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九州地方計画協会

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昭和44(1968)年埼玉県大宮市生まれ。1歳のときに宮崎県北諸県三股町長田に転居。都城泉ヶ丘高等学校、宮崎産業経営大学経営学部経営学科卒。NPO法人大淀川流域ネットワーク理事。(社)日本ネイチャーゲーム協会初級指導員。NPO法人自然体験活動推進協議会(CONE)リーダー。青年元気塾Yねっと会長。21世紀研究会事務局長。全日本少林寺流空手錬心館三股西支部指導員。(社)都城青年会議所、盆地の宝カレンダー倶楽部、どんぐり1000年の森をつくる会所属。(有)しゃくなげの森代表取締役社長、池辺やまめ養殖場代表者。35歳。

取材・文/西島 京子

ヤマメを手にする子どもたち

しゃくなげの花

宮崎県の南西部にあり、都城盆地の東山麓に位置する北諸県三股町は、西に霧島山系を望み、東は鰐塚山系に囲まれた農林業主体の自然豊かな地域である。

その三股町の役場から県道33号線を日南市方面に十数キロ行ったところに、今年で開園15年目を迎える「しゃくなげの森」がある。ここには500種3万本のしゃくなげが植樹され、毎年4、5月のシーズンには約50,000人が訪れる。

その約6ヘクタールある敷地内にはヤマメの養殖場があり、鰐塚山系を源流とする大淀川支流の沖水川が流れている。それは贅沢とも言えるほど、うっそうとした山の木々に囲まれて川面が緑色に染まり、深呼吸せずにはいられない清々しさにあふれている。

この2つの施設の代表を務める池辺美紀さんは、35歳という若さで、驚くほど多彩な顔を持っている。

養殖場で作業する池辺さん。ヤマメの卵や稚魚、成魚がここから九州一円の養殖場に卸される。

池辺さんが務めるのは、4つの自治公民館が集まった長田地区の代表、地域の小学校の総合的学習での先生、社団法人日本ネイチャーゲーム協会の初級指導員、都城観光協会の理事、環境カウンセラーなどのほか、所属団体は9つ、主な職歴だけでも20を超え、さらに今年からNPO法人大淀川流域ネットワークの理事が加わった。

1970(昭和45)年に父親が始めたヤマメ養殖場を池辺さんが継ごうと決意したのは、大学卒業の直前のこと。任されるようになったのは、池辺さんが29歳になってからだ。1歳で埼玉県大宮市から転居。以後、三股町の山や川をフィールドとして遊び育った池辺さんが、この地域の自然の素晴らしさに気付いたのは大学生になってからだ。

「大学に通うために都会で一人暮らしをするようになり、初めて自然の大切さ、豊かさに気付いたのです。地元にいたらわからなかったので、この経験は大きかったですね」と池辺さんは話す。

水が青く澄む沖水川の「がぐれ淵」

「人喰淵(ひとこらぶち)」という深くて危険な箇所もある沖水川

自然や地域の活動に関わるようになったきっかけは、ほかにもある。「経営の勉強で東京に行った時、もしあなたが今死んだら、何が心残りになりますか、と聞かれたんです。考えたら私は地域とのつながりが薄いことに気付きました。私は川の上流で育ち、台風や豪雨のときの恐ろしい川も見てきました。川の下流で暮らす都市部の人たちが知らない川の様子を伝える役割が私にはあると思ったのです」

そして市民グループに参加してとても驚かされたという。

「本業の営業で人に会うと、私は若者扱いで見下ろされてしまうのですが、市民グループだと年輩の方でも私を対等の立場で扱い、発言にも真剣に耳を傾けてくれました。これは私にとって大きな出来事でした」

小学校の体験学習でヤマメの採卵を見せる池辺さん

昨年の第一回ヤマメまつりのチラシ

ダイサギ
田上川には野鳥も多い

池辺さんが宝物という、小学生たちからのお礼の手紙

そして地元の小学校から「ヤマメの養殖を見せてください」という話がタイミングよく舞い込む。池辺さんは子どもたちに、沖水川の上流でヤマメのエサになる水生昆虫を観察させ「ヤマメは水生昆虫を食べます。水生昆虫は川の藻を食べます。川の藻はきれいな川でないと育ちません。その川の源は山や森です。伐採などで木が減少すると山は保水力を失って水が減ります。水が減ると水生昆虫が減って、ヤマメも生きていけなくなります」と説明。その後、ヤマメの採卵や養殖場を見学の後、ヤマメのつかみ取りを経験。そして、最後に自分たちで炭火焼きにして食べる。

「自分たちの命は多くの命のおかげで成り立っていること、命の連鎖があることを教えると、子どもたちはわかってくれるんですよ」見て触って食べて確かめる授業と、わかりやすい池辺さんの話に子どもたちは感動するのだろう。それは生徒たちが書いたお礼の手紙から伝わってくる。「何よりもこれが私の宝物です」と池辺さんは手紙を大切に保存している。このような体験学習は今も地元の小学校で範囲を広げ続けられている。

養魚場でのヤマメつかみ取りに夢中の子どもたち

昨年、三股町と都城の各教育委員会、三股町と都城の各観光協会の後援で行われた「ヤマメまつり」も、池辺さんの企画で始まったもので、今年で2回目を迎える。期間は7月1日から8月31日までで、この間にいろいろなイベントが開催される。「川の自然観察会」「ネイチャーゲーム」「夏の山菜を食べよう」「カヌー体験教室」「夏休み自由研究教室」「お楽しみビンゴゲーム」「川のほとりでギターの調べ」「お魚料理教室」「木工教室」などが一部材料代が必要だが、多くは無料で参加できる。

「実際にするのはほとんど私ですが、市民グループのメンバーが協力してくれますし、カヌーは国体選手だった妹が教えます。地元のギター奏者や児童館の専門の先生、社員の協力も得ています」しかし、今年はNPO法人大淀川流域ネットワークのイベント部会長として、8月中に5回イベントを開催しなければならない。

「楽しんでやっているだけです」と笑う池辺さんは、環境を守るスーパーマンだ。

川の中に棲むヒゲナガカワトビゲラなど、無数の水生昆虫がヤマメのエサになる

昨年、池辺さんは沖水川でヤマメの稚魚を食べに来る「カワネズミ」(宮崎県の準絶滅危惧種)を捕獲し、新聞で紹介された。その記事を読んだ長男の優紀くんが作文を書き、宮崎日日新聞社の新聞感想コンクールで最優秀賞を受けた。その中に「ぼくは、環境カウンセラーの仕事をするお父さんをそんけいしています」という一文がある。本業以外に多くの市民活動や地域活動に参加して多忙な日々を送る池辺さんだが、これはとても嬉しいに違いない。

「小学校の地域の先生として指導していることも、子育てに役立っているようです。多くの子どもたちが将来、環境について考えてくれるきっかけになればいいと思っています。やりがいがありますよ」

3人の子どもたちと空手道場に通う池辺さんは、県空手道選手権大会の組手で8年連続優勝の実績を持ち、今年も8月上旬に北海道で開催される全国大会に出場する。

多彩な活動の中で「環境カウンセラーの仕事が一番楽しい」と池辺さんは言う。環境カウンセラーとは環境省が実施している登録制度で、事業主や市民を対象とした環境カウンセリングなどの活動を行う。池辺さんが取得しているのは、市民部門だ。

「環境カウンセラーとしてグローバルに活動すること、そして『命の語りベ』として沖水川のことを子どもたちへ伝えていくというのが私の夢です」と優しい笑顔を見せてくれた。

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