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モルタル吹付面の緑化工法について

建設省川辺川工事事務所
工事課長
安 部 純 弘

1 はじめに
土木工事で地山が掘削されて出来た法面は,従来からモルタル・コンクリート吹付工法など法面の風化,浸食防止を目的とした施工がされてきた。環境保全が叫ばれ自然環境復元のニーズに応えるため様々な緑化植生工事が研究,開発されてきている。
しかし,地山が強固たる岩盤あるいはモルタル・コンクリート等を吹き付けした法面は,地山自体に水分の補給がなく植生物の根入れが困難なため,植生のための格子枠の設置や旧モルタル,コンクリート吹付の取こわしが必要となってくる。
この経費を節減し植生効果をあげるために基盤面にウイングアンカーを打込み,基盤砂を付着定着させることにより給水性を持たせ植栽の根入れを可能にし,法面の緑化を完成させ景観とともに自然環境の保全を図ることが出来る工法を紹介したい。

2 現地概要
当地は九州山地内にあって,周辺部は急峻な山岳地帯となっている。標高1,000m以上を示す山地は川辺川両岸においてほぼ南北に連なり,北に高く南になるに連れて高度を下げ,人吉盆地縁辺部に連なる高い山地が南北性の尾根を有するため,これらの山地より伸びる尾根部は一般に東西及び北東ー南西方向のものが多く,これらの山地を開析する大きな河川が川辺川であり宮崎県境の国見岳(1,739m)山麓に源を発し,南西に流下し蛇行をくり返して,人吉市において球磨川に合流している(図ー1)。
川辺川流域の地質は,ダムサイトの約5km上流にある仏像構造線(大坂間構造線)によって大きく2分され,北西部(秩父帯)には主として古生層が分布,南東部は中生層(四万十層)が分布している。なお,仏像構造線の北側約28kmの熊本県砥用町付近には,西南日本の主要構造線である中央構造線(臼杵一八代構造線)が走っており,ここ九州山地は構造運動の影響を強く受けた地域である。
川辺川ダムは四万十層地帯に位置し,その地質構造は複雑であるが,全般的に川の流れに直交し上流に傾斜する単斜構造となっている。

3 工法の選択
近年,環境保全の面から,モルタル吹付けによる法面保護工については自然を阻害するのみならず,風致上も好ましくないという理由で自然復旧を前提に緑化植生が図られている。
当事務所としてもなるべくモルタル吹付は避ける方向で切土法面の計画をしているが,前述したように急峻な崖錐地帯であり,施工中の安全を考慮して法面崩壊(肌落ち)を抑止しつつ切土の施工をするには,どうしてもモルタル吹付をせざるを得ない状況である。
そこでこのモルタル吹付面に緑化が出来ないかと種々の工法を検討してみた。
切土法面にモルタルを吹き付けた場合は地山にある岩の亀裂,風化帯,土砂部を全てモルタルで被覆してしまうので植物の育成を拒み,わずかにモルタル亀裂箇所とか水抜孔によもぎ,かやの育成が散見される程度である。
このようなモルタル面に通常の岩盤緑化を施工しても植物の根が発育出来ず,植生後1~2年で枯死,剥落が生じ,特に寒冷地とか日照の激しい南西向き法面においてこれが顕著である。
ここで岩盤緑化の手段と目的について少し触れてみる必要がある。
岩盤緑化工事は地山を切土する際表土まで除去し岩盤を露出させるので,長年月かけて形成された植物に必要な自然植土がなく,植物の自然発生を願っても復元に至るまでには,表土の形成がなされるまでの年月が必要となるので,人為的に表土に替わる植土(基盤材)に急速緑化を目的とした品種(洋芝類)を吹き付けし,繁茂させることで法面の安定を計り原生類(よもぎかや等)の発育を保ち自然の復元を期待するものである。
このような目的をもって工事が施工されるが,その手段として最も重要な点は植土の選定であり,この植土が物理的に流失したり,科学的に植物の育成を阻害しては目的は達せられない。
この植土には現在のところバーク系の堆肥にビートモス系の繊維と,ボイド(吸水性)を得る為のパーライト系,あるいは砂などを粘着剤で混合し法面に吹き付けることになっている。
そしてその植土厚は岩盤の堅さによって区分され,堅いところは岩に亀裂が少ないことが想定されるので植生表土を厚くするのが常識となっているが,現在のところその厚みは最大が8cmとなっている。
この理由は,法面に芝類を育成するには芝,草木の生存最小土層厚さを15cm以上必要とされているが,人為的に構成された緑化基盤材(植土)は普通土に比べ優秀なので,この半分で充分であるとして植土厚8cmとしたものである。
従って,モルタル法面の吹き付けについては基本的に植生層が8cm以上必要となってくる訳であるが,現在ではこの理論によって施工されたものの前記のように芳ばしくない結果になっている。その原因を考察してみると,
原因ー(1) 植物の育成に不可欠な水分の補給に対する配慮がなされていなかったことであり,モルタル法面は地山の水がモルタルと植土の間で遮断されているので浸透水が植物の根に及ぼすことが極めて少なく,また,保水性に欠けるので枯死の原因となっている。
原因ー(2) 次は,多少の水分がある場合(モルタルは透水性が若干ある)においては,植物の根が土層厚内で育成することになるが,根がモルタル面で止まるので草丈が大きくなれば草根はその分だけ伸長し,最終的には根先が地表に出る現象(根返り)ができ,日照等により根が枯死したりする場合もあるので表土厚に疑間が残ることになる。
原因ー(3) 草の根が植土厚の深さで止まることは,モルタル面と草根が平面的に重っているのでその接着面にスベリが発生したり,寒期凍上(気象条件による)したりして,降雨の時に支持がなくなり滑落の原因となっている。
以上の3点の欠陥を是正すれば,モルタル面をそのままにして緑化が出来ると考えられる。そこで,
対策ー(1) 水の補給については,人為的なもの(スプリンクラー等)では種々,難点があるのであくまで自然降雨に頼ることになるが,保水性に優れた材料となれば価格,作業難易度,入手の安易さ等を勘案すると砂に優るものはなく,これをモルタル法面に厚層吹付することによって解決できる。
対策ー(2) 草根に必要な土層厚は15cmとされているが砂を12cm吹きつけ,その上に植土(緑化基盤材)を3cm吹き付ける。
対策ー(3) 法面の滑落防止対策としては,別図ー3(断面図)の通り,羽根付アンカー(ウィング・アンカー)を打込み,また,モルタル面に穴をあけることにより水分の補給と根入れが期待されるのでスベリを防止できるし,寒期凍上についても砂が主成分となっているので,冬期北西風(乾燥空気)には水分を抜きとるので凍上防止となる。(寒期には植物に水分は不用)また,滑落防止のアンカー鉄筋はφ16mmを使用しているので,耐久性もあると考えられる。以上の点からしてウィング・ロック工法を採用した。

4 設 計
付替国道の標準的な断面図は図ー2のとおりであるが,今回の施工箇所は試験的な意味も含めて法面が一段の場所を選定して施工した。(写真7・8・9)に見られるように,現在までのところ結果は良好と思われるので平成4年度は長大法面の施工を考えている。

(1)構造および仕様
構造および施工仕様は図ー3~図ー5に示すとおりである。

(2)構造検討
アンカー材,ウィング材等の応力検討を行っているが紙面の都合上,表ー1に検討結果のみを示す。ウィングアンカーの本数は1.5m2に1本の割合でもOKであるが今回は1本/m2で施工した。今後は法勾配,法長等を考慮し適宜決定していきたい。

(3)種子の配合

5 施工順序と経過
施工手順は,写真ー1から写真ー6までに示すとおりの施工経過を経て実施した。
また,施工の結果については,写真ー9に見られるように,完成3箇月後の植生の繁茂状況は期待していたとおりの良好な成績を収めることができたので,次年度においては長大法面の施工を検討している。

6 あとがき
近年,環境問題が種々取り沙汰されているなか,緑と共存できる快適な生活環境が必要不可欠の時代である。そこで,今こそ自然を守り,自然を復元し,自然と調和のとれた環境作りのなかで地球に優しく貢献できる新しい技術,新しい工法が求められている。
当事務所としてはこのウィング・ロック工法の他に,バイオ・オーガニック工法,テクソル・グリーン工法,モルタル面の緑化ホール工法等,緑豊かな道路環境作りや自然環境を取り戻す努力を進めているところである。

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