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工事等級の観点からみた
総合評価方式の現状と課題
九州共立大学工学部教授 牧角龍憲
九州共立大学大学院 田中徹政
1 はじめに
 この3年間、総合評価方式一般競争入札の実施ならびに独占禁止法の改正などにより、わが国の公共工事の入札・契約環境は大きく方向転換してきている。とくに、総合評価方式においては入札に至るまでの手続きが大きく様変わりし、技術力評価を行うための準備、すなわち、入札参加者においては技術提案の捻出と技術資料の作成、発注者においては全参加者についての企業評価と提案技術の評点審査、など両者いずれにとっても膨大な量の業務をこなすことが要求されてきている。さらに、入札価格の最低位者ではなく総合評価値の最高位者を落札者とするため、技術評点の重みならびに価格算定の確かさが重要となり、担当者にとっては業務をこなす時間のみならず精神的負担が非常に大きくなる状況になっている。
 相当なエネルギーが入札時点の段階(いわゆる入口)で消耗され、受発注両者ともに疲弊しつつある。一方、実行段階における現場においても、コスト管理に相当なエネルギーを費やさざるを得ない状況から、新しい試みや技術開発を行う経費的時間的な余裕がなくなり、わが国の土木技術を支えてきた現場の技術者育成も十分に行えない状況になりつつある。これら一連の状況は、変革期において必然的に生じる現象の一つであるといえるが、土木工事においては本来、受発注両者が持てるエネルギーを存分に注ぎ込むべき対象は現場のはずである。良質の社会資本整備を永続させるためにも、この変革による混迷混乱を出来るだけ早期に終焉させて、社会通念上からも理想の状態に近づけることが必要である。
 そこで、本研究では、現状の入札段階において人的エネルギーがどのように費やされているのか、また、そのエネルギー消費が活かされているのかあるいはそれを効率的に活用するための方策は何かなどの考察を軸にして、これまでの国直轄工事の入札結果を分析し、総合評価方式のあるべき姿について検討した。
 その際、企業が入札段階で対処可能な人的エネルギーは、経営基盤や技術者数などの企業規模によって大きく異なることから、それらが考慮された工事等級別に実態を分析し、それぞれにおける問題点を抽出した。とりわけ、政府調達(WTO)対象の等級Aと地場企業が主となる等級Cの工事においてはそれぞれ特徴的な傾向がみられたことから、本文では主にその結果について報告する。
また、品質確保の前提である適正な対価の観点から、調査基準価格を原点とする落札指標1) を用いて検討した。その結果から、総合評価方式における工事原価の定め方として、旧来方式のままではなく、環境の変化を踏まえた新たな考え方を導入することが必要であることについて述べる。

図-1 落札率と落札指標

図-2 工事等級毎における落札指標頻度分布の状況(8地方整備局合計)

2 工事等級別の入札及び落札の状況
 平成17年以降の国直轄工事(8地方整備局)における一般競争入札結果を入札情報サービスより集計し、全応札者の入札金額を落札指標に換算して得られた頻度分布について、入札状況を折れ線ならびに落札状況を棒グラフでそれぞれ図-2に示す。この落札指標は、図-1に示すように、それぞれの入札における調査基準価格を0%ならびに予定価格を100%とする尺度を用いて、それに対する入札金額の比率を求めたもので、企業が得る対価の多寡をわかりやすく表現する指標である。
入札および落札価格の状況は年度および工事等級によって異なっていることがわかるが、大別するとBランク以上(工事金額3億円以上)とCランク以下に分けられる。前者の場合、落札指標50%以下にほとんどの応札が集中しており、落札者のピークは調査基準価格近傍にある。一方、後者の場合、予定価格以上の応札がかなりの数にのぼり、落札者のピークは予定価格近傍にある。
 そこで次に、工事等級による傾向の違いをより明確にするために、技術加算点を含めた総合評価の結果を用いて、まずAランクから検討した。
 
3 Aランク工事における入札の状況
-WTO対象のトンネル工事を例として-
3.1 落札に向けてのエネルギー(積算精度)
 平成19年度のAランク工事において、トンネル工事が全体の1/3を占め、九州地方整備局では全32件中14件であったことから、トンネル工事に対象を絞って検討した結果について述べる。
 図-3は九州地方整備局発注のトンネル工事における入札状況で、横軸に落札指標、縦軸に得点率(技術加算点の満点に対する比率)を用いて、全参加者のデータを示している。いずれの場合も左上隅(落札指標0%、得点率100%)を目指して入札データが明らかに集中していることがわかる。

図-3 九州地方整備局におけるトンネル工事(Aランク)の入札状況(14件中の8件)

 
 例えば、宮崎10号大峡トンネル新設工事の場合、落札者の値は落札指標0.1%、得点率100%でほぼ極値になっている。一方、落札指標0%(調査基準価格に相当)以下の場合、得点率が激減して落札の可能性がなくなるという厳しい現実にさらされている。これらの傾向は、図-4に示すように、他の地方整備局においても同様であった。

図-4 他地方整備局におけるトンネル工事の入札状況(全44件中、落札指標が低い順)

 

図-3および図-4の説明

 
 落札指標は予定価格と調査基準価格との差を100%に換算していることから、落札指標0.1%は予定価格の約0.02%という極めて小さな値に相当する。すなわち、落札するための価格設定には、非公表の調査基準価格を上回る範囲でかつ可能な限りそれに近づく積算精度が求められており、それに対処するために相当なエネルギーを費やさねばならないことが十分想像される(図-5左下)。

図-5 Aランク(トンネル工事)にみられる落札に向けてのエネルギー負担

 
3.2 落札に向けてのエネルギー(技術提案)
 企業の実績が考慮されない政府調達(WTO)対象の工事においては技術提案のみが評価の対象であり、また、技術加算点の満点が50~60点と高く、多岐な項目についての提案が求められている。そのため、すべての項目についての技術提案を案出し、しかも可能な限り費用対効果をあげる方策に集約させるという高度かつ厳しい技術競争に取組まねばならず、これに対処するためにも相当なエネルギーを費やさねばならない(図-5左上)。
 図-3および図-4にみられるように、ほとんどの参加者が得点率80%以上になっており、全参加者がそれぞれ技術提案に費やしたエネルギーを合計すると膨大なものになることが容易に想像される。しかしながら、そのエネルギー消費に対して落札した1者だけが報われ、残りの参加者が費やしたエネルギーは損耗しただけであり、市場競争の宿命とはいえ、そのエネルギーの損失は土木界全体にとってあまり有益でないと考えられる。
3.3 技術提案に係るコスト負担の矛盾
 技術提案においては、優れた性能の材料や装置の使用あるいは管理水準の厳格化などが多くなされるが、その実施には少なからぬ費用が発生する。その場合、図-6に示すように、標準仕様に対する落札価格が価格Bであるとき、技術提案実施の場合には価格Dが同価になり、予定価格内であればVFMも向上する。しかしながら、調査基準価格(ほぼ原価)近傍の価格Eの場合には、標準仕様の実施に対する価格は低入札と同じ状態になる。
 さらに、技術評価は入札参加者間の相対評価で優劣が定まるため、加算点を確実に得るために量的な提案を増やすことになり、結果として価格Cが上昇する。その場合、図-7上に示すように、加算点が満点に近くなるほど価格Eに占める標準仕様の割合は小さくなり、低入札に近い状態がより顕著になる。現実に7~10%の割り増し負担になっており、とくに、地山条件など不確定要素が多く工事リスクが高いトンネル工事においては、実行予算に余裕をもたせておくことが不可欠であるが、それもままならない状態にある。

図-6 入札における価格パターンと価格構成の比較

図-7 政府調達対象工事における競争環境の改善案(Aランクの工事)

 すなわち、標準仕様に対する価格Aを前提にして、技術提案の実施に要するコストはすべて企業が負担するままでは、良品質のものを技術提案により求める総合評価の趣旨に矛盾することになる。これは入札者側だけの責務(価格競争の激化)に帰着させるべきものではなく、大型案件における一般競争入札下では図-5の落札ベクトルをとることは道理であり、そのことを踏まえて発注者側も改善策を講じることが必要である。
 標準仕様より上位品質の材料や装置の提案が評価されることは周知の事実であり、ほとんどすべての参加者が提案している内容、例えば高性能減水剤や被覆噴霧式養生装置の使用などは標準仕様に取り入れるべきである。そして、上位品質の技術仕様を満足させながら利益を上げ得るか否かを技術競争の対象にするのが合理的である。上位品質を要求しながら価格は据え置きでは下請け泣かせと同じことになりかねない。
 
3.4 Aランクにおける企業評価の適用
 WTO対象の工事では、海外企業が国内企業と対等の条件で入札に参加できるように実績などの企業評価点が加算されていない。総合評価方式を導入する開始時点では適切な設定であったと考えられるが、平成19年度の実績(表-1)にみられるように、わずか0.2%の参加者のために99.8%の者が技術提案だけによる過剰な競争を強いられている現状から、設定を見直す必要がある。
 

表-1 平成19年度政府調達対象工事における国内と海外企業の延べ入札参加者数

図-8 政府調達対象工事で海外企業(1社)が参加した3件の入札状況

 
 Aランク工事に参入する海外企業は、当該国においても十分な公共工事の実績を有していて、その国の基準による審査および工事評定を受けているはずである。その実績をわが国の基準と照合して換算し、企業評価点として用いることに支障はなく、共通の土俵づくりは十分可能である。
 工事評定を技術評価に加算することは、入口で消耗していたエネルギーを現場に向けられることになり、総合評価の趣旨である本来の技術競争を促すことになる。良い仕事をすることが次の仕事につながるという仕組みが大事である。
 
4 Cランク工事における入札の状況
4.1 様々な入札パターン
 平成19年度に九州地方整備局が発注したCランク工事964件において、入札参加者が20社以上は93件(その内30社以上が7件)で約1割を占めた。そのように多数の企業(主に地場企業)が1件の受注を目指す競争が増えつつあるが、その入札結果の様相は一様ではない。
 図-9に、件数が最も多い一般土木工事についての入札状況(20社以上参加)を傾向別に分けて示すが、入札価格の範囲やばらつき、落札者の相対的位置などがかなり異なっていることがわかる。
 

 

 

 

図-9 参加者20社以上の一般土木工事(Cランク)における入札状況(九州地方整備局)

 
 
パターンAは総合評価方式の効果が明確に現れた場合であり、想定どおりの入札状況である。これに対して、パターンB~Dはいずれも最低価格者が落札者になってはいるが、同じ競争状態にないことがわかる。パターンBは20社以上の参加者の内1社以外すべてが失格であり、また、パターンCでは予定価格超過の領域に高得点者が分布し、その領域で技術と価格の競争が行われた観を呈している。予定価格超過が非常に多いといえる。
 一般に、企業規模が小さくなるにつれて技術者数が減り、積算や技術提案の能力は低下するとされているが、パターンCにみられる得点率の高い参加者は、相応のエネルギーを費やす積算をした上で入札したと考えられる。また、施工体制確認型の適用により、相応のエネルギーを費やして技術資料を作成して入札に参加しているはずである。にもかかわらず失格になっているのは、参加者の能力以外にも原因があると考えるのが妥当である。
 
4.2 技術評価に費やすエネルギーの損失
 技術評価点の審査は、各参加者の技術提案、施工計画および実績などを公平に採点して数値化する作業であり、加算点が高くあるいは参加者が多くなるほどその作業量は膨大になっている。しかしながら、上限拘束制により予定価格超過の入札は失格扱いとなり、その場合には審査あるいは企業が準備に費やしたエネルギーは水泡に帰すことになる。入札時点での辞退の場合も同様である。
 図-11に示すように、CおよびDランクにおいて評価結果が有効に加算されたのは全体の半数に満たない状況である。すなわち、平成19年度1年間で、7,266社(Cランク4,890社、Dランク2,376社)の技術評価結果が有効に活用されていないことになり、受発注者それぞれがそれらに対して費やしたエネルギーの損失量は看過出来ない量になると考えられる。
 C及びDランク工事は、Aランク工事に比べて評価項目が少なく、また、簡易型においては施工計画に係る技術評価が主であり、審査担当者が1社あたりに費やすエネルギーはAランクの数分の一程度と想定される。しかしながら、審査する件数は40倍近くになっており、物理的に相当な負担になっている。さらに、1件あたりの工事金額はAランクの1/10~1/50程度であり、同一金額あたりのエネルギーに換算するとAランクに比べて著しく大きくなる。そのように大きなエネルギー負担の半分以上が失われていることになっている。
 

図-11 技術評価点が加算された(有効)入札参加者数の割合、平成19年度九州地方整備局

 
 
4.3 予定価格超過・辞退が多い原因
 筆者は、予定価格超過や辞退が異常に多い原因の一つとして、発注者が設定する工事原価に実態を反映しきれてない点があると考えている。それは、現場技術者の人件費である。
 現場における配置技術者の専任義務が徹底され、電子納品対応のために人員を必要とし、さらには下請においても同様の専任制が求められ、それらの経費は工事金額の多寡によらず義務的経費として発生して直工費の見積りに大きく影響している。法令を遵守して、確実な施工を行うための実行予算(直工費)は膨れざるを得ない状況にある。 
 
また、地場の下請は特定の専門工事業者に集中しやすいことから、その結果、見積り金額がほぼ同じになり、パターンBのように接近してかつ予定価格超過となる集団が形成されやすくなる。
 一方、それら現場社員経費などは発注者側では現場管理費として純工事費に対する比率(経費率)計算で算定されている。しかしながら、現場技術者の員数には最少の限度があり、その経費は純工事費に比例して増減できるものではなく、工期に比例するものである。
 この両者の違いによる見積り金額の差は、施工体制確認型の導入とともに顕在化してきたものであり、そして、受注側の直工費見積りが発注側の設定工事原価を上回るため、予定価格超過あるいは辞退が多発しているものと考えられる。義務的経費の性格が強い現場社員経費は、積上げ積算に基づく直接工事費同様に扱うのが一法であろう。
 

図-12 C及びDランクの工事入札において費やされるエネルギーの現状

 
5 各工事ランクにおける現状の問題点と課題
5.1 Aランクにおける課題
 Aランクにおいては、得点率100%を目指す技術提案と下限ぎりぎりの価格算定にほとんどの参加者が相当なエネルギーを費やし、落札者以外はそれが徒労に終わることは承知の上でそうせざるを得ない状況にある。また、落札者においても技術提案には別途仕様としての履行義務が伴い、その費用負担さらには不確定事象に対する対策などにエネルギーを注力せねばならない状況にある。
 この過度のエネルギー損耗を減らすためには、
① 技術評価点に企業評価点を加算して、技術提案の割合を減じる。(過剰な技術提案の回避)
② 汎用性が高くかつ工事等級に見合った上位品質の技術を標準仕様に適用する。(上位品質仕様の履行に係る技術力評価への転換)
を行うことが必要であると考えられる。
 ②については、下限価格を目標にした価格面での競争が続くことが十分に予想されることから、上位品質を旧来の予定価格内で達成するVFMの向上にも合致することになる。また、技術提案の割増し負担による低入札類似の状況を回避することにもつながる。
 
5.2 Cランクにおける課題
 Cランクにおいては、受注者および発注者それぞれが技術評価に費やしたエネルギーの過半数が、予定価格超過あるいは辞退によって有効に活用されていない状況にある。
 この過度のエネルギー損耗を減らすためには、
① 現場管理費に用いる経費率を見直す。(元請けの実行予算との乖離の回避)
② 技術者の専任配置などによる義務的経費を積上げ積算で計上する。(法令遵守の徹底化の促進)を行うことが必要であると考えられる。
 
工事原価の見直しにより予定価格が上昇する可能性は高くなるが、これはコスト削減に逆行することではなく、法令遵守社会における適正価格に戻しただけである。コスト削減は無駄を省くことに主眼があり、その点から現状で無為に費やされているエネルギーを削減することは不可欠である。
 

図-13 各工事等級(ランク)における現状の問題点と課題の整理

 

図-14 総合評価方式に係るこれからの動きと目指す目標

 
6 まとめ
 総合評価方式による一般競争入札は優れた入札形態であり、将来的に継続して実施すべきものである。継続させていくためには、目標とするものをしっかりと見据えた上で、関係者それぞれに無理な(あるいは不合理な)負担が生じないようにしていくことが何よりも重要である。
 図-14に示すような、発注者と受注者が双務・連携しながら良質の社会資本整備に邁進する社会の実現を期待してやまない。本文がその一助になれば幸いである。

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