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道路構造からみた道路の走りやすさ評価
~全国初!一目でわかる道路の「走りやすさマップ」~

国土交通省 九州地方整備局 九州幹線道路
 調査事務所 調査課長
今 田 一 典
国土交通省 九州地方整備局 九州幹線道路
 調査事務所 調査課
田 中 宏 美

1 はじめに
我が国では,観光立国を目指し「ビジットジャパンキャンペーン」を始めとした観光政策が推進されており,国土交通省においても観光交通を支援する様々な道路政策に取り組んでいる。
現在,観光活動上の基礎的な情報提供源となっている道路地図の多くは,国道などの道路種類で分類されており,走りやすく改良された農道や林道が表示されていないことから,必ずしも観光交通に適したものとなっていない状況にある。
そこで,九州地方整備局では,観光交通の支援や道路評価を目的として,道路の走りやすさが一目でわかる道路地図づくりに着手し,九州の主要な道路(県道以上の全ての道路および主要な市町村道,農道・林道・臨港道路等)を対象としたプローブカー調査を行い,その結果から道路構造に係わる走行状況を科学的に分析し,全国初となる「走りやすさマップ」を作成・公表した。

2 検討履歴
道路利用者に分かり易く走りやすさの情報を提供していくために,平成15年度から17年度にかけて以下の検討を行った。
① 平成15年度
当初は,道路台帳により走りやすさ評価の検討を行ったが,道路台帳が未整備の場合等の様々な課題が発生した。
そこで,調査精度及び効率化の向上に向けてプローブカーを活用し,自動的に入手できる横方向加速度(以下,「横G」)・旅行速度データを用いた評価方法を検討した。
その結果,横Gと曲線半径に高い相関があることが分析されたが,ドライバーの運転特性によって必ずしも一定した評価が得られないことが明らかとなった。
② 平成16年度
ドライバー特性に左右されない評価指標としてプローブカーで得られたデータをもとにした設計速度を用いて評価し,山地部・郊外部評価方法を確立して,宮崎県北部地域をモデル地区とした試作品を作成・配布した。

更に,久留米佐賀地域をモデル地区として市街地部の評価方法を確立し,試作品を作成・配布した。

③ 平成17年度
試作品のモニター・利用者アンケート調査結果を踏まえ,評価や付加清報などの見直しを行って,九州全域版走りやすさマップ(お試し版)を作成し,九州幹線道路調査事務所HP上にマップデータ等を公表して,誰もが利用できる環境を整備した。

3 技術的課題
走りやすさマップ作成の着手において,利用者に「道路構造に関する走りやすさ」を客観的に,かつ分り易く提供するために次の課題を解決する必要があった。

【課題1】走りやすさを表す現況データの収集
観光資源が広範に点在する九州地方は自動車依存が高く,観光交通を支援するためには,農林道を含めた全ての道路の「走りやすさ」を提供することが不可欠であり,「走りやすさ」の評価に向けて全道路の道路構造を調査・把握する必要があった。
しかし,基本となる道路台帳が未整備の農林道等があり,実態調査には莫大な経費が必要となることから,道路構造データを効率的に収集できる新たな方法を検討する必要があった。
【課題2】走りやすさ評価手法の確立
運転技術や年齢等のドライバー特性に左右されることなく「道路の走りやすさ」を客観的に評価する新たな指標と分析手法を確立することが必要であった。

【課題3】分かりやすい評価ランクの設定
「走りやすさ」評価結果を分かりやすい情報として提供するために利用者が感覚的に判断できる評価ランクの設定が必要であった。

4 課題解決に向けた対処法
4-1 現況データの収集方法
1)プローブカーの活用
走りやすさに影響する道路構造として道路幅員,曲線半径,縦断勾配等が考えられる。
これらのデータを効率的に収集するために,人工衛星から時刻や緯度・経度などのデータを受信し,自分の位置や走行速度,車体にかかる重力を1秒間隔で自動収集するプローブ機器を搭載した自動車(以下,「プローブカー」)を用いて,実走行データ(以下,「プローブデータ」)を収集することとした。

2)プローブデータの検証結果
プローブデータが道路状況を正確に反映しているかを検証するために,急カーブが連続する国道201号(八木山峠区間)で試行調査を実施した。
その結果,車体にかかる横Gと道路状況の関連性が高いことが検証された。
・試行データを5km区間毎に集計し,0.1G以上の横Gが観測された回数(観測比率)を算出した。
・試行区間における急カーブの実態を表すデータとして「曲線半径が基準値未満のカーブの㎞当り箇所数(曲線密度)」を道路台帳より集計した。
・上記の「観測比率」と「曲線密度(箇所/㎞)」との関係を分析した結果,曲線密度が高い程,観測率が高くなり(相関係数0.99),急カーブなどの道路状況を横Gで表すことが明らかとなった。

4-2 走りやすさ評価手法の確立
1)プローブデータ活用上の課題
プローブデータを用いた評価手法の確立に向けて,宮崎県北地域をモデル地区としてプローブカー調査を実施した。
その結果,山地部でカーブが連担する区間でも運転者によっては「速度」が高い区間がみられ,プローブデータの「速度」や「横G」のみを用いた評価では,ドライバー特性から「走りやすさ」評価にバラッキが生じる可能性があることがわかった。

2)ドライバー特性に左右されない指標の検討
ドライバー特性に左右されない評価指標としてプローブデータの走行速度と横Gから算定される「設計速度」(平均的な運転者が道路のある区間で快適性を失わずに維持することのできる速度)を新たな評価指標とした。
・車体にかかる横Gは「速度」と「曲線半径」から物理式により一意に決定される。
・つまり,同じ曲線半径のカーブであれば,ドライバーがカーブに侵入する速度で横Gが変化することから,物理式から算定される曲線半径を用いればドライバー特性に左右されない評価指標となりうる。

3)プローブデータによる曲線半径の妥当性
プローブデータを基に算定された曲線半径と道路台帳での実曲線半径とを比較した結果,相関係数は0.82となり,算定値は道路状況を反映している。
しかし,曲線半径の大小のみの評価では利用者が理解しにくいことから,算定された曲線半径から求められる「設計速度」をドライバー特性に左右されない「走りやすさ評価指標」とした。

4-3 評価ランク設定の変遷
1)評価ランクの設定
設計速度は評価区間内の最も小さな曲線半径1箇所の大きさで決まってしまうため,設計速度の大小のみで評価区間全体の評価を行うことは問題がある。
そこで,1秒データごとに設計速度を設定し,評価区間を500m毎に区切り「区間内の設計速度の構成比」で区間全体の「走りやすさ評価」を行うこととした。
・評価ランクは設計速度をもとに,ランクA(50km/h以上),ランクB(50~40km/h),ランクC(40~30km/h),ランクD(30km/h未満)の4ランクに区分した。

・設定されたランクを用いて宮崎県北部地域(モデル地区)の評価を行った結果,1車線道路で離合が困難区間でも線形が良好な場合は評価ランクが高く,実態を反映していないことが分かった。
・そこで,離合困難区間(車道幅員3.5m未満)については設計速度の割合に関係なく「Dランク」に評価することとした。
・また,市街地部(人口集中地区)の道路の走りやすさは,線形の要因よりも「歩道の設濫状況(2m以上)」や「路肩の状況(0.5m以上)」に大きく影響するものとし,2つのランク(T,Uランク)を設定した。

2)評価ランクの妥当性検証
・モデル地区の対象路線をランク別に色分けした「走りやすさマップ(試作品)」を配布し,利用者アンケート調査を実施した結果,「実際の走行感覚と評価ランクが概ね一致した」と回答された方が9割に達しており,評価ランクは概ね妥当と言える。

3)評価手法の見直し
モデル地区(宮崎県北部地域)は大部分が郊外部・山地部であることから,市街地部や平地部における適用について,久留米・佐賀地域を市街地部評価のモデル地区として評価手法の検証を行った。

① 郊外部・山地部評価の見直し
・久留米・佐賀地域の郊外部(人口集中地区以外の平地部)に対して「郊外部・山地部の評価手法」を適用した結果,大半の路線がAランクと評価された。
・そこで,「Aランク」の評価基準値を見直し,線形の要素の他に歩道や路肩の状況を加味した。

② 市街地部評価の見直し
・評価の「分かりやすさ」を改善するために,市街地部の評価ランクを郊外部・山地部の評価ランクに統一(T,Uランク→A,B,C,Dランクに統一)するとともに,『Aランク(旧:Tンク)評価』にも線形の評価項目(設計速度)を追加した。
・市街地部は人口集中地区を設定していたが,人ロ集中地区以外でも沿道開発が進展していることから,市街地部として評価すべきと考え,人家連担部も新たに追加することとした。

4)評価手法の確立
2つのモデル地区におけるアンケート調査の結果を踏まえて,評価手法を確立し,九州全域に対象エリアを拡大した。
•「Aランク」の中には,交差点間隔も広い地域高規格道路に相当する道路も含まれていることから,さらに走りやすいランクとして,「Sランク」を設定した。
・縦断勾配は,走行速度に影響する(アンケートでも一部指摘有り)ことから,縦断勾配による評価を行うこととした。
・人家連担部の抽出区間として,両側人家連担部の他,片側人家連担部についても市街地部として設定し,市街地部の評価手法を見直した。

5 利用者の意見
九州全域の「走りやすさマップ」を道の駅等で配布し,広く利用者の意見を収集した。

6 最後に
農道等を含む全ての道路を対象とした「走りやすさマップ」の試みは,我が国では前例が無く,目的としていた観光交通の支援に対しても利用者から高い評価を得られる結果となった。
また,プローブカーを用いた横Gを活用する新たな試みにより調査の効率化も図れることとなった。
国土交通省では,九州地方整備局における取り組みを基に「全国版走りやすさマップ」を作成中であり,今後,市販地図やカーナビ等の情報提供媒体を活用した展開に向けて,検討していく所存である。
以上

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