「九州建設技術フォーラム2009」の結果報告
九州地方整備局 梅崎康浩
はじめに
「九州建設技術フォーラム2009」を平成21年10月14日(水)に九州大学医学部百年講堂において開催しました。
この九州建設技術フォーラムは、新しい建設技術の開発・活用の促進をより効果的に図るために、平成16年度から産,学,官が連携して開催し、今年で6回目の開催となりました。
今年は、世界的な経済危機の影響で、日本国内の景気が低迷する中、どれだけの新技術が集まるか大変心配しましたが、昨年を上回る72社から応募があり、102の技術情報を技術概要集として取りまとめて紹介しました。また、フォーラム当日は、約1,000名の参加者が訪れ、技術情報の展示ブースやプレゼンテーション会場において、担当者の説明に熱心に聞き入る参加者の姿がいたるところで見られました。
1.開催目的
今回のフォーラムは、「これからの九州に求められる建設技術とは」をテーマに、地域における建設技術が果たす役割は何か、成熟した社会のなかで求められる建設技術とは何かを考え、これからの建設技術の役割・重要性を再認識するとともに、技術開発・利活用の更なる促進を図ることを目的として開催しました。
2.行事概要
主な行事としては、各企業が様々なテーマ(ICT・安全・環境・コスト・品質)に沿った新技術に関するプレゼンテーションを行った他、土木学会、地盤工学会及び九州地方整備局からの情報提供も含めて、全部で36件のプレゼンテーションを実施しました。また会場内に設置された66箇所の展示ブースでは、環境・品質・安全・ICT・コスト・景観に関する新技術情報の展示が終日行われる中、メインホールで午前と午後に約1時間の基調講演を行いました。午前の基調講演は佐賀大学名誉教授の荒牧先生をお招きし、「地域における土木技術の役割」というテーマで講演して頂き、午後からは、西日本新聞会館社長の玉川様から「国民が期待する公共事業とは」と題して講演して頂きました。(資料-1 参照)
このほか、九州地方整備局の企画部施工企画課、港湾空港部海洋環境・技術課、下関港湾空港技術調査事務所、九州技術事務所において新技術相談窓口が設置され、各企業からの新技術に関する相談に応じていました。
3.基幹行事
①基調講演(午前)
午前中に行われた基調講演は、佐賀大学名誉教授の荒牧軍治先生により「地域における土木技術の役割」と題して、地域における土木技術の現状と問題点について整理して頂くとともに、新たな土木技術の創世に向け、産,学,官が協働でどのように取り組むかについて、貴重なお話しを伺う事が出来ました。以下に荒牧先生の講演要旨を、紹介致します。
荒牧先生は、土木技術の特性として、事業を企画・計画する行政と設計、施工者が別々で「作業と責任が分散され、フィードバックがかかりにくい」ことからリスク管理、最終判断能力が失われ、「どうしても既存技術を踏襲する保守的な傾向が強くなる」と分析し、「勇気を持って新しい技術、新しい発想に取り組む方法を模索する必要がある。」として、そのためには「技術」を中心に据えて産,学,官が一体となって連携の絆を再構築する以外にない、産,学,官の共同研究の成功には、学によるメカニズムの解明、産による技術の錬磨、官による試行する勇気が必要であり、これからの土木技術者は、環境問題など複数の専門集団や市民らが参加しないと解決できない課題に取り組む際の「優れたマネージャー」としての役割を果たす事が必要、と強調されました。
最後に有明海の環境問題やダム問題などは、「政治に翻弄されず地域が自ら解決する能力を持ち、九州という視点で考え、決め、実行する事が重要である」と結ばれました。
②基調講演(午後)
午後からの基調講演は、西日本新聞会館社長の玉川孝道様から、「国民が期待する公共事業とは」をテーマに、「国民のために」行われてきたのに厳しい批判にさらされている公共事業、そこに至った行政と国民の意識の違いは何だったのか、これからの成熟社会における公共事業の在り方について、講演を頂きました。以下に玉川社長の講演要旨を、紹介致します。
玉川社長は、今までの公共投資は均衡ある国土の発展を考えて行われてきたが、これからの人口構造と地域構造を考えると、都市部での暮らしやすさを考えた都市環境の整備等、都市部を新たな住み良さに変えていくような公共投資が必要と思われる。
また、アジアに目を向けると国際的な基幹空港・港湾の整備が行われており、この点で日本は大きく遅れをとっており、国際化に見合った公共投資を目指すべきだと提起され、国民の意識の違いについては、多くの日本人は、公というものは官・行政がくれるものだと思っているが、公とか公共とか言うものは、国民がそれに参加して支えて共有財産にするというものであり、そこの概念を変える事が必要である。道路にゴミを捨てたり、タバコを捨てたり、自分達の公共のもの、自分達の財産という認識が全くないとして、最後に「新しい社会資本・新しい公共事業の在り方についての制度設計が必要で、国民の意識も方向性も公共事業の対象も基本的に考え直して、公共事業の基本的なコンセプトを変換していくことが重要である」と強調されました。
③技術情報の展示/プレゼンテーション
今回のフォーラムでは、例年別のフロアーで実施していた、技術展示とプレゼンテーションを同一フロアー内で実施する事を試みました。技術の展示は広いスペースを必要とするため、会場内のワンフロアーを利用して展示ブースが設置されます。これに対しプレゼンテーションは教室のような閉ざされた空間が必要となることから、展示ブースとは別のフロアーで行っていました。しかしながら、参加者からはプレゼン会場が分かりにくい、入りにくい等のご意見を頂き、過去には聴講者が数名という会場もありました。このような経緯から同一会場内で実施する事としました。
効果としては、アンケート結果を集計してみないと何とも言えませんが、当日は各プレゼンテーション会場の聴講者数に大きなバラツキもなく、会場も分かりやすいと概ね好評であったように思います。
あとがき
「九州建設技術フォーラム2009」の会場には約1,000名の参加者が訪れ、基調講演やプレゼンテーション、技術情報の展示を通して、新技術情報に触れるとともに、意見交換する姿が至るところで見られ、「フォーラムを通じて、技術開発・利活用の更なる促進を図る」という開催目的を多少なりとも果たすことが出来ました。
最後に、本フォーラムの運営にご尽力頂いた、九州建設技術フォーラム実行委員会の各機関・団体の皆様及び技術情報の展示・プレゼンテーションに参加して頂いた多くの企業の方々に心から御礼を申し上げます。