一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
ペットトイレのすすめ

長崎県 島原振興局 建設部
 都市計画課 技師
井 手  哲

1 はじめに
バリアフリー社会の実現は,これからの街づくりにおける必須条件のひとつである。そしてそのために,街づくりに携わる者には社会的弱者の視点に立った計画立案が求められる。
私はそのことの難しさを今回の経験の中で痛感させられた。
本報告は,盲導犬をパートナーとする視覚障害者の吉田氏との対話を元に,都市公園百花台公園の中にペットのためのトイレを設置した経験談である。盲導犬等の介助犬と共に生活する障害者にとって,ペットトイレの整備がどれほど社会参加を容易にするのか,そして,社会的弱者にとってバリアとは何なのか,ということを深く考えるきっかけになった「優しい公園づくり」の報告である。

2 百花台公園概要
百花台公園は,長崎県南部地域における広域レクリエーション需要を充足させ,憩いの場として社会生活に潤いを与えるため,長崎県で昭和55年度から整備を進めている都市公園である。平成13年度までに,25.9haの整備が完了しており,近年では県内外を問わず多数の来訪者を受け入れている。

3 ペットトイレ
吉田氏は,社会のバリアフリー化を目指して,様々な活動をしているボランティア団体「ガイアの会」のリーダーである。
吉田氏がペットトイレの必要性を感じ始めたのは,公園を訪れた時に,芝生広場に落ちていた犬の糞の上に座った時のことであった。健常者ならば糞が落ちている所を避けるであろうが,視覚障害者にはそれはできないのだ。また,他の人が糞を踏んだ時に吉田氏の犬のではないのかと疑われたこともあったそうだ。そもそも,盲導犬は高度な訓練を受けているため,勝手に糞をするということは決して無い。だが,目が見えないというだけで疑われたのだ。
こうした誤解を招くことなく,視覚障害者が盲導犬と共に公園を利用できるようにするには,公園内にペットトイレを設置することが必要であり,以下(表ー1)の助言を吉田氏から受けた。

4 ペットトイレ設置
吉田氏の助言を元に,まず,場所の選定を行った。助言を頭に入れて公園内を歩き,ペットトイレを設置する場所を選定した(図ー1)。
今回選定した場所はメインの駐車場から30mと離れておらず,まわりを低木で囲まれたほぼフラットなスペースで,吉田氏の言うペットトイレを計画するには非常に適した場所であった。
選定した場所を利用者やペットがさらに使用しやすいように(図ー2)のように造成を行った。

5 終わりに
公園はあらゆる人にとって,安全で使いやすく,楽しくなければならず,世の中が忙しく心の安らぎが求められるようになればなるほど,優しくなる必要がある。
本当に楽しいか,本当にやさしいかは,利用者の声を聞く必要があり,今回我々が計画したペットトイレも吉田氏の話に耳を傾けることがなければ,整備されることは決してなかったのだ。
バリアフリー社会の構築には終わりというものはなく「ここまですれば十分」ということは決してない。本当に十分だと感じることができるのは我々整備する側ではなく,実際にその施設を必要とする人たちのはずである。
今回報告したペットトイレも,バリアフリー社会の実現という点においては,ほんの一例に過ぎず,考えなければならない問題はまだ数多く残っている。
人はだれもがいつかは老いを迎え,いつ不慮の事故で身体障害者になるかわからない。あらゆる人にとって優しい社会の構築,そのための優しい施設の整備,それが社会資本を整備する我々に課せられた真の使命なのではなかろうか。
今後も利用者の意見に耳を傾けながら,全ての人が楽しく時を過ごせる「優しい公園づくり」を行っていきたい。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧