●石井樋

石井樋は今から約400年前の江戸時代に成富兵庫茂安が、当時頻繁に断水と干ばつに襲われていた佐賀城下の水道用水や佐賀平野の農業用水確保を目的として、嘉瀬川に築造した日本最古の取水施設です。昭和３５年に上流の川上頭首工が建設されるまでの約３５０年間大事に使われてきましたが、昭和３８年の大洪水により壊れてしまいました。本来、石井樋とは石で造られた井樋を指しますが、現在では、象の鼻、天狗の鼻など兵庫が考えた水システムに関する施設全体を含めて、石井樋と呼ばれています。

●成富兵庫茂安

成富兵庫茂安（1560～1654）は、現在の佐賀県佐賀市鍋島町増田に生まれ、佐賀藩の武士、土木技術者として生涯を送りました。兵庫の事業は、井樋（水の出入口）、堤（水を貯める施設）、堤防、水路など大小すべて併せると100カ所以上にのぼり、現在もなお健在で利用されているものが多くあります。兵庫の事業は、直接的には藩の収入確保のための既存農地の安定と新田開発を目的とするものでありましたが、土地と人民（百姓・町人）の心をしっかりつかんだ藩運営であったと言え、今なお東脊振村蛤岳の兵庫祭が行われている事や、兵庫の名前を町名にした北茂安町、佐賀市兵庫町などからも伺い知ることが出来ます。

●石井樋の水システム

石井樋は、佐賀城下にきれいな飲み水を安定的に供給することを目的としています。もともと嘉瀬川は砂の多い河川です。このため、石井樋はいかにしてきれいな飲み水を佐賀城下に送るかに苦心し、水理上の色々な仕掛けが施されています。大井手堰は水の流れを受け止め流れを変え、天狗の鼻・象の鼻で水の流れを緩やかにし土砂を沈ませ、石井樋に導く役目をします。石井樋は、洪水の勢いから多布施川の堤防が決壊しないように三門にして水量を調節、余分な水は嘉瀬川に流す役目をします。その他にも、二重堤（小さな堤防を本堤防の前に造って本堤防を守ったもの）や水防林（洪水の勢いが直接堤防に当たらないよう植えられた木々）、遊水地（洪水を一時的に貯めるポケット）を配置するなど、治水的な仕掛けも沢山造り、嘉瀬川本堤を守りました。天狗の鼻、石井樋などの遺構は現在も現地に残っています。

●石井樋地区歴史的水辺整備事業

石井樋地区歴史的水辺整備事業は、平成５年の皇太子殿下御成婚記念として、佐賀県・佐賀市・大和町、国土交通省が互いに連携・協力し進めている事業です。「ふるさとの　水の流れを　ふたたび明日へ」を基本テーマに、貴重な文化遺産である石井樋の保全・再生・活用を通じて、土木史上重要な河川技術を未来に伝承するとともに、佐賀の水と土を拓いた歴史を学び、嘉瀬川の自然豊かな水辺環境とふれあえる地域の交流拠点を目指すものです。

●石井樋地区歴史的水辺整備事業のポイント

1) 残存する象の鼻、天狗の鼻、石井樋などはそのままの形で利用し、新たに復元する大井手堰などは兵庫が昔造った位置に復元するなど、兵庫が考えた水システムにより佐賀市内に水を流します。また整備に当たっては、遺構の機能を水理模型実験で検証・究明しながら進めています。

2) 兵庫の優れた土木技術を未来に伝承するため、兵庫に関する古文書等の資料を広く集め、分かり易く紹介していきます。

3) 単に兵庫を学び心を癒やす空間だけでなく、生き甲斐や経済活動が生まれる地域の活力・交流拠点を目指します。

●さいごに

石井樋地区歴史的水辺整備事業は、平成17年完成を目指し事業を進めていますが、事業を成功させるためには、幾つかの課題が残されています。１つ目が、PR不足も有り全般的に兵庫の認知度が低いことです。２つ目が、兵庫が活躍した江戸時代から約400年経っていること、代々地域で受け継いで来た古文書など貴重な資料が廃棄される心配が有ります。また、兵庫に関する研究者が少なく、究明されていない部分が多いことです。３つ目が、幾ら良いものを造っても、使い勝手の良いもの、みんなが求めているもので無いと長く利用されないことです。現在、シンポジウムや現地見学会、出前講座等の広報活動を行うとともに、市民の皆さんと一緒に考える場を企画し議論を重ねながら、市民と行政が互いに協力して課題解決を図っていき、兵庫の400年の歴史に負けないよう千年でも地域に残っていく事業として成功させて行きたいと考えています。