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未分解の建設発生材を用いた法面緑化
植物誘導吹付工について

建設省 嘉瀬川ダム工事事務所
 工務課長
勝 木 和 徳

1 はじめに
我が国は,資源利用の約50%を建設資材として消費する一方で産業廃棄物の40%を超える量を建設廃棄物として最終処分している。
また,今後社会資本の更新など,建設廃棄物および建設発生土の搬出量の増大が見込まれている。特に,廃棄物の処理は,水質,大気汚染等,自然環境への影響が問題となっている。
このため,総合的な国土マネジメントを通して「資源循環型社会」を構築していく必要があり,そのためには建設リサイクルを先導的かつ強力的に推進していくことが重要である。
一方,我が国の財政は,極めて厳しい状況にあり持続的発展が可能な社会を構築していくためには,国土建設を効率的,効果的に推進していく必要がある。
今回報告する試験施工の事例は,建設省嘉瀬川ダムの付替道路(図ー1)において,現場で発生した伐採木等の未分解の建設副産物を法面緑化の生育基盤材として活用した新工法であり,潜在自然植生の早期回復と建設工事の課題となっている建設リサイクルならびに建設コスト縮減に資するものである。

2 伐採木の生育基盤材としての適用性
従来,多用されている厚層基材吹付工の生育基盤材は,バーク堆肥,ピートモスを主材料として使用されてきた。このバーク堆肥は肥効分が高くかつ長期にわたって持続するため外来種等,草本類による早期緑化には最適な基盤材であるといえる。しかし,自然の土壌は,一般の生育基盤材に比べて貧養であり,自然植生の回復を行うには必ずしも肥効分の高い基盤材を使用する必要はないものと考えられる。
本試験は,このような観点から従来焼却処分されていた貯水池内の伐採木等をチップ化し,法面緑化の生育基盤材として活用したものである(写真一1,2)。
なお,生育基盤材としての活用方法は,伐採木を堆肥化して用いる方法と未分解のまま用いる方法等があるが,今回は現場発生品を未分解のまま基盤材として用いたものである。

3 試験施工
(1)試験の目的
法面緑化は,
 ① 雨水による法面の浸食防止
 ② 根茎の緊縛力による落石防止
 ③ 自然環境の保全
である。これらの目的に対して厚層基材吹付工が多く採用されてきた。
しかし,時間の経過とともに土壌硬度と撥水性が高まるため,雨水の大半が表面水となって流出する。この傾向は,法面勾配が急になると顕著となり雨水の基盤層中への浸透はさらに困難となる。このため,在来の周辺植物などの侵入が難しい傾向にある。
本試験は,厚層基材吹付工の生育基盤材に代えて,現地で発生する伐採木等の未分解の建設発生木材を用いた新工法であり,周辺植物の誘導を行い潜在自然植生の早期回復を行うとともに,建設リサイクルと建設コスト縮減を図るものである。

(2)試験の概要
 ① 試験箇所の施工概要
試験箇所の施工概要は表ー1に示す。

 ② 試験条件
試験は,図ー2に示すように試験結果の評価を容易にするため,植物誘導吹付工と厚層基材吹付工を並列で施工した。また,緑化目標を低木林とするため,草本類の播種量は通常の300本/m2程度に対し,極力減らしてトールフェスクの50本/m2を採用した。
試験は,基盤層の厚さを1,3,5cmに変化させ,生枝葉と乾燥枝葉およびその混合と種子配合を変化させた7ケースについて,発芽,生育状況および基盤材の浸食,洗掘の状況を調査した。

 ③ 緑化基盤材の配合
各工法の緑化基盤材の配合は,表ー2に示す。この内,植物誘導吹付工の粘性土は,有機物の分解抑制,法面への付着力の付与,浸食防止,保水性の向上,保肥力の増大等を目的として用いた土壌改良材である。

 ④ 施工方法
施工は,法面清掃後,ラスまたは植生ネットを張り,その上に貯水池内で伐採された樹木,枝葉を裁断機でチップ化した複合物に,粘性土,肥料,接合材,種子を混合して吹付けるものである。その施工フローを図ー3に示す。

(3)調査方法
調査頻度は,施工直後から6箇月までは1箇月毎に,その後は6箇月毎で実施している。
また調査項目は,植生の発芽,生育状況を目視による観察と各ケース毎に1m×1mのコドラートを設置し,その中の密度,被度,植被率,草丈ならびに侵入植物の状況および法面の生育基盤材の土壊硬度,浸食,洗掘の状況について調査を行った。
なお,被度は+から5までの6段階で評価した。

4 試験結果
(1)植物の発芽,生育状況
各ケースの施工後1,3,6箇月の発芽,生育状況は写真一3~5に,またケース4・5および6・7の6箇月後の生育状況を表ー3~4に示す。
植物誘導吹付工は,施工後2箇月までは導入植物の発芽,生育の遅延が認められたが,その後は侵入植物を含めて良好に推移し,生枝葉の腐食による窒素飢餓等の生育障害も見られない。
また,生育基盤層の厚さの変化および生枝葉と乾燥枝葉による発芽,生育状況の差もほとんど見られない。

(2)潜在自然植生の回復状況
郷土種の侵入いわゆる潜在自然植生の早期回復は,厚層基材吹付工では2箇月までは見られず,6箇月後においても5種の侵入植物が確認されたにすぎない。しかし,植物誘導吹付工では,2箇月ですでに15種が確認され,6箇月後では23種にのぼりその固体数も多い(写真一6~8)

(3)生育基盤材の浸食,洗掘状況
土壌硬度は,厚層基材吹付工は施工直後が10mm前後であったが,時間の経過とともに上昇し,6箇月で25mm前後となっている。一方,植物誘導吹付工は,施工直後が10mm前後に対し,6箇月もその値はほとんど変化していない。
このため,植物の根茎によって誘導工の基盤が保持する前に基盤層の移動,浸食,洗掘が心配されたが,施工後3箇月に日雨量103mm(時間雨量28mm)の集中豪雨にも抵抗し,その後も浸食,洗掘状況は見られていない。

5 評 価
今回の試験結果は,施工後6箇月と短期間であり今後の生育を見守る必要があるが,植物誘導吹付工の生育状況は良好であり,その実用性は十分に可能であるといえる。
特に,生枝葉等,未分解有機物を使用すると,腐熟,堆肥化過程における窒素飢餓,酸欠,ガス障害等,生育障害が発生する恐れがあることからその使用が避けられてきた。
しかし,未分解有機物による生育障害の発生は,易分解性有機物が急激な発酵を起こすことにより招来されるものであり,緩慢に発酵,分解していく場合は,極端な発芽障害は発生しないとの判断により,生チップに優良粘土を添加し分解の抑制を行うという手法を用いた。
その結果,生枝葉と乾燥枝葉による発芽,生育状況の差は,今回の試験結果からほとんど見られず生枝葉の実用は問題がないといえる。
また,土壌硬度は,施工直後と変化なく10mm程度でありポーラスな構造であることから,保水,保温断熱に優れるため,植物の涵養,育成が促進される。その結果,導入植物の生育と周辺に生長している多種類のスミレ,ハハコグサ,オオイヌタデ,ツユクサ,ハコベ等の多くの侵入植物が認められた。
特に,ケース5に侵入しているツルマメは,図ー4に示すように,維持管理で伐採したヤマハギの成木にツルマメの種子が付着したものを生育基盤材として使用したものが発芽,生育したものであり,本工法は潜在自然植物を誘導しやすい工法であるといえる。
さらに,本工法は,生育基盤材を現地発生品で代用することができるため,厚層基材吹付工(厚さ5cm)に比べて材料費が約40%,工事費で約20%のコスト縮減が図られた。
また,従来行っていた焼却処分が不要となり,経費節減と無用なCOも抑制でき,環境保全にも寄与できる。

6 課 題
植物誘導吹付工は,初期の発芽,生育の遅延が認められた。これは,厚層基材は褐色であるのに対して,誘導材はベントナイトを使用しているため白色に近いことから熱の吸収が関与しているものと考えられる。このため,基盤材の浸食,洗掘対策にも早期に発芽,生育の促進を図る必要がある場合は,カーボン粒子の混入等の対策も必要であると考えられる。
また,基盤材の腐植の進行による法面の安定性については,その性状が未知の部分もあり,今後追跡調査を行いそのメカニズムを解明していく必要がある。
本工法は,空隙が多いことから土質地盤には適しているが,他の土質条件・勾配等に対してもその適用条件を明らかにしていく必要がある。特に,岩盤,モルタル吹付面等のような保水性のない無土壌面に対しては,現場発生土等を混入して空隙を少なくする等,基盤材の配合,厚さを変える等の検討が必要である。
さらに,今回の施工は,約430m2と小面積であったが,今後大面積等の施工性を高めるため,施工設備等の改良を行い,省力化,省人化によりさらに建設コスト縮減と建設リサイクルを促進していく必要がある。

7 あとがき
法面緑化は,法面を保護するだけでなく生態系を保全し,良好な自然環境を創造していくためにも重要である。
今回の試験の特徴は,生育基盤材に従来焼却処分していた未分解の樹木,枝葉と粘性土を接合材として使用した点である。そして,これらの樹木,枝葉が有機肥科として植物の生育に再度有効利用される。
すなわち,植物誘導吹付工は,リサイクル型の地球環境にやさしい工法であるといえる。
しかし,植物は,春・夏・秋・冬の一年間を通して生態の反復が行われるものであり,施工後わずか6箇月と短い期間で評価をするには困難な面もある。
今後追跡調査を行い,その評価を行うとともに,適用範囲,適用条件を明らかにしていきたい。

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