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フロート式無動力魚道ゲートの開発について

 

建設省 筑後川工事事務所長
藤 田 信 夫

建設省 筑後川工事事務所
 機械課長
石 井  開

1 はじめに
従来から魚道の必要性は認識されており,これまでにも様々な形式の魚道ゲートが考案,設置されている。特に近年,自然環境保護,動植物対策といった観点から,本来の目的である魚の上りやすい魚道の開発がなされており,非常に喜ばしいことである。
この度,治水安全度の向上を図り,災害のない,水と緑の豊かな町づくりをめざした松原堰改築事業の一環として,自然環境を考慮した魚に優しい魚道ゲートの開発を行った。本魚道ゲートは魚道ゲートとしては初めてフロート式ラジアルゲートを採用したものであり,無動力で作動するメンテナンスフリーの多自然型設備として期待される。

2 従来の魚道および魚道ゲート
魚道には,階段式やバーチカルスロット式,デニール式など多くの形式があるが,アユなど比較的遊泳力の弱い魚種には階段式魚道が最も過していると考えられており,我が国では,階段式魚道が最も多く採用されている。
この階段式魚道には魚道上流部(魚道出口部)にゲートが設置されるものとゲートが設置されないものがある。魚道ゲートが設置されない魚道では,河川水位が上昇した場合,魚道内の流量,流速が大きくなり,魚の遡上が困難になる。また,河川水位が下降した場合には魚道隔壁の越流水深が小さくなり(越流しない場合もある),魚の遡上が不可能になることが考えられる。このため,従来から設置対象とする河川の水位変化最が大きい魚道には魚道ゲートが設置されており,その形式は起伏ゲートがほとんどである。従来の起伏式魚道ゲートは,高さの異なる複数門の起伏ゲートを直列に設置し,最上流のゲートを油圧シリンダ等で開閉させ,連結軸を介して全門のゲートを操作するものである。

3 新形魚道ゲートの概要
(1)開発経緯
従来形の起伏式魚道ゲートは起立角度によって流況が変化し,必ずしも魚が遡上しやすい魚道ゲートとは言い難い。そして,この流況を改善すべく,既に昇降式魚道ゲートが提案されている。昇降式魚道ゲートはゲート開度が変化しても流況は大きく変化しないため,現在のところ魚の遡上に最も適したゲートであると考えられている。しかしながら,昇降式魚道ゲートは水路下部に躯動用の卜ルクアーム機構が納められ,その駆動は油圧シリンダで行うことから,維持管理面等に改善の余地が残されていると考えられる。
以上のことから,流況面では昇降式の長所を生かし,さらに維持管理面に優れた,新形魚道ゲートの開発を行うこととした。
(2)構造概要
図ー1に示すように,本魚道ゲートはフロート式ラジアルゲートで,扉体は無動力で作動するものである。構造は扉体の両側にフロートを取り付け,そのフロートから出た腕を支持桁にピン支持された非常にシンプルなものである。また,フロートは魚道水路両側のフロート室内に設け,フロー卜室へは連通管により導水して,扉体上流側の水位に連動して扉体を作動させるものである。

4 詳細構造検討
(1)ゲート形式
フロートで作動させるゲート形式として,本ゲートは次の理由により,ラジアル式ゲートを採用することとした。
① ゲート開度の変化に関わらず,魚の遡上に適した安定した流況が得られる。
② 扉体に作用する水圧荷重は回転軸により支持されるため,摩擦抵抗が小さくスムーズな動きが期待できる。
③ 扉体位置は回転軸により限定され,横振れが無いことから,フロート室壁を貰通する部分に防塵ゴムを設けることができ,フロート室内へのゴミの侵入を最小限に抑えることができる。
(2)フロート形状と構造
ラジアル式ゲートは回転軸を中心とした1回転運動となるため,水位変化によりフロートの水没範囲が微妙に変化することになる。このため,フロート形状は円筒形状とし,水位変化に対して,一定の浮力が得られる構造とした。
また,円筒形フロートは強度面から考えても合理的であり,さらに将来的な安全対策としてフロート内に発泡ウレタンを充填することとした。
(3)扉体形状
扉体の正面形状は中央部の越流水深が最も大きくなるV字型形状とした。これにより,端部と中央部で界なった越流水深が得られ,魚は自らの遡上能力に見合った水深を選んで遡上することが可能となる。また,V字型形状は左右のバランスが良く,作動に対する悪影響が無い。
扉体の天端断面形状は半円形状とし,魚を傷つけることなく,遡上できるようにした。また,本形状は越流時に水脈が天端から剥離することがないため,泡立ちが極めて少なく,魚は容易に遡上することができる。
(4)出水時の対応
出水時に扉体が上限位置以上に上昇しないようにストッパを設けることとした。また,扉体およびフロートは耐圧構造であり,出水時にはフロートの余剰浮力により,フロートはストッパで完全に固定され,圧力変動に対しても振動しない安全な構造となっている。
(5)流下物の影響
フロートは魚道両側のフロート室内に納められ,流水部には扉体のみが露出していることから,流下物は扉体に絡み付くことなく流下する。また,フロート室壁を貰通する部分に防塵ゴムを設けることで,ゴミや土砂の侵入を防止する構造とした。

5 作動の原理と状態
本魚道ゲートの作動の原理および状態について次にのべる。
ここで,水位等については松原堰魚道ゲートの設計値である。
(1)WL1(No.1ゲート上流水位)がTP6.99時には,No.1ゲートおよびNo.2ゲートは共に上限位置にある。この状態ではNo.2ゲートには上向力が発生しているが,フロート室に設けた上限ストッパが機能し,No.2ゲート天端はNo.1ゲート天端より200mm低い位置が上限位置となる。
この時の魚道内水泣はWL1~WL2,WL2~WL3, WL3~WL4のすべての落差が200mmとなる(図ー2①)。
(2)WLlがTP6.99からTP6.79までは,No.1ゲートのみがWL1に追従して作動し,No.2ゲートはストッパにより上限位置にある。
この時の魚道内水位はWL1~WL2のみが変化し,WL2~WL3,WL3~WL4の落差は200mmのままとなる。
(3)WL1がTP6.79時には,No.1ゲート天端はNo.2ゲート天端と同じになる。この水位以下ではNo.2ゲートはストッパから開放される。
この時の魚道内水位はWL1=WL2となり,WL2~WL3,WL3~WL4の落差は200mmである(図ー2②)。
(4)WL1がTP6.79からTP6.59までは,No.1ゲートとNo.2ゲートがWL1に追従して作動する。
この時の魚道内水位はWL1=WL2の状態で変化し,WL2~WL3,WL3~WL4の落差は200 mmのままとなる。
(5)WL1がTP6.59時には,No.1ゲートとNo.2ゲートは下限ストッパに着床する。
この時の魚道内水位はWL1=WL2=WL3となり,WL3~WL4の落差は200mmである(図ー2③)。

6 魚道ゲート形式と特徴
従来形魚道ゲート形式との特徴比較を表ー1に示す。
下表に示すように,フロートラジアル式魚道ゲートは従来形魚道ゲートに比べ,機能性,経済性共に優れている。

7 工場製作と現場据付
本ゲートは複雑な曲面を有するラジアルゲートであり,製作精度確保のため,工場仮組立により入念な寸法チェックを行った。また,ほとんどの部材がオールステンレス鋼(SUS304)であることから,溶接時の入熱量管理や歪み取りの鋭敏化温度範囲の急冷による回避およびもらい錆防止等に注意を行った。また,魚道ゲートにステンレス銅を使用すると,反射光が魚の遡上に悪影響を及ぼすという意見があるが,酸洗い処理により艶消しがなされることから,実際にはその心配は無いものと思われる。
製作完了後に工場内の水槽にてフロート部分の作動テストを行い,設計値どおりの水位追従性を確認した。
現場据付は扉体とフロートを分割して,トラッククレーンにて吊り込みを行い,フロート室内にて一体化した。また,本ゲートは据付精度が極めて重要であるため,左右回転軸の芯出し,調整および水密ゴム,防塵ゴムの調整には特に慎重に作業を行った。

8 おわりに
本ゲートは松原堰魚道ゲートおよび沖端川調節堰魚道ゲートにて裾付工事が完了し,今年度より暫定的な運用が開始されている。すでに,魚の遡上も確認されており,順調に稼働している。
本魚道ゲートの特徴を以下にまとめる。
(1)浮力を利用して作動するので,動力が不要である。
(2)構造がシンプルで,複雑な駆動装置が無いので,維持管理が容易である。
(3)越流部の形状や流況等が,魚の遡上に適したラジアルゲートである。
(4)電動式ゲートに比べて,イニシャルコストおよびランニングコストが共に経済的である。
(5)洪水時対策も考えた,安全なゲート構造としている。
本新形無動力魚道ゲートは,これまで設置された魚道ゲートの長所を生かしながらも,かつ自然環境面,維持管理面にも配慮した新形のゲート設備である。
今後,本無動力ゲートの適応範囲の拡大を図るとともに,より安全で,自然環境に優しいゲートの開発を期待するものである。

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