岩盤に根入れされた場所打ち杭の支持力評価について
一新鉛直載荷試験による一
一新鉛直載荷試験による一
建設省長崎工事事務所
建設監督官
建設監督官
寺 本 直 孝
1 はじめに
道路橋の基礎の実績は,杭基礎が圧倒的に多い。近年,市街地に建設される道路橋の基礎杭に,低振動,低騒音である場所打ち杭工法および中掘り杭工法がよく用いられている。
道路橋示方書における場所打ち杭の先端支持力度の推定式は,地盤種別を砂質系地盤と粘性系地盤に区別されている。しかし,基盤岩に根入れされた場合の先端支持力度および岩盤の周面摩擦力度の評価法は道路橋示方書には規定されていないため,各機関においてまちまちの運用をしている。
本試験は,長崎497号佐世保道路(西九州自動車道,図ー1)の沖新高架橋(橋長 675m写真ー1)のT型鋼製橋脚基礎として採用した岩盤(第三紀漸新世の砂岩優勢の堆積岩)に根入れされた場所打ち杭に対して,新載荷試験法(杭先端部にジャッキを装置した試験法)による杭の鉛直載荷試験を行ない,杭先端の支持力特性,岩盤の周面摩擦力度の検討事例の一つとして紹介するものである。
2 地盤概要
当該地盤は,第三紀漸新世の相浦層群と呼ばれる砂岩優勢の堆積岩を基盤岩とし,これを覆って沖積層が分布する。沖積層は,N値<10のシルトが主体となっている。図ー2に土質柱状図と試験杭の根入れ状況を示す。(改良部は矢板締切時に地盤改良を行ったもの)試験杭は基盤岩に1D程度根入れされている。
杭先端部の岩盤の物性値を把握する目的で,室内試験を実施した。表ー1に杭先端付近の代表的なコア供試体の一軸圧縮試験結果を示す。
また,一軸圧縮強度quと深度Zの関係を図ー3に示す。同図より,quは深度方向に強い相関が認められ下式により近似できる。
qu=-1770+105・Z(Z:深度)杭先端位置で当該地のquは先端の深度Z=19.45mを上式に代入し,設計quは270kgf/cm2と設定した。
3 新載荷試験法
今回採用した載荷試験方法は「新載荷試験法」と呼ばれる方法で,杭先端に予めジャッキを装着し,周面摩擦力と先端支持力を互いに反力として載荷する試験である。この方法の特徴としては,
(1)周面摩擦力と先端支持力を分離して測定できる。
(2)反力杭や載荷桁が小さくてよい。また,荷重によっては不要な場合もある。
図ー4に新載荷試験装置の模式図を,図ー5に試験杭と反力杭の配置図を示す。今回の載荷試験では,試験杭の周面摩擦力と先端支持力を反力として杭周面が極限状態に達するまで載荷し,その後不足分の反力を反力杭(本杭)により補足し,最大載荷荷重まで先端に載荷する方法で行った。
表ー2にジャッキの仕様を,表ー3に計測項目を示す。
写真ー2は非回収多筒連動型ジャッキで,揚力は1320tf(6基×220tf)である。写真ー3はジャッキを鉄筋かごの先端より70cmの筒所に取りつけたものである。
写真ー4は杭頭での反力桁であり,測定当日は,これをシートにてドームを作り,雨および風の対策を行った。
4 載荷試験結果
図ー6に荷重~変位量曲線を,表ー4に最大載荷荷重を示す。表中の杭頭換算の最大載荷荷重とは,周面摩擦力度と変位量の関係およびジャッキ荷重と下向き変位量の関係を荷重伝達解析することにより,杭頭荷重に換算したものである。
図ー7に杭頭および杭先端における,それぞれの荷重~沈下量関係を示す。杭先端は,硬質な岩盤に根入れされているが,Pp~Sp/D関係は非線形的挙動を示している。また,杭先端での最大荷重時(Pp=1320tf,Sp/D=1.93%)においても破壊はおろか,明確な降状点も見いだせない。
図ー8には,計測された鉄筋計のひずみにより算定した各鉄筋計間ごとの周面摩擦応力度τと変位量の関係を示す。同図より,砂礫部および岩盤部にあたる第5層の周面摩擦応力度が大きく発現していることが分かる。また,ピーク発生後,他層に比べ,周面摩擦応力度の低下が著しいことが認められる。
5 杭先端支持力度の評価
(1)先端支持力度の評価上の検討
先端支持力度の評価にあたっては,図ー9に示す手順に従い,検討を進めた。
① 岩盤の破壊ひずみεf´
杭先端の根入れ部は三軸応力状態であり,一軸状態のコア供試体の挙動とは異なると考えられるが,ここでは,既往の成果に基づき,εf´=εf≒1%とした。
εf=コアの破壊ひずみ
② 岩盤の良好度
コア供試体の一軸圧縮強度quと亀裂や割れ目等の影響を無視できない岩盤の一軸圧縮強度qu′は異なる。今回は表ー5に示す「岩盤の良好度」の指標を用いてqu′=岩盤の良好度×quで評価した。ここでは,0.5~0.75と判定した。
③ 杭先端での岩盤ひずみε′
杭先端での岩盤ひずみε′は「沈下の影響範囲:λ」という概念を導入して,杭先端沈下量Sp/λとして評価することにした。
εf´(1%)=Sp/λ=Sp/6D
Sp/D=6%
すなわち,先端での極限支持力は沈下レベルにして6%時に発現すると想定されることとした。
(2)先端支持力度の推定式
図ー10に,コア供試体と杭先端部の応力比~ひずみ関係を示す。杭先端の応力比(q/qu′)は最大荷重時でも,0.68程度にとどまっている。これからεf´=1%時のq/qu′を推定することは容易ではないが,ここでは最大荷重以降の応力比~ひずみ関係を便宜的にコア供試体の勾配に準じて変化すると仮定した。図中には一軸圧縮試験結果のばらつきを考慮した場合(良好度0.5~0.75)のq/qu′~ε′関係も併記している。εf=1%時に着目し,q/qu′を求めると1.2~1.5が得られ,平均値は1.3程度となる。したがって,今回の試験からは,下式で推定されるとの結論が得られた。
qu=(1.2~1.5)qu′≒1.3qu′
qu′(準岩盤強度)=岩盤の良好度×qu
qu:コア供試体の一軸圧縮強度
6 岩盤部の周面摩擦力度の評価
図ー8の第5層の試験結果には,砂礫部も混在した結果となっており,岩盤部のみに着目するため砂礫部の周面摩擦力度を除いて岩盤部のfを推定する。当該地盤のような硬質な岩盤に根入れされた杭の岩盤部のfを地盤物性値と関連付ける場合,N値よりも信頼性が高い粘着力で評価することにした。表ー6に検討結果を示す。ここでは,下式で推定されるとの結論が得られた。
f=(0.44~0.54)C′≒0.5C′
C′(粘着力)=qu′/2
7 おわりに
試験杭の載荷試験結果より岩盤に根入れされた場所打ち杭の先端支持力度,周面摩擦力度について今回は次の結論を得た。
(1)岩盤に根入れされた場所打ち杭の先端支持力度quは,準岩盤強度qu′と関連付けて,qu=1.3qu′で推定できる。
(2)岩盤に根入れされた場所打ち杭の周面摩擦力度fは,f=0.5C′(C=qu′/2)で推定できる。
先端支持力度を地盤物性値と関連付ける場合,「岩盤の良好度」の判定が重要であり,今後原位置岩盤とコア供試体の変形係数の比によっても検討し,qu~qu′関係を確認しなければならない。また,より軟質な岩盤での載荷試験を実施し,適用範囲を検討したいと思っている。
参考文献
1)土木学会編:土木技術者のための岩盤力学
2)桜井春輔:トンネル掘削によるゆるみ領域,トンネル工事における変位計測結果の評価法
3)土質工学会編:土と基礎実用数式,図表の解説,土質基礎工学ライブラリー
4)飯田隆一:土木工学における岩盤力学概説
5)岡本敏郎,土谷尚:新しい現地調査法,変形・強度を求めるための現地調査法
6)㈱建設技術研究所:沖新高架橋載荷試験解析業務委託報告書