意して設置するのがよい。
① 周辺地下水の流動方向の把握
② 帯水層の把握
①,②と利用状況,水質状況をもとに帯水層毎に設置するのが原則である。これは,帯水層毎の遮水が長期的に困難であることや遮水方法に確実な方法がないこと等のためである。同一帯水層の判定方法については,今回の場合,各深度で実施した湧水圧試験と地下水のイオン分析により各帯水層の水質型を判別した。
5 まとめ
今回行った各種調査は,跡地利用のための埋立地盤の評価をする上で正確な値を得ることと統一的な手法の確立に向けて種々の新しい技術を導入し,精度向上の為に行ったものである。その結果,下記のような調査の有効性が明らかになったと考える。
① ごみの分布調査では,ボーリングによる点の調査に加えて,浅層反射法(弾性波探査の一種)による物理探査の面的な調査が有効である。
② ごみのサンプリングにおいては,これまでの送水掘りによる2重管あるいは3重管サンプラーよりは,送気による無水サンプラーが有効であり,送気法が水質,ガス調査にも影響を与えない。
③ 湧出ガス調査では,地盤,気圧,観測時期により,濃度が変化するため,観測孔の構造と観測方法を使い分けることが必要である。
④ 地下水モニタリング孔は,周辺地下水の流動方向を把握したうえで有効な場所に設置する。また,シュティフダイヤグラム等により帯水層を区分することが重要である。
6 あとがき
一般廃棄物最終処分場跡地利用のための調査については,その方法や基準について明確化されていないのが現状である。また,跡地の利用目的によって,調査手法も異なる。調査は跡地の利用用途,規模を明確化したうえで種々の調査項目に対して有効かつ充分な方法で行うことが必要である。
今回のような新しい試みとデータの蓄積により統一的な調査手法の確立が望まれるところである。今後も最終処分場の跡地の有効利用はますます増加すると考えられ,各分野毎の廃棄物の研究や有効利用に関する技術開発を望むと同時に,各行政機関での有効利用のための調査・設計マニュアルの作成が期待されるところである。
参考文献
1)㈳全国都市清掃会議:廃棄物最終処分場指針解説,1993年
2)環境庁水質保全局企画課:廃棄物最終処分場海洋汚染・廃棄物対策室 安定化監視マニュアル,平成元年11月
3)応用地質㈱:学校計画に伴う地質調査業務,平成4年5月
4)応用地質㈱:学校計画に伴う地質調査業務,平成5年7月