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九州地方整備局におけるi-Construction
( ICT活用工事) の取り組みについて

国土交通省 九州地方整備局
企画部 施工企画課 施工係長
松 川  浩

キーワード:i-Construction、生産性向上、ICT 土工、ICT 舗装工、ICT 浚渫工

1.はじめに
1-1 i-Construction の概要
国土交通省では、ストック効果の高い社会資本の整備・活用や、関連産業の生産性向上、新市場の開拓を支える取組を加速させるために、20 の「生産性革命プロジェクト」を選定している。
その一つとして、「i-Construction」に取り組んでいる。本年は「深化の年」として生産性の基礎にある「小さなインプットでも、できるだけ大きなアウトプットを生み出す」という考えのもと、積極的に推し進めている。「i-Construction」が目指すものは、①「ICT の全面的な建設現場への活用」、②「コンクリート工の規格標準化」、③「施工時期の平準化」の3 つのトップランナー施策により生産性を向上させることで、企業の経営環境改善、現場で働く方々の賃金水準向上、安定した休暇の取得、安全な現場を実現することにあり、労働者数が減少しても生産性を向上させることで経済成長を確保することである。

1-2 ICT施工の概要
平成28 年ICT 土工、平成29 年ICT 舗装工、浚渫工(港湾)の取組がはじまり、国土交通省発注の工事で活用されている。また、地方自治体においても、採用がはじめられている状況である。ICT は、従来、人手に頼っていた作業において3Dデータを活用することにより、省力化、効率化を図るものである。具体には、ドローンなどによる測量、マシンガイダンス、マシンコントロールによる現場施工および3D データによる検査、成果品納入までの一連行程を実施するものである。
あわせて、建機周りの計測作業などを減らせるため安全性が向上するとともに、ICT によって精度良く施工できるため、経験年数の浅い若いオペレーターでも精度良く建設現場で活躍できる。アンケートの結果では、起工測量から完成検査までの土工にかかる一連ののべ作業時間について、約26% の縮減効果がみられた。

2.ICT土工の施策
2-1 新基準の導入
よりICT 施工が活用しやすいようにH 30 年4月に基準の改定が行われている。
以下に主な項目を示す。
①TS等光波方式による出来形管理要領の緩和
○自動追尾機能を有するTS と同等の測定ができるもので、かつ望遠鏡を搭載しない光波方式を用いる測定機器等でも使用出来ることとした。但し、国土地理院が定めるTS と同等以上の性能を持つ事が精度確認試験で確認できる場合に限られる。

②地上型移動体搭載型レーザースキャナーによる出来形管理基準と要領(土木工事施工管理基準(案)等)の整備
○広範囲を効率的に計測できるように、地上型レーザースキャナーを搭載した地上型移動体搭載型レーザースキャナーの基準を新設

③無人航空機搭載型レーザースキャナーによる出来形管理基準の整備
○伐採前測量等、よりニーズの高い「起工測量」の要求精度緩和規定の追加
○検証点での精度確認基準の緩和、検証点数の軽減、実施手順の明確化による手間削減

2-2 総合評価落札方式の一部見直し
ICT 土工の工事発注については、総合評価落札方式で評価項目とする運用を平成28 年4 月1 日以降に手続きを開始する工事から適用している。
九州地方整備局では、一般土木で土工量1,000m3以上の河川土工、海岸土工、砂防土工(掘削工、盛土工、法面整形工)及び道路土工(掘削工、盛土工、法面整形工)を対象(ダム本体工事・トンネル工事は除く)に「ICT 活用」を、原則対象工事とすることとしているが、施工者希望Ⅰ型・Ⅱ型の境を20,000m3から10,000m3に変更している。
総合評価落札方式の種類は次のとおりである。
①発注者指定型:大規模の工事で、ICT 活用施工を前提とした方式
②施工者希望Ⅰ型:中規模の工事では、「手上げ方式」(施工者からの提案)により総合評価においてICT 活用施工を加点評価
③施工者希望Ⅱ型:地域企業を対象とする工事では、契約後、施工者からの提案・協議を経てICT活用施工を実施
なお、ICT 活用工事において、実際に生産プロセス(3 次元起工測量、3 次元設計データ作成、ICT 建機による施工、3 次元出来高管理による施工管理、3 次元データでの納品)の全ての段階においてICT 技術を活用した場合には、工事成績評定においても加点することとしている。

2-3 積算基準の一部見直し
施工土量50,000m3以下の工事では、ICT 機械の使用割合が高い傾向にあり、現行の積算基準で設定しているICT 建機使用割合(25%)を超える工事が多数を占めている。施工状況等により使用割合が大きく変化していることから、ICT 施工を普及拡大する観点も踏まえ、ICT 建機の稼働状況を反映した積算基準の見直しを実施している。
また、施工土量の多少により、施工の効率性等が異なることから、より実態に即した積算を可能とするために土工(掘削)の歩掛について、10,000m3以下の小規模施工の区分を新設している。

3.ICT舗装工の施策
3-1 新工種への拡大
ICT 舗装工は、アスファルト舗装関係に限定されていたが、コンクリート舗装も活用できるように今年度より工種拡大を図っている。

4.H30からの新規ICT工種
4-1 ICT浚渫工(河川)
バックホウ浚渫船に対応したICT 浚渫工(河川)の出来形、検査・監督要領(案)を策定している。音響測深機器(マルチビームおよびシングルビーム)による測量で得られた点群データにより3Dデータ作成を実施し、ICT バックホウの施工履歴データと点群処理ソフトウェアを用いた出来形検査を規定している。従来工法と比較して、計測時間の短縮、労力の省力化が期待される。

4-2 インフラの空間把握
ロボットを用いて変状等の正確な位置情報を3次元的に記録・蓄積することで、点検における維持管理の高度化を目指せることから、橋梁やトンネルの維持管理点検結果を3 次元データで納品できるようにマニュアルを策定した。
今後は、「人手」で行っている点検記録写真の整理をAI 等の変状検知機能を組み合わせることにより、格段に進んだ効率的な公物管理の実現を目指す。

5.九州地方整備局における取り組み状況
5-1 推進体制の構築
i-Construction の直轄事業への本格的な導入により、発注業務、検査業務など発注者の仕事の仕方も大きく変更される。それらに対応するためには、具体の行動計画策定や事務所等において取り組んだ結果を検証し、課題分析を行い、より良い仕組み等を構築していくことが重要である。
よって、九州地方整備局では、「i-Construction推進会議」を設立し、各部局が一体となって推進していく体制を構築した。
第3 回i-Construction 推進会議は平成30 年3月27 日に開催され、平成30 年度における行動方針の策定を行った。その行動方針及びアクションプラン( 案) は次のとおりである。

① 3 次元測量、ICT 施工など最新技術を学べる場の創出(講習会等、実機体験会の開催)
・九州7 県での職員、施工者、自治体職員を対象に実機体験ができる講習会開催
・ICT 土工工事現場の見学会開催
・新たな基準に関する講習会開催
・九州技術事務所での研修の実施
②技術活用のアイディアを互いに磨く場の創出(意見交換会の開催)
・既存会議を利用した各種業団体、自治体との意見交換会や最新情報の提供
・産学官からなる協議会の継続開催
③新たなやり方を試せる現場で建設業の魅力を発信(積極的な広報の持続的実施)
・積極的な記者発表等の情報発信
・ベストプラクティスの創出
・3 次元設計データを発注者から提供の試行
④建設産業の働きやすさと安全・安心の向上(施工時期の平準化・現場の安全向上)
・計画的な発注促進
・工事・業務の適切な工期設定
・現場の安全向上

上記4 項目に沿ってi-Construction の普及を図っていく。
平成29 年度の行動については、次項以降に記載する。

5-2 講習会等、実機体験会の開催
平成29 年度は直轄職員、補助業務員、建設業者、設計業者、自治体職員等を対象に84 回の講習会、現場見学会等を開催し、約10,000 人の参加があった。
特に注力した講習会としては、日本建設機械施工協会との共同で「実機体験講習会」を九州7県で開催し、約1,070 人の参加があった。

5-3 意見交換会の開催
ICT 土工の普及促進にあたっては、導入における利点、問題点、克服すべき課題、普及促進の在り方等について意見交換会等を行い、フォローアップを実施し慎重に進めて行くことが重要と考えている。

よって、これまで行ってきた既存会議、各種業団体との意見交換会等を活用しICT 土工に関する意見交換会を50 回実施した。
それら意見交換会の場ならびICT 施工未実施業者のアンケートでは、次の様な意見が出された。
・ICT に関する知識を持った技術者の不足
・小規模でメリットが少ない(採算が合わない)
・ICT 建機・機器が高価(投資に見合うだけのメリットが不明確)
・3 次元設計データ作成に時間を要す
これら意見に関して、基準類の改訂等が実施されているので、本年度実施する講演会等において周知を図ってまいりたい。さらに、生産性向上に関して優れた取組を行った「i-Construction 奨励賞」受賞業者による実施体験講演を開催し、ICT未実施業者へ好事例を紹介して、メリットの周知を図っていく。
また、i-Construction の取り組みを一層推進し、産・学・官で建設現場の生産性を向上させるために関係者間で情報を共有し、行動方針等のフォローアップに繋がる対話の場として設立した「産学官連携会議」を2 回開催し、各委員から課題の抽出を行い、今後、対応策を策定し現場にフィードバックしていく。

5-4 積極的な広報の実施
九州地方整備局のホームページに概要、基準類、各種取組等の情報を集約し、情報発信を行っている。

本ホームページには、実際のICT 活用工事を行う上で、工事打合せ簿等でどの様な書類のやり取りを行えば良いか、どの様な施工管理書類を作成すれば良いのかをまとめた「ICT 活用工事の手引き」を作成し、本ホームページでの掲載および業団体への配布により実務担当者へのフォローアップを図っている。

5-5 i-Construction 奨励賞
平成28 年度に完了した工事を対象に、生産性向上に関して優れた取組を実施した業者を表彰する「i-Construction 奨励賞」を創出して、ICT 活用を推進した。

5-6 現場支援モデル事業
建設業全体の生産性向上のためには、自治体の小規模工事の担い手である中小企業に、ICT 工事を拡大する必要があるため、自治体工事1 件(大分県)を選定し、ICT 専門家を現場派遣することにより、現場施工の生産性向上を実施した。

6.おわりに
i-Construction の目標は、生産性を向上させることで、企業の経営環境を改善し、建設現場で働く方々の賃金水準の向上を図るとともに、安定した休暇の取得や安全な建設現場を実現することを目指しており、これは建設現場における生産性革命であり、働き方革命でもある。
i-Construction に取り組むことで、建設現場がどのように変わり、それにより建設現場で働く方々の処遇がどのように変わって行くのか明らかにし、関係者が共有することが重要である。
昨年度は、施工者の方々をはじめ、ICT 施工に携わる皆様方のご協力により、普及が図られてきた。また、意見交換会等も多数実施し、ご意見等を基に基準類の一部改定にも至った。今後も産学官一体となって推進することが重要であると考えており、中小企業の方へも更に普及できるように、九州地方整備局としても引き続き普及促進とフォローアップに尽力していく所存である。

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