一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
緑川・六間堰の改築工事について

建設省 九州地方建設局
 河川部 河川工事課長
(前)建設省 熊本工事事務所
 副所長
石 松 文 義

建設省 嘉瀕川ダム工事事務所
 副所長
(前)建設省 熊本工事事務所
 工務第一課長
森  勝 義

1 はじめに
六間堰は,緑川と加勢川との合流点に位置し,昭和6年に農業用水を取水するために築造された堰である。その後,昭和33年に改築されたものの,それ以来40年近くも経過したために老朽化が著しくなっている。また,現況堰地点は川幅が狭く,かつ,固定堰となっているため洪水の疎通能力を著しく阻害している。
加勢川では,昭和62年7月出水において甚大な被害を被ったことを契機として,慢性的な浸水被害を解消するため緊急的な河川改修を進めている。その一環として特定構造物改築事業により,六間堰の改築に平成7年度着工し,平成10年度に完成したものである。
六間堰の設計から施工にあたっては,軟弱地盤対策の実施,生息魚類に配慮した魚道の設置,左岸背割堤に生息する鳥類「さぎ」の営巣地の保全などに配慮するとともに,施工においては品質確保のためにISO 9001による品質管理を行ったので,これらの概要について報告するものである。

2 加勢川特定緊急事業と六間堰改築
加勢川は,計画流量1,100m3/s(確率1/100年)に対して現況流下能力は約120m3/s(確率1/2年)と極めて小さく,安全度の低い河川である。このため近年でも,昭和62年7月,昭和63年5月,平成2年7月,平成7年7月,平成9年7月と立て続けに洪水氾濫が生じている。
昭和62年7月出水による甚大な被害を契機として,昭和63年より特定緊急事業に若手している。当面,上流指定区問(熊本県)とのバランスを図るため暫定計画流量700m3/s(確率1/10年)を目標とし,以下の河道整備を進めている。
①本川合流点付近・美登里地区の引堤による流下能力の向上。
②特定構造物改築事業による六間堰の改築。
③御船手地区狭窄部の引堤,掘削およびJR加勢川鉄道橋の架け替え等。
④嘉島地区の無堤地区の解消および3箇所のショートカットによる流下能力の向上。
これらの内,とくに六間堰は本川合流点に位置する固定堰(一部可動)であり堰高も約5mと高いことから,洪水疎通能力を著しく低下させている。(流下能力120m3/s程度)
このため,上流無堤地区の度重なる浸水被害を防ぐためには,同地区の築堤に先行して下流部の六間堰を早急に改築する必要があった。

3 六間堰の計画概要
(1)堰の改築位置
堰位置の選定にあたっては,①治水上からは,河道の直線区間でかつ安定していること,②改築工事が数年に及ぶことから現況堰を利用しつつ施工できること,③塩水の遡上による既得水利,河川生態系,堤内地下水への影響が生じないこと,④経済的であること,などを総合的に考慮し現況堰より約350m上流の加勢川0k480m地点とした。

(2)堰本体の諸元
① 堰高
かんがい期の堰高は,現況堰による取水位を保持し,塩水遡上を現状以下に抑えるために必要な高さとし,取水地点の上流移設に伴う損失水頭を加味してTP+2.00mとした。
一方,非かんがい期においても,現況堰による潮止め機能を維持し,生態系や地下水への影響を回避する必要があった。そのため,現況堰と同程度の水位を保持するものとし,非かんがい期の堰高をTP+0.00mとした。なお,期別の堰高変化については,右岸側に設慣した調節ゲート(フラップ付き2段ゲート)により操作することとした。

② 堰長(横断方向の堰幅)
加勢川の改修計画にもとづき,堰の全長は計画河道幅(堤防法線間距離)の147mとした。可動部の長さは,河川管理施設等構造令にもとづき計画高水流量の流下断面を確保し,108mとした。
③ スパン割り
スパン割りは,計画高水流量1,150m3/s に対する基準径間長20m以上を確保すること,堰柱による河積阻害率を10%以下とすること,ゲートの縦横比を1/15以上とすること,最大径間長は実績から50m程度であることなどを考慮し,経済性・維持管理面等も総合的に考慮したうえで,37m×3径間(純径間34m)とした。

(3)軟弱地盤上の基礎工
六間堰付近の地質は,図ー3に示すように表層部に沖積砂質土層(As3)があり,その下に沖積粘性土層(Ac2),さらにその下に洪積層が分布している。
このうち沖積粘性土層は,層厚18mと中間層の大部分を占め,N値は殆ど0の軟弱層である。下部の安定した支持層(洪積層)までの深度が30m程度であることから,基礎形式は杭基礎とし,経済比較を行ったうえで,水平抵抗の大きい鋼管杭(φ600~700mm)を採用した。

杭基礎を設計するにあたって問題となったのは,
①上部軟弱粘性土層の水平抵抗の把握(堰本体が大きな水平荷重を受けるため),②中間砂層の地震時液状化の可能性,③軟弱地盤上の築堤に伴う基礎地盤の圧密沈下による杭への負の周面摩擦力(Negative Friction:以下N.F.)の作用などである。
このうち,①については現地で水平載荷試験を行って地盤反力係数を求め,設計の信頼性を高めた。②については砂層の平均粒径と設計震度,地下水位などを考慮して検討した結果,液状化の可能性は極めて低いと判断された。
一方,③については堰本体基礎におけるN.F. の影響が極めて大きく,何らかの対策なしには支持力を確保することが困難となった。そこで,杭に作用するN.F.を低減するために,杭表面にすべり材料(スリップレイヤー[SL]コンパウンド層)を塗布したSL杭を採用した。

SLコンパウンド層は地盤沈下により発生するN.F.(杭表面のセン断力)に対して粘性流体としての挙動を示し,杭に直接作用するN.F.を低減させる効果がある。堤防内に設置される橋台基礎等では実績が多いが,1年間の沈下量が30cm以内を限界としているので注意が必要である。六間堰ではN.F.が大きいため,SL杭を用いることにより杭の支持力を約2倍確保でき,杭本数を増やした場合との経済比較を行うと基礎工事費が約50%縮減できた。

(4)生息魚類に配慮した魚道
六間堰付近は淡水域と汽水域の境界となっていることから多様な魚類が生息している。それらの中には,河川内の移動が生存に不可欠な魚種があるため,堰の改築に伴い魚道の設置が必要となる。
魚道の設計においては,学識経識者・地元関係者・行政関係者からなる「六間堰魚道委員会」を設置して検討し,以下のような結論が得られた。
① 魚道の対象魚
生息する魚類のなかで河川内を移動し魚道が必要となる魚種として.アユ・ウナギ・ウグイ・ヤマノカミ・チチブ・ゴクラクハゼ・ヨシノボリ・シロウオ・ボウズハゼの9種を対象魚として選定した。
② 魚道の位置
魚道は,以下のような理由により右岸側(片岸のみ)に設置するものとした。
ⅰ)堰地点は高水敷がなく,魚道を設置した場合,堤防定規断面を切り込むので腹付け等の補強が必要となる。右岸側堤防は補強が可能であるが,左岸側は背割堤であるため本川の河積阻害などの影響があり困難である。ⅱ)右岸側には調節ゲートがあり常時越流しているので,呼び水効果が期待できる。ⅲ)魚は主に岸沿いを遡上すると言われるので,六間堰の場合,右岸側が遡上路にあたる。
② 魚道の形式
対象魚の体長・体高・遊泳力・跳躍力・遊泳深度などを調べたうえで,これらの条件を満足し,かつ多様な魚種に対応でき,さらに河川流量の増減による水位変動にも対応しやすい魚道として,「呼び水水路を兼ねたデニール式魚道と実績の多い階段式魚道を組み合わせた形式」を採用した。

(5)景観に配慮した上屋
六間堰は堰長150m近い大規模な可動堰となることから,周辺の田園景観に与える景観的インパクトが大きいと予想された,そこで,設計においては学識経験者(景観の専門家)と行政による景観検討委員会を設置し,上屋の景観コンセプトとデザインについて検討した。
堰周辺における支配的な景観は広々とした田園風景であり,垂直構造物がほとんど見られない開放的な眺望が,見る人に安らぎを感じさせている。
六間堰をデザインするにあたっては,この「やさしく,のびのびとした風景を乱さないようなデザイン」を基調とした。
基本形状のデザインバリエーションとして数案を作成し,配色・素材までを含めて検討した,その結果,①熊本市民の心のよりどころとなっている熊本城や,城砦の堅固で重厚なイメージをモチーフにし,落ち着きを持たせたデザインとする,②田園風景にとけ込ませるために,できるだけシンプルで軽快なデザインとし,巨大コンクリート構造物の存在感を軽減する,などの点を考慮し,図ー6に示すデザインを採用した。

4 周辺環境への取り組み
六間堰付近から上流の背割堤(左岸側)にはメダケ・センダン等の植生が繁茂し,渡り鳥の飛来地やサギの営巣地となっている。六間堰の改築にあたっては,これらの生息環境の保全に配慮した工事を行ったので,以下にその概要を述べる。
(1)六間堰付近のサギ類の現状
サギ類は湖沼・河川・干潟・水田などの水辺で生息し魚類や水生動物等を採食する。また,繁殖期には複数の種が集まって集団営巣地を形成する。
六間堰のサギ集団営巣地は,アオサギ・ダイサギ・チュウサギ・コサギ・アマサギ・ゴイサギの6種の集団で,巣数も約870と大きな繁殖地となっている。チュウサギは環境庁「鳥類レッドリスト(1998年)」で準絶滅危惧種とされ,アオサギの集団営巣地は日本の分布の南限に近い。営巣地は背割堤のメダケ群落内にあり,周囲を河川に囲まれ人家からも隔離されている。

(2)六間堰工事によるサギ営巣地への影響
堰改築と背割堤の開削によってメダケ群落の約63%が消失し半数近い営巣地が失われると予測された。また,営巣地が工事区域に隣接するため,工事による騒音,車両・人の出入りにより,サギ類が営巣地を放棄する可能性も予測された。

(3)サギ営巣地の保全対策の実施
開削によって失われる営巣地のメダケ群落を補完するため,上流側に4,700m2の移植地を造成するとともに,伐採されるセンダン6本(アオサギの営巣樹)をメダケ造成地に移植した。さらに,工事による影響を緩和するため,開削地境界と堤防側の2面に,サギの営巣地を囲むように目隠しフェンスを設置した。なおフェンスの設置時期は,設置による影響の確認とサギがフェンスに慣れることを目的として工事着手の2年前とし,1年間サギ類の生態を確認してから工事に入った。

(4)メダケの移植方法と結果
移植方法は試験も兼ねて次の3方法を採用した。
 ① メダケを剪定せずに移植。
 ② 高さ3mで剪定したものと根茎のみ(タケを根本で切断)を交互に移植。
 ③ 根茎のみ移植。
平成11年4月現在,①と②のメダケ群落は倒伏もなく良好な状況で維持されている。③は移植1年後の平成9年9月には全域がツル植物で覆われて枯れ,なかに若いタケがまばらに生えている状態であったが,平成11年4月現在では周囲からメダケが復活しており,数年後には周囲と同程度の群落になると予想される。

(5)対策を実施した効果
移植後,初めて迎えた繁殖期には,すでにメダケ造成地内にサギが営巣しているのが確認された。開削により営巣地の面積が縮小されたため,巣数は工事前の約60%まで減少したが,そのうち34%が造成地内にあった。また,巣の密度もメダケ自生地と変わらなかった。
なお,フェンスの近くに巣が多数あったことと,設置後すぐに止まり場所として利用していたことなどから,フェンス設置による影響はとくに認められず,忌避行動なども,とくに見られなかった。
以上のことから,これらの保全措置による効果は十分発揮されたものと判断される。

5 ISO 9001による工事の品質管理
六間堰改築工事においては,ISO 9001を導入して品質管理を行ったので,現場での実施状況および導入後の効果,今後の課題について紹介する。
(1)現場での実施状況
①品質方針:品質方針および甚本目標に現場の特殊性を加味した「現場施工方針」を設定し,施工計画書に記載するとともに事務所内に掲示し,全従業員および作業員に周知させた。
②品質システム:品質システムを文書化した「土木工事品質保証実施基準」,品質システムを構成する各業務の詳細な手順要領を定めた「土木工事品質保証要領書」を作成・運用した。
③文書およびデータの管理:管理対象文書を整理した「管理文書一覧表(文書名・保管期間・保管場所等を明記)」を作成するとともに,「版管理履歴」を作成し文書の最新版管理を行った。
④施工管理:「施工計画書」を作成するとともに,工事を構成する工種・作業・設備・点検の「個別計画書」,「作業手順書」を作成した。
⑤品質管理:品質確保のための管理項目,検査・試験および記録・管理基準を規定する「品質管理計画表」を作成した。また「品質管理表」に具体的な管理内容・方法を定めて品質管理を行い,その結果を材料確認願,現地調査・立会顔,工事打合簿および「チェックシート」に記録した。
⑥検査・試験:検査・試験を実施していない材料・部材と,不合格となった材料・部材には標識に「未検査品」または「不合格品」の表示を行うとともに,隔離処置を講じた。
⑦品質記録の管理:品質記録管理責任者を定め,「品質記録一覧表」に,収集・保管する品質記録の分類・保管形式,保管期間を定めた。
⑧教育・訓練:従業員の教育・訓練は,職場外教育,職場内教育および自己啓発の支援を核とし,協力会社の教育・訓練は,安全大会,安全衛生協議会等で教育を行い,記録を作成・保管した。

(2)導入後の効果
①業務内容の整理と役割分担(責任と権限)が明確になり,情報の流通,共有化が進んだ。
②書類の共有化に伴い,不要な個人書類の一掃による省スペース化や体系的なファイリングによる省力化が進み,事務所内が整理整頓された。
③内部品質監査の実施により品質管理システムの維持・改善が継続され,品質保証活動がレベルアップできた。

(3)今後の課題
①どこまで文書化し,どこまで記録が必要か,その程度が測れないため不必要なものまで作成しがちであり,放置しておくと紙の洪水に陥る。
②管理責任者,内部品質監査員などの人的資源が増加する。

6 おわりに
六間堰改築は,治水・利水のみでなく周辺環境にも配慮して計画から施工まで一貫して実施し平成10年度末をもって完成した。加勢川上流無堤箇所の解消ならびにショートカットも平成11年度には概成することから,当該地区の浸水被害も大幅に軽減されるものと期待される。加勢川は平成10年度に「ふるさとの川整備事業」に認定された。今後は,この整備計画にもとづいて右岸の清正堤のハゼ並木を保存しつつ堤防を補強し,さらに六間堰周辺の水辺を生かした環境整備を進めて地域の人々が集える川づくりを推進していきたい。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧