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一般国道386号バイパス建設
甘木トンネルの計画について

福岡県甘木土木事務所
建設課長補佐
古 賀 幸 雄

福岡県甘木土木事務所
建設課技術主査
重 富 博 良

1 はじめに
その昔,甘木地方の幹線道路の第一は秋月街道とも豊前街道とも呼ばれる筑後松崎宿より野町秋月を経て,新八丁を越え千手より小倉へ至る街道(現一般国道322号)であり九州の幹線道路であった。つぎに日田街道で,政庁のあった太宰府より甘木・志波を経て,大分県日田市に至るもの(現一般国道386号)である。その他,秋月より小石原を経て,英彦山に至る彦山街道,また三奈木街道とあり,古くから交通の要衝であった。甘木雑記によれば,甘木町は甘木遠江守安長が建てたといわれる甘木山安長寺の門前町として発達して,できた町である。

ここで少し甘木市の紹介をします。
甘木市は福岡県のほぼ中央に位置し,東西を軸に福岡市と日田市を結ぶ一般国道386号,南北を軸に北九州市と久留米市を結ぶ一般国道322号の交わる所で筑後川支川の小石原川と佐田川の両河川に狭まれた地域に都市を形成しています。
市域面積を地目別にみると,山林が61.5%を占め,田畑27.8%,宅地3.2%,公共用地4.9%となっており,甘木市の市域面積の大部分は山林,農地で占められた典型的な田園都市であります。この中で市の中心部を走る国道386号は,福岡市と日田市を結ぶ大動脈であり,また地区内の市町村の交通,福岡への通勤交通,休日の観光交通等重要な交通軸であります。このため既存道路は交通量の増加により飽和状態であり,交通渋滞が日常化しているため,昭和56年度より,朝倉郡三輪町から甘木市中心部の北側を迂回する,延長5,600mのバイパス建設に着手しています。現在,一部区間(3,320m)を供用中で,今年度より工事長275mのトンネル建設を計画しています。平成3~4年度でトンネル部を完成し,平成7年度に全線を供用開始する予定です。

2 甘木市の地形
甘木市の地形は,市域の北部と東部は大部分が壮年期から老年期の姿をした山地で占められ,筑豊地方と筑後地方とを二分する筑紫山系の中の三郡山地に属し,その南東部にあたる。山地は小石原川・佐田川を境に,北部・中部・南部の三連峰に大別でき,それぞれの峰は,山塊を構成する岩石の相違によって,傾斜の急な山から緩やかな浸食高原まで様々である。平野は河川沿いに開析され台地や谷底平野が発達し,筑後川中流部平野に連なっている。
甘木トンネルの設計地は,甘木市街地の北東部に位置し,甘木市北東山塊の大平山の分支稜に当たる山塊末端部である。計画地周辺の北東部は山塊に連続し,南西部は市街地の低丘陵,平地を配し,北西部は小石原川が流下し浸食開析により低山化している。計画路線は分支稜に直交ないし斜交し,トンネル計画地は土被り80m程度の凸状の山体となるが,他は丘陵化した低山であり,高切土ではあるが一般的な改良とした。

3 甘木市の地質
甘木市域を構成する地質は,第四系堆積物の沖積世,洪積世で山地内の河川沿いから南部の平坦部に分布し,古生代変成岩層を不整合に覆っている。火成岩類は安山岩類が南東部山地の佐田・黒川地域に分布し,花崗閃緑岩類が市の東・北・北西の周辺に古生代変成岩類を取り囲む形で貫入している。三群変成岩とも呼ばれる古生代変成岩類は市域の大部分を占める地質構造となっている。
甘木トンネルの設計地は,朝倉山地以南の水縄山脈を経て,熊本県北部にわたり片岩~準変岩類の変成岩類が分布している所で,この変成岩類は筑後変成岩と呼ばれる古成層であり,摺曲,断層が著しく発達する上に,様々な火成岩類が貫入し,また新第三紀以降の火山噴出物で覆われて複雑化し,その詳細は明らかでない。筑後変成岩は3層に大別され,当地区に発達する変成岩は中部層に対応するものと想定される。中部層の特徴は砂質変岩の厚層とケイ質片岩の薄層を狭む2枚の顕著な緑色片岩を主とし,泥質起源の黒色変岩の薄層よりなる。

4 事前調査
甘木トンネルの設計にあたり,事前調査として,水文調査,地質調査等を行った。
水文調査の目的として湧水の問題があり,トンネル建設に伴う湧水は,切羽の崩壊・排水不良・地圧の増大・基礎地耐力の低下等工事の安全,施工技術上の諸問題に大きく関係する要因である。一方,湧水に伴って発生する水利用に対する影響もあり,その状況によっては水利権者の死活問題になり,その対策に要する工期・工費は無視できない。また,トンネル掘削に起因する地下水の挙動に関する情報を得て,湧水や渇水の規模を予測することにより,水問題を最小となるよう心がけることも必要である。トンネル掘削により流量変化を引起こすことが予想されるため,掘削中・掘削後におけるトンネル内の湧水量を把握することおよび流入量変化に対する掘削前の流量状況を把握することが重要である。
地質調査として,地表踏査,ボーリング調査,弾性波探査,孔内速度検層,岩石試験を行った。ボーリング調査は,頂部,各坑口部2箇所,切土口2箇所を行い,頂部孔において孔内速度検層を行った。弾性波探査を主測線1本,副測線2本で5mピッチで行い,地質構造について以下の結果を得た。当該地域に分布発達する変成岩は,ほぼ南西方向に緩く傾斜を示す定方向性の片理面を有しており,トンネル計画地では片理面の傾斜の大きな方向変化は認められない。岩相的には黒色片岩が多く,地層は泥質堆積岩起源の低度の変成層を示している。また緑色片岩は,源岩としては塩基性火成岩が考えられ,周辺地域中の緑色片岩の一部は貫入岩体であるとも指摘されているが,堆積岩起源の黒色片岩と同方向性の片理を有するために,堆積岩中に層理に沿って併入した海底火山活動による火成岩体,或いは火山砕屑物が変成された産物と想定される。地層の分布としては片理面の傾斜がほぼ一定で乱れがなく,堆積物が連続するので,断層等によるルート間の地層の大きな乱れはないものと想定される。山体の風化については,速度値から判断する限りでは非常に風化が進行しており,トンネルルート直上まで速度層が1.7~1.8km/secと遅い結果が得られた。岩質的にみると黒色片岩等の泥質片岩は風化が進行しやすく,反対に砂質片岩は風化に対してやや抵抗力があるようである。岩質区分を決定する上でトンネル全体をみた場合に,地山等級はC~Dクラス相当になると考えられるが,トンネル掘削を進めていくにつれて,岩盤状況および湧水によっては,補助工法を併用する場合もあるであろう。

5 事業の概要(NATM編)
 1) 道路規格     第三種第二級
 2) 設計速度     V=60km
 3) 計画交通量    15,000台/日
 4) トンネル延長   L=275m
 5) 幅  員     W=6.5m(9.75m)
 6) トンネル等級区分 B

6 トンネル本体工の設計
(1)内空断面
道路トンネルにおける内空断面の確保は道路構造令に定められた道路規格に応じ,所定の道路幅員,路肩歩道等の建築限界を満足するだけでなく,近年トンネル内で多発している事故防止のための防災,照明,内装等の配置空間の他,これらの保守点検のための道路設置空間(監査路)も確保しなければならない。またトンネル内空断面は応力の流れ,変形等に合理的に対応し得るのがよく,トンネルを掘進する場合に,地山の応力がスムーズに掘削面に流れて,有効なアーチアクションが生ずるようにする必要があり,掘削面が曲面であることは重要なことである。一般的に地質条件,幅員構成等に応じ,三心円・五心円等からなる馬蹄形が採用されている。防災設備や照明設備については建築限界と覆工断面との間にある程度の空間が残るので,これらの空間を付帯設備の設箇場所として利用している。
甘木トンネルの内空断面の考え方として,建築限界の確保,覆工内面との余裕幅の確保等を考慮し,種々検討した結果,経済性の良い断面ということで,R1=5,100,R2=7,700,H=1,300,e=0.47となった。

(2)支保工
支保工は安定を保っていた地山にトンネルを掘削することによって発生する新たな応力に対して,トンネル周辺地山と一体となって支保機能を有効に活用させ,掘削断面を維持するとともに,作業の安全を確保しうるものでなければならない。
トンネル掘削に伴い支保工に作用する荷重は,掘削後の時期の経過に伴って増大することが多いので,掘削後速やかに施工できる支保工としなければならない。NATMではトンネル周辺地山が持つ抵抗力を最大限利用して,トンネルおよび地山の安定化を図る考え方に基づいている。支保工の部材としては,吹付コンクリート,ロックボルト,鋼製支保工が用いられているが,地質条件の悪い場合等では覆工も支保工の役割を果す場合もある。
支保工の設計は,複雑に変化する地山特性をトンネル掘削前に把握することが困難であるため,地山区分ごとにコンクリート・ロックボルト,鋼製支保工等の支保部材を適宜選定し,標準となる支保パターンを設定し,掘削時の観察,計測によって必要に応じた変更を行うことにより,現地の状況に適合するようにしなければならない。
支保パターンの選定として次の方法がある。
(1) 多くの施工実績に基づいて,作成パターンを参考とする方法。
(2) 近接した場所での事例等,地山条件が類似した場合の設計例を参考とする方法。
(3) 解析による支保パターンの設定。
解析の方法としては,数値解析法と理論解析手法とがある。
甘木トンネルの地山状況は,古第三紀四万十層群の砂岩葉層を含むせん断泥質岩(粘板岩)を主体としたものである。湧水については,互層部に部分的な湧水は可能性としてあるが,全体的に少ないと考えられる。地形的には,トンネル線形が山裾を通るようになり,坑口部ではやや斜交しているが,土被りの最大で65m程度あり,特別な偏土圧を受けることもないと思われるため,本トンネルでは通常2車線断面の建設省技術基準(案)に基づいて標準支保パターンを設定した。
(3)吹付コンクリート
吹付コンクリートはその使用目的,地山条件,施工性等を考慮し,配合,強度,厚さ等を決める必要があるが,支保部材として十分な機能を発揮させるため次の条件を満足させなければならない。
 ① 作用荷重に対して,十分な強度がある。
 ② 早期に必要な強度が発揮できる。
 ③ 地山と十分な付着性がある。
 ④ 耐久性がある。
 ⑤ 水密性が高い。
 ⑥ はね返りが少ない。
吹付コンクリートは掘削終了後,直ちに施工して地山を支配する必要がある為,作業能率よく付着したコンクリートが自重によって剥落しないように,また発破等の振動に耐えられるよう早期に硬化させて強度を発揮させる必要がある。吹付コンクリートについては,配合設計法が確立されていないのが現状であるが,トンネルの支保部材として必要な強度が得られるような配合を決定しなければならない。
甘木トンネルにおいては,施工実績から吹付作業関係従事者に対する環境・衛生を重点に,粉塵やはね返り率が少ない,建設省の標準工法である湿式吹付コンクリートを採用した。本設計に用いる吹付コンクリートの標準配合と強度は,次のとおりである。

(4)ロックボルト
ロックボルトの設計にあたっては,使用目的,地山条件,作用効果および施工性等を考慮して,配置,長さ,太さ,定着方式,材質等を決定するが,特に地山条件の違いによる作用効果の相違を加味する必要がある。作用効果としては,①縫い付け効果(吊り下げ効果) ②内圧効果 ③アーチ形成効果がある。
甘木トンネルの計画位置の地質は,殆どが片岩類であり,地質調査からみても固結度は良く,膨張性もないが,泥岩層の互層部はやや地質が不均質となりもまれていることから,ロックボルト孔壁の崩壊が生ずる可能性が少なからずとも考えられる。しかし湧水は少ないと判断されるため,ロックボルトの施工法は,一般的に多く採用されている全面接着型(モルタル定着型)とし,材質は建設省技術基準(案)の降伏点耐力を基に選定した。
(5)鋼製支保工の効果と必要性について
 ① 吹付コンクリートが固まるまでの支保
 ② 先打ちロックボルトの反力受け
 ③ 落盤および崩壊性地山の安全確保
 ④ ロックボルトおよび吹付コンクリートの強調支持
鋼製支保工の形状と建込み間隔は,切羽の自立性,土圧の大きさ,使用目的,掘削工法,掘削方式等を考慮して決定する。
(6)覆工の設計
トンネル覆工は,長く土圧等の作用荷重に耐え,亀裂,変形,崩壊等を起こさないもので,漏水等による浸食や強度の減少等のない耐久性のあるものでなければならない。NATMでは現在のところ二次覆工に対して統一的な設計法は提示されていないが,吹付コンクリート,ロックボルト,鋼製支保工が地山と一体となって支保するという考え方から,二次覆工は化粧巻あるいは供用上の目的から巻厚を薄く施工することが多い。
甘木トンネルの場合,普通のセントルを用い,コンクリート打込管の挿入,引抜を考えて巻厚30cmを実際的な最小巻厚とした。巻厚30cm以下でも施工可能であるが,巻厚を薄くすると型枠の清掃が不完全となり,コンクリート仕上り面の平滑さを欠くことやコンクリートの流動性を欠き,締固めが不十分になるなどの問題が生じ易い。
(7)防水工
トンネルの漏水は,美観を損うばかりでなく,覆エコンクリートやトンネル内諸設備の機能や耐久性を低下させ,また寒冷地においては凍結による害を起こし,供用後の保守管理に多くの労力と費用をもたらす。防水工を施工した場合,防水工背面における排水処理が適切でないと覆工コンクリートに水圧が作用する恐れがある。水圧が作用した場合,その大きさによっては30cm程度の覆工厚では水圧に耐えることができず,覆工コンクリートが破壊する危険性があるので,原則として覆工コンクリートには水圧を作用させない。このためには,防水工背面の湧水処理並びに端末処理が特に重要である。
甘木トンネルにおいては,覆工コンクリートのひび割れ対策および防水工背面の透水性を良くする目的でビニールシートのt=0.4mmに透水性緩衝材(繊維状製品)t=0.3mmを組合わせた物を設置することとした。
(8)坑門工
道路トンネルにおける坑門の機能は,地山の安定を図り,落石,崩懐等から坑口を保護することにあり,また走行車両のトンネルヘの進入が容易であるような構造であることが大切で,トンネルの唯一の顔として,周囲との景観と調和を計る型式でなければならない。
坑門の型式には完成された形状から,面壁式と突出式に分類される。面壁式は坑門背面に土圧を受ける構造であり,その構造上重力式とウィング式に分けられる。突出式はトンネル本体と同一内空断面がトンネル坑口部に連続して地山から突出した型式で,その形状により直切式,竹割式,ベルマウス式等がある。これらの型式はコンクリート面壁が小さいため,周辺景観と調和しやすい。また,心理的圧迫感が少なく,走行性に優れているなどの利点を有する反面,工事費が高くなるなどの欠点もある。坑口位置の選定に当っては,坑口付近の地山は一般的に風化,変質の度合いが大きく,崖錐,その他の堆積物に覆われている場合が多く,また地層が複雑で表流水や地下水等の影響を受け易い為,特に土被りの薄い地形の所は注意を要する。坑門の位置の選定を誤ると工事が難航するだけでなく,多額の工費を必要とし,将来の維持管理にも影響を与えることになるので,諸条件を十分考慮して,検討する必要がある。
甘木トンネルでは,起点側の地形線は本線に対して斜めに走っている,いわゆる斜交型地形である。加えて諸条件を検討した結果,突出型竹割式とし,終点側については,本線に対して45°程度の斜交型地形である。諸条件を検討加味して,一般的な面壁型ウィング式に決定した。
(9)環境問題
工事中に心配されることが,トンネル発破による振動,騒音である。発破振動による影響範囲を数値的に求めたところ,片側で約120mであった。当工事区間では振動範囲内に民家がないため,振動に対する懸念はなさそうである。また騒音については坑口方向に民家があるため,防音扉を設置することとした。次に心配されるのが汚濁水の処理である。地形上農業用水路を経て小石原川へ流れ込むことが考えられるため,地元の水利権者の協力を得ることで,福岡県環境基準の数値内で放流できるよう濁水処理設備を設置する計画である。

7 あとがき
今まで述べてきた様に,トンネル工事を計画する上で,考えなければならないことは沢山ある。これから工事を進めていく過程で,予想だにしなかった事態に直面することも,避けられないことであろう。
甘木市が21世紀構想として掲げています,「水と緑・活力あるひらかれた都市」を目指し,官民一体となって取り組んでいます。このバイパス建設によって,活力ある町づくりに貢献できれば幸いです。またトンネルの両坑口面壁に地域環境とそこを利用する人々の意見を尊重して,道路の個性を最大限表現した景観の創出を図り,甘木市の顔となるようなデザインを入れて,親しみあえる道路とし,甘木市のランドマークとなるよう期待している。

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