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ウォーターフロント最前線
—シーサイドパーク海の中道海浜公園一

(株)海の中道海洋生態科学館
 常務取締役
ーノ瀬 敏 満

まえがき
ウォーターフロントという言葉が我が国で一般的に使われ始めたのはいつの頃であったろうか。今でこそ「何処へお勤めですか」と人に聞かれたら「ウォーターフロント事業に勤務しています」などと格好よいことを云っているが,ついこの間(昭和63年3月)までは,建設省の一役人で仕事といえば,河川やダム,今ふうのウォーターフロントとは全くといってよいほど無縁の存在であった。
もっとも育った所が佐賀のある農村の片田舎で百姓の次男坊である。戦前戦後のこととて今のようにラジオやテレビはないし,まして個室やファミコンなんてあるわけでなし,遊びといえばもっぱら戸外,隣家の餓鬼連中と春は麦畑や菜の花畑を走りまわり腹がへればビワや野イチゴを食べ,夏はパンツー枚の真裸,黒んぼよろしく近くの川や堤(貯水池)で泳ぎまわり,日照りが続けばバケツで川干して鮒や鯰とり,たまには有明海の干潟でドブ鼠みたいになって這いつくばり,アサリ,アゲマキ,ホージャン貝などをとる。又秋になれば空缶けり,鬼ごっこ,ビー玉,メンコ,8の字合戦,遊びほうけて柿やミカンで腹をみたす。冬は冬で凧あげやコマまわし,山に登ってはカズラにぶらさがりターザンよろしく「アーアー」,それにあきれば坂道に放尿し,キンマ(スキー板を連結したようなもの)に乗って今でいうボブスレイ,たまにはひっくり返って「アイタッ」というほど頭を山肌に打ちつけるとか、年から年中自然の中で遊びにはこと欠かない時代であった。
而るにそれが今はどうかとなると戦後の戦災復興を経て高度経済成長時代に入るや都市への人口集中,核家族化による小世帯のマッチ箱住宅団地,おまけに教育水準が向上したためか子供は小さい時から保育園,幼稚園,そして学校が終わったら毎日塾通い,たまに暇があったら一人で自室に閉じこもりファミコンゲームに熱中する。そんなことだから戸外で自然に親しみながら友達と遊ぶなんてナンセンスな時代となってしまった。
また高度経済でエンゲル係数もグントさがり殆どの人がまあまあの中流意識を持つようになった。加うるに日本人は働き過ぎとの海外の批判や圧力もあってか,企業はおろか公共機関でさえも週休二日制などと洒落こんで休日は増える一方、世の中暇をもて余す人ばかりである。
そこで登場したのが意識的に用意されたレク・リゾートである。すなわち,この暇人に何とかして余った時間を埋めさせてあげようと,しかもそれは日常の生活では得がたいもの,つまり非日常の空間を提供しようというのである。それがまた明日への活力となれば双方共に万々歳である。これがいわゆるレク・リゾートではなかろうか。
そんなわけだがともあれ,リゾートとかウォーターフロントとかが何の抵抗もなく一般の人の話題になったのは,やはり昭和62年に総合保養地域整備法(通称リゾート法)が制定され,各地で村おこしや地域振興の名のもとにレク・リゾート施設などの計画や実施が開始されてからではなかろうか。
当地,海の中道海浜公園は,無論福岡県の玄海レク・リゾート構想の中核的施設としての位置づけになっているが,本来は都市公園法にもとづく建設省直轄の国営公園であり,昭和47年に米軍の博多基地の返還に伴ってその跡地を中心に大規模な公園計画がたてられ,昭和50年度から国営公園として整備が進められているのである。従って,リゾート法の制定以前にすでに建設省では、レク・リゾート施設やウォーターフロント開発にもとりくんでいたことになる。

1 シーサイドパーク海の中道海浜公園
福岡市の東端にあたる和白から玄界灘を西の方へ約12km程うなぎの寝床みたいに突き出ている半島,ここが海の中道である。またその西約2kmの所には,金印公園や活魚料理で有名な志賀島があり,海の中道と志賀島はいつ頃からか砂州でつながり,現在では志賀島を含めて海の中道と呼ぶ人が多いようである。半島の北側は,冬には時おり日本海の荒波が牙をむく玄界灘,南側は静かな内海の博多湾,中をとりもつ海の中道なのである。
この海の中道から眺望される福岡の街なみは,西は小戸,愛宕,シーサイドももち(アジア太平洋博・よかトピア跡地)の福岡タワー,マリゾン,市立博物館,ツインドーム(建設中)等の最先端エリアから,中央部は西公園,博多ポートタワー,博多ふ頭などを中心とするベイサイドプレイス,東は箱崎ふ頭,香椎パークポート(建設中),アイランドシティ(計画中),和白干潟等々と視界180゜をこえる大パノラマなのである。
またシーズンともなれば,博多湾ではクルージング船も出て新鮮な活魚料理に舌鼓みしながらホロ酔い気分で船上より見る日没は,この世の極楽でもあろう。夜ともなれば博多の夜景は壮大なもので,神戸や長崎におとらぬ絶景となる。
都市部の景観を小高い所から鳥瞰するのは多々あるが、海より都市の顔を拝見できるのは,ここ海の中道ぐらいのものではなかろうか。こう考えると海の中道は,まさしく福岡のリゾート地,ウォーターフロントそのものと云っても過言ではあるまい。

さて,海の中道海浜公園は,この海の中道地域の略中央部に位置し、自然と人間の楽しいかかわりあいを求めることを基調として,計画面積540haの中でいろいろな公園施設が整備されることになっているが,昭和56年の一部オープン以来,施設も遂次増加し,現在では約162haが開園利用されている。
海の中道海浜公園の開園部分の略中央部には、志賀島に通ずる県道59号線が東西に走り,その北側は一般有料エリア,南側すなわち博多湾側はリゾートエリアと区分される。すでに整備された主な施設は次のようなものである。

(1)一般有料エリア
① 西口広場
公園のメインゲート部に位置し,スカイシェルターや壁泉とともにカナールと花壇,遊歩園もあり,特に春の花の時期はフラワーピクニックも開催され福岡の春の祭りの開幕である。

② 子供の広場
子供たちが広大な緑の中でのびのびと自由に遊べる広場である。高さ約62mの大観覧車を中心にアスレチック遊具,トリムコース,ローラーすべり台,エジプト迷路などがあり,さまざまな遊びが体験できる。

③ サンシャインプール
主に夏休み期間中の利用となるが,広さ約9.2haの中に流水プール,スライダープールなど6種類の変形プールがあり,日曜日などはプール内のステージでミニコンサートやショーも開かれて一寸したお祭りムードとなる。
④ 野外劇場
緩やかなスロープを有する広さ約3.1haの芝生広場で,野外コンサートなどの大規模イベントに利用されており,2万人の観客ともなれば若さと熱気がムンムンである。
⑤ 大芝生広場
広さ約24haの芝生広場で、サッカー,ラグビーのほか企業や諸団体の運動会,マスゲーム,クロスカントリーなどと多目的広場として利用されている。
⑥ 動物の森
約9haのゆったりした敷地の中でロバ,ラマ,ポニー,クモザル,フラミンゴなど約40種500頭の小動物が展示してあり,子供たちと動物との触れあい広場となっている。
⑦ 青少年海の家
海の中道の松林の中に自然豊かな環境の中で,小中学生を対象に集団で宿泊研修をおこなう体験施設で,宿泊棟400人,キャンプ場200人が収容でき,夏休みなどは市外も含めて連日満杯の状況である。
⑧ シーサイド・ヒル「シオヤ」
玄界灘に面した小高い丘の上,シオヤ岬の突端に新しいビュー・スポットとしてオープンしたシーサイド。ヒル「シオヤ」は,一階は展望ロビーと軽食レストラン「パーラー」,二階は予約制レストラン「ピネーター」となっており,ワイドなガラス面からは白砂青松の海岸線や紺碧に輝く玄界灘の水平パノラマを心ゆくまで満喫できる。

(2)リゾートエリア
① ホテル海の中道
真白な鳥が博多湾に向かって大きく翼を広げたような斬新なデザインの外観とプールのあるとてつもなく広々とした前庭,その先端の海岸線にはフェニックスの並木,どう考えても福岡市内にあるとは思えないほどのお洒落なホテル,これがまさしくリゾートタイプの「ホテル海の中道」なのである。客室はすべて博多湾を望むオーシャンビューとなっており,シーズンともなれば家族,フルムーン,アベックを問わず小グループの若いギャルにも大もてで,気の早い人など宿泊したその日のうちに翌年の予約をするという。
ホテルには99室の宿泊室の他に18面のテニスコート,500艇収容可能なマリーナ,クラブハウスなどもあり,夏の夜はホテル前のプールがライトアップされ,ホテル高位部よりレーザー光線を音楽に合せて照射するなどナウなリゾート気分を十分に堪能することができるのである。また冬の夜は周辺の樹木にはすべてスモールランプが点滅し,彼女と二人で恋を語らいクリスマスやお正月を過ごすこともできる。

② マリンワールド海の中道
広大な芝生地の中にギリシア神殿の参道を想像させる長くて広い階段とエントランス,その先端には,ホタテ貝が博多湾に向かってパックリと口を開けているが如く,すなわち貝をモチーフにデザインされた白い建物,水族館というよりもむしろ博物館,そんなイメージの強い建物,これが「マリンワールド海の中道」である。
最近,若い人の間で「マリンワールドヘ行ったことがあるの?」といった会話があちこちで聞かれるという。それほどナウで福岡のデートコースとしても有名になってしまったマリンワールド海の中道は,平成元年4月にオープンされた。以来毎年70~80万人の観客がこのマリンワールドを利用している。
館内に入ると先ず内部が大変明るいのに気がつく。一般の水族館が暗くてジメジメした感じがすると云われているのに対して,ここは天井屋根がフッ化エチレン樹脂コーチングガラス繊維布によるサスペンション膜構造と云われるややこしい名のテント膜で半透光性となっているためである。
お客さんの中には,あんまり風変わりな建物のため改札口で「水族館は何処ですか」と尋ねる人がいるほどハイタッチで粋な水族館である。

展示テーマは「対馬暖流」でその海流の及ぶ南は東支那海から北は北海道周辺に至る範囲の熱帯,温帯,寒帯の代表的魚種約230種,7,000点を展示しているが,各水槽は自然光をできるだけ取り入れるなど思い切って明るい色彩と照明がしてあり,また随所に色々な工夫をこらしている。
例えば,対馬暖流の始端にあたる熱帯水槽は,トンネル状となっており,観客は水中にいる気分でサンゴ礁の中大型魚を観察することができる。

2階から3階までの吹き抜け水槽は,我が国では最も高く水深10mの圧巻,海の断面を切取って据えたようで,温帯魚の棲み分けや群れを観察できる。また,水槽の背面に解説用のビデオを配した生態ビデオ水槽は,日本で最初に考案されたもので魚たちの共生を細かく観察でき,且つ容易にきて教育的にも大へん意義のある趣向である。
そのほか観客が外部よりリモートコントロールで上下,左右,直進などの操作が可能な水中カメラを水槽内に設置したウオッチング水槽というのがある。この方式は,本来は大水槽の裏まわりや岩根づきの魚などの生態を拡大して観察するのに適しているが,操作がゲーム機と似ているためか子供さんに大変人気がある。子供だけかと思っていたらクイズ方式のQ&Aコーナーも含めてアベックにも結構人気があり,何が面白いのかわからぬが二人並んでピッタリくっついてガチャガチャやっているのをよく見かける。
マリンワールドのもう一つの見どころ,これは何といってもイルカ・アシカのショーであろう。
観覧席からショープール越しに博多の街を望む明るく広々とした空間,そして水深6m,水量2,000m3のショープールで演じられるイルカショーは,福岡の祭りを取り入れたストーリーに従って4頭のイルカがバー高飛び,輪くぐり,ハイジャンプ,スピンジャンプ,背面宙返りなどの曲芸を流れるが如く次々と見せてくれる。観客は,どんたくの音楽が流れれば自づと手拍子を打ってショーに参加し,高度のトリックに対しては「ウワッ」とか「ウォッ」とかの感嘆・どよめきの声をあげ,この時ばかりは日頃の煩悩もなんのその,心身からショーに融け込んでしまうのである。

イルカショーに引き続き行われるアシカのショーは,地元に伝わる民話のストーリーで3頭のカリフォルニアアシカが,愛嬌たっぷりで観客は腹の底からゲラゲラのお笑いである。

観覧席の下は,イルカの水中遊泳を観察できるようになっており,レストランで食事をしながら日本でも初めての大規模パノラマアクリル板を通して,水中を優雅に泳ぎまわるイルカの生態をじっくり観察できる。
魚の展示やイルカ・アシカのショーを楽しんで出口にさしかかるとラッコの水槽があり,あのひょうきんもののいたずらラッコが例の可愛い仕ぐさで貝を割って食事をするのが見られる。このラッコは,1989年アラスカ沖でのタンカーのオイル流失事故時に救出されたラッコの子供で,この後ラッコは輸出禁止となってしまった。

最近,ウォーターフロントといえば水族館といった具合に今や水族館は若い人の間で大変トレンディな場所として話題になっており,またデートコースとしての利用も非常に盛んである。そうしたことからか,ここ数年の間に全国的にも大阪の海遊館や鳥羽水族館,東京の葛西水族館,品川水族館,新潟水族館,登別のニクスなど次々と大型で近代的な水族館がオープンされた。工事中のものでは,名古屋港水族館,横浜の八景園などがあり,九州でも鹿児島市,熊本市,沖縄(現施設の代替)などで計画・構想がねられている模様である。
ここ,マリンワールドでも残されたホタテ貝の約半分の増設工事が本年の7月より本格的に着手されることとなり,平成6年度末には完成の予定となっている。
二期増設工事の展示内容としては、一階から二階にかけての水深7m,容最1,400m3の大水槽を中心に中小型水槽や観客が参加体験のできる海の科学室,特別展示や講演,映像放映の可能な多目的ホールなどとなっており,これが完成すれば全国的にも有数の水族館となろう。特に大水槽は,当マリンワールドのメインテーマでもある対馬暖流の略中央一対馬海峡の様子を再現するもので,群れやスピード,すみ分けを展示テーマとしており,幅23.5mの大パノラマなアクリル面からは超一級のダイナミックな海中景観が見られることとなろう。

2 マリンワールド裏方小ばなし
① 何処のレク・リゾート施設でも同じであろうが,大体日祭日は開園日となる。ここマリンワールド海の中道でもご多分にもれず補修点検等で年間6日間は休館となるがその他は年中無休である。従って職員は日祭日は殆ど休めず平日に交代で休暇をとることとなる。一般の人がゴールデンウィークとか夏休み,正月休みなどといって長期連休をとるようにはいかぬ。友達がグループで休暇をとりリゾートを楽しもうといってもこちらは勤務日,このため友達づきあいもだんだん少なくなってしまうのである。同様なことは家庭内でも同じで,たまの日曜日子供達と一緒に何かしようとしてもそれは不可能に近く,家庭サービスも悪化するばかり,サービス産業従事者の宿命とでもいえようか。
② どなたがいったか知らぬが「お客さまは神さまである」という言葉がある。当方もマリンワールドに勤務して覚えたことといえば,「いらっしゃいませ,まことに申しわけございません,ありがとうございました」というこの3つの言葉である。あるダムの先輩所長さんの苦労話に「顔で笑って心で泣いて」というのを聞いたことがあるが,サービス産業とて全く似かよったところがあるものだと思う。特にリゾートの場合,客に十分満足していただき,さらにリピートしてもらうとか,口伝えで他の人にPRしてもらうとかそうしたことが大変重要なことで,いやしくも客が接客・接遇面で不満に思うようなことがあってはならない。
③ 最近,フロンガスなどによる地球温暖化や大量・過度の植生伐採に伴う地球砂漠化などが問題となり,地球規模でこれらにとり組む姿勢がうかがわれる。本年6月には,ブラジルで「地球サミット」なるものも開かれた。このように地球を大切にとか,地球に緑をとかの動きは,大変結構な風潮である。身近かな間題として,ゴミに関し福岡県の北野町では今年の7月に「北野町の環境をよくする条例」なるものを制定され,ポイ捨てに対しては罰金刑を科すこととなった。
また和歌山市でも同様な条例が制定されたようで,つい最近では福岡県の八女市及び八女郡の一部でも条例化され,来年3月には福岡都市圏広域行政推進協議会(21市町村)でも条例制定の動きがあるようである。ゴミ問題で九州が他の先駆者となることは大変好ましいことである。
しかるにリゾート地マリンワールドでの実態はどうかとなると館内外を問わず至る所ゴミだらけである。歩きながらジュース,コーヒーを飲みカーペットの上にこぼしても知らぬ顔,お菓子の空箱はそこらへんにポイ捨て,2~3mも行けばチリ籠があるというのにそれもしない。ガムも紙にくるんでくれればまだよいものをそのまま吐き拾て,カーペットに吐きすてられたものは人に踏みつけられて後始末が大変である。ひどいのになると紙オムツを観覧席の下や水槽観覧通路の隅に置いて行ってしまう人もある。
このため館内外の清掃は,大変な仕事の一つであるが、ゴミの量が多ければ多いほどそれだけお客が多かったということで商売をする立場としては感謝せねばならないおかしな話なのである。「ああゴミ様有難うございます」である。
しかしこんなことで果たして地球が守られるのであろうか,一体この世の中どうなってしまったんだろうかと思う。こんな経験をしていると今までタバコの吸殻を何処にでもポイしていた自分がいつの間にかポイ捨てをやめたことだけは事実である。リゾートでリラックスするとしても何事につけ他人への迷惑を一寸ぐらい考える心の余裕は持ち合せたいものである。
④ マリンワールドでは先にも記したとおり魚などの展示とイルカ・アシカショーを行っている。一見華やかに見える職場だが,これをささえる職員の苦労は並み大抵のものではない。イルカ・アシカショーについて見れば,夏のステージ上は灼熱の太陽をまともに受け,気温は45℃以上まで上昇し目が眩むほどである。冬になると玄界灘の空っ風を全身に受け,気温は0℃以下までさがりトレナーやナレータは手が真っ赤になってかじかんでしまう。それでも彼らは,ステージ上では笑顔の一つも見せながら孤軍奮闘である。
またイルカやアシカは,我々人間と同様哺乳動物でストレスもあれば病気もする。イルカの場合,大海原を餌を求めて回遊する時は,それ程のストレスもないだろうが,狭いプールに押し込まれショーの芸も覚えさせられるとなるとこれはもう大変なことである。人の場合,大学を出て一丁前の杜会人になるまでに幼椎園からしても約20年はかかる。それがイルカの場合,芸事はじめてショーに出るまでわずか2年たらずのトレーニング,いかに彼等が我々人間よりもすぐれていることか,だからストレスも多く病気もするのであろう。イルカの病気といえば,風邪や胃潰瘍が多い。この時親身になってつきそい看病や治療にあたってくれるのがほかならぬ展示部の職員なのである。

また魚類については,メインテーマが対馬暖流ということから熱帯から寒帯までの展示水槽となっているため水槽の水温・水質管理は非常にシビアに管理されねばならない。このため,魚類担当の職員は常時見まわりや計測を行い水環境がそれぞれの魚に適しているかどうかのチェックをおこなっている。この他特に熱帯水槽などは高温水槽であるため水槽ガラス面や凝岩面に藻の付着が著しく水質のみならず見ばえも悪くなるため週に一回ぐらいは潜水して清掃しなければならない。
⑤ ある程度以上の資産になると税金がかかることは周知のとおりである。法人税法によれば,資産価値が一体で20万円以上の魚類や動物も減価償却資産とみなされ課税されることとなる。マリンワールドでこの償却資産に入るものは,イルカ,アシカ,ラッコなどの海洋動物のほか魚類ではナポレオンフィッシュなどである。
昭和57~58年頃初めて日本の水族館にラッコが登場した頃は,一頭約350万円であったという。ラッコのあの茶目っけで可愛い仕ぐさがテレビや雑誌などで紹介されるにつけ爆発的な人気を呼び,当時ラッコを展示した水族館では入館者が例年の5~10割増加することとなったのである。その後バブルのハジケではないが集客力も徐々に低下し,現在ではラッコで客を呼ぶほどの力はなくなってしまったが,一般家庭におけるテレビ,冷蔵庫やマイカーと同じく水族館にとってはなくてはならぬ必需品みたいなものとなっている。ちなみにお値段の方は,未だバブル続きで平成元年で約1千万円,現在ではアラスカのタンカー事故によるオイル流出以来アラスカラッコは輸出禁止となっているので更にきびしく国内売買でも一頭約1,400万円前後と推定される。
⑥ 日本人は,日本列島が周囲を海に囲まれているためか昔からの魚食民族である。地場の魚のほか鯨やイルカなどもよく食べたもので,当方など国民学校の頃には昼の弁当のオカズには塩くじらを焼いたのがよく入っていたものだ。而るにくじら類は,大漁法による乱獲しすぎとのことから絶滅のおそれのある動植物の自然保護を目標とした「ワシントン条約」なるもので1966年以来その捕獲が禁止されてしまった。本年に入り日本独特のスシのネタでもあるマグロについても少なくなったのでその捕獲を禁止せよとの強硬な意見も出てきている。食文化の相違といえばそれまでだが,牛肉などの自由化により輸入させられた四ツ足を食っても何のトガメもないのに我々日本人が大昔から常食していたものを次々に取りあげてしまうなんてとんでもないと思っても条約加盟国なるが故にどうしようもないのであろうか。数次にわたる捕鯨調査によれば,ミンククジラについてはその数は確実に増加しており若干の捕獲は支障ないというのにである。
たまたま14~15年ほど前になろうか,壱岐で従来から実施されていた漁民の大敵であるイルカの駆除(有害生物駆除として補助金も出ていた)が如何にも動物虐待のように新聞に掲載されたことがある。これが全世界に知れわたって非常な反響を呼び,グリンピースや自然保護団体の猛反発となり日本人はホエールキラー・ジャップといわれるようになってしまった。
また最近では,平成2年11月に五島のある湾にハナゴンドウイルカ約2,000頭が押し寄せ,その中約580頭が砂浜にのりあげてしまった。漁民総出で元気なイルカは海に押しもどしたが,そうでない若干のイルカは可愛想だということで最近はやりの安楽死をさせてやったが,この時の写真が報道されるやまたまた日本はホエールキラー・ジャップとしての汚名を広めてしまい全世界の自然保護団体に強く非難される破目となってしまったのである。
そんなわけで水産庁は,平成3年3月に通達を出し小型イルカの取扱いについても厳しく規制をすることとなった。たまたま本年3月,スナメリという小イルカが近くの漁場の定置網に入り,当マリンワールドで飼育展示しようとしたところ、かってに展示はまかりならぬとのこと,さる大学とスナメリの生態について共同研究をするためのといった条件付きでやっと水産庁の許可がおりた。ところで他国の例を聞くと,これほどわが国では厳しく規制されているスナメリも食用にしている国もあるそうで,何故日本だけがそこまで気をつかわなければならないのであろうか。水族館で展示するのはたいした数でもなく海洋動物に対する教育効果も大きいのにと不思議な気がしてならぬ。
⑦ 水槽の水質管理については,若干前にふれたが,マリンワールドには魚類水槽が大小あわせて39水槽,イルカなどの海洋動物のプールが5水槽ある。これらの総水量は約3,400m3となるが,水質の維持管理は急速又は重力式による循環濾過方式を基本としている。また各展示水槽には,それぞれ濾過水槽や水温調整装置が対応しているなどバックヤードは,給戻水管等が縦横無尽に走り循環ポンプや諸機器の数もおびただしいものである。
このためいきおい電力の消費も大きくなるが,これ等の諸設備は入館客の多少にかかわらず四六時中稼働せねばならず,見方によっては水族館は超電力消費型の産業ともいえる。ちなみにマリンワールドにおける年間消費電力量は約440万KWHにもなり,これは中規模コンクリートダムの工事用電力消費量に相当するのではなかろうか。

おわりに
海の中道海浜公園は,一部開園以来すでに10年になる。開園当時公圏の年間利用者は30~50万人程度であったが,公園施設の整備拡充にともない徐々に増加し,特にリゾートエリアのホテル海の中道やマリンワールド海の中道がオープンした以降は急激な伸びとなり,平成3年度の利用者は200万人をこえる状況となった。
一方福岡市は,「海に開かれたアジアの交流拠点都市」づくりを目標に掲げ,そうした都市づくりやアジア諸国との交流を鋭意すすめられている。こうした背景もあってか最近海の中道海浜公園にも外人の来客が大変多くなってきている。
また都市づくりというか,博多湾岸のウォーターフロント整備事業もなかなか盛んでよかトピア跡地をはじめ略全域で多種多様の計画や事業が展開されている。ある報道によれば,これらウォーターフロント整備事業は,今世紀末までに民間事業を含めて約2兆2,600億円にものぼるという。そうなれば,海の中道を含めた博多湾一帯は,まさしく国際的にも第一級のウォーターフロントとなるであろうし、海浜公園の利用客も更に増大していくものと期待される。
建設省でも今後引き続き未開園地域について公園施設の整備促進をはかられるであろうが,施設管理を担っている我々関係機関も建設省を中心にお互い力を合せて,この海の中道海浜公園が利用者の立場から十分満足していただけるよう,運営・サービスの面でより一層の工夫と努力を傾注し,名実ともに日本一の国営公園であると評価されるように頑張ってまいりたいと思う。

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