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「アクセス改善による港まちづくりの提案」
上薗怜史
1.はじめに

ナポリやリオ・デ・ジャネイロなど世界的に見ても港は都市の玄関口であり、物流・人流の結節点として役割を果たしてきた。日本も港を中心に発展を遂げ、日本の都市の殆どが港から形成されている。しかし近年、道路整備の充実等により陸運・空運の需要が増大し、海運の需要は減少傾向にある。さらに商業店舗の郊外移転に伴い、人は港から離れ、港の活気は失われつつある。
港に賑わいを取り戻し、再生することができれば、港は再び交流拠点としての機能を発揮し、地域経済・地域環境へ貢献することだろう。その結果、地域の活性化、さらには日本の活性化へ波及が期待できる。
現在、日本各地の港では、歴史的建造物を生かした催し物や、特別な自然環境を利用したイベント、鮮魚市やフリーマーケットによる賑わい再生を目指して、様々な活動が活発的に行われている。しかし、港再生に必要な要素として、欠かすことのできないものは人の流れである。港から郊外へ流れた人を再び港へ取り戻す方法として、人が集まる主要な施設にバス停を設置し、港まで足を運んでもらおうという考え方があるが、これは港を訪れるまでの過程を軽視しているのではないか。今、港再生を考える際に留意しなければならない点は、まさに人々が港を訪れる手段、方法なのではないかと考える。
そこで本論文では、実際に行われた港再生事業を事例として、港再生に向けた活動を行っている“ みなとオアシス” を見直し、アクセスの観点から港再生におけるまちづくりのあり方を提案する。

2.港再生事例から見る成功ポイント
(1)アクセスの変換
ジェノバ(イタリア)という都市は海運業や軍港として発展し、地中海への交通・輸送面で重要な拠点であった。しかし、1964年に高架道路が海岸沿いに建設されてからは、高架道路と一般自動車道により都市と港は分断され、人々は一般自動車道を横断するほかに港へ行く手段を失ってしまった。その結果都市は内陸部へと移り、港は市民の生活の場ではなくなってしまったのである。
その後、1992年の国際博覧会開催を契機として、地下鉄の建設と共に、都市と港を分断してきた一般自動車道を地中化することでアクセス改善を行い、人々は港へ容易に近づくことができるようになった。また、一般自動車道が地中化されたことに伴い、地上にはスペースが生まれ、交流スペースとしてうまく活用されている。【写真-1】
この港の再生ポイントは、港が衰退した原因である一般自動車道を都市と港の間から排除し、容易に港へ近づけるように改変したことにある。

(2)空間の繋ぎ方
オ・ポルトはポルトガル第2の都市であり、歴史的建造物の立ち並ぶ美しい街である。この街はローマ時代からドウロ川河口の重要な港として栄え、川辺には水際の雰囲気を楽しむ人々で賑わう広場が存在する。さらに丘の上にはまち一番の商店街が存在し、2つの異なった賑わいを持つ空間が近接していた。しかし、急勾配の斜面によって空間は分断され、双方が交わることはできない状況であった。【写真-2】
この街では以前ケーブルカーが走っており、2つの空間を有機的に結びつけていた。しかし、事故により運行休止となったままケーブルカーは街から姿を消した。このような背景を受け、2つの空間を繋ぐ解決策としてケーブルカーが採用され、今では新たな人の流れを創出し、賑わいを生み出すことに成功している。さらに、2つの位置関係を強く認識させることにも役立っている。また、ケーブルカーを降りて商店街へ向かう道は、現在は使われていないトラムの線路と架線に沿って歩道が整備されており、視覚的にも誘導される仕組みとなっている。
この街では2つの賑わい空間を繋げることでより大きな効果をもたらしている。歴史の変遷からケーブルカーを復活させ、人を誘導するための指標として、今では地域の資源である廃線を活用するなどの工夫を施したことが、人の流れを誘発する効果を発揮したといえる。

3.みなとオアシスの課題
(1)みなとオアシスの概要
みなとオアシスとは、海浜・旅客ターミナル・広場など港の施設やスペースを活用し、住民参加のもとで地域振興活動が行われる交流拠点のことである。一定の要件を満たす施設の場合、各地方整備局長によって認定される1。平成15年に制度化されて以降、現在では56港(仮登録9港)がみなとオアシスに登録されている【表-1】

(2)アクセスに対する意識
みなとオアシスに登録する際に提出する登録要綱2には、【表-2】で示すように「機能構成」と「施設構成」に分類され、項目がもうけられている。みなとオアシスでは、地場の特産品を販売している店舗や地域性を生かしたイベント等が地域住民を巻き込んで積極的に行われており、施設および賑わい創出に向けた活動は充実している。しかし、「交通結節点としての機能」という項目については十分配慮しているとは言い難い。例えば、交通結節点の機能としてレンタサイクルやバスを掲げている港がある。しかし、レンタサイクルには地域を回遊させるという効果はあるが、交通結節点の機能としては薄い。まずは港へ訪れるアクセスについて考えるべきである。バスについても、定点から定点へ人を運ぶバスを安易に運行させたところで、利用者の増加には繋がらない。
現在日本の総人口約1.27億人3に対して乗用車保有台数は約5800万台. とほぼ2人に1台の時代である。そんな中レンタサイクルやバスを結節点の機能と位置づけるのは難しい。「駅から徒歩何分」「バス停下車後、徒歩何分」などアクセスの基準を距離による近さで表記するのではなく、車や人の動線を考慮し、港へ辿り着くまでの道のりについて十分に考慮すべきである。

4.みなとオアシス登録に関する提案
港がとても魅力的であったとしても、港へのアクセスが閉ざされるだけでその魅力は衰退する。反対に、港へのアクセス機能を充実させることがさらなる魅力発展を後押しする。故に、港に再び賑わいを取り戻そうとするとき、その場を盛り上げる施設やイベントについて試行錯誤するだけではなく、そこに辿り着くまでの動線や空間に着目する必要がある。
みなとオアシス登録要綱において「機能構成」「施設機能」に加え、「アクセス機能」という項目を設けるべきである。単に駅が近ければいいとか、バスが通っているからいいとかではなく、港の機能や施設を考えるのと同じように、港を訪れる人の交通手段や、何を思いながらやってくるのかを想定すべきである。
① . 人はどこに集まり、その場所にはどのような交通手段で来ているのか。またその場所へは何の目的で来ているのかという人の流れを掴む。
② . 土地の歴史、文化、資源などを熟知し、土地を読み解く。
③ . ①②を踏まえた上で、港へ向かう道中にどのような工夫を施せば、港へ行くまでの行程を楽しませることができ、先にある港を感じさせることができるのかなど、仕組みを考える。

以上のようなアクセス機能に関する項目を充実させ、要綱に組み込むべきである。これにより港へ人を呼び込む方法を熟考することとなり、港での賑やかな活動のみならず、より一層港への人の流れを生むことに繋がる。アクセスの充実が港再生、さらには地域・日本の活性化へ発展していくと私は考える。
参考文献

1.国土交通省HP
2.九州みなとオアシスHP
3.総務省統計局2008年
4.社団法人 日本自動車工業会2008年

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