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九州技報 第40号 第3回「技報賞」懸賞論文

私の理想とする国土形成

九州大学大学院 工学府建設システム工学専攻 修士2年 藤浪武志
 近年、日本はさまざまな難問に直面している。約800兆円もの借金を抱えた赤字財政に加え、地方都市の衰退により地域格差が拡大している。また、2004年からは人口減少社会が始まり、人口増加を前提とした都市計画を抜本から見直す必要に迫られている。さらに、国際競争も激化しており、韓国・中国など近隣諸国の大躍進により、日本の地位は相対的に低下している。日本ではこれらの問題に対応するため、市場原理主義に基づく競争社会が意図的に形成されつつある。三位一体の改革により、地域間で税収を取り合い、人口と企業誘致の競争が激化している。また、民営化に伴い、これまで競争がなかったところにも意図的に競争社会が形成されている。国土計画に関しても同じことが言える。一部の地域では、自由競争に任された都市整備が進行し、郊外に出店された大型ショッピングモールとの競争に敗れた市街地がどんどん廃れている。私は自由競争が完全に間違っているとは思っていない。競争を促進することで、技術革新を生み出し、コスト削減を図ることができる。しかし、日本にとって完全な競争社会を構築していくことが、本当に正しい道なのであろうか。市場原理主義を推し進めれば、日本を取り巻く全ての問題が解決できるのか。私はそうは思わない。私は、日本が危機に瀕している今だからこそ、国民それぞれがお互いを思いやり、日本全体が一つにまとまって、これらの問題に取り組んでいくことが重要だと思う。そもそも日本は、これまで全体で気持ちを一つにすることで、さまざまな問題を解決してきた。明治維新を成しえたのは、武士が本気で日本のことを思い、身分制度の廃止や廃藩置県を受け入れたからである。また、日本の天皇制が、世界で類を見ないほど長い間継続できているのは、天皇が国民を想い、国民が天皇を、そして日本全体を想う関係が築かれているからである。『相手を思いやり、共存共栄を目指す』これこそが日本の国柄であり、力の源だと思う。そして、日本が一つにまとまるために最も重要なのが、日本を一つにまとめられる国土を形成していくことではないだろうか。どんなに法律を整備しても、どんなに教育を施しても、まとまれる形ができていないと一つにはなれない。そして、そのまとまれる形を目に見える形で体現するのが国土だと思う。
 日本を一つにまとめられる国土とはどのようなものか。私は、それぞれの地域で役割分担をし、お互いをフォローしあえる都市システムの存在する国土こそが、一つにまとまり、かつ効果的に機能できる国土だと思う。それぞれの地域で特有の個性を作り上げ、その個性がうまく機能しあい、日本全体として活性化していく、それこそが日本の理想の形ではないか。そもそも、現在の日本の個性は、ほとんど関東周辺、特に東京に偏りすぎている。立法・行政・司法の三権全てが東京中心に回っており、経済も東京一辺倒となっている。有名大学もかたまり、学問の中心地も東京だ。プロスポーツチームも東京に本拠地を置くチームが多く、スポーツの中心まで東京である。これまでの日本は、東京を中心とする中央集権国家だったからこそここまでまとまれてきたのは確かだ。しかし、今では全てがあまりに東京にかたまりすぎ、競争に敗れた地方の個性がなくなり、また全てが集中した東京もパンク状態に陥っているため、現在の体制は機能しにくくなっている。交通や通信技術の発達した現在だからこそ、役割を分担し、日本全体として機能できるような国土形態をしていく必要があると思う。
 では、役割を分担するためには何が必要なのか。まず、第一に挙げられるのが、日本全国の交通ネットワークの整備である。ネットワークがつながっていないと、都市はお互いに助け合うことが出来ない。現在、公共事業費の削減を理由に、道路開発が悪のように扱われているが、日本の道路整備は欧米諸国に比べまだまだ遅れている。特に地方の道路整備が進んでいないため、地方は企業誘致に瀕死の状態に陥っている。地方がしっかりとした形で個性を出すためにも、また、地域で役割分担を行うためにも、日本全国を一つにつなぐ交通ネットワークの整備を進めていくことが重要だ。
 そして、二番目に挙げられるのが、地域のコンパクトシティ化の推進である。現在、都市がなだらかに拡大したせいで、社会資本整備費の拡大や中心市街地の衰退など、さまざまな問題を引き起こしている。しかし、最も重大な問題は、都市の拡大により地域コミュニティがなくなり、地域内での協力体制が薄れていることである。日本全体としてまとまり、役割分担を行うためには、まずは地域内でまとまり、役割を十分に果たせるコミュニティを形成することが必要である。地域の個性をしっかりと形成するためにも、中心市街地を中心に地域が一つに小さくまとまって都市整備をしていくことが重要だと思う。
 三番目に挙げられるのが、民間の力を生かせる都市システムの構築である。日本には数多くの力強い企業がある。世界第二位の経済大国を築きあげているのは、間違いなくこれら企業の力だ。しかし、企業が単に競争しあうだけでは、日本をとりまくさまざまな問題は解決できない。企業にも役割を分担し、企業がその役割を果たしやすい都市システムを構築していくことが重要だ。例えば、大災害のときを考えてみよう。中心地には多量の建築廃材が発生し、都市復興の大きな障害になる。そんなとき、中心地とリサイクル工場にしっかりとしたネットワークがあれば、多量の建築廃材を回収し、新たな資源として活用することができ、効率的な復興が可能になる。このように、さまざまなケースを想定した上で、それぞれの企業が日本全体のために機能しやすく、また自らも成長できるような都市システムを作っていくことが重要だ。
 最後に挙げられるのが、共存共栄という日本の道徳観を育み、後世に残していける国土の形勢である。そして、道徳観を育める国土とは、自然と共存した国土である。思いやりという日本人の道徳観の根幹は、自然を想う気持ちにより育まれてきた。古事記では、自然は神に例えられ、万葉集では、人々が自然を尊び大切に思う気持ち伝えられている。そして、これこそが相手を思いやり、共存共栄を目指していく日本の国柄の根幹ではないだろうか。地球環境問題対策や循環型社会の構築など、自然と共存した社会を構築することにはさまざまなメリットもある。しかし、それ以上に、日本の良き道徳心を育み、後世に残していくために、自然と共存できる社会を目指していくべきではないか。そして、その自然を想う気持ちを一つとすることにより、日本全体も一つにまとまれると思う。
 国土は、その国の文化や国民性を目に見える形で表す鏡だと思う。自然の多い国土には自然を愛する文化があるし、伝統的な構造物の多い国土には祖先を敬う国民性がある。国の文化や国民性に沿って国土が形成され、その国土により文化や国民性が継承されていく。日本の文化や国民性は、人を思いやり、共存共栄をはかっていくというものである。日本人は、これまでこの国柄でさまざまな難問を解決し、世界に誇るすばらしい国を作り上げてきた。また、地球環境問題など、世界が一つになって取り組むべき問題も多数出現し、世界平和を目指すには、思いやりの道徳観をもった日本がリーダーシップをとり、世界を一つにまとめていくべきだ。だからこそ、世界の見本となるような、日本人らしい国づくりを進めるべきである。日本の国柄を最大限に生かせる、そしてその国柄を後世に残していける国土を作っていく。これこそが私の理想とする国土形成だ。

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