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柏川河川等災害関連事業
~熊本県の被災状況と、柏川における再度災害防止に向けた取組について~
熊本県 野口正人
1 平成19年梅雨前 線豪雨の概要
① 降雨の概況
 平成19年7月6日から7日にかけて熊本県に甚大な被害を及ぼした梅雨前線豪雨は、6日0時から7日24時までの総降水量が、西原村俵山で526㎜を記録するなど多いところで500㎜を超える記録的な大雨となり、宇城、八代、上益城地域を中心に浸水被害や土砂災害が各所で発生すると伴に、気象庁が熊本県内に設置している29観測点の内16観測点で7月の総降水量平均値の60%から94%に達しました。

 
 県内の降雨状況は、6日0時頃から九州南部沿岸付近の梅雨前線が北上し、前線に向かって吹き込む暖かく湿った空気の影響で発達した雨雲が県中央部の熊本、宇城、八代、上益城、阿蘇地方を中心に流れ込み、八代市泉町にある大金峰観測局で、6日9時までの1時間に85㎜の観測史上1位の降水量を記録しました。
 その後、6日20時頃から梅雨前線の南下に伴い県北部に発達した雨雲がかかり始め、西原村俵山で6日23時までの1時間に68㎜の非常に激しい雨となったのを始め、熊本地方、阿蘇地方では、6日20時頃から7日9時ごろにかけて断続的に1時間60㎜を超える非常に激しい雨となりました。
 八代地方では、7日8時40分までの1時間に77㎜の観測史上1位の降水量を記録し、その後、強い雨の中心は芦北地方から球磨地方に移り7日9時頃から11時頃にかけて1時間に50㎜を超える非常に激しい雨となりました。7日夕方には、梅雨前線は鹿児島付近まで南下し、7日夜遅くまでに一連の雨は終了しました。
 
② 被災状況
 7月6日から7日にかけての梅雨前線豪雨は、熊本県の中央部を中心に甚大な被害をもたらしました。

 
 
 県中央部の美里町や隣接する山都町では、7月6日11時までの1時間に74㎜、3時間で141㎜(砥用雨量観測局)の降水量を記録し、国道218号及び国道445号をはじめとする各路線で法面崩壊や路側欠壊等が発生し、いたるとろで交通が寸断されました。特に美里町と平家落人の里で知られる八代市泉町の五家荘を結ぶ国道445号では、山側法面の崩落や、並行する津留川(一級水系緑川一次支川)の兼用護岸の欠壊により多くの集落が孤立しました。また一級水系緑川の支川(釈迦院川、幕川、津留川、柏川、屋敷川等)では、氾濫による家屋流出及び護岸欠壊、更に橋梁2橋が流失するなど、一般住人の生活に支障をきたすほどの甚大な被害が続出しました。また、阿蘇市では国道265号箱石峠で道路が決壊し通行不能となりました。

 

 
 八代市では、7月6日9時までの1時間に72㎜、11時までの3時間で156㎜(矢山雨量観測局)の降水量を記録し、主要地方道小川泉線や市道杉の本赤山線の山側斜面が地すべりにより崩落し通行不能となり一部の地区が孤立、2級系氷川の一次支川平山川が異常出水により氾濫し、背後地の農地が流出するなど多くの被害が発生しました。
 球磨郡五木村では、7月6日9時までの1時間に97㎜、11時までの3時間で197㎜(朝日(わさび)雨量観測局)の降水量を記録し、異常出水により川辺川の河床が異常低下し護岸を引き落とすと伴に、並行する国道445号の兼用護岸が欠壊し一時通行不能となるなどの被害が発生しました。

 
  熊本県内の被害状況は以下のとおりです。
 (熊本県とりまとめ)
 A)被害状況

 
  B)住民避難等の状況(延べ人数)

 
 C)防災体制
   災害対策本部設置市町村

 
   熊本県の防災体制

 
  D)総被害額
   約167億9千万円
  (施設被害、農作物等を含む)
 
 なお、平沢内閣府副大臣を団長とする政府調査団が、7月13日に美里町の被災箇所を調査されました。

 
2 柏川における被災状況
① 流域の状況
 柏川が流下している熊本県下益城郡美里町は、熊本県のほぼ中央に位置しており、熊本市から南東へ約30km、車で約40分程度の距離にある面積144km2、人口約12,000人の町です。東に九州山地が広がり、さらに甲佐岳、鴈俣山、白山等の山々に囲まれ、釈迦院川、津留川、筒川、柏川等、緑川水系の河川が流れ、その恵まれた自然を活かして農林業を主要な産業とし、里山、棚田等地域資源の保存により里山文化を形成すると伴に、日本一の石段(3,333段)や零台橋(石橋)を始めとする石段と石橋が有名な町です。

 
 美里町の町名は、平成16年11月の合併時に全国から公募した中から選考し「いつまでも美しいふる里でありますように」等の理由から美里町となっています。
 
② 被災状況
 柏川は、熊本県美里町柏川地区を流域とし、八代市泉町との境界の京丈山(標高1,472.5m)を源流として緑川ダム直下流に合流する、流域面積15.20㎞2、全長L=8,360m(法河川区間L=3,000m)の一級水系緑川の一次支川です。本河川は、山地部を蛇行しており、沿川には民家、水田、畑が存在すると伴に、山腹には杉等の植林や広葉樹の混合林が分布し、上流部には緑豊かなキャンプ場等の公共施設が在ります。
 この柏川流域において、7月6日午前10時までの1時間に74㎜、24時間雨量で313㎜(砥用雨量観測局)という記録的な降雨を記録し、柏川支川の山腹が崩壊したことで洪水が土石流となって流下しました。

 
 沿川では土石流が護岸を越流し、下流域で家屋全壊1棟、半壊1棟、床上浸水2棟、氾濫面積0.22ha、また、中流域では家屋全壊3棟、半壊4棟、床上浸水2棟、床下浸水1棟、氾濫面積1.12ha、更に、上流域では家屋全壊6棟、大破2棟(社会教育センター等)、氾濫面積0.33haの一般被害が発生すると伴に、51世帯161人が避難を余儀なくされました。
 また、道路の路側欠壊等が多数発生し交通が寸断されると伴に、河川においても越流や側方浸食によって、緑川合流部から上流へ約2.5㎞の区間でL=1,034.2m(左岸L=736.2m、右岸L=681.2m)に亘って石積等の護岸が被災しました。

 
       

       

 
 
 被災当時は、被災箇所へのアクセス道路が崩壊等によって寸断されたため、現地へ行くことすら出来ず、雨が7月7日以降も断続的に降り続き河川水位が下降しなかったことや、柏川と同じく八代市泉町との境界付近を源流とし緑川に合流する北斜面の河川(下流から釈迦院川、幕川、津留川、柏川、屋敷川(山都町)等)の全てが同様の被災を受けていたため、被災状況の全容把握に時間を要しました。
 

 

 

 

 

 

 
3 柏川における災害復旧計画の策定
① 被災原因の究明
 本河川の被災の特徴は長時間の降雨によるものではなく、短時間かつ過去最大規模の局地的な集中豪雨によって上流部で大規模な山腹崩壊が発生し、洪水流が土石流となって流下した際に被災を被ったもので、地元の方々の話でも過去に今回ほどの災害は記憶に無いというほどの、予想を上回る豪雨でありました。
 また、河川の現状においても、被災箇所の調査によると、下流部では橋梁や取水堰(固定堰)によって河道が狭められ河積が不足していた箇所も多く、中流部や上流部においても河川の蛇行や河積不足等により今回の洪水流を正常に流下させることができなかったことに併せ、山腹崩壊による土石流によって河道を埋塞させ、越流、氾濫したことが考えられます。
② 被災規模の確認
 災害復旧事業は、被災施設の復旧を原則としているため、先ず、現地の護岸等河川施設の被害状況調査を行いました。しかし、土石流を伴った被災箇所では、背後地を含め被災前の河川の位置、形態が分からなくなるほどの甚大な被災を被っていたことから、通常の現地踏査では護岸等の河川施設がどこに存在していたのかすら分からない状況でした。このため、地籍図から被災前の河川法線を復元しながら、残存護岸や試掘によって基礎石を探すと伴に、地元住民の方々の協力のもと、現地立会により護岸の位置や高さを確認しなければならないなど、被災施設の特定に苦労しました。
 なお、出水規模の確認については、河川の形状が激変していることから被災流量を各測点において確認することが困難であったため、緑川合流点の直上流部における整備済み区間で確認するしかなく、比流量により各被災区間の被災流量を設定しました。
 
③ 復旧計画の立案
 復旧計画の立案に先だち7月12日~13日にかけて国土交通省河川局防災課 田上総括災害査定官他5名の方々に災害緊急調査を実施して頂き、県内の主な災害箇所11箇所の復旧方針等について指導を受けました。
 

 

 
 復旧計画については、洪水流を正常に流下させる目的から河積の確保、河川法線の是正及び障害物の除去について検討すると伴に、河川の埋塞防止の観点から山腹崩壊による土石流対策についても併せて検討することが必要となります。
 通常であれば、被災箇所の復旧は災害復旧事業により実施することになりますが、洪水流を正常に流下させるための河道の確保、河川法線の是正及び障害物の除去を災害復旧事業のみで実施することは制度上困難であり、再度災害防止の観点から災害復旧事業に併せ改良復旧事業を活用して復旧計画を立案することになりました。
 なお、山腹崩壊による土石流対策については、砂防堰堤や谷止工等の設置が必要となりますが、災害関連緊急砂防事業により計画することとなりました。
 
4 柏川における改良復旧計画
① 下流域の復旧計画
A)改良復旧事業としての取組み
 下流域の復旧については、橋梁及び固定堰が障害物となり氾濫を引き起こしていることから、橋梁等の障害物を除去すると伴に河積を拡大することが必要になるため、河川等災害関連事業と併せた復旧を要望しました。
 

 
●採択基準  査定方針第19条1(ニ)-イ
(ハ)障害物の除去…固定堰の移設及び橋梁の嵩上げ
(ホ)一定計画の改良…護岸法線を後退し、河積を拡大
 なお、河川等災害関連事業の現地調査は平成19年9月12日に本省査定官により実施して頂き、平成19年10月3日に事業採択となりました。
B)計画規模・概要
 計画区間は、緑川合流点より上流へ約50mの地点から219mの区間とし、計画規模は沿川の状況(家屋5棟、小屋7棟、畑0.2ha)から勘案して、被災流量220m3/sを流下させることが可能な河道を確保することとし1/30相当となりました。
 
【事業計画概要】
・事業区間
   0k047~0k266 L=219m
・流下能力  Q=220m3/s
・現況流下能力 
  Q=129m3/s:固定堰設置箇所
・主要工種  橋梁下部工 N=1基
       橋梁上部工 N=1式
       取水堰移設 N=1式、
       コンクリートブロック積
         A=1691㎡
・事 業 費   C=95百万円
   (災害費50百万円、関連費45百万円)
 

 
C)計画の特徴
 固定堰については、下流部約8haの水田で灌漑用水のための取水堰として利用しているため、除却のみの対応ではなく上流部の河川断面を阻害しない位置へ移設する計画とし、今後の河川管理の観点から堤内に取水のための管路を計画しました。
 また、橋梁「明無瀬橋」の計画については、河川断面を阻害しない位置まで橋台を引いて設置することとしました。

 
② 中流域の復旧計画
A)改良復旧事業としての取組み
 中流域の復旧については、河積の不足により被災流量Q=210m3/sを流下させることができずに氾濫し河川に近接する家屋等を流出させていることから、河積を拡大し流下能力を確保することが必要になるため、河川等災害関連事業と併せた復旧を要望しました。
 

 
●採択基準  査定方針第19条1(ニ)-イ
(ヘ)脆弱部の改築…被災個所に接続した脆弱な残存施設を改良
(ホ)一定計画の改良…一定計画により河積を拡大
 なお、河川等災害関連事業の現地調査は平成19年9月12日に本省査定官により実施して頂き、平成19年10月3日に事業採択となりました。
B)計画規模・概要
 計画区間は、緑川合流点より上流へ約990mの地点から810mの区間です。本区間の計画規模は、沿川の状況(家屋6棟、小屋4棟、田2.5ha、畑3.5ha)から勘案し、被災流量210m3/sを流下させることが可能な河道を確保することとし1/30相当となりました。
 
【事業計画概要】
・事業区間   0k994~1k804
                L=810m
・流下能力      Q=210m3/s
・現況流下能力 Q=108m3/s
・主要工種   コンクリートブロック積
                A=5074㎡、帯工 N=1基
・事 業 費       C=184百万円
  (災害費138百万円、関連費46百万円)
 

 
C)計画の特徴
 今回の出水で家屋が流出するなど甚大な被害を被っていることから、河積の拡大及び河道法線の設定にあたり、治水安全度を向上させることはもとより、宅地の立地条件など将来の土地利用に即した河道に付け替える計画としております。
 
③ 上流域の復旧計画
A)改良復旧事業としての取組み
 上流域の復旧については、本箇所が町営の柏川キャンプ場に隣接している他、社会教育センター(体育館)、柏川集会場などの公共建物が存在し、また、区間上流部の固定堰により堰上げられた洪水流が公共建物に向かって氾濫し流出させていることから、周辺の環境に配慮しかつ流下能力を確保することが必要になります。このことから、再度災害防止と併せて川に親しめるような水辺の形成を図る目的から特定小川災害関連環境再生事業と併せた復旧を要望しました。
 

 
●採択基準 特定小川災害関連環境再生事業実施要領
 第3-(イ)-(1)「市街地もしくは市街地周辺部または付近に学校・公園・病院等の公共施設もしくは史跡・歴史的記念物が存在する地域」
 なお、河川等災害関連事業の現地調査は平成19年9月12日に本省査定官により実施して頂き、平成19年10月3日に事業採択となりました。
 
B)計画概要
 計画区間は緑川合流点より上流へ約2,300mの地点から181mの区間です。護岸復旧は、川に親しめるような水辺の形成を図る目的から、主に巨石張りの緩傾斜護岸で計画することになりました。また、洪水流の氾濫防止のため、固定堰直下流の屈曲部に築堤を計画しました。

 
【事業計画概要】
・事業区間 2k311~2k492 L=181m
・主要工種 自然石張 A=943㎡
      自然石積     A=419㎡
      巨石積       A=206㎡
      コンクリートブロック積 A=240㎡、
・事 業 費 C=65百万円
     (災害費38百万円、関連費27百万円)
 

 

 
  ○被災箇所周辺の公共施設一覧
 

 
C)計画の特徴
 本箇所の特徴は、周辺の公共施設や自然環境に配慮し特定小川災害関連環境再生事業として採択されていることです。本事業の採択要件等に係る周辺の状況等を整理すると以下のとおりです。
 
 ●採択基準
 市街地若しくは市街地周辺部又は付近に学校・公園・病院等の公共施設若しくは史跡・歴史的記念物が存在する地域
 
 ●河川の状況
 現況流下能力 Q=68m3/s≒
          概ね100m3/s以下
 川幅     W=30m未満(全区間) 
 

 

 

 
5 おわりに
 平成19年7月6日~7日の梅雨前線豪雨では、過去最高を記録するような局地的な集中豪雨に見舞われ、熊本県中央部の一部で公共土木施設被害だけでも千数百件の被害が発生する未曾有の大災害となりました。
 被災現場の変わり果てた惨状が今でも鮮明に思い出されると伴に、応急復旧や避難指示等の初期対応を始めとし、現地調査から災害査定に至るまでの準備や協議など、膨大な作業に追われましたが、災害復旧事業については、7月上旬の被災から2ヶ月後の9月には災害査定が完了し、河川等災害関連事業についても、柏川における3箇所を含め6箇所が採択されました。
 現在、被災箇所においては復旧工事に順次着手し、早期復旧完了を目指して作業を進めているところです。今後は、災害復旧事業の迅速な施行のための努力はもとより、人的な被害が出ないよう情報伝達等のなお一層の充実を図り、減災に努めることが必要と考えております。
 最後になりましたが、災害緊急調査や災害査定はもとより、災害復旧事業及び災害関連事業の事業化にあたり、お世話になりました国土交通省河川局防災課の皆様、九州財務局の皆様には、この場をお借りしましてお礼を申し上げます。
 

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