一般国道57号島原深江道路橋の計画と架橋工事
建設省 熊本工事事務所
建設専門官
(前)建設省 雲仙復興工事事務所
建設監督官
建設専門官
(前)建設省 雲仙復興工事事務所
建設監督官
原 薗 良 和
1 はじめに
長崎県内の一般国道57号は,島原半島地域と諫早市および長崎都市圏を結ぶ幹線道路として重要な役割を果たしてきた。しかし,雲仙・普賢岳の198年ぶりの噴火に伴う災害により,島原市から深江町間において,平成3年6月3日から平成4年10月19日まで連続504日間の通行規制を余儀なくされた。
これらの状況から島原深江地区の安全通行を確保する道路を緊急に整備する必要があり,平成4年12月に島原市から深江町までの間延長4.6kmが島原深江道路として事業化され,平成5年11月より工事に着手した。事業化から5年2ヶ月の期間を経て,当工事区間を含めた起点より中間I.Cまでの間1.4kmを平成10年2月19日より暫定2車線の自動車専用道路として供用し,さらに,平成11年2月20日には,全線4.6kmを供用している。
本文は,土石流の影響が考えられる水無川導流堤部における橋梁の計画と架設工事の概要を報告するものである。
2 事業実施による効果
雲仙普賢岳の噴火に伴う土石流や火砕流による災害に強い道づくりとして,57号通行の安全を確保し,また,地域の振興の基礎となる道路整備の一環とした事業であり,さらに地域の活性化にも大きく寄与できるものと考えている。
3 橋梁計画の概要
導流堤部を渡河する橋梁の形式は,まず導流堤部を1スパンで跨ぐ場合(支間L=200m)と,中間に橋脚を設け2スパンで跨ぐ場合(支間L=100m)ついて,それぞれ経済性,施工性,維持管埋および走行性,景観,安全性により検討した結果,前者では鋼ニールセンローゼ+3間連続箱桁(2連)が,後者では,6径間連続鋼床版箱桁と6径間連続PC箱桁の案が考えられ,3案を総合的に比較検討した結果,6径間連続銅床版箱桁に決定した。
なお,中央の橋脚は土石流から防御するため,橋脚の周りを取り囲む形で,円柱形のコンクリート構造での防護工を設置している。
4 工事概要および橋梁の設計諸元
(1) 路線名 一般国道57号 島原深江道路
(2) 工事名 長崎57号 導流堤部上部工工事
(3) 工事期間 平成6年8月から平成9年11月
(4) 施工場所 島原市北安徳町~同市鎌田町
(5) 鋼 重 2,745t
(6) 工事費 約22億円
(7) 道路規格 第1種第3級(設計速度80km/h)
(8) 設計条件
・橋 長 431m
・径 間 6径間(54.9+60.0+100+100+60.0+54.9)
・幅 員 10.5m(暫定2車線)
・橋梁形式 6径間連続変断面鋼床版箱桁
・設計荷重 B活荷重
・平面線形 ∞
・縦断勾配 →2.2%→0.7%
・横断勾配 2.0%
・斜 角 θ=90°
・下部構造 全て場所打杭基礎
5 橋梁の架設工事概要
(1)架設工法の選定と順序
導流堤の外側である側径間の架設は土石流の影響を受けないので,ベントを用いた通常の工法で架設したが,土石流の影響が考えられる導流堤の内側である中央径間の架設は,ベントを用いず,橋脚から左右へ「やじろべい」のようにバランスを取りながら,張り出していく工法により架設を行った。
また,架設順序は,図ー5に示しているように側径間部分を架設した後に,導流堤部中央の橋脚上に架設用ブラケット付きの主桁ブロックをトラッククレーンで架設を行い橋脚および防護工とを固定した。
その後,固定した主桁にトラッククレーンを使用して左右の径間のバランスを取りながら,順次主桁を張り出して架設し,最後に既に架設している側径間とのブロックに落とし込み接続した。一般的に張り出し架設は,架設用ベントが設置できない橋梁の架設によく採用されるが,本橋のように径間の左右にバランスを取りながら張り出していく工法は,鋼橋では,全国でも実績がない特殊な工法である。
なお,架設時期については,図ー3の模式図のとおり,側径間部は平成8年7月から架設し,さらに導流堤内部の中央径間部の架設は,出水時期を考慮して同年10月初旬より着手し,12月初旬には最終桁を連絡することができた。この間約6ヶ月の期間を要したが,途中6月中旬には橋脚部付近まで泥水が流下し,最下流の河口まで到達した。
(2)桁受け架台およびアップリフト止め設備
桁受け架台は,P18橋脚および橋脚防護工で,仮支承からの反力を支持させるものと考え,定着ブラケットは,桁受け架台と連結させ,架設時におけるアップリフトに耐えられるようアンカーボルトで橋脚防護工に固定した。(図ー4 仮設備図参照)
仮設備の設置手順については,以下のとおりである。
① 張り出し架設の出発点であるP18橋脚上に桁受け架台を設ける。
② 鋼桁を交互に張り出し架設を行うため,桁受け架台設備にアップリフトが発生する。
③ アップリフト防止のために,下記の方法を考慮した。
(イ) 主桁と桁受け架台には,トラッククレーンのアウトリガーに似た設備を設けた。
(ロ) 桁受け架台と橋脚防護工には,定着ブラケット設備を設けた。
(ハ) P18橋脚,橋脚防護工およびブラケットをPC鋼棒にて緊張させ、下部構造と一体とさせた。
橋脚防護工に取り付いた定着ブラケットのアンカーボルトの設計反力は架設時の最大負反力20.8tとする。(表ー1 反力一覧表参照)
架台は橋脚本体とアンカーボルトで固定し,橋脚防護工の上に厚み30㎜の緩衝ゴムをセットし,桁受け架台からの反力を受ける構造とした。
(3)セッティングビームおよび桁引き揚げ設備
桁落とし込みブロック閉合時における鋼桁のたわみ差は,セッティングビームおよび桁引き揚げ設備を利用して,高さを調節し,主桁の閉合を行った。
中間径間2ヶ所で,桁落とし込み閉合を行うため,50㎜の遊間を設けるために側径間桁をそれぞれ後方にセットバックしておいた。
(イ) セットバック量は,P17,P19のゴム沓を変形(50㎜)させて確保した。また,P15,16,20,21の鋼製可動沓については,上沓,下沓の移動最範囲内(180㎜)で各々確保した。
(ロ) 閉合時のたわみ差は,架設検討の結果下記の数値となり,桁引き揚げ設備およびセッティングビームの設計を行った。
(ハ) 落とし込みブロック架設後,たわみ差および主桁の通りを調節する。
(ニ) P15,P21橋脚上に反力受け設備を設置し,100tの油圧ジャッキ(2台/脚)を連動操作で側径間桁の縦押しを行い,桁連結を行った。
鋼床版箱桁で主桁ウエブ高が変化する変断面構造であったが,剛度の積算,主桁および架設材の重量精算の後,架設ステップ毎のタワミ量の解析を行い,架設検討を充分に踏まえて着手した結果,トラブルもなく無事に架設することができた。
以下に,架設順序図を示す。
6 景観への配慮
特に橋梁の色彩については,雲仙の緑や山裾に広がる田畑と,それらを包み込むように広がる有明海を表現するため青竹色(ターコイズグリーン)としている。
火山活動沈静後の周辺環境との調和を図る上でこの明るく優しい「青竹色」は大規模な人工構造物のイメージを和らげるばかりか,本来「青竹」の持つ生命力・弾力性・しなやかさ等も合わせ持っており,『復興』のシンボルとしてのふさわしい色彩となるように決定したものである。
7 おわりに
今回のような土石流等の発生しやすい自然条件下での施工においては,安全面を十分に考慮した工程計画,架設計画および仮設備計画,強風時の安全対策についての検討を綿密に行うことが必要である。
今後は,コスト縮減を念頭においた工法選定も必要であり,当現場の上流側では,土石流除石工事,砂防ダム工事など一連の復興工事は,無人化施工が実用化されており,自然的制約のある橋梁工事でも無人化施工の開発・研究に取り組んでいく必要がある。