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長崎県の橋梁長寿命化への取組み
田中和幸
光永将一

キーワード:橋梁、長寿命化、点検、補修補強

1.はじめに
長崎県管理の橋梁の中で、平成30 年4 月時点で21% の橋梁が架設後50 年を超え、架設後30 年経過したものは52% になっている。本県は、多くの半島、岬と湾からなる複雑な海岸線、また本土に隣接する平戸島を始め、多くの離島を有していることから、半島や離島の交通利便性を確保するために幾つもの長大橋や離島架橋を架設してきた。今後これらの橋梁が急激に老朽化する時代を迎えることから、十分な維持管理をすることにより、橋梁の長寿命化を図ることが重要な課題となっている。
長崎県では、この課題に対応するため、橋梁の維持管理に関して業務体系の見直しを行い、独自の橋梁維持管理方法を構築・運営し、以来12 年が経過した。その間、維持管理業務の1 サイクルが終わった平成26 年度の段階で、橋梁長寿命化修繕計画や各種マニュアル、補修経費の歩掛などの改訂を行った。
本稿では、平成18 年度の橋梁維持管理業務の立ち上げから、業務の確立、実用化、修正更新を行った平成27 年度までの業務進捗(図- 1)について紹介する。

2.長寿命化修繕計画について
今後老朽化する道路橋の急速な増大に対応するために、従来の対症療法的な修繕及び架け替えから、予防的な修繕及び長寿命化修繕計画に基づく架け替えへと円滑な政策転換を図る必要がある。橋梁の長寿命化並びに橋梁の修繕・架け替えに係る費用の縮減を図りつつ地域の道路網の安全性・信頼性を確保することを目的として、ガイドラインと長寿命化計画を全国に先駆けて策定している。

(1)橋梁維持管理ガイドライン
橋梁維持管理ガイドライン(平成20 年3 月)は、長崎県土木部が平成19 年3 月に策定した「公共土木施設等維持管理基本方針(案)」に基づいて、橋梁の点検、評価、補修・補強、修繕計画策定等に関する基本事項を定めたものであり、長崎県独自の指針である。策定後の維持管理は本ガイドラインに基づいて実施するものである(図- 2)。

長崎県では、定期点検において把握した劣化損傷の程度を「健全度」として定量的に状態評価を行う。「健全度」とは、健全性(耐久性能や耐荷力性能など部材が保有すべき性能)の指標として100 が良好な状態を示し、0 が性能を消失している状態を示すものであり、部材、工種、径間及び橋梁全体の各段階において、各々の重要性を考慮し統合して算出する。
また、現在状態の評価結果より経過年に応じた健全性の低下(予測モデル)を考慮することで将来状態の予測評価を行う。予測モデルは長崎県の点検結果を統計的に処理(回帰分析)することで設定した。
補修計画は点検時の健全度を基本とし、かつ路線の特徴や立地条件、利用者・周辺住民に対する影響度等を評価した「重要度」を考慮し、総合的に評価したうえで立案する。
なお、健全度や重要度の様々な条件に対応した補正係数(重み係数)は、道路管理者や鋼・コンクリート専門業者、補修専門業者へのアンケートにより設定した。

(2)橋梁長寿命化修繕計画(第一期)
効率的・効果的に橋の長寿命化を実現するために学識経験者等による「長崎県橋梁維持管理計画検討委員会」において議論を重ね、平成20 年3月に第一期計画を策定した。平成18 年度~ 19年度に全ての橋梁を点検し、橋梁維持管理ガイドラインに基づいた橋梁の状態評価を行い、補修対象橋梁を決定した。更に今後50 年の補修・補強費用の投資シミュレーションにより投資予算の年次計画を立案し、補修対象橋梁について今後10年間の戦略的な修繕計画とした。

(3)橋梁長寿命化修繕計画(第二期)
第一期計画策定より6 年が経過し、対症療法的な維持修繕工事による健全性の回復、管理橋梁全てに対する定期点検の実施及びデータの蓄積を行うなど、着実なPDCA サイクルを実施し、これらを基に第一期計画の事後評価を行った。
事後評価としては、補修対策や補修費等の当初計画に対する実績評価を行い、補修費の計画と実績の差異を調査した。その結果、差異を解消するために健全度の補正係数の見直し、計画における補修工法の再選定及び補修単価の更新等を行った。
特に重点維持管理橋梁(2(. 4)参照)については、特殊な構造を有する鋼橋が多く塗装費用の計画と実績の差異が顕著に表れていたため、個別に補修費を算定することとした。
また、平成26 年7 月1 日に定期点検に関する省令・告示が施行され、近接目視による定期点検や健全性評価の基準等が示されたことを受け、新たな点検基準への整合化を図るために点検マニュアル(3.(2)参照)も改訂した。
また、定期点検の健全性診断の内容については、平成26 年度から「長崎県橋梁維持管理計画検討委員会」にて助言を頂くこととしている。

(4)重点維持管理橋梁
本県は、その地勢から特殊な構造形式を有した迂回路の確保が困難な離島架橋や長大橋などを数多く管理しており、一般橋梁と区別し「重点維持管理橋梁」と名付けて重点的に維持管理を行っている。西海橋(アーチ橋)、平戸大橋(吊橋)、生月大橋(トラス橋)、鷹島肥前大橋(斜張橋)など平成30 年度現在で全30 橋を選定している。
また、国内で支間長が500m 程度以上の長大橋(吊橋、斜張橋)を管理する機関が集まった「長大橋管理連絡会議」に参加し、長大橋固有の課題や解決方法、最新の技術開発等に関する情報共有に努めているところである。この会議は、本四高速㈱を始め、その他高速道路㈱、北海道開発局、地方道路公社、地方公共団体では本県や広島県などが参加している。

(5)重点維持管理橋梁の耐震補強
長崎県橋梁長寿命化修繕計画では管理橋梁の耐震性能向上を目的に、耐震補強の対策についても立案をしている。第二期計画では緊急輸送道路に指定された路線上にある重点維持管理橋梁を優先的に対策することとし、平成36 年度までに対象である13 橋の耐震補強を実施する。
重点維持管理橋梁の耐震補強においては、道路橋示方書の設計地震動の標準波(以下、「道示波」という。)を用いた耐震補強を実施した場合は膨大な補強費が必要となることから、本県全域において発生が予想される最大の地震動(以下、「想定波」という。)についても検討することとしている。まずは、想定波を用いた耐震補強と道示波を用いた耐震補強の2 ケースを比較検討し、2ケースの補強規模の差異が大きく、道示波を用いた耐震補強の予算確保が困難と予想される橋梁は段階的な耐震補強を行い、重点維持管理橋梁全体の耐震性向上を効率的に図っていくこととした。

3.各種マニュアル及びシステムについて
予防保全型への変換のため、管理橋梁の正確な状況を把握する橋梁点検の実施が必要であった。
国土交通省では「橋梁定期点検要領(案)」(平成16 年3 月)により5 年に1 回の定期点検が実施されていたが、同様な要領で県が管理するすべての橋梁を点検するには、管理体制や財政面等を考慮すると困難であった。長崎県の実情にあった点検・管理手法の確立のため、平成18 ~ 19年度で独自の橋梁点検マニュアルとシステムを整備した。

(1)橋梁点検マニュアル(平成19年3月版)
効率的かつ経済的に損傷状態の把握と基礎データ収集を行うことを目的として「長崎県橋梁点検マニュアル(案)」を作成した。
マニュアルは、日常パトロールの際に実施する「通常点検」、5 年に1 回、主に目視により行う「定期点検(概略点検・詳細点検)」、地震・台風・豪雨など主に安全性を確認する「異常時点検」で構成し、定期点検には、損傷の激しい支間および部材に発生した損傷を近接または遠望目視により把握する「概略点検」と、全ての部材を近接目視により詳細に把握する「詳細点検」の水準を設け、予算削減に努めた。
定期点検は管理する全ての橋梁を県職員自ら点検していくことを前提としており、橋梁点検の専門でなくても実施可能な点検手法として、省力化・効率化を図ることを目的に「概略点検」を策定した。
概略点検は、県職員が点検することを前提としており、経験の浅い職員でも実施可能な点検手法として調査票にチェックを入れるだけで損傷図は作成せず、写真撮影と損傷個所の記録のみとした。
詳細点検はコンサルタントに委託するもので国土交通省の点検要領に準じており、健全性の低い橋梁や概略点検が不可能な橋梁を対象とし、原因究明や補修設計を実施する。

(2)橋梁点検マニュアル(平成27年3月版)
県独自の取組みを進めていく中、国土交通省は平成26 年4 月14 日の社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会の「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を受け、道路法施行規則の一部を改訂する省令が交付・施行された。この中で全部材の近接目視点検、健全性の診断(4 段階評価)等が義務化され、技術的助言として「道路橋定期点検要領」(平成26 年6 月)も示された。本県の定期点検においても改訂の対応を行った。
改訂した点検マニュアルの定期点検は、橋梁本体の健全性に大きな影響を及ぼす損傷や発生頻度の高い損傷の種類を6 種類に限定した「点検A」、「橋梁定期点検要領(国土交通省道路局国道・防災課)」(平成26 年6 月)と同じ26 種類とする「点検B」で構成した。
また、重点維持管理橋梁は橋梁毎に点検手法を定めた「維持管理要領書」を作成し、損傷が発生しやすい部位などを選定した定点観測ポイントの劣化進行状況を確認する1 年点検(図- 3、4)と5 年に1 回の点検B を行っている。この1 年点検(定点観測)は平成21 年度から実施しており、点検マニュアル改訂に合わせて明記した。

(3)橋梁補修・補強マニュアル
平成18 年当時は橋梁の補修方法について全国的に統一された手法が確立されておらず、同要因かつ同損傷に対し、補修・補強方法に違いがみられ、今後財政状況が厳しくなる中で、いかに経済的かつ効率的に維持修繕を実施していくかが課題となっていた。
そこで、高度化する維持修繕に関して長崎県の標準となる指針を示すことにより、維持修繕を計画・実施する上での効率化を図り、損傷要因別の適切な工法・材料選定を行い、長崎の地域性を考慮した対策方法を定めることで課題を解決することとした。
マニュアルの策定は、橋梁補修マニュアルワーキング、補修関係業者(鋼橋、PC 橋、塗装関係)への意見交換会及び「長崎県橋梁維持管理計画検討委員会」等において議論を重ねた。
本県は離島・半島が多く海岸線の長い地形を有していることから、海(潮風)の影響を受けやすいため、鋼部材の劣化に対する補修については特に注意が必要である。鋼構造物の補修塗装工では、基本的に鋼道路橋防食便覧に準じているものの、腐食が発生、進行しやすい添接部(ボルト・ナット頭部及びエッジ周辺)や鋼桁下フランジ部の塗装仕様を本県独自に決めている。

1)添接部の塗装仕様
ボルト・ナット及びエッジ部の下塗りには超厚膜型エポキシ樹脂塗料(1000μm)を使用する。また、添接版目板部は下塗りを1 層(60μm)増し塗りする(図- 5)。

2)鋼桁下フランジ部の塗装仕様
主部材の下フランジなどの部材角(エッジ部)が面取り加工されていない場合は、規定塗膜厚を確保するために可能な限り面取り加工(R = 2㎜以上)を実施する。また海岸部等にある橋梁で、下フランジ部等の発錆が顕著である場合は、下塗りの増し塗りを行うことを基本とする(最大120μm の増し塗り)(図- 6)。

また、様々な損傷・補修工法等の事例や県管理橋梁の分析結果、補修・補強工法等を紹介する参考資料(案)と併せ、平成21 年4 月に橋梁補修・マニュアルを策定した。
マニュアル策定時は、全国的に橋梁補修工事が増加しつつあるものの、積算に関する標準歩掛が国土交通省においても設定されていなかったため、本県独自の標準歩掛を設定した。補修歩掛設定にあたっては、実施工事に見合った歩掛とするために、PC 補修業者及び塗装業者と複数回にわたる意見交換会を開催した。

(4)橋梁維持管理システム
多くの橋梁の点検、状況把握、維持管理計画の立案を行う場合、①データベースで支援することが効率的であり、②点検結果に基づいて補修経費の概算を算出する必要がある。また、③将来の補修経費の予測にあたり、補修レベルと補修経費の最適化の検討と、④将来の維持管理計画を策定するためのアセットマネジメント(資産運用)を行うシステムが必要であった。このことから、平成18 ~ 19 年度に掛けて、点検から維持管理計画までを支援する「橋梁維持管理支援システム」を構築した。図-7に、橋梁の基本情報登録・点検結果入力・取り纏め・報告書作成・管理費算出・データベース化等の橋梁の維持管理全体を支援するシステムの概念を示す。

平成26 年度には、前記2.(3) の事後評価で確認された課題に対する健全度の補正係数の見直し、計画における補修工法の再選定及び補修単価の更新等に併せて、プログラムの変更を行った。
なお、橋梁点検支援システムはスタンドアロン方式で、ユーザーが端末パソコンにシステムをインストールして使用している。橋梁情報提供システムはイントラネット内での作業となり、点検委託業者は操作できないため、発注者は点検に必要なデータ等を点検委託業者へ毎回貸与している。このようなことから、現在、システムの容易化と点検業務等の効率化を目的に、橋梁点検支援システムと橋梁情報提供システムを融合し、利用形態をWeb システムとする改修を行っている。セキュリティ対策等を講じることで、点検委託業者は各自パソコンからWeb ブラウザでサーバーにアクセスし、調書等の出力と点検結果の入力ができる。

4.技術の伝承と点検精度向上の取り組み
点検A 及び重点維持管理橋梁の1 年点検は、県職員自ら実施することを基本としているが、県職員OB 及び道守認定者と協働で点検する。これは建設・補修時の貴重な情報入手や橋梁技術の伝承を図ることを目的としている。なお、点検Aは県職員による点検が困難な橋梁については外部に委託している。
道守認定者とは、長崎大学と本県が連携して、「道」の維持管理及びそれに関する技術の習得を目的とした「道守」養成のための教育プログラムを受講し、認定試験に合格した技術者をいう。図- 8 に示す通り国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格登録規定」に基づいた技術者で、定期点検の点検や診断を適正に行うために必要な知識及び技能を有した者である。

また、更なる点検精度向上のため、年に1 回県職員・県職OB・各市町職員・道守認定者を対象とした「橋梁点検講習会」(写真- 1、2)を開催している。

5.おわりに
本県では、平成18 年から橋梁状態の評価システムの確立に取り組み、維持管理計画を立案して長寿命化を図ってきた。近年道路インフラの老朽化対策が課題として更にクローズアップされ、平成25 年度の道路法改正に伴う点検基準の法定化、翌年7 月には定期点検に関する省令・告示が施行され、5 年に1 回の近接目視点検が義務化されるなど、全国的にも点検・老朽化対策への取組みが本格化している。
平成30 年度で近接目視による点検は一巡するが、次のステップとして、安定的な予算の確保、点検の効率化・省力化・高度化が望まれる。本県では、重点維持管理橋梁のような特殊な構造形式を管理しており、橋梁点検車による近接目視が困難な部材や、狭隘および内部の不可視個所などがある。近年、目視点検を補完し、代替する技術の開発が進められており、本県としてもフィールドを提供するなど積極的に協力していきたい。
今後も実績を検証し、本県の財政状況と土木職員の人材に応じた点検方法や計画の改訂を行うとともに、腐食など厳しい環境にある離島架橋を始めとする管理橋梁を適正に管理し、県民が安全・安心に暮らせるように努めたい。
最後に、本県の橋梁の維持管理について多大なるお力添えを頂いている長崎大学の岡林名誉教授をはじめとした長崎県橋梁維持管理計画検討委員会の各委員の皆様方、点検業務へご協力頂いている道守認定者及び県職員OB の方々に感謝の意を表す。

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