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伝習館高等学校卒業、福岡学芸大学中学課程理科専攻卒業後、中学校理科教師へ。昭和50年(1975)に全国ホタル研究会に入会し研究に着手。柳川の矢留中学校や柳城中学校でヘイケボタルの人工飼育を成功させ、文部省や福岡県より奨励される。平成3年(1991)に故郷の三潴郡に転任。平成7年(1995)よりホタルの復活と研究を復活。現在、環境省環境カウンセラー(市民部門)、全国ホタル研究会理事、科学技術振興事業団サイエンス・レンジャー、堀と自然を守る会副会長、三潴郡大木町環境審議会委員、同循環のまちづくり委員会委員、大木サイエンスクラブ指導者。66歳。

取材・文/西島 京子

大木町石丸山公園で水質調査する子どもたち

 

石丸山公園のホタル生息地

大木町石丸山公園で水質調査をする子どもたち

大木町は、福岡県の南西部、筑後平野のほぼ中央に位置している。気候は温暖多雨で、町全体が標高4~5mのほぼ平坦な田園地帯となっており、町全体に張り巡らされた掘割(クリーク)は町全体の14%を占めている。この掘割は荘園時代(奈良時代末)にできたもので、全国有数の溝渠地帯を形成している。

この豊かな自然に恵まれた町も土地改良工事などから、昔ながらの掘割の風景が失われつつあるとして、平成7年(1995)に大木町では「クリークの里・石丸山公園」を建設。その目的は、先人が築いた農耕文化遺産をできるだけ自然のままに整備保存し、魚や野鳥、昆虫、水辺の植物などを保護しながら、人が生物とふれあえる自然観察園とすること、そして町民の憩いの場として利用することだ。

この公園内にある「水沼の観察園」にヘイケボタルを復活させようと、設計段階から関わってきたのが中島重徳さんだ。

町から依頼を受けた中島さんは、平成6年から大木中学校の3年選択理科23名とともに、ホタルを中心とした研究を開始し、ゲンジボタルの幼虫を飼育。その幼虫とえさのカワニナを放流・養殖した。平成7年の6月には十数匹が飛んだ。同年11月にはヘイケボタル幼虫500匹とえさを放流。翌年5月には石丸山公園でホタルの飛翔が見られ、以後、毎年秋に幼虫とえさを放流、水路の工夫で平成12年よりホタルが自然発生するようになった。

中島さんは当時の様子を「見に来ていた親子連れが、『わあ、生きた宝石だ』と感激していたのをよく覚えていますよ」と話し、目を細めた。

侍島の掘割横に立つ中島さん

中島さんとホタルとの出会いは、伝習館高等学校生物部時代のこと。(故)岡忠夫先生の指導で、ホタル、ヌマ貝、ドジョウなどの生物を研究し、中島さんが高校3年生だった昭和31年にホタルの放流・養殖に成功。生物部は昭和39年に全国クラブ活動優秀校九州地区代表となった。

「私は福岡学芸大学を経て中学の教師になりましたが、教職13年目昭和50年(1975)に行われた福岡県小・中・高等学校理科研究協議会筑後大会で、事務局担当、講演依頼のために再会した岡先生にホタルの研究を勧められ『全国ホタル研究会』に入会したのです。それが私が本格的にホタルに取り組むきっかけになりました。その後、私が赴任した矢留中学科学クラブや柳城中学科学部がホタルの研究を発表して日本学生科学賞を次々に受賞、全国三等賞にも入賞。私も奨励研究を受けたのです。このことが、さらにホタルを通した自然環境保全への思いを強めていくことになったのです」

そして、中島さんは福岡県全域をホタルの里にしようという思いを形にするため、昭和61年(1986)に「福岡県ホタル研究連絡会(現在のNPO法人福岡県ほたるの会)」を結成全国ホタル研究会福岡大会を開催、代表となって活動の場を広げていった。

侍島堀再生モデル事業推進委員会主催の堀干し観察会

「クリークの里・石丸山公園」でのホタル放流は、多くの人との出会いを生んだ。町教育委員会主催で開講されている「大木町サイエンスクラブ」の指導者でもある中島さんは、平成8年9月に「大木町グランドワーク準備会」を設立。身近な自然環境や地域社会改善のために、会員たちとアイデアを出し合い活動を続けている。

平成10年に定年退職してからは、大木町役場・教育委員会と連携し、ホタルを通した環境づくりに取り組んで来た。町民の社会貢献活動をサポートする施設「大木まちづくりセンター」の開設にも参画し、平成13年には木佐木小学校南側の水路で行われた「堀干し祭り」にも参画した。

「堀り干しは、筑後地方の冬の風物詩だったんですよ。クリークの水を落として、堀の底泥をさらってゴミ揚げするんです。この泥は田畑の肥料になりましたし、掘割の底にはいろいろな魚がいて、コイやフナなどを素手で掴んだものです。底を太陽に当てることで堀は浄化されるので、昔の掘割の水はいつもきれいでしたねえ。でも大変な作業なので次第に地域住民もしなくなり、汚れきっていきました。ですから環境を考えてもらうために、堀干しを復活させようと、侍島堀再生モデル事業推進委員会を発足して一昨年から侍島お宮周囲で子どもたちを対象に堀干し観察会を開き、水質検査や生き物観察などをさせています」

現在の大木町の堀を青い色で示した堀の現況図

現在「大木まちづくりセンター」に登録している活動グループは41団体ある。この多さは、財団法人「ひしのみ国際交流センター」による積極的な海外研修や交流の結果、環境保護への意識を高めた町民が増えた結果だという。中島さんも平成10年にイギリスのグランドワークトラスト研修に2週間参加し、その後環境庁環境カウンセラーを取得、科学技術振興事業団のサイエンスレンジャーにもなっている。

平成14年に大木町が「大木町堀のマップをつくる会」を発足。中島さんは地域の子どもたちや町民の協力を得て、「堀のマップ」を完成させた。大木町を流れる山ノ井川と花宗川を水源とした掘割が、まるで網の目のように張り巡らされた地図(堀の現況、生きもの、水環境度を示す地図)である。

このような大木町のさまざまな活動を指導してきた中島さんの功績は大きい。子どもたちは大木町の環境に関心を持つようになり、木佐木小学校では独自の「水の憲法」を制定。このような意識が、堀を汚すな、という町民への警鐘となっている。

大木町で見られる絶滅危惧種のメダカ

自然を真似て幼虫を成虫に育てるための実験

「地球は水の惑星と言われますが、中でも豊かな生態系を育む河川や湖沼、干潟などの湿地は、地球環境を守る指標になります。ホタルは幼虫期を水中で過ごすので、汚れた場所では成育できません。ですから水の環境を教えてくれるホタルは『水の番人』と呼ばれているのです。ホタルを含む水の中の生物や魚類が減少したのは水質の悪化が原因。それは我々人間が自然環境を破壊してきた結果なのです。私はこれからも自然環境の調査・研究を行い、次世代にきれいな地球を引き継ぎたいと思っています」

中島さんは、「堀と自然を守る会」をNPO化する努力を続ける一方、各地で地道にホタルの人工飼育講習会を開催している。呼ばれたらどこへでも行くという。静かな語り口調とやさしい雰囲気の、どこにそのバイタリティが隠されているのかと不思議になる。大木町の子どもたちはとても幸福である。

自然を真似て幼虫を成虫に育てるための実験

大木町の堀で収穫される名物のヒシは栗に似た味が人気

 

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