六角川系ガタ土堆積調査
建設省九州地方建設局 武雄工事事務所
調査課長
調査課長
河 野 忠 彰
八千代エンジニヤリング㈱九州支店
技術第一部技術第三課 主幹
技術第一部技術第三課 主幹
山 崎 一 彦
八千代エンジニヤリング㈱九州支店
技術第一部技術第三課 主幹
技術第一部技術第三課 主幹
古 賀 淳 一
1 はじめに
六角川は,その源を佐賀県武雄市西川登町神六山に発し,途中武雄川,牛津川等の支川を合わせ住之江において有明海に注ぐ流域面積341km2,幹川流路延長49kmのー級河川である。六角川は河床勾配が緩く,しかも有明海は潮位差が5m以上もあることから河口より29kmまでが感潮区間である。
さらに有明海には通称ガタ土と呼ばれる超細粒子の粘性土が堆積していることから,この感潮区間の河道には,河口より遡上したガタ土が沈降・堆積している。このガタ土は入退潮流で浮泥となり,沈降,巻き上げを繰り返しながらバランスしていると考えられるが,将来このバランスが崩れるような河道改修が実施された場合,改修計画断面が維持できない可能性がある。
本調査は,このガタ土の堆積状況を把握するとともに六角川の河道改修後の河道断面確保に関する検討を行うに当たっての基礎資料を得ることを目的とし,昭和63年度より実施してきたものである。
ガタ土堆積のメカニズムは,潮汐,降雨,流量などの自然現象だけでなく,河川工事や舟運等の人為的な行為も影響するなど複雑であるため,今後の調査や研究に負うところは多いが,これまでの現地観測結果より得た現況河道でのガタ土堆積挙動の整理結果とこれらに及ぼす諸要因についての考察をとりまとめ以下に報告する。
2 調査概要
昭和63年から平成元年にかけて,ガタ土の堆積と洗掘に関する基礎データを得るため六角川3箇所,牛津川1箇所計4箇所で,大潮時,中潮時および小潮時の3回にわたって河道のSSや流速,流向の同時観測を実施した。その結果を用い,計画河道における堆積・洗掘現象のシミュレーション解析を実施した。
その後,ガタ土の短期的および長期的な堆積傾向と降雨等の諸要因との関係を把握するため,H鋼杭を用いたガタ土堆積調査を継続・実施している(図ー2参照)。
3 ガタ土堆積の現地観測
ガタ土堆積の現地観測は,昭和63年12月より開始して以来7年経過している。現在,六角川と牛津川に設けた16地点の観測点で観測を実施している。観測箇所の位置図は図ー4に示す。
(1)観測箇所
観測箇所は,上流部,中流部および下流部の代表的な地点の他に,河道の形状(直線部や湾曲部)や支川の合流点,河川構造物等を考慮し選定した。選定した観測箇所の諸元(距離標,杭本数,杭頭標高,河道平面位置)は表ー1にとりまとめている。
(2)観測方法
観測は,当初,河川横断測量により実施していたが,水中測量となること,表面が軟弱であり観測精度が期待できないことから,平成2年よりH鋼杭を用いた観測に切り替えた。
(3)観測時期
観測は,ガタ土面が露出する大潮時,小潮時の干潮時に実施している。
その時の潮位は,概ねTP-3.1m~-1.4m(住之江港,平成7年観測時実績)
4 現地観測から得られたガタ土堆積挙動
これまでの現地観測結果から,六角川および牛津川におけるガタ土の堆積傾向(平成元年~7年)を整理するとともに,現地での状況を踏まえ考察を行った(図ー5~図ー6参照)。
(1)河口堰下流(4K200左岸,4K400右岸)
① 平成2年7月出水の際に左右岸とも,浸食されたガタ土が堆積しているが,その後の非洪水期において安定河道に戻っている(a)。
② 河口堰周辺の河床掘削の影響のため,一時的に洗掘が生じていることがわかる(b)。
(2)六角川中流六角橋付近(11K000左右岸)
① 平成元年の出水時に洗掘を受け,ガタ土面が20cm程度低下している(c)。
② ガタ土面の堆積傾向は洪水期に低下,非洪水期には堆積するが,長期的には安定していることがわかる(d)。
(3)六角川中流湾曲部(15K200左右岸)
① 平成7年7月の出水により,湾曲部の内側で流速が低下する右岸側では1.2mもの堆積が生じている。これに対し,外湾の左岸側では流速が早いため観測杭が洗掘され流出した。このことから,河道の平面形状もガタ土堆積傾向に影響を与える(e)。
② 平成4年の観測では左岸側においてのり面の崩壊や工事の影響により短期間に洗掘と堆積が生じている。その変化量は最大80cmにも達することから潮汐や流量以外の人為的な要因も大きい(f)。
③ 平成2年に堆積した右岸側はその後,洪水期と非洪水期で小さな変動を繰り返しながら長期的には安定河道を保っている(g)。
(4)六角川上流新橋付近(24K000左右岸)
① 他の観測地点と同様,洪水期の洗掘と非洪水期の堆積傾向が見られる(h)。
(5)高橋川合流点
① 高橋川の武雄川合流点直前の箇所であるが左右岸とも堆積傾向が顕著である(i)。
② 平成4年の8月から11月にかけて左右岸とも急激な堆積が見られたが,その後緩やかな堆積傾向を示している。これはこの前後で河道改修が行われたためである(j)。
(6)牛津川(0K000左右岸,7K000左右岸)
① 0K000は広い河道を有するため安定しているが,上流7K000は変動が大きい(k)。
② 河川工事の影響により急激な堆積傾向の変化が見られる(l)。
5 まとめ
これまでの観測結果や既往研究成果から,ガタ土の堆積挙動について以下にまとめる。
① ガタ土堆積挙動を支配する要因は,潮汐・流量・降雨等の自然現象,舟運・河川工事等の人為的な要因の他に,河道形状や河川工作物の影響等,多岐にわたる。
② 観測結果によると洪水期の出水や河川工事により一時的に急激なガタ土の堆積や洗掘が見られるが,その後は緩やかな堆積・洗掘過程を繰り返しながら安定河道を保つ。
③ 堆積や洗掘の程度は,河道の平面形状も影響する。流速が増加する外湾側は洗掘が,流速が低下する内湾側は堆積する。
④ 六角川では毎年10月から11月にかけて下流部で海苔舟の往来が激しくなる。既往研究結果では,このため河岸が洗掘されSS濃度が高くなり,しかも流速は上げ潮時が速いことからガタ土が上流へ運搬・堆積するとされている。この点は11K000や15K200の観測結果(図ー5,dやg)でうかがい知ることができる。
6 おわりに
六角川の治水事業は築堤工事も概成し河岸掘削が主要な事業となってきているが,掘削後のガタ土の堆積と流積の減少が懸念されている。一方,本調査では長期間安定した堆積挙動を示す地点が見られた事から現在武雄工事事務所が実施しているガタ土堆積・掃流実験成果と合わせ,計画改修断面が維持可能な河川改修方法の確立が望まれる。