まさ土,しらす,火山土石のコンクリート適用性の検討
九州地方整備局 九州技術事務所
調査試験課 調査係長
調査試験課 調査係長
恵 藤 英 昭
九州地方整備局 九州技術事務所
副所長
副所長
野 上 幸 義
九州地方整備局 九州技術事務所
調査試験課 課長
調査試験課 課長
荒 木 辰 彦
1 はじめに
今日,モルタル,アスファルト,コンクリート用細骨材としての天然砂(川砂,海砂)資源が枯渇し,周辺環境への影響が生じ採取が厳しく制限され,天然砂に替わる材料の検討が急務となっているため,天然砂に替わる材料の検討を行った。
九州地方には,「まさ土」「しらす」「火山土石」が北部九州,中部,南九州に大量に分布しており,従来より分布地域の有用な建設材料として一部細骨材等に利用されたり,新たな利用のための試験研究も行われている。
本調査の結果からは,共通してコンクリート用の骨材として活用されている状況があるほか,「まさ土」「しらす」は路床,路盤等,「火山土石」は砂防事業へ利用されている。
2 目的
今回の適用性検討は,「まさ土」「しらす」「火山土石」の試料について,コンクリート用細骨材として活用する検討を行うこととし,適用性検討の前提条件として「平成11年度版コンクリート標準示方書(耐久性照査型)」を基に検討を行うこととした。
ここでは無筋コンクリート(設計基準強度18N/㎟以下)への適用性を調べるため,ブリーディング,圧縮強度,静弾性係数,乾燥収縮,凍結融解性,中性化,アルカリ骨材反応性に関する試験を行った。
3 試料採取箇所選定
試料採取箇所は,表ー1箇所を選定し採取した。
4 骨材としての品質に関する検討
(1)試験結果一覧表
各採取土の骨材としての品質試験結果を表ー2に示す。
(2)各試料土の特徴
表ー2の網掛け欄は,土木学会,標準示方書の基準値外の試験項目と資料であり,ここでは試験項目と試料別の特徴について記述した。なお,試験項目については,コンクリートの細骨材として影響が大きいと考えられる密度と微粒分量と粘土塊量について記述した。
① 試験項目より
a 絶乾密度:基準値(2.5以上)
しらすの吉田産F,阿久根産G,志布志産H,及び火山土石の島原産Jが基準値より低い。
b 微粒分量:基準値(3.0%以下)
微粒分量はほぼ全試料が基準値をオーバーしている。
c 粘土塊量:基準値(1.0%以下)
まさ土の養母田産E,しらすの吉田産F,阿久根産Gが基準値以上であった。
② 試料別より
a まさ土
・アルカリシリカ骨材反応性(化学法)についてまさ土試料は「無害」であった。
・南関産A及び那珂川産B-1以外はいずれも「微粒分量」が基準値以上であり,南関産A-1,養母田産Eは安定性の基準値(10%以下)をはずれた。
b しらす
・それぞれの基準値と比較して「絶乾密度」が小さく,「微粒分量」「粘土塊量」「1.95の液体に浮く粒子」が多く,「アルカリシリカ骨材反応性(化学法)」の結果が「無害でない」結果であった。
・前記の結果より「微粒分量」「粘土塊量」「1.95の液体に浮く粒子」が多いことは,しらすは微細な粒子を含む試料である。
・特に「微粒分量」23%という結果は,まさ土の最高8.6%と比較していかに微粒子を多く含んでいるかがわかる。
・前記のように微粒分量を多く含んでいるものの,「有機不純物」や「塩分量」が基準値内であることは,しらすが骨材として有害な物質を含んでいないことを示している。
・「1.95の液体に浮く粒子」が基準値以上であることは,コンクリートの場合,材料分離や単位容積質量の低下を招くことが考えられる。
c 火山土石
・桜島産の試料もしらすと同様に「微粒分量」を23%と多く含んでいる。
・「アルカリシリカ骨材反応性(化学法)」の結果は「無害でない」という結果であった。
5 単位水量の決定
各試料土を使用したコンクリートの単位水量と,試料土中の0.15mm以下の微粒分量との関係は図ー1の結果となった。図のように,0.15mm以下の微粒分量が多ければ単位水量も多くなる関係が認められるが,まさ土那珂川B,神埼C,火山土石桜島Iは他の試料土と異なる傾向を示した。
6 配合試験結果
各試料土の配合試験結果を表ー3に示した。
(1)試料土は,水セメント比60%の場合と,設計基準強度18N/㎟の場合の2種類を作成した。
設計基準強度18N/㎟の配合試験は,まさ土那珂川産B,しらす吉田産F,志布志産Hの3種類を作成した。
(2)しらすは,単位水量がかなり多くなるために,AE減水剤と高性能AE減水剤を使用して単位水量の減少状況を把握した。しかし,高性能AE減水剤を使用しても顕著な減水効果は見られなかったため,経済的にも不経済であり,普通骨材との混合で試験を行うこととした。
7 各種試験結果
(1)ブリーディング試験
図ー2にブリーデイングに及ぼす影響が大きい細骨材中の0.15mm以下の割合とブリーディング率の関係を示した。
1)まさ土南関A,那珂川B以外の特殊土のブリーデイングは海砂の半分以下となった。これは,単位セメント量の増加が原因と考えられる。
2)ブリーデイングが減少することにより沈みひび割れの危険は減少するが,プラスチック収縮ひび割れに対する注意が必要である。
(2)凝結試験
図ー3に凝結に対する影響が大きいと考えられる単位セメント量と始発時間の関係を示した。
1)単位セメント量が増大することに伴い始発時間が短くなる傾向が認められる。水セメント比60%の始発時間は,海砂と同等か早くなる傾向を示した。ただし,まさ土神埼Cは凝結時間が遅れる傾向を示した。
2)水セメント比の増大が始発時間を遅らせるため,設計基準強度18N/㎟の場合は,凝結の遅れが顕著となる冬期の施工では留意する必要がある。
(3)圧縮強度試験
圧縮強度の測定結果を図ー4に示した。
1)各試料のコンクリート強度は,全材齢(7日,28日,91日)を通じて海砂Kの強度を超えることはなかったものの,海砂Kの80%以上であった。
2)水セメント比70%以上の試料は,セメント水比と強度の関係が直線で近似できない結果が得られたことから,設計基準強度18N/㎟程度の水セメント比の選定は,低強度領域を対象とした関係式を検討する必要がある。
3)圧縮強度と静弾性係数の関係は,一般骨材を使用した場合と差はない。
(4)乾燥収縮
特殊土の乾燥収縮率は単位水量が大きくなるため,海砂K使用より大きくなったものの乾燥収縮の影響はないと考えられる。このことは,まさ土神埼C,しらす吉田F,志布志Hの高い水セメント比領域の13週目の乾燥収縮率が,普通骨材の水セメント比60%程度の収縮率に比べて同等以下であったことで裏付けられる。
(5)凍結融解試験
凍結融解抵抗性の目安は,300サイクル繰り返し試験で相対性弾性係数60%以上あれば耐凍害性はあると判断される。また,一般的に水セメント比が高くなれば耐凍害性は低下する。
特殊土の300サイクルの相対弾性係数は,まさ土那珂川Bの水セメント比79.6%を除いて60%以上であり,良好な耐凍害性を有している。
(6)中性化試験
中性化試験結果を図ー5に示した。
1)中性化深さは,しらす志布志Hが他の特殊土と比べてやや大きくなる傾向を示した。
2)まさ土那珂川B,しらす吉田F及び海砂Kの場合は,有効水結合材比の変化に伴う中性化加速度係数の変化割合が既往の標準示方書の予測式とほぼ一致していることから,標準示方書に示されている中性化の性能照査方法を適用できることが考えられる。
(7)アルカリ骨材反応性
材齢3ヶ月までの範囲では,「反応性あり」の目安である膨張率0.05%を超える試料はなかった。これはアルカリシリカ骨材反応抑制用として指定されている高炉セメントB種を使用したためであると考えられる。
8 細骨材への適用性に関する評価
(1)以上の結果より,本試験では品質試験で問題を含む各試料を細骨材として使用しても,コンクリートの性能を大きく損なうような影響は確認されなかった。したがって,各試料土ともコンクリート用細骨材としての適用性は具備していると判断される。
ただし,設計基準強度18N/㎟レベルの低い水セメント比較では,まさ土那珂川Bを用いた場合に凍害の恐れがある結果が得られており,寒冷地への適用に於いては留意する必要がある。
(2)各試料土をコンクリート用として用いる場合の適用性の評価結果は以下の通りである。
1)各試料の総合評価は,概ね「まさ土≒火山土石>しらす」の順である。
まさ土の評価が高い理由は,一部水洗いや粒度調整品が含まれていることである。
2)搬入された各試料の共通点は,微粒分量の多さが材料評価を下げていることである。
まさ土の搬入試料は原土から市販品まであり,加工度の違いを評価に反映できていないものの,一部で実施されている水洗いやふるい分けなどで品質改善は充分期待できる。
しらすは,微粒分量の増が単位水量を増加してコンクリート適用性を低下させているものの,硬化コンクリートの品質に影響がないという結果からコンクリート適用の可能性はある。
3)設計基準強度18N/㎟への適用性については,那珂川Bとしらす吉田F,志布志Hは水セメント比が高いため,ブリーデイング量の増加(那珂川B)や凝結遅延(那珂川B,吉田F,志布志H)に留意する必要がある。
フレッシュコンクリートの性状や強度発現性からコンクリート適用性をみると,まさ土よりもしらすの方が適用性がある結果となった。それは,単位水量が多ければセメント量も多くなることが強度に反映すると考えられる。
4)まさ土の南関Aと養母田Eの安定性に問題があることは,花崗岩の風化による微粒分量の増大の影響がフレッシュコンクリートの性状を低下させていると考えられる。硬化コンクリートでの強度発現性や耐久性に問題はなく,資源化の可能性が高いと判断される。
5)しらすのコンクリート用としての評価点が低いが,硬化コンクリートの強度発現性や耐久性は海砂Kと比べてほとんど問題ない。評価点が低い原因は,いずれも「微粒分量」及び「1.95に浮くものの含有量」が他の試料土に比べてかなり高いことによる,フレッシュコンクリートの性状の低下であり,したがって,しらすをコンクリートに適用する課題は,「微粒分量」及び「1.95に浮くものの含有量」を少なくすることにある。
6)火山土石の細骨材品質は,桜島Iのアルカリシリカ骨材反応性や普賢岳Jの密度などに規格外があるものの,フレッシュコンクリートの性状や強度発現性については問題なく,コンクリート用への利用展開を期待できる。
9 あとがき
(1)那珂川Bの凍結融解抵抗性結果について,水セメント比60%の試料は判定基準をクリアしているものの,18N/㎟試料は判定基準以下となった。
今回は耐凍害性の高炉セメントB種を使用したことと空気量が4.4%であったことも含め,判定基準を下回った原因の究明と普通ポルトランドセメント使用時も含めて問題がないかを確認する必要がある。
(2)また,今回の適用検討は室内試験であるため,実際に工事現場で活用する場合には,生コン工場での練り混ぜ時アジテータ車運搬時ポンプ車等での打設時など,それぞれの時点での活用上の検討を行い,活用に向けた問題の抽出と対策の検討を行うことが必要である。
(3)しらすの場合は,「微粒分量」及び「1.95の液体に浮く粒子」の含有量が高いことを考えれば,高流動コンクリート,低密度コンクリート,気泡軽量コンクリートヘの適用が考えられる。
同時に,品質改善をめざし,現地での製砂時の加工状況から見た改質効果を検証し,併せて,40㎜砕石使用などによるコンクリートの単位容積質量の改善効果などについても検証し,利用拡大に資する技術データの蓄積を図る必要がある。
(4)現在,九州技術事務所構内に長期耐久性照査を目的に,暴露供試体を10体作製し設置している。また,まさ土南関Aと那珂川Bについては,福岡国道工事事務所及び熊本工事事務所の工事で小型重力式擁壁の試験施工を予定している。