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ミストボーリング工法による地盤調査

建設省筑後川工事事務所
猪牟田ダム調査出張所長
河 野 忠 彰

日鉄鉱コンサルタント㈱九州支店
調査部調査一課長
野 口 俊 一

1 はじめに
あらゆる構造物の建設に際し,事前に基礎地盤の性状を的確に把握することは,その後の設計・施工を円滑に進めるうえで非常に重要である。そのためには,まず基礎となる地盤をできるだけ原位置状態のままの姿で採取することが必要不可欠な条件となる。
地下深部の地盤を採取する方法として,調査ボーリングが実施されるが,通常の調査ボーリングは掘削時の循環流体に水(清水・泥水)を使用するため,地盤によっては試料の溶脱・流失等が生じ採取率が低下する場合がある。また,採取率が著しく低下する場合は無水掘りにより試料採取を行うが,試料は攪乱されその性状が不明瞭となっているのが現状である。
Sダムでは,原地盤状態での試料採取が難しいとされていた地下水面下の湖性堆積物を,通常のボーリング工法に変わって,泡で掘削するミストボーリング工法により良好な試料を採取することができた。この試料を用いた室内試験によって,地盤の物性値の一部を明らかにすることができたのでここに報告する。

2 地盤の概要
Sダム建設予定地には,第四紀更新世の火山岩類や湖性堆積物等が分布する。図ー1にダムサイト付近の地質断面図を示す。
火山岩類は比較的硬質な溶岩類よりなるが,湖性堆積物は軟岩状の泥岩・砂岩・凝灰岩等が互層状に堆積している。調査横坑での観察結果,上部砂岩層は均質な中粒砂岩よりなり,固結して軟岩状を呈する箇所と,固結度が低く指圧にて容易に崩れる砂状の箇所とが不規則に存在し,サンプリングには非常に注意を要する地層である。

3 ミストボーリング工法
(1)特徴
ミストボーリング工法は,圧縮空気に微量の界面活性剤を混入し,孔底で泡を発生させて掘削する工法であり,エアドリリング工法の一種に分類される。
本工法は,水が少ない砂漠地帯における資源調査ボーリング工法として,1960年代に開発されたものであるが,
① 使用水量が非常に少なくて良い(15ℓ/hr)。
② 試料の溶脱・流失が著しく少ない。
③ 水を使用しないため,不飽和地盤や地すべり地帯等に適する。
④ 孔壁の乱れが少なく,また孔壁にマッドケーキ(泥壁)が付着しないため,良好な孔内試験・孔内観察が実施できる。
等の利点が確認され,1970年代より土木分野での調査ボーリングにも徐々に使用されるようになってきたが,まだ広く一般に知られていないのが現状である。
泡を利用した掘削技術はボーリングのみならず,近年では都市部における気泡シールド工法1)にも応用され,土圧の軽減・切羽の安定性等において優れた結果を得ている。
反面,本工法の短所としては,
① 掘削時間が通常工法に比べ約1.5倍程度を要する。
② 気泡発生装置等の特殊な資機材を必要とする。
③ 掘削には熟練した技術者が必要である。
等が挙げられる。
(2)装置の構成
ミストボーリング工法の基本的構成は,一般の機械ボーリングと同じであるが,水に変わって泡を使用するため,コンプレッサー・エアタンク・インジェクタータンク(気泡発生装置)等が必要となる。図ー2に装置の基本構成を示す。

気泡発生装置のインジェクタータンクは,本工法において最も重要な役割を果たすものである。本装置は水と界面活性剤を混合した水溶液をつくり,それを高速で流れる圧縮空気の中へ自動かつ連続的に注入するものである。図ー3にインジェクタータンクの詳細図を示す。
ちなみに,ミストの呼称はインジェクタータンクにおいて,界面活性剤水溶液が霧状(ミスト)となることから命名されている。

ミストボーリング工法では,図ー4に示すように採取試料をアクリル透明管内に納めるようになっているので,地層の構成状態やクラックの存在等を乱さない状態で観察でき,室内で実施する各種の試験位置を項目毎に選定できる等の利点を有している。また,透明管内の試料は,その品質を変化させずに長期保存が可能である。

写真ー1には,通常工法による採取コアとミストボーリング工法による採取コアとの比較を示すが,通常の水掘りでは組織が乱され砂状となっている箇所でも,泡掘りでは良好な状態で採取されている。
写真ー2には,別の現場における風化花崗岩の採取状況の断面を示すが,試料の周縁も乱されることなく,不攪乱状態で採取されている状況が判る。

4 室内パイピング試験
ミストボーリング工法により採取した試料を用いて,物理・一軸圧縮・三軸圧縮・パイピング等の各種室内試験を行い,物性値の概要を明らかにすることができた。試験結果の詳細は割愛するが,以下に特殊な試験として位置付けされるパイピング試験について紹介する。
(1)試験方法
パイピングとは,「浸透水によって土粒子が流失し,地盤内にパイプ状の孔や水みちができる現象」をいい,ダム湛水時におけるパイピングの可能性の検討資料として,パイピング試験が実施される。
パイピング試験の方法は,現在,統一された試験基準はないが,一般に限界動水匂配により評価されている。パイピング試験の原理は,図ー5に示すように,供試体を段階的な圧力水を供給できる装置に取付け,供試体底部に作用させる圧力を徐々に増加させて破壊し,その時の動水匂配を求めるものである。2)

(2)試験結果
パイピング試験における限界動水匂配の判定法にはいくつかの種類があるが,今回は動水匂配と透水量の関係から,透水量が急激に増加する点を限界動水匂配(icr)とした。
試験結果を表ー1および図ー6に示すが,上部砂岩層の限界動水匂配は6~10程度とやや小さい値を示す。ただし,同地層の異なる深度から採取した試料を用いた土木研究所の実験結果では26~200以上を示しており3),採取深度によってパイピング抵抗性の弱い箇所と強い箇所が存在し,地盤が不均質であることが明らかとなった。
データ数が少ないため,今後,更にデータを蓄積すると共に,弱部の分布状況を明らかにし,止水計画の基礎資料としたいと考えている。

5 おわりに
泡を用いるミストボーリング工法により,地下水面下の低固結堆積物を原地盤に近い状態でサンプリングすることができた。本工法は不飽和地盤においてその威力を発揮する工法と考えられていたが,地下水面下の飽和地盤でも適用可能なことが確認された。
従来の通常工法では原地盤状態での試料採取が難しいとされていた,風化残積土(マサ土等)・火砕流堆積物(シラス等)・低固結堆積物および断層破砕帯等も,ミストボーリング工法を適用することによって,良好な試料採取が可能と思われる。
また,本工法で得られた試料は,端面のみの整形で試験供試体となるため,高度な地盤物性調査法として有効と考えられる。
ただし,本工法は慎重な作業が要求されるため,通常工法に比べ作業能率がやや劣るとともに,熟練した技術者が少なく,専任技術者の育成が今後の課題である。
最後に本報文を作成するにあたって,御指導をいただいた関係各位に深く感謝の意を表します。

参考文献
1)浜口哲生・並木徹:気泡シールドによる合流対策の遮水幹線工事,土木施工,vol35,No.11,1994.10
2)松本徳久・山口嘉一・田原則雄:ダム基礎軟岩のパイピング抵抗性,第23回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集,土木学会,1991.2
3)中村昭・山口嘉一・小川直:原位置および室内試験による軟岩の浸透性破壊抵抗性の評価,第9回岩の力学国内シンポジウム講演論文集,岩の力学連合会等,1994.1

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