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自然と共生する長崎県新美術館の建設について

長崎県 土木部 建築課
三 原 真 治

1 敷地および周辺環境の概要
建設地は,長崎市の都市機能や都市環境を改善し活力と魅力に満ちた都市再生を図るための「ナガサキ・アーバン・ルネサンス2001構想」の先行プロジェクトの一環として整備が進められていた常盤・出島地区埋立地(約12ha)の一角にあたる。フェリーターミナルからシーサイドパークに至る古来から「鶴の港」と親しまれてきた長崎港の水際空間に立地するとともに出島・新地中華街にも近く,中ノ島川石橋群・大浦天主堂・グラバー園・オランダ坂からも徒歩圏にあり観光名所の要に位置する。また,本埋立地は,親水空間としての常盤出島運河が新に開削され,港町らしい景観整備が進められている。本美術館の完成・開館とほぼ同時期にシーサイドパークの整備も進んでおり,県民の憩いの場としての美術館の建設地にふさわしい立地条件が整っている。
建設地は,常盤・出島地区埋立地の北東部にあたり敷地面積は約10,600m2である。敷地中央を南北に出島横水路が横断しており,東側の旧埋立地は長崎市所有地,西側の新埋立地は長崎県所有地であるが,建築計画においては運河水面を含め一敷地として計画を行っている。両敷地とも,満潮時の海面レベルより20cm高いDL+3.5m(DL:敷地中央を流れる運河の最底部のレベルをDL±0としている)レベルでほぼ水平に整地されていたが,水害・高潮対策に配慮し運河沿い舗装レベルはDL+4.0mレベルで計画を行っている。長崎大水害時の最高潮位はDL+4.85mを記録しているが,その後の河川改修による効果を踏まえた建物1階床レベルとして美術館棟をDL5.5m,ギャラリー棟をDL5.0mとして設定した。
敷地北側と西側には臨港道路常盤・元船線が,敷地東側には梅ヶ崎臨港道路が接道しており,来館者動線・美術作品搬出入動線には恵まれた条件が整っている。また,長崎港に面しているため,空気中の海塩粒子の強い影響が懸念されるため塩害対策も充分に行う必要があり,出入口および空気取入口は慎重に対応している。

2 基本コンセプト
①世界に例のない運河をはさんだ美術館
本美術館は,水際で美術鑑賞が楽しめ,運河をはさんで人の往来ができる世界にも例のない美術館である。これに加えて,シーサイドパーク(長崎水辺の森公園)からの緑の連続性を確保しながら長崎港が一望できる屋上庭園を設け,来館者以外の方々も自由に利用できる回遊性の高い施設となっている。

②人と美術作品が呼応する美術館
本美術館の主要機能は,エントランス機能と教育普及機能,県民ギャラリーを中心とした「ギャラリー棟」と,1階を収蔵・研究部門,2階を常設展示室と企画展示室とした「美術館棟」で構成される。
「ギャラリー棟」は今日の美術館に要求される情報検索やショッピング,県民の美術・造形活動を支援するスペースを充実させ,美術館の中の「開く」機能を集約化している。一方,「美術館棟」は美術作品の研究・公開を主体とする「守る」機能で構成し,美術館として合理性の高いプランニングとしている。
この2棟をつなぐ「橋の回廊」は,2つの機能を接続し極めて明確な動線を確保している。また,運河に面して「光の回廊」を配し,季節の変化や都市景観を感じながら来館者が美術鑑賞できる空間を提供している。

③石とガラス,水と緑が調和した外装デザイン
長崎の街のイメージは,長い歴史と残された遺産の多さゆえに重層的で多様である。この中で,グラバー邸へのアプローチやオランダ坂の石畳に代表される「石の街」としてのイメージに注目し,伝統的に用いられて来た黄味を帯びた砂岩・諫早石に代わる材料として,美術館の外観デザインの基調を成すブラジル産の花崗岩(ジャーロサンタセシリア)水磨き仕上げとした。これは,錆び石特有のテクスチュアと雲母・ガーネットなどの鉱物が美しく調和した石材である。
また,長崎の夏の厳しい日差しを和らげる外部ルーバーにもこの石材を採用している。キャンティレバーによって大きく張り出したPC床板と石ルーバー・ガラスにより構成された「光の回廊」は,グラバー邸のテラスから着想されたもので.心地よい回廊空間をめざしている。
来館者のアプローチ・レベルになるエントランスロビーと運河ギャラリーは,ガラスを用いた開放的なデザインとして,誰にでも気軽に立ち寄ることのできる施設にふさわしい外観としている。運河劇場は,エントランスホール前のフロントブラザから連続した位置にあり,運河に向かって開かれた階段状の空間である。この空間と運河沿いの水辺を密接に関連させ,回遊性と親水性を高め,運河沿いの敷地のポテンシャルを引き上げている。

3 建物構成
・延床面積:9,981m2
・建築面積:5,824m2
・地上3階(3階は機械室)
・設計期間 2001年11月~2002年9月
・施工期間(外構工事含む) 2003年4月~2005年2月
・工事費
建築 4,389(百万円)
空調 893
衛生 150
電気 893
外構 247
総工費6,572(百万円)
       (備品類は含まず)

4 主要施設の仕様・性能
①フロントプラザ
フロントプラザは美術館の主要な玄関である一方,連続する運河劇場とあわせて屋外における積極的な芸術活動をサポートする広場である。フロントプラザ正面に配置された縦3840㎜,横7112㎜の大型LEDモニターによりさまざまな映像媒体を送出することが可能である。企画展示への催事広告の他,デジタルアートなどのメディアを送出する新しい美術館の顔となっている。原研哉氏デザインによる館名板(縦2100㎜×横6000㎜)は,二重構造による独特の視覚効果を生むもので,本美術館の外装ルーバーに呼応した優れたサインデザインになっている。

②エントランスホール(ギャラリー棟1階)
・本美術館の常設展示・企画展示を公開するにあたって,一般来館者のための最初の内部空間である。ここでは,受付カウンターで全館案内および発券を行う。もぎりは,展示室直前にて行われることになっており,可能な限り無料ゾーンを広く確保することで来館者の自由度を高めたゾーニングを計画している。エントランスホール内部には,ショップやアートメディアセンターが境界を持たず配置されており,オープンな空間構成とすることで来館者の活発な活動を促す場を形成している。また,各種イベント等にも対応できるスペースを確保しており,必要に応じて床コンセントLAN等の取り出しも可能となっている。

・エントランスホールの構造的な骨格は,カーテンウォールマリオン兼用の鋼製フラットバー厚さ100㎜×400㎜)と天井面の面格子フレームとを剛接した鳥かご状のフレームからできており,内部空間に柱が無く軽やかな空間となっている。風・地震時の役割は,水平力を天井面格子で,鉛直力をフラットバーで伝える力学的にシンプルな構成となっている。耐火塗料は,1時間耐火仕様の国土交通省認定品(メーカー:東邦レオ,製品名:ナリファイア)で,膜厚は,耐火性能検証法により指定されている。
・エントランスホールの天井は,大規模な水平トップライトを備え,その下のアルミ押し出しルーバー(H500㎜,W50㎜,@400㎜)によってやわらかい自然光が入ってくる空間となっている。また,ガラス越しに設けられた石のルーバーによって強い西日をやわらげる構造となっている。
・内装壁3面は,強化ガラスt15㎜(最大寸法幅2730㎜×高さ6000㎜)のMPG工法を採用している。ガラス面には飛散防止,紫外線防止,断熱性能に優れたフィルム張りとしている。アートメディアセンターの壁面については,外壁と同様花岡岩の水磨き仕上げとなっているが,石の縦目地にガチャ柱を装着し,石の壁に自由に本棚を配置できることができる構造になっている。
・来館者を2階へ誘導する主階段は,スチールプレートのボックス構造となっており,カーテンウォールマリオンに直接溶接され,自立している階段である。この階段が常設・企画展示室への主要動線となる。
・床積載荷重は,大型美術作品の展示に備え1t/面となっている。

③県民ギャラリー(ギャラリー棟1階)
・約1000m2の県民に開かれたギャラリーで,他県に例のない面積規模となっている。西側道路からの専用搬出入口を備え,企画・常設展示のための搬出入と混乱しない計画としている。主催者自らが容易に移動可能な天吊式展示パネル(マイウォール製:厚さ150㎜×W6150㎜×h4500㎜)により3ブースに区画することが可能な空間である。また,外部の運河沿いは通常ガラス面であるが,展示内容に応じて遮光できる専用の天吊式移動展示パネルを用意し,主催者の要望に柔軟に対応できるものとなっている。
・天井は2階床の構造体であるPC床板(T型)のリブ梁部分を展示室の意匠にそのまま活用している。
・PCのリブ梁間は1100㎜であり,その間にガラスクロス光天井(ABC商会:アートシェード)を備え,拡散光による均質な光環境を提供する。
・PC梁下で4.5mの高天井の空間であるため,居住域の空気環境を高める床吹出し空調を採用した。美術作品を保存・公開する展示室の空調方式としては実例が少ないが,これにより天井面の空調吹出口などが無くなり,意匠上シンプルな構成を実現している。
・床積載荷重は,600kg/面を確保している。

④企画展示室(美術館棟2階)
・美術館棟2階の企画展示室は,約680m2の企画展示室1と,約260m2の企画展示室2からなり,天井高さはそれぞれ5.0m,5.8mを確保している。ともに大型化している現代美術の発表の場にも対応できるよう,タフな展示室をめざしたものである。具体的な性能として,壁面は,不燃材かつ調湿性・作品展示のための壁面保釘力のバランスを考慮し,床はタモフローリング15㎜+合板2重下地として厚さ45㎜を確保し,釘による大型立体作品の固定を可能にしている。
・高天井の空間であるため,空調は県民ギャラリーと同様に居住域の空気環境を高める床吹出し空調を採用した。
・床積載荷重は,1t/m2を確保し重量物展示にも制約の少ない計画としている。
・両室とも組立式床置展示パネル(h3500㎜×L3800㎜×W500㎜)を用意し,各種の展示計画に対応できる計画としている。天吊式展示パネルと異なり,厚さ500㎜を確保していることにより,重量感のある現代作品を展示する壁としての存在感を大切にしている。展示パネル用のアンカーボルトは,フローリングと同材の蓋によって通常は隠された状態となっており,美術鑑賞を視覚的に妨げない工夫を行った。床置展示パネルの採用によって,天吊式パネルのレール配置などの制約から解放され,国内最大寸法のガラスクロス光天井(W1627.5m×L3134㎜)を採用でき,高い照明均斉度とデイテールの少ない天井意匠を実現している。
・企画展示室2は,長崎港を一望する大開口(ペアガラスにより高断熱化)と水平トップライトを有し,自然光の下での作品鑑賞が可能な空間としている。トップライトから透過する自然光とガラスクロス光天井内に設置された蛍光灯との併用により作品の色に忠実な演色性と安定した光環境を提供できる。紫外線を嫌う美術作品の展示を行う際には,アルミ可動ルーバーをトップライトの各ユニットに有しており完全な暗転が可能である。また,北全面のガラス面についても完全遮光ロールスクリーンを設置し暗転が可能な計画となっている。

・文化庁の指導を受けて,企画展示室1と2の境は可動防火壁による区画を行い,企画展示室1では国指定重要文化財の展示も支障なく行うことができる計画とした。
・企画展示室2については,北面の採光およびトップライトの採用を積極的に行っていることから,10分の1の模型実験にて充分な検証を行った。この実験により,蛍光灯の配置とトップライト面のガラス幅,ガラスクロスの透過度,ガラスクロス光天井ユニットと壁面の距離の関係の決定に至った。

⑤常設展示室(美術館棟2階)
・常設展示室は,5室からなり各室(1・2室:長崎ゆかりの美術,3·4·5室:スペイン美術)での展示の内容がおおむね固定されていることから,その内容に見合う天井高,壁のしつらえとしている。基本仕上げは,天井面を木ルーバー(W65㎜×H240㎜,タモ柾目突板貼@300㎜),壁面をガラスクロス貼(日東紡:EGウォール#7100)の上EP仕上げ(日塗工:BN-93)とした。また,基本となる照明は,100wハロゲンスポットライト(ERCO:エクリプス)を採用し,ウォールウォッシャーにも同様の製品を採用している。ハロゲンスポットライトは,人工光の中でも自然光とほぼ同一の演色性を持ち,油彩画などの展示には,もっともふさわしい照明である。

・常設展示室2は,長崎ゆかりの美術の中でも紙作品と工芸品の展示室である。壁3面にエアタイト式展示ケースを備えているが,ケース正面のガラス開口部寸法は縦3350㎜×横2130㎜におよぶ内部の照明については,天井高さが高く上部照明のみならず下部照明の採用も当初検討していたが,意匠上の問題と上部からのスポットライトの補助光の採用を行うことで,下部照明を省略した。ただし,コンセントは壁側のグリル内に収めているので必要に応じて下部照明をオプション設置できる計画となっている。上部のガラスは光を拡散させるために実大実験時にいくつかのサンプルを用意し,最も壁面の均整度が高いものを採用した。
・常設展示室4は,スペイン美術の中でも「須磨コレクション」を中心とした作品を展示することから,重厚な作品に対して雰囲気の合うクルミの突板材を壁材として選定している。
・常設展示室4・5の間に位置するパティオは,観覧者が展示物に対しての気持ちの転換が容易になるように,スペインの宮殿のパティオをモティーフとした中庭空間で,天空光を取り入れる外部空間として計画した。ここについても10分の1の模型実験にて詳細な検討を行い,展示室内の壁面の光環境が保たれるよう光の遮り方の解を導き出している。

⑥運河カフェ(2階「橋の回廊」)
・運河カフェは,美術館内の来館者の主動線になる「橋の回廊」に位置し,運河を見下ろしながらお茶を飲むことができる今までにないカフェである。「橋の回廊」の約半分を運河カフェに充てているが,椅子の背もたれをステンレスメッシュ製で1400㎜の高さとし,通過する来館者の視線が気にならず,かつ閉塞感の無いデザインとなるようよう慎重に行っている。

⑦屋上庭園
・屋上庭園には,シーサイドパークからの外部階段および美術館内のエレベータによりアクセスできる回遊性の高い無料ゾーンである。長崎県出身の著名な彫刻家である故富永直樹氏,故北村西望氏の彫刻作品が展示される他,長崎港の眺望が最大の美術品として最も魅力ある第3の展示室である。
・屋上からの視線の流れが,シーサイドパークの緑と連続・一体性を高め,今までの長崎に見られなかった景観を創り出すことをめざした。
・屋上緑化のパラペット周辺の断面の特徴は,緑化をパラペット際まで伸ばしていることである。水上は緑化自体をパラペット際まで伸ばし,水下は,排水ルートがメンテ可能な取り外し式の植栽かごを配置した。植栽かごはスチールメッシュΦ6㎜亜鉛めっき仕上げであり,その上に植栽用土嚢袋を載せ,ヘデラを植えている。防水立上りは,笠木がオープンであることも考慮し,非加硫ゴムのアスファルト防水を天端から巻き下げるように保護した。土壌の配合は,1m四方の枡にて,異なる配合の土を県庁屋上(美術館屋上とほぼ同レベルの高さ)にて半年観察し決定した。天然軽石20%,良質畑土50%,ルーフソイル1号10%(マサキエンヴェック社製),完熟バーク20%となっており,コスト面と生育面,比重から最もバランスのとれた配合となっている。また,植栽は,2種類採用しており,ヘデラヘリックスと芝(ビクトール)からなる。

5 仕上素材の選定
①花崗岩(ジャーロサンタセシリア)
・外壁に使用されている花崗岩は,ブラジルで採掘される黄色味を帯びたジャーロサンタセシリアという品種である。比較的浅い地層から産出され,強度は,やや柔らかい材種である。長崎の街でよく見かける諫早石の落ちついた雰囲気と「和」のテイストを感じさせる模様をあわせ持つ石として,長崎という立地状況を加味して選定した。
・この石の持つ色合い・テクスチュアを最良に引き出すために,壁・床では水磨きを採用し,外部床ではウォータージェット仕上げとした。壁として使用する際には厚さは30㎜としている。
・全体的に黄色味を帯びているが,錆色の模様が石の存在感を決定づけており,大きな面で使用した際の存在感は圧巻である。また,遠方より見ても,品の良い表情を有している。

②フローリング(タモ)
・フローリングは,中国吉林省産のタモ材を使用している。表面は,日本にてアルミ粉による目詰めと若干の染色を施している。
・幅は,日本では殆ど市販されていない幅広サイズ(187㎜)を特注することで,空間を引き立たせることをめざした。

③ガラスフィルム
・ガラスフィルムは,断熱フィルム(製品名:シーグ,メーカー:センフレンド)を採用している。「シーグ」は,通常の断熱理論である熱反射・熱吸収ではなく,輻射熱の理論に基づいた製品である。そのため,通常の断熱フィルムに比べ比較にならないほどの透明度と断熱性能を有している。本美術館のために,新たに100ミクロンの断熱フィルムを開発し,このフィルムをフロートガラス・強化ガラスの両方に採用している。強化ガラスについては実大寸法実験(2600㎜×4500㎜)において破砕ガラスの飛散防止性能の確認を行い,強化ガラスの飛散防止フィルムと断熱フィルムの兼用化に成功した。
・ガラスフィルムは製品劣化を防止するために耐紫外線性能が向上しているが,この結果,紫外線透過率は99.5%に達しており,美術館建築には非常に有用な製品となっている。

④波佐見焼陶板
・「橋の回廊」つきあたり正面の壁は,波佐見焼の陶板280枚(W230㎜×H600㎜)で構成されている。陶板の形成・乾燥・焼成法などは今回特別に開発されたものである。波佐見焼は長崎県波佐見町で400年もの歴史を持つ白磁で,素材の粘土は熊本産の天草陶石を砕いて練り上げたものである。単独の原料で焼物になるのはめずらしく,仕上がりの強度の高さと澄んだ白色が特徴。光を透過させるため,泥状の土を石膏型に流し込む「圧力鋳込み」という技法を用い,陶板の中央を約3㎜という薄さに仕上げている。
・この陶板最大の特色は,光が透けるということである。陶板の断面形状を凹面にすることにより中心部分が薄く(約3㎜)なり透過性が高くなる。背面には,蛍光灯による光箱を設け約280枚の陶板を一斉に発光させることで幻想的な空間づくりをめざした。
・製作の技術的な修練作業は実に1年以上かかっている。製作指導·監修は長崎県窯業技術センターが行い,製作は,波佐見陶磁器工業協同組合が受注した。実際には,3つの窯元で製作したため,色むら・収縮度ともにかなりのばらつきが見られた。当初,製作精度を±3㎜と設定していたが,製作後あまりにも歩留まりが悪くなることから,±10㎜まで許容することで合格品を7割程度確保した。

上記の製作精度の悪さを克服するため,下地金には十分なクリアランスを必要とした。取り付けの際には,陶板の長手方向の寸法の誤差が±3㎜以内のものをグルーピングし,横目地方向の目地幅精度を上げた。
・陶板と下地金物とは,金属ボルトにて固定されている。金属ボルトと陶板は,陶磁器用の特殊化ボンドを用いて平滑面に接着している。計画当初は,陶板に穴を開けボルトを縫い合わせることも検討したが,この陶板に穴を開けることは,性質上困難だった。特殊硬化ボンド・金物・陶板の相性は良好で,取り付け後のボルトの強度試験においては,ボルトが外れる前に陶板が破壊したほどだった。
今回,このような歴史ある「工芸品」を美術館の主動線の内装材として使用したことで,地域の守らなければならない産業をふさわしいかたちで展示公開することができたと考えている。精度がままならなかったことも,工芸品ならではの「人間味」であり,「工業品」ではとても成しえない色っぽさがかもし出されている。

6 おわりに
本美術館は,平成17年4月23日にオープンし,「よみがえる須磨コレクションースペイン美術の500年」,「アメリカーホイットニー美術館コレクションに見るアメリカの素顔」,「Realースペイン美術の現在」,「ベルギー象徴派転」,「魅惑の17-19世紀フランス絵画展」,「エドゥアルド・チリーダ展」等の企画展が開催され,現在,入場者数が60万人を突破した。水辺に映える緑の中で,自然を感じながら美術と親しむことができる美術館というコンセプトが受け入れられたのではないだろうか。建設に関わってきたものとして,非常に喜ばしいことであり,今後も,より多くの人々が,訪れてくれることを期待するものである。

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