第4回「技報賞」懸賞論文 『佳作』
「地域」を主体とした国土形成のあり方について
「地域」を主体とした国土形成のあり方について
九州共立大学工学部 土木工学科 4年
高 橋 直 樹
1 はじめに
現在、わが国では人口減少に伴い、少子高齢化が進んでいる。その中でも、北東地域(北海道、東北)、西南地域(南紀、四国、九州中南部、南西諸島)、日本海沿岸地域などの特に進んだ過疎地域といわれる地域が深刻となっている。下図は、地域別人口減少率と高齢者比率を表したものであり、このままでは予測されるように、ますます地域の活力が衰退していき、都市部との格差が広がることとなる。また、世界各地で広がる環境破壊の進行防止のため、自然環境を配慮し、共生した過疎地域の活性化というものが必要の時代となっている。
では、自然と共生した地域の活性化といっても実際に何を行っていけばいいのか。私は以下の3つについて考えた。
① 過疎地域の見直しと可能性。
② スイスのジュネーブに学ぶ。
③ 地域が主体となった取り組み体制の形成。
2 過疎地域を主とした国土づくり
① 過疎地域の見直しと可能性
たしかに、少子高齢化の進行が深刻な地域では、都市部とは違って生活を経済面で守っていくことは非常に難しいと考えられる。しかし、これらの地域には個々の特色ある歴史や文化・自然があり、住民はこの環境の中で生活をすると共に、それらを守ってきた。これらの地域資源があるのにもかかわらず、安易に経済・利便性といったところで価値を見出してはならないだろう。また、過疎地域こそ各地域が自然の特性を活かすことで、地域自然共生社会をつくることが可能ではないだろうか。しかし、自然と共生するということは、同時に自然災害とも共生していかなければならないことでもある。これを軽視してしまうと、大きな被害を受けることとなる。これまでの自然開発は、想定される規模の災害に対しては安全であるが、近年では、想定以上の災害が発生し、各地域で被害が拡大している。そのことも念頭に置いた上で考えていくことこそ過疎地域が目指すべき地域づくりであると私は思う。また、近年、環境意識の高まりや、ゆとり・やすらぎを求めるなど価値観が多様化しており、多くの都市民において地方の自然環境などの地域資源に対するニーズが高まってきている。また、今後の過疎地域に対する地域づくり重大さが分かると共に、都市にはない、自然・歴史・文化に恵まれた資財を有する農山漁村は大きな可能性を秘めている。
② スイスのジュネーブに学ぶ
スイスと日本の国土は、両国とも平地に乏しく、山地が多い地形であり、相対的に人口密度は高く、水以外の地下天然資源は概して乏しいなど類似点が多くある。しかし、「2007年世界生活環境調査」による「生活環境(住みやすい都市)ランキング」では、日本は東京の35位が最高なのに対して、スイスの都市は上位10都市の中に3都市も入っている。特に2位に選ばれたジュネーブは、人口18万人の中小規模の市町村でありながら、特定の分野で世界的にも評価されている。この都市は、レマン湖やアルプス山脈などの多くの自然とサン=ピエール大聖堂や約500年前に建てられた旧市街などの多くの建造物や古き良き町並みが立ち並んでいる。このほかにも、町のシンボルとなっている大噴水や多くのイベントに使われているレマン湖の遊歩道など、自然と調和した施設が整備されている。また、昔ながらの風習や伝統を大事にしており、さまざまな祭りやスポーツイベント、銘品を作る職人や技術者の育成など、住民が主体となって取り組んでいる。だからこそ、自分たちの町に誇りを持てると共に、世界に認められる地域づくりができているのだと思う。このような姿勢と行動こそ地域活性化に必要なもので、これこそ日本の地域が足りないものであり、学ぶべきところでもある。
③ 地域が主体となった取り組み体制の形成
これらのような地域づくりをしていくには何をしていけばいいのか。まず、第一に挙げられるのが、地域住民の意識改革である。これまで、町づくりは行政の仕事という考え方が一般的であるため、自分の地域を変えてやろうという意識を持っている人は、ごくわずかなのが現状だ。今後は行政や国が行うのではなく、住民自らの意思を持ち、地域行事に関わっていくことが重要だという自覚を持つことが必要だと思う。そして、第二に挙げられるのが、地域の特性を知ることである。地域づくりを考えていくには、まず、その地域の特性を知り、把握することが必要である。今後の町を考えていくときには、欠点を改善しようという視点を持つことも必要だが、それだけでは特色ある地域づくりはできない。長所や他にない特色を見つけ出し、生かしていこうといった視点こそ今の地域づくりに必要なことである。その視点に立ち、それぞれの地域の資財である自然や歴史、文化について学ぶことが、地域を再認識するきっかけとなり、愛着と誇りの持てる地域づくりへの意識を向上させることに繋がるはずである。最後に挙げられるのが、交通通信体系の整備である。交通システムが整備されていないと、企業の誘致や他の地域との交流などがうまくいかず、地域としても衰退していく一方だ。地方が活性と魅力ある地域を作っていくためにも、また、地域の産業・経済・文化の振興を図り、地域間の交流と連携を促進させていくためにも、日本全国をつなぐ交通システムの整備を進めていくことが重要課題であると思う。
3 まとめ
これからは、自然再認識の時代に踏まえ、環境を考え、自然と共生した国土形成が重要となってくる。このような時代の中で、自然や歴史・文化・風情などの特有の資源を有する地域こそが、理想の地域づくりの可能性が最もあり、地方が主体となって地域づくりを行うことで、自然との共生した地域づくりを全国に推進することが可能となる。そのためにも、地域は住民と行政が一体となって地域づくりを行い、国はそれを支援していく。これこそ活力ある地域づくりの形であると思う。住民といっても、生活の知恵を多く持っている高年層、高度情報化や現代の技術に対応できる中年層、自由な発想の豊かな若者など、様々な人材がいる。こうした住民の意見を聞くために、行政と定期的に意見交換できる話し合いの場を設けたり、ホームページなどで率直な意見を伝えられるようにしていけば、より良い地域づくりができるはずだ。また、これらを広範囲にわたり交流や連携によって進めていくことで、全国各地に広がり、各地がそれぞれの特色を出していくことで日本全体が活性化されるような、地域主体の国土形成こそ、私の理想である。