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ハイグレードソイル・有明ガタ利用に関する研究

建設省九州技術事務所
 水質試験課専門職
渡 辺 照 夫

1 はじめに
最近,建設発生残土の有効活用の道を探るため産・学・官あげての技術研究開発が盛んに進められている状況下にある。九州地方の有明海沿岸一帯は,青灰色の粘土層から成る通称有明ガタ土から成っているが,その性状は,高含水・高粘性の非常に軟弱なすべり易い層に覆われている。
このガタ土を高品質化し,盛土材,裏込め材,空洞充填材等への利用を図るため,ガタ土に水を加えてスラリー状にし,固化材を混合して流し込み方式により打設するいわゆる締固め不要のガタ土の利用および軽量材を混合しての軽量化利用について,検討した結果を報告するものである。

2 流動化処理土の特性検討
1)含水比と流動性状
自然含水比が100%程度以上もある高含水比で粘着力が強く非常に軟弱な有明ガタ土の従来の利用方法は,掘削後,広場に長期間放置して自然乾燥により水を抜いて利用していたが,河川改修工事の進捗に伴い仮置場が少なくなり,また速やかな利用のため,生石炭を混合して含水比を急速に下げて盛土等に利用しているのが現状である。
本研究は,高含水のガタ土にさらに水を加えてスラリー状にし,固化材を混合攪拌して,所定の品質に調整した改良土を現場に流し込みまたはポンプ圧送により打設するいわゆる締固め不要の流動化利用を図ろうとするものである。この流動化処理土の性状を把握するため,調整含水比ごとに,Pロートによる流下時間とブリージング率の関係を調べた結果を図ー1に示す。材料分離を出来るだけ少なくするため,ブリージング率を0.5%程度以下にとどめたときのPロートの流下時間は15秒程度であり,プレパクド注入モルタル配合標準仕様書の16~20秒よりやや流動性が高くなっている。

2)含水比と湿潤密度
有明ガタ土に水を逐次加水したときの湿潤密度の変化について,六角川7K/4,佐賀河川調整池内の有明粘土および砂混り有明粘土,既往試験データ(六角川7K/4および牛津川1k/4について試験した結果を図ー2に示す。
土質性状の異るいずれの土も,順次加水することに伴って湿潤密度は減少し,全試料土ともに,同じ傾向にまとまっており,バラツキの少ない似かよった性状を示している。

3)含水比と圧縮強度
含水比を自然含水比,150%,200%,300%,400%と順次加水し,さらに固化材のセメント(高炉B種)量を変えたときの改良土の一軸圧縮強さの関係を図ー3に示す。
含水比を増すごとに強度は低下し,またセメン卜添加量が多いほどその傾向が顕著となる。土の強度は含水比300%以上に調整した場合,セメント添加量を増量しても土の強度はあまり増加せず含水比が300%程度以下であれば含水比が小さいほどセメント添加量に応じて土の強度が鋭敏に反応する傾向がみられる。なお含水比が自然含水比附近では固化材の混合が容易でない難点がある。

3 流動化処理土の軽量化試験
軽量材として,発泡スチロール粒・気泡等が考えられるが,発泡スチロール粒を有明ガタ土に混合しようとしたとき,混練りが大変であり,また固化後,乾燥収縮により無数のクラックが発生し,調整含水比が大きいほどクラックの発生が多くなるため,気泡による軽量化を試みた。
1)起泡剤添加量と湿潤密度……泡状粒土化現象
佐賀河川調整池建設に伴う掘削予定の有明粘土について,調整含水比別に,起泡剤の添加率と湿潤密度の関係を調べた結果を図ー4に示す。湿潤密度を水よりやや重い1.1g/cm3程度に軽くしようとしたときの必要な起泡剤の添加量は,調整含水比150%のとき約5%程度である。

一方,湿潤密度を水以下の0.8g/cm3程度に軽くしようとして,起泡剤の添加量を漸次増量していくと,忽然とガタ土表面に気泡が浮き出して顆粒状となり(以下,泡状粒土と称す。)品質性状が極端に変化する現象がみられる。この泡状粘土化現象は,ガタ土の調整含水比が250%程度以下で発生し,湿潤密度を0.9g/cm3程度以下に軽くしようとして,起泡剤を増量添加したときに発生する。
泡状粒土塊は(自然乾燥状態)水中に入れると水面に浮き,手でふれるとパラパラと土粒子が顆粒状をなして落下沈降する。土粒子間の結合は非常に弱くガタ土に戻ることはない。ある程度安定した顆粒状の土である。
2)調整含水比と起泡剤の必要量
図ー5に六角川7K/4地点の有明粘土と佐賀河川調整池内の有明粘土について,含水比と起泡剤の添加量との関係を,湿潤密度をパラメーターとして示す。

六角川7K/4地点のガタ土は海成粘土であるが,佐賀河川調整池粘土は河成,海成の互層から成っており,土質性状は異るが,調整含水比を200%以上に上げると起泡剤の添加量は両地点とも同じ量で軽量化できる。即ち土質に関係なく少量の起泡剤添加で所定の軽量土が得られる利点がある。
有明粘土の性状は,場所,深さ方向により複雑に変化することから,品質のバラツキを小さくするためには,含水比を200%より大きくした方がよいといえる。これはまた,固化材の混合攪拌を容易にする。しかし,一方では含水比を高くすればするほど,改良土は乾燥収縮により非常にクラッキーな改良体となり,強度発現が弱くなる。このため固化材の量を増量する必要があるが強度増加は鈍く,マイナス面も助長される。

4 暴露供試体製作試験
流動化処理土を盛土材,埋戻し裏込材,天端補修補強材等への利用を想定して次のケースについて暴露試験を実施した。なお暴露供試体は,佐賀河川調整池掘削予定土を含水比200%に調整し製作した。暴露供試体の製作諸元を表ー1に示す。

1)暴露供試体の経過時間と体積ひずみの関係
供試体は,時間が経過するに伴なって乾燥収縮が始まり,打設後2~3日経過すると,明瞭なクラックが発生し,開口が進む傾向にある。図ー6に高炉セメントB種110kg/m3混合の固化処理土の暴露供試体と体積ひずみの関係を示す。
1ヶ月経過後の体積ひずみは原土11%に対し,固化処理土は2.6%,ネトロンシート補強土は,1.8%に抑制されている。
供試体のクラックの発生状況は,高炉セメントB種混合の固化処理土に深いクラックが発生したのに対し,ネトロンシート二層敷設の補強土は,2~3日後にヘアークラックが観察されたものの,その後はあまり進行せず明瞭な補強効果がみられ,有望な補強材と判断とされる。

図ー7は気泡軽量土の混合打設時からの経過時間と体積ひずみの関係を示した図である。1ヶ月後の体積ひずみは,ネトロンシート補強の3.2%に対し無補強土が3.8%であるが,供試体のクラックの発生状況は,ネトロンシート補強土の方が多めに発生し,補強材の効果は小さいといえる。

2)締固め不用・流動化処理土の最適含水比
暴露供試体は,原土の含水比を20%に調整し,ソイルミキサー複数回バッチにより練り混ぜ,流し込みにより打設した。固化土は強度面から判断すれば,前述のとおり,含水比は200%より少ないほうが良いが,固化材の均質な混合と軽量化にあたっての起泡剤添加量の急増および,泡状粒土化,採取原土の場所の違いによる品質のバラツキの増大等の問題があり,詳細確認のため暴露供試体を製作した結果,型枠撤去後の供試体の表面は,所々に空隙がみられ,敷均し程度の締固めが必要であり,締固め不用の処理土として利用するには水分量が不足する。以上にかんがみ,最適含水比は,250~300%程度と考えられる。

5 空洞模型注入実験
軟弱な有明粘土層での支持杭方式の構造物底版下に多発する空洞部への充填材等への利用を目途として,高流動性の気泡軽量化処理土による空洞模型注入実験を実施した。
1)空洞模型製作
空洞模型は樋門樋管の底版下に発生する空洞を想定(図ー8参照)して,アクリル製ボックスに注入口を設けた蓋掛構造とし,現場構造物と類以状態となるよう1/10の程度の模型とし,中央部は止水矢板構造とした。
底盤下の地盤のガタ土については,自然含水比115%の六角川7K/4地点の高水敷のガタ土を採取し攪拌均質化して水槽に流し込み,上面を整形し模型の地盤とした。土の硬さはガタリンピックの人が腰までぬかるむさまを想定してもらえばよい。
空洞の高さは,遠賀川,六角川での空洞化実態が,3~12cm程度,空洞が発達した樋門等では20~40cmの空洞が確認されているが,模型は2cmとして注入実験を実施した。

2)空洞注入実験
空洞に注入する充填材は,六角川7K/4地点の高水敷のガタ土を含水比400%に調整し,高炉セメント120kg/m3および,起泡剤0.8%を添加混合して,湿潤密度1.0~1.1g/cm3に軽量化して使用した。軽量化処理土の流動性は,Pロート流下時間20秒,ブリージング率0.3%であった。注入圧力は,現場では0.5kg/cm2程度であることから,模型ではその1/10の圧力を中心にして3段階H=10cm(0.01kg/cm2),H=50cm(0.05kg/cm2),H=100cm(0.1kg/cm2)で注入した。
3)充填材の拡散状況
注入圧力0.01kg/cm2;注入口周辺の直径15cm~20cmに拡散し以降充填不能(所要時間3から5分)
注入圧力0.05kg/cm2;第1孔と隣接第2孔との中間付近が充填不能(所要時間30分程度)
注入圧力0.11kg/cm2;0.05kg/cm2の場合より第1孔と第2孔のあきが縮まるが,一部空洞を残す(所要時間35~45分) 空洞が一部残った主な原因は,気泡混合により流動性が減少する(Pロート所要時間,原土15秒に対し気泡混合後20秒強となる。)ことである。
したがって,あらかじめPロートによる流下時間を15秒程度になるよう含水比を調整すれば充填性は問題ない(本実験ではガタ土に高炉セメント混合後のPロートの流下時間を15秒と設定して実施したため気泡添加による流動性の低下を考慮してない)。
4)アクリル底版およびガタ土地盤との気泡軽量土の充填密着性
アクリル底版と地盤との密着性はハギ取り試験の結果非常に良好であった。軽量土充填によるガタ地盤の沈下やクラックの発生については,注入圧力0.05kg/cm2では見当らず良好な結果を得たが,注入圧力を0.11kg/cm2に高めたケースについては,ガタ土地盤内に水平方向にクラックの発生がみられた。これは適度な注入圧力による施工が必要なことを意味している。

6 おわりに
有明ガタ土は場所,地表からの深さにより土質の性状は複雑に変化するが,水を適量加えると,性状の違いが小さくなる。土の湿潤密度,軽量化のため添加する起泡剤の必要量は,それをよく示している。しかし,含水比を多量にするほど,固化後はクラッキーとなる。ネトロンシートの敷設や気泡の混合は,クラックの抑止効果が高いといえる。
今後はさらに改良土の品質をグレードアップする補強材の混合について検討を進めてまいりたい。
有明ガタ土の利用について,従来の含水比を下げての利用から,逆に水を加えて流動性を高めて利用することが出来れば,打設後の締固めが不用となり省人化に役立つばかりでなく軟弱地盤地帯での利用を考慮して軽量化が可能であれば,従来莫大な費用を投入していた地盤改良費の軽減に役立つと考え,それにはどんな混合材がいいかについて,各種実験した結果,気泡混合による流動化・処理土の軽量化が有望視されるに至った。
気泡混合土は水中に打設すれば水面と接する表面付近の気泡は分離し泡状になって水面に浮くが処理土内にとりこまれた気泡は分離しないため湿潤な地中,半水中での利用が可能であり,樋門樋管等の水中空洞部の軽量充填材としても利用可能であろう。高含水での処理土はプラス面もあればマイナス面もある。要はその特性を生かした利用を図る必要があり,今後さらに詳細な調査検討が必要である。関係者各位の御指導,御指摘をいただければ幸いである。
最後に本研究を進めるにあたって,調査資料並びに試料土の掘削提供等で多大な協力を頂いた武雄工事事務所および出張所の各位に謝意を表する。

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