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昭和18(1943)年福岡県生まれ。

龍谷大学経済学部入学・佐賀龍谷短期大学仏教科卒。浄土真宗本願寺派教師。「夕刊佐賀」へ入社後、編集局記者・同報道部長『わが里を流れる よみがえる川』『佐賀百寺』『佐賀の神々』『伝統で綴るわが町わが里』など長期連載、『鑑真と佐賀』監修出版。同取締役編集局長を経て現在は同取締役社長。「むつ企画」代表者。「鑑真和上顕彰会」事務局長。「嘉瀬川観光開発振興会」専務理事兼事務局長。「佐賀県むつごろう会」事務局長。「佐賀県矍鑠の会」代表世話人。

取材・文/西島 京子

 

ライフジャケットを着て、遣唐使船観光川下りを楽しむ人々

 

全国でも珍しい「船上やぶさめ」では、佐賀市弓道連盟の会員が船上から約40m離れた的を狙う

佐賀平野を悠々と南北に流れる嘉瀬川は、本川の長さ約57km、支流を含めた河川の総延長が197.5kmにもなる1級河川だ。その流域面積は368km2にもおよび、まさに佐賀平野を流れる最大河川として、流域の社会・経済・文化に大きな影響を与えている。

2004年9月5日、佐賀市と久保田町の境を流れる嘉瀬川の下流(佐賀県立森林公園・西の嘉瀬川船着き場)で、「遣唐使船レース」が開かれ、県内外から42チーム、約1,000人が参加した。8回目となる今回は、遠く離れた船の的を船上から射る「船上やぶさめ」も初披露され、訪れた多くの観光客の喝采を浴びた。

このレースは、天平時代に中国文化や仏教を日本に広めた中国の高僧、鑑真和上が嘉瀬津に上陸したことにちなんだもので、この船を利用した「遣唐使船観光川下り」も2003年春からスタートしている。色鮮やかな朱色の船は、広島博覧会で実物大に再建造された遣唐使船をモデルにしたもので、舳先のデザインはそのまま生かされている。これは「平成16年度 博記念地域活性化事業」の補助を受けて始められたもので、ここに至るまでには、16年前の歳月と鑑真に魅せられた溝口教章さんの熱い思いと情熱があった。

佐賀県立森林公園内にある「鑑真和上嘉瀬津上陸の碑」。船の舳先に見えるモニュメントは子ども向けの滑り台になっている

開会式で祝辞を述べる佐賀県の古川康知事

16年前、新聞記者だった溝口さんは、ある日ある人から「佐賀県には鑑真が上陸しているというのに佐賀の人は何もしないね」と言われた。

「えっ、と驚いて調べてみると、鑑真は753年、5回の遭難の末、鹿児島・坊津に到着。その後、北上を続け有明海を経て肥前鹿瀬津(現在の佐賀市嘉瀬町付近)に上陸したというのが定説だったのです。そこで“鑑真和上顕彰会”をつくり、碑をつくろうと佐賀の著名人や地元の有力者に働きかけました。私は、鑑真の不撓不屈の精神、よその国のために命を懸けるという鑑真の精神が好きです」

平成5(1989)年11月19日、わらべ唄「鑑真さん」の発表会が開かれ、翌年の11月8日には遂に佐賀県立森林公園で「鑑真和上嘉瀬津上陸の碑」の除幕式が行われた。

「碑は鑑真渡来の年、753にちなみ碑石部分7m、横5m、高さ3mで、この碑のために作家の井上靖さんが文章を書いてくださった。この原稿は現在、佐賀県立博物館に展示されています。この碑は鑑真や僧たちが、荒波に浮かぶ木の葉のように翻弄される運命を描いた井上さんの歴史小説『天平の甍』そのものです」

遣唐使船レースの表彰式。参加チームは毎回1,000人を超える

鑑真和上顕彰会では鑑真にちなむ本を発刊

溝口さんの鑑真和上への思いは、これで終わることはなかった。

「でも地元の人たちは鑑真の歴史にあまり関心を示しませんでした。だから遣唐使船を再現してレースを企画したら若者が関心をもってくれるのではと考えたのです」

これが今から9年前のことだ。「地元の方々は洪水の被害に遭われているから、川は怖いという意識があります。だから船でレースしたいといっても、なかなか理解してもらえませんでした。でも遣唐使船の美しさを見せれば、鑑真が渡来した当時の文化や歴史を学ぶきっかけになり、人と川との共生の意識や流域住民との交流・連携を深めることができると説得しました」

レース前日の参加者による川の清掃では、トラックに3台分くらいのゴミが集まる

1996年に地元の人々や企業を巻き込んで開催された第1回の「遣唐使船レース」には、多くの若者たちが参加した。

「熊本県の加勢川からも参加してくれました。今では中国やそのほかの国の人たちのチームも参加し、常連組に加えて新規参入チームも増えています。毎年8月開催でしたが、今年は台風の影響で1週間延び、9月開催となりました。通常8月に入るとそれぞれのチームが嘉瀬川で練習を開始します。練習を重ねたチーム、勢いのあるチームが強く、今回は女性チームも健闘しました。レース前日には各チーム5名ずつの参加で、川の清掃活動を行います。ボートからもゴミを拾うので、嘉瀬川がとてもきれいになります」と溝口さんは顔をほころばせる。

嘉瀬川の自然に目を見張る観光川下りのちびっ子たち

レースに使われる船は12隻あり、1隻に12人から16人乗り込む。そして4隻が一斉にスタートし、500mのタイムを競う。

「鑑真という名のレース船は普通の船と違って畳3枚分の長さがあるので、小さなボートのようには進みません。レースは水しぶきとドラの音で盛り上がりますよ。今年は台風が多くて、水位が上がる度に船を川から上げたり降ろしたりが大変でした。観光川下りでは、船頭さんがそれぞれ自分の船を決めており、とても大事にしています。船を引き上げるときはまるで馬を引いているようで、船がかわいくて仕方がない様子です。1度だけ船が流されたことがあったのですが、その時は皆、我が子を心配する親のようでした」と笑う溝口さん自身も、船への愛情は格別のようだ。

レースの合間に開催されるジャンケンゲームやガーコ(あひる)レース

観光船の船頭さんは、漁師や会社員、会社経営者などの本職を持つ。もちろん船舶免許を持つベテラン揃いだ。嘉瀬川の川上を上って下る1時間のコースの中で自慢の喉を披露する人もいる。久保田町町長もその1人だという。今春には溝口さんも船舶免許を取得した。

観光船の定員は8人で、料金は1人500円。ただし最少催行人数は5人で、2,500円支払えば1隻を2人で貸し切ることもできる。実際に川下りをしてみると、その風景が驚くほど心地よく、やさしい気持ちになる。川上には人の手が加えられていない自然があり、川の底が見えるほど水も澄んでいる。川上に上るためのエンジン音が響く中、飛ぶ宝石といわれる美しいカワセミの姿も見かけた。

「バルーンフェスティバルの時も、渡し船を出して好評でした。でも最も大切なのは若い世代の後継者を育てることですが」と溝口さんは真剣な表情で話す。

今後は河岸にコスモスや紫陽花などを植える予定もあり、来年には川下りの新コースもできる予定だ。百聞は一見にしかず。心癒やされる遣唐使船観光川下りをぜひ体験していただきたい。

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