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コンクリート構造の限界状態設計法

福岡大学工学部土木工学科
教授
大 和 竹 史

1 はじめに
先進諸国の中で日本は上下水道,エネルギー施設,高層建築など大規模な構造物から擁壁,通信施設,プール,公団施設など小規模のものまで,いわゆる社会資本の整備が非常に遅れていることはご承知の通りである。コンクリートは住宅やこれら社会資本の重要な建設材料であり,今後その使用量はますます増加するものと考えられる。
コンクリート構造物はそれぞれの目的に合った所定の安全性を有し,経済的なものでなければならない。そのためには施工中を含め供用中に作用する諸荷重に対し安全であることを設計時に検討しておく必要がある。
コンクリート構造物の設計に関する標準としては土木学会制定の「コンクリート標準示方書」(以下,示方書と記す)が一般に用いられる。現在,実務的にはまだ許容応力度設計法が採用されているが,1986年制定の示方書では限界状態設計法が採用されており,将来,この設計法に移行していくものと思われる。そこで,2回にわたりこの設計法の概略を紹介する。

2 限界状態
限界状態設計法では種々の限界状態について安全性を検討する。限界状態にはコンクリート構造物の供用中に生じるひびわれ幅やたわみ等について検討する使用限界状態,繰り返し荷重を受ける部材でコンクリートや鋼材の疲労に対する安全性を検討する疲労限界状態および断面破壊,剛体安定,変位,変形等に対応する終局限界状態がある。

3 安全係数と修正係数
各種の限界状態で構造物または部材が所要の安全性を有することを検討する際に外力によって生じる断面力の計算時の材料強度や荷重のばらつき,断面耐力や構造解析の不確実さを配慮して示方書では標準的な安全係数の値を表ー1のように与えている。
修正係数は,特性値と規格値あるいは公称値との間に相違がある場合に設けるもので,材料修正係数ρmおよび荷重修正係数ρfがある。

4 材料の設計用値
コンクリート構造を構成するコンクリートおよび鋼材(鉄筋やPC鋼材)の品質はその構造の使用目的,環境条件,耐用期間,施工条件等から適切なものでなければならない。
コンクリートの圧縮,引張,曲げ等の設計強度はそれぞれの特性値を前述の安全係数の一つであるコンクリートの材料係数γcで除したものとする。それぞれの特性値は適切な強度試験により求めた試験強度に基づいて定められる。示方書では普通コンクリートについてγc=1.3として求めた各種設計強度を表ー2のように与えている。

一方,鋼材の引張,圧縮およびせん断に対する設計強度はそれぞれの強度の特性値を鋼材の材料係数γsで除したものとする。
終局限界状態に対する検討において用いるコンクリートおよび鋼材の応力ーひずみ曲線は図ー1および図ー2に示す。

使用限界状態における弾性変形あるいは不静定力の計算に用いるコンクリートのヤング係数は設計基準強度が与えられれば求まるように表が準備されている。たとえば,普通コンクリートの場合f’ck=300kgf/cm2であれば,Ec=2.8×10kgf/cm2である。鉄筋のヤング係数Esは2.1×10kgf/cm2,PC鋼材のヤング係数Epは2.0×10kgf/cm2としてよい。
コンクリートの圧縮,曲げ圧縮,引張等の設計疲労強度frdは疲労寿命Nと永久荷重による応力度σpの関数の形として次式で求める。

鋼材の引張,圧縮およびせん断に対する設計強度はそれぞれの特性値を鋼材の材料係数γsで除したものである。異形鉄筋の設計疲労強度fsrdは疲労寿命Nと永久荷重(死荷重)による鋼材の応力度σspの関数として,一般に次式により求めてよい。

α, kは試験によって定めるのが原則である。

5 荷 重
荷重の特性値は検討しようとする限界状態についてそれぞれ定める。
終局限界状態の検討においては荷重のばらつきを考慮した上で構造物の施工中および耐用期間中に生ずる最大および最小荷重の期待値とする。
使用限界状態の検討においては構造物の耐用期間中に比較的頻繁に生じる大きさのものとする。
疲労限界状態の検討においては変動荷重を考慮して定めるものとする。
荷重の種類としては死荷重(永久荷重),活荷重,土圧,水圧,流体力および波力,温度荷重,風荷重,雪荷重,プレストレス力等がある。この他に施工時荷重も忘れてはならない。設計荷重としては一般に永久荷重と一つの変動荷重(活荷重,温度の影響,風荷重,雪荷重)の組み合せになる。

6 構造解析
各限界状態に対して構造解析理論を使い分けることが出来る。
構造解析は線形解析と非線形解析に分かれる。終局限界状態における部材の変形性状は一般に非線型性であるので構造解析は非線形解析による方が合理的であるが,現在,全ての構造形式に対して実用化できる段階ではない。したがって,終局限界状態を検討するための断面力の算定には線形解析を用いてよい。
使用限界状態を検討するための断面力の算定には線形解析にもとづくことを原則としており,剛性は通常,全断面有効(コンクリート断面をすべて有効とする)と仮定してよい。
疲労限界状態を検討するための断面力の算定も線形解析にもとづくことを原則とする。
耐震性を検討するための断面力の算定は一般に静的線形解析によって行い,動的解析を行う場合には構造系の減衰特性を考慮しなければならない。

7 終局限界状態に対する検討
7.1 概 説
断面破懐,剛体安定,変形,変位等の終局限界状態があるが,ここでは断面破壊に対する安全性の検討について述べる。
断面破壊に対する安全性の検討とは,設計断面耐力Rの設計断面力Sdに対する比が構造物係数γi以上であることを確かめることである。

上記の設計断面耐力Rはコンクリートおよび鋼材の強度の特性値fkを各材料係数γmで除した設計強度fdを用いて部材断面の耐力を算定し,これを部材係数γbで除して求める。
一方,設計断面力Sdは荷重の特性値に荷重係数γfを乗じた設計荷重Fdを用いて設計断面における断面力Sを算定し,これに構造解析係数γaを乗じて求める。以上を図示すると図ー3に示すようになる。
断面破壊に対する安全性の検討は一般に曲げモーメント,軸方向力,これらが同時に作用する場合せん断力,ねじりモーメント等が作用する断面において行う。ここでは,曲げモーメントおよび軸方向力に対する安全性とせん断力に対する安全性について述べる。

7.2 設計断面耐力の計算における仮定
曲げモーメントと軸方向力が作用する部材の設計断面耐力を計算する場合,以下の仮定に基づいて行う。
(1) 維ひずみは断面の中立軸からの距離に比例する。
(2) コンクリートの引張応力は無視する。
(3) コンクリートの応力ーひずみ曲線は図ー1によることを原則とする。
(4) 鋼材の応力ーひずみ曲線は図ー2によることを原則とする。
部材断面のひずみがすべて圧縮となる場合以外は,コンクリートの圧縮応力分布を図ー4に示す長方形圧縮応力の分布(等価応力ブロック)と仮定してよい。

7.3 曲げモーメントを受ける断面の耐力
曲げモーメントによる引張破壊の場合は鉄筋が降伏点に達している。断面内の力の釣合いから,曲げ耐力の計算を行う。ここでは比較的,簡単な長方形断面(図ー5参照)の場合について述べる。
コンクリートの圧縮応力分布は図ー4の等価応力ブロックを採用すると,単鉄筋長方形断面の場合には,コンクリートの圧縮合力C’cおよび引張鉄筋の引張力Tは

設計曲げ耐力Mudは次式で求められる。

引張鉄筋比pが大きくなると引張鉄筋が降伏する前に,圧縮側コンクリートが圧縮破壊するようになる。曲げ引張破壊と曲げ圧縮破壊との境界に相当する鉄筋比を釣合鉄筋比と呼んでいる。

複鉄筋長方形断面の場合(図ー6参照)にはまず圧縮鉄筋と引張鉄筋の両者が降伏していると仮定すると,

したがって,力の釣合い条件式

に(7.10)(7.11)(7.12)を代入してxが求まる。
ひずみの分布図から導かれる鉄筋のひずみを求める式にxを代入して,もし仮定どおり降伏ひずみに達していなければ,

を用いて(7.13)に戻って計算をし直す。
両方の鉄筋が降伏していれば,設計曲げ耐力Mudは次式で求められる。

7.4 軸方向圧縮力を受ける部材
軸方向力を受ける部材においては,設計軸方向圧縮耐力の上限値N’oudの設計軸方向圧縮力N’dに対する比が構造物係数γi以上でなければならない。式で示すと次式のようになる。

設計軸方向圧縮耐力の上限値N’oudは,帯鉄筋柱の場合は式(7.18)により,らせん鉄筋柱の場合は式(7.18)と式(7.19)のいずれか大きい方により算定するものとする。

軸方向圧縮力を受ける部材において偏心距離が非常に小さい場合,施工における部材軸線の曲がり等による曲げモーメントのわずかの増加によって耐荷力は相当に低下することが分かっているので,部材係数を1.3と他の場合よりいくぶん大きくとる。
7.5 曲げモーメントと軸方向力が作用する場合
曲げモーメントMdと軸方向力N’dが作用する場合の設計軸方向耐力と設計曲げ耐力の関係を表したものが図ー7に示す相互作用図である。曲げモーメントMdと軸方向力N’dに構造物係数(一般に1.15としてよい)を乗じた点(γid,γiN’d)がこの図の曲線内に入れば安全ということになる。

(次号に続く)

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