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佐賀空港建設における軟弱地盤対策について

佐賀県企画県民部 空港・交通政策課
 企画調整主査
山 下 孝 一

1 はじめに
佐賀空港は佐賀市街地から南へ約12kmに位置する,有明海湾奥部の干拓地に建設された,2000mの滑走路を有する第3種空港である。
昭和44年1月,当時の池田知事が空港建設の意思を表明して以来20余年,その間幾多の紆余曲折を経て,平成5年7月本体工事に着工し,約5年間の工期を要して平成9年度末に本体工事が完了し,平成10年7月28日開港を迎えた。
工事にあたっては,空港建設地が有明粘土と呼ばれる日本でも有数な軟弱地盤であるため,プラスチックボードドレーン工法による地盤改良工事を行い,約200万m3の土砂を搬入し造成した日本では初めての満潮時には海面下になる空港である。
また,佐賀空港周辺は広大な空域(周囲20km以内に航空機の運航の障害になるような山や建造物がない)を有し,気流が安定し,かつ航空機騒音対策上の利点(周囲3km以内に民家がない)があるなど空港としての立地条件に恵まれている。
今回の報告では,この佐賀空港建設における軟弱地盤対策についてその概要を報告する。

2 地形・地質概要
(1)地形概要
佐賀空港の位置する有明海沿岸は,九州最大の筑後川をはじめ,その他の中小河川による河成の堆積土砂と縄文海進等による海成の堆積土砂,さらには近世の干拓造成で形成された低平な沖積平野が広がっている。
この地域は,有明粘土(潟土)と呼ばれる高含水比で,軟弱な粘性土が厚く堆積した(平均して地表から15~20mの厚さ,深いところでは30mに及ぶ),日本でも有数な軟弱地盤を形成している。
佐賀空港建設地は図ー1に示すように佐賀平野末端の干拓地(筑後川の分流である早津江川と小河川である八田江川に挟まれた平和搦と国造搦と呼ばれる干拓地)に位置しており,干拓地の標高は旧堤防(中央堤)で区切られた東側の平和搦地区でTP±0~1m,西側の国造搦地区でTP±0mと低く,満潮時には海面下になる空港である。

(2)地質概要
当地区の土層は深さ25m程度を境に上位の沖積層と下位の洪積層に大別される。
沖積層中には,河川の氾濫によって堆積した厚さ数cmから2~3mに至る砂層が復雑に狭在するものの,N値=0の軟弱な粘性土が深さ25m付近まで堆積している。またこの下位には洪積世の堆積物と考えられる中位~やや密な砂質土主体の地層が分布する。
土層構成は地表面から順に表層土(B),上部粘性土層(Ac1),上部砂質土層(As1),中間粘性土層(Ac2),中間砂質土層(As2),下部粘性土層(Ac3),最下部層(Ds)の7種に区分される。Ac1層で1~4m,Ac2層で5~15m,Ac3層で2~15mと場所によってかなりの差がみられる。

(3)土質特性
当地区の粘性土の湿潤密度はρt=1.5~1.6g/cm3 と概して小さい。自然含水比はWn=61.9~91.6%と高い範囲に分布しており,液性限界WL=60.6~78.0%に比べて均衡,ないしは高い値となっており,外力の作用に対して乱れやすい有明粘土特有の不安定な性質を示している。
また力学特性として,一軸圧縮強度quは深度方向に増加する傾向にあり,圧密降伏応力Pcと深度の関係は全般的に土被り圧の分布線上にPcが集中しており,正規圧密の粘性土になっている。

3 軟弱地盤対策の検討
(1)地盤改良の必要性
当空港建設地が前述のように軟弱地盤であるため工事に先立ち,各種の施工条件や限られた工期を考慮した適切な施工方法ならびに残留沈下抑制方法に関して検討を行う必要があった。
そのため
◦軟弱地盤上への盛土施工に伴う沈下挙動の解析
◦諸施設完成後の残留沈下対策
について,一次元圧密理論と弾・粘塑性有限要素法の2種類の方法で解析を行った。
またその際,対策工の必要の有無を見極めるための供用後の残留沈下許容値として10cmの目標値を設定した。
解析の結果,
◦沈下挙動は中間粘性土層(Ac2)によって支配され,一次圧密を対象にした場合でも残留沈下が10cmに至るのに要する日数は約200~800日と長期間を要する。
◦開港後の残留沈下は,開港までに2年間放置期間を確保できたとした場合でも,約10~15cm生じる。
一方,当空港建設では,現場へのダンプ台数に制限があるため,工程上から開港後の残留沈下が目標の10cmを満足することが難しいこと,基本施設に関しては均一な地盤を確保したいこと,さらには予測し得ない地盤物性値のばらつきに起因する不測の状況等を考慮して滑走路やエプロン等の基本施設に関しては地盤改良が必要と判断された。
(2)改良工法の検討
改良工法(圧密沈下促進工法)としてはバーチカルドレーン工法系とプレローデイング工法が考えられた。
長期圧密試験によればプレロードによる二次圧密係数Cαの低減効果が認められるものの,プレロードによるCαの低減効果より盛土厚さが大きくなることに伴う沈下量の増加による経済的マイナスが大きいことから,舗装荷重以上のプレロードはメリットがないことが分かった。
そのため対策工法として,バーチカルドレーン工法の中から,出来るだけ地盤を乱さず,さらには信頼性,経済性等を考慮して,パックドレーン工法あるいはプラスチックボードドレーン工法が有効であると考えられた。

4 試験盛土
(1)試験盛土の概要
前述の解析による検討に基づき,本体工事に先立ち平成3~4年度にかけて試験盛土工事を行った。
試験盛土では,
◦地盤改良工法(パックドレーン工法,プラスチックボードドレーン工法,無処理工法の3工法)の違いによる,改良効果の差
◦実地盤の沈下挙動の把握
を主な目的に,設計・施工計画に必要な資料の把握に努めた。
試験はパックドレーン(SD)工区,プラスチックボードドレーン(PD)工区,無処理地盤工区の3工区とし,Ac2層が厚い国造搦西側地区で実施した。

(2)試験盛土結果
試験盛土の結果,
◦パックドレーンとプラスチックボードドレーンではほぼ同様の改良効果が認められたため,経済性,施工性から改良工法としてはプラスチックボードドレーン工法を採用することとした。
◦開港を平成10年と設定すれば,盛土の放置期間は約1年程度確保でき,その間に圧密沈下を終了させるためには改良ピッチは1.5mとなる。
◦圧密沈下速度に関しては,沈下の小さいAc3層は別としてAc1層とAc2層ではこれまでの標準圧密試験より求められる圧密係数Cvで実測の挙動を表現出来ており,またドレーン工区では,無処理工区で実測を表現出来るCvを用い,ウエルレジスタンス係数Lを上層部で0,中・下層で5~10を用いると実測に合う沈下予測が得られることが確認出来た。
表ー1に圧密係数Cv値を示す。

一方,沈下量については実測値と予測値とは必ずしも一致しておらず,最終沈下量でいうと事前解析値に対して60~70cmと大きな差が生じた。
このため沈下予測に用いる圧縮指数Ccの検証が必要となった。

(3)沈下解析の検証(実測値と解析値の比較)
沈下量の予測が小さかった理由としては,標準圧密試験による圧密荷重増加率△P/P=1では現状の盛立て状況に対応した適当なCcとなっていないことが考えられた。このため圧密荷重増加率△P/P=1に変えて,現状の盛土状況に近い定ひずみ速度圧密試験を実施した。試料は沈下量が大きいAc2層で,非盛土部から採取した不撹乱試料を対象に,載荷ひずみ速度は0.02%/minとした。
定ひずみ速度圧密試験のe~logP曲線は,圧密降伏応力後に急激な勾配を示すのが分かる。今回の試験盛土による増加応力はこの急激な変化を示す範囲内にあり,このe~logP曲線の違いが予測沈下量を過小評価した原因であったと判断した。

試験盛土での標準圧密試験による圧縮指数Ccと動態観測から逆算して求めたCcは,全体の沈下量への寄与率が大きいAc2層についてみると,動態観測から逆算して求めたCCは1.53と標準圧密試験から求めた0.81に対して約8割増しの大きさになっている。
表ー2に当空港建設での実測沈下から逆算したCcの平均値を示す。

5 地盤改良工事
(1)地盤改良工事の概要
地盤改良工法は試験盛土の結果からプラスチックボードドレーン工法を採用した。改良区域は基本施設(滑走路・エプロン・誘導路等)とし,ドレーン材は1.5mの正方形配置で,下部砂質土層(Ds)まで打設した。改良幅については,地盤改良部と未改良部との間で地盤沈下特性の違いによる不同沈下により舗装本体に影響を及ぼさないように,改良の余裕幅を舗装部の両端から10mとした。
また,圧密排水を良好に促し,かつ施工重機のトラフィカビリティを確保する目的でサンドマットの厚さは1mとした。

(2)造成盛土の設計について
① 造成盛土の考え方
滑走路・エプロン等の造成盛土は,開港後の残留沈下10cm以内を目標に,舗装荷重をプレロードとし,造成盛土の沈下により路床土を確保することを基本的な考え方としている。具体的には盛土は台形荷重として以下の手順により造成盛土の厚さを決定した。
◦地中応力は台形荷重の応力伝播式を採用し,地下水位以下となる部分は浮力を考慮する。
◦沈下計算はCc法を適用する。
◦盛土体と舗装体の重量差を考慮し,盛土中心の高さが沈下終了時の計画高さより10cm高くなるような盛土厚とする。
② 沈下量の計算
最終沈下量の算定は粘性土についてはCc法を,砂質土についてはN値を用いた小泉の式を適用した。
③ 増加応力(△P)の考え方
盛土荷重による地盤内の応力増加はOsterbergによる台形帯状荷重による鉛直応力により算定した。
④ 圧密解析手法
圧密解析に用いる理論は,無処理工区についてはTerzaghi理論を,地盤改良工区についてはBarronの理論を用いた。
⑤ 漸増荷重の考え方
本体の盛土載荷は工事期間中漸増的に載荷されているが,TerzaghiおよびBarronの理論式は全荷重を瞬間的に載荷することを前提としている。このため解析値と実測値との時間的な整合をとるため,漸増荷重は「Terzaghiの図解法」と呼ばれる解析法を用いた。

(3)計測管理施工
当空港における本体盛土は盛土厚が大きい場合は不経済になるし,逆に小さい場合には,計画高を満足しないだけでなく,場所によっては路床厚を確保できなくなる(本空港では,現地盤が極めて軟弱な粘性土であり,そのままでは路床材としては不適当であるため,沈下したマサ土が路床材となるよう計画している)。
従って,適切な盛土厚さを設定することが当空港設計における重要な課題の1つであった。
しかしながら現実的には沈下はどうしても予定通りにはいかない,そのため,盛立て後の沈下観測でいかに早く,精度のある最終沈下量,時期を確定し,対応を図るかが必要となった。
◦そのため,本体施工を兼ねた試験盛土を先行し,その結果により,より現地に合ったCc値,Cv値等を設定し,本体盛土工事の盛土厚の設計・施工に反映させることとした。
◦さらに,実施した盛土の沈下状況を約20m間隔に配置した地表面沈下板(約2千点)により観測し,双曲線法による沈下解析を随時行って,最終沈下量,沈下収束時期,残留沈下量,路床厚を確認しながら最終的に盛土厚さを修正し,設計条件を満足するよう施工を行った。
◦この場合の沈下予測手法としては、前述の通り沈下速度が速い当空港工事では経験則を応用した双曲線法を用いた。
その結果,無処理工区で盛土終了後約200日程度で,ドレーン工区で約2か月でかなり精度の高い沈下予測が可能であった。

6 工事を終えて
(1)計測管理施工のシステム化について
前述の通り,軟弱な地盤上での盛土で,計画通りの沈下を精度をもって行うためには計測管理施工が必要であった。
しかしながら一連の作業についてはどうしても時間がかかり,いかに短期間にその作業を完了させ工事に反映させることが出来るかが問題であり,工事とリアルタイムに盛土の修正が出来るような計測管理施工のシステム化の必要性を痛感した。
(2)圧縮指数Ccの設定について
沈下量の算定については前述のとおり,当空港建設地周辺の有明粘土では定ひずみ速度圧密試験により圧縮指数Ccの設定が必要であった。
しかしながらこの方法は一般的には行われていないため,土の物性等から簡便的に圧縮指数を推定する方法がないか検討を行った。
従来,圧縮指数については液性限界値等との相関が言われているが,有明粘土においてはそれよりも含水比との相関が良いことが報告されている。
当空港建設での資料でもその相関関係は確認されたが,精度の面から現時点ではこの方法での推定値をそのまま実施設計で使用することには問題があり,今後資料の整理によっては基本設計等(概算沈下量の算定)での使用など検討に値する課題だと思われる。
(3)残留沈下について
当空港での残留沈下は開港後10年間で10cmを目標に設計・工事を進めて来た。
それに対し,開港後1年間の滑走路の平均沈下量は13mmとなっており,現時点では,当初の計画である残留沈下10cm以下を十分達成出来るものと考えている。
(4)最後に
当空港建設は当初から軟弱地盤対策が大きな課題であった。そのため,どこまで残留沈下を小さくできるかが工事を行うに当たってのポイントとなった。それに対応するため,学識経験者からなる技術検討委員会を設置し,指導を仰ぎながら工事を進めてきた。
しかしながら,佐賀県において初めての空港建設,また限られた工期と軟弱地盤での大規模土工,さらに決して恵まれているとは言えない職場条件等,あらゆる面で試行錯誤の末,立派に工事を完了出来たのも工事に携わった若い技術者達の頑張りによるものと言える。
最後になったが,佐賀空港の建設にご支援,ご協力いただいた関係各位に紙面を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。

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