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九州地方計画協会

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昭和35(1960)年、長崎県南高来郡国見町生まれ。
地元の小・中学校および長崎県立島原商業高等学校を卒業後、22歳で家業の有限会社益々屋の2代目代表取締役に就任。平成13年4月、ボランティア河川愛護団体・長崎県里親事業加盟団体「浜の田川をきれいにする会」を立ち上げ、さまざまな活動を続けている。小学4年の女の子と小学2年の男の子、4歳の男の子の父親。45歳。

取材・文/西島 京子

平成17年の5月、108匹の鯉のぼりが浜の田川の河川敷で風の中を泳いだ。鯉のぼりには寄付された方のお子さんの名前が書かれている

「くにみの日」(9月23日)のイカダ下り大会

川の清掃に参加した子どもたちも一生懸命だ

袋いっぱいに集められたゴミ

長崎県の国見町は長崎県南東部の南高来郡の町で、島原半島北部に位置している。北は有明海に面し、南は島原市に接し、南部にある普賢岳外輪山の鳥甲山から発する土黒川、神代川などの2級河川が有明海に注いでいる。また、国見高校サッカー部の活躍によって全国的にサッカーの町としても知られ、名物の「たいらガネ(ガザミと呼ばれるわたりがに)」でも有名だ。

林田さんが土黒川下流の通称浜の田川で「浜の田川をきれいにする会」を立ち上げ、堤防敷や高水敷の草刈りとゴミ清掃活動を始めたのは平成13年4月のこと。現在では草刈りや清掃のほかに、1月にしめ縄などを集めて焼く鬼火や5月の鯉のぼり揚げ、9月のイカダ競争などのイベントを開催している。

会立ち上げのきっかけは、かねてから地元の人に分けてもらい放流していたコイやフナが、頻繁に捕獲されるようになったからだ。

「お年寄りや子どもたちがコイを見て心癒されると思ってやっていたのに、これでは意味がないと、役場にコイを捕らないように看板を作ってほしいとお願いしたら、『川は皆のものやけん、そういうことはできんとですよ』、と言われました。諦めるしかないかと思っていたら、ある人が『ボランティアで川を清掃して、その活動の中でコイを放流したら、ああ、このコイはここで育てられているんだな、と分かってもらえるし、清掃することで住民のモラルも高められる』と言われたからです」と林田さんは話す。

町の運動会に会から3チーム出場して走る。昨年の仮装行列には会員が作ったテナガエビの仮装で清掃の日をアピールした

浜の田川のすぐそばで生まれ育って、子どものころほとんどの時間を浜の田川で過ごしていた林田さんは、以前から地域の子どもたちがまったく川に近付かないことが気になっていた。そこで、子どもを川で遊ばせたい一心で浜の田川の葦を全部刈ることから活動を開始した。

最初の会員は土黒地区10人、多比良地区10人の計20人で、林田さんが子どものころ、浜の田川をはさんで互いに秘密基地を作りジュズダマの実や石を投げ合って「川中島の合戦」を繰り広げていた懐かしい喧嘩相手と仲間達だった。

「最初は遊び場を確保しようと葦を全部切ったんです。そして自分達でセメントを塗って、看板を作りました。会員にはさまざまな職種の人がいて、資材は資材屋さんに寄付してもらい、左官さんには仕上げを、看板屋さんには字を描いてもらいました。

5月には鯉のぼりを揚げよう、正月の鬼火も多比良地区と土黒地区の子どもたちを集めて川原でやろう、と活動内容も広がりました。川に降りる階段は会員の大工さんたちが『よかよ』と無償で作り、鯉のぼりのロープもポールも全部寄付してもらいました。会員さんたちが住民の方たちや子どもたちがどうしたら川に目を向けてくれるだろうと真面目に一生懸命に考えていましたら、県から里親事業に入ったら県もバックアップできると言ってこられたので、3年前に加盟しました」

川の堰に看板を描き終えて記念撮影

地域の小学校も環境問題に取り組んでおり、林田さんは川に親しんでもらうため、土黒小学校や多比良小学校、八斗木学校のゲストティーチャーとして年間50時間授業を受け持つ。

「川を大事にすれば海もきれいになる。海が汚れて生物がいなくなったら、人間の生死に関わるんだよと教えます。山が父親で海は母親、川は両親をつないでいる子どもなんだよ、と」

だが、次第に子どもたちのレベルが高くなり、林田さんはもっと勉強しようと国見町の歴史保存会の方たちを招いて川の昔の姿や役割、水車の位置などを学んだ。

「そのうちに僕達は清掃という名を借りて川の生態系を変えているかも、と気付いたんです。だから、今は水辺に面している浄化作用のある葦は切らず、丘の上にある木や草だけを切ろうというように変わってきました。活動してみないと気付かなかったし、僕達も川を通して成長してるんだと思います」

子どもたちが遊べるようにと置かれたイカダやロープが大人気の浜の田川はアユやフナ、ハヤ、メダカやドンポ、ウナギ、大きなコイも泳ぐ

「本名は益太郎ですが、最近周囲から川太朗にしろ、言われて」と笑う林田さんは、4月から10月までの毎週日曜日、必ず浜の田川にいる

浜の田川は干満の差が1m50cmと大きい。そこでそれを利用して平成14年9月23日「くにみの日」に会でイカダ下りをすることになった。イカダは全部子どもたちの手づくり。監視挺もライフジャケットも漁業組合の人に借りた。大人も手作りのイカダで参加し、大勢の見物客が押し寄せた。

「子どもたちが作ったペットボトルのイカダが一番でした。その子どもたちが最後にこのイカダを分解してペットボトルを分別ゴミとして処理したときは、偉いなあ、これも勉強だなあと教えられました。同じ日に、浜の田川に魚がいることを教えたかったので、川底に網を仕掛けて川の水が八分目あたりのときに全部引き上げるというえぎり漁をしたんです。そのときにふぐが1,200匹、すずきが100匹、ヒラメが15匹捕れたんですよ。それから毎年していますが、漁師さんもびっくりするほど捕れるので、漁師さんからは、川の神さんが味方しとるとばいって言われます。自分もそうかもしれんと思うときがあります(笑)」

子どもたちが手作りした発泡スチロール製のイカダ

イカダ競争中は会員が監視挺で見守る

「今年は長崎県から、川についてがんばってくれているからと予算がついたので、浜の田川の公園化に向かって活動しています。県の河川課と5回のワークショップを開き、会員30人と子どもたちとで、大人と子どもが触れ合える川、末永く愛される川づくりと称して川の公園を設計しました。自然をほとんど残し、遊び場や飛び石を作り、川の中にビオトープを作って保育園の子どもが来られるようにするんです。さらにお年寄りのために川の両端に柵を付けます。葦も私たちの手で全部移植するんですよ。工事は7月からで、下流の生き物を全部捕まえて上流に放し下流から工事しますが、海苔の養殖前の10月に終わる予定です」

今年の春休み、浜の田川からすぐのところにある林田家のお嬢さんは毎日3回川に遊びに出かけ、毎回服をびしょ濡れにして帰ってきたと嬉しそうに話す林田さん。取材当日の浜の田川にも子どもたちが次々と遊びに来ていた。1人ひとりに笑顔で声を掛ける林田さんは、やさしい父親のようでもあり、大きな子どものようにも見えた。

えぎり漁ではこんなに大きなヒラメも

地域の生徒たちが川への思いを綴った作文を張った掲示板も、大工さんたちの手作りだ

土黒地区と多比良地区の子どもたちが集う鬼火

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