平成4年度技術士試験をかえりみて
(建設部門出題傾向と解答例)
(建設部門出題傾向と解答例)
日本技術士会九州地方技術士センター
受験対策委員会 専門委員
受験対策委員会 専門委員
総 括 矢 野 友 厚
土質および基礎 野 林 輝 生
鋼構造およびコンクリート 是 石 俊 文
河川砂防および海岸 石 本 俊 亮
道 路 久保田 信 一
平成4年度技術士第2次試験の筆記試験は,昨年8月26日および27日に福岡市ほか7カ所の試験場で実施され,筆記試験合格者に対する面接口頭試験は同年11月28日から12月16日までの間に東京で実施された。技術士試験の指定試験機関である(社)日本技術士会の発表では,4年度の技術士第2次試験の受験申込者総数は17,517名で,前年度に比し実に2,665名(+18%)の増で,7年連続して1万人の大台を越えたほか,10年前の昭和57年度の,7,228人に対し2.4倍強,合格者総数もまた技術士制度創設以来の最大数1,643名に達したと報じている(なお,平成5年度の受験申込者総数は18,187名に達し,うち福岡試験場での受験申込者数は1,369名である)。
また,建設部門の受験申込者総数は,全部門申込者総数の63.7%に当たる11,161名で,このうち筆記試験受験者数は6,208名,最終合格者数は989名で,合格率は筆記試験受験者数に対して15.9%,受験申込者総数に対して8.9%で,国家資格として評価が尊敬されるなか,これまでどおり試験合格は相当に厳しく狭き門であることを示している。
我が国の社会資本の一層の充実が,内外から強く要請されているなか,多くの合格者が生まれるよう期待したい。
同年度の筆記試験ならびに面接口頭試験の試験科目と設問傾向には殆ど変化はなく,具体例をあげてその概要を記述すると次のとおりである。
まず,筆記試験選択科目Ⅰ-1(午前9時~12時の3時間で解答記述)の問題は,受験者がこれまで体験してきた技術士に相応しい業務をいくつか具体的に示させ,その業務における技術的問題点と,それに対して受験者が採った技術的解決策を具体的に記述させ,その業務の技術的特色を明らかにさせる仕組みとしている。このⅠ-1の問題は建設部門の11種類の専門科目の全てにおいて,この10年間余問題設問文章の文言に多少の変化はあるものの本質的には内容として同性質の設問形式をとっている。ここに一例として河川砂防および海岸Ⅰ-1問題全文を示す。
選択科目(9-4)河川砂防および海岸 9~12時
Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,技術的責任者として実際に行った仕事のうちから1例を挙げ技術的に説明し,現時点で評価し満足する点および反省すべき点について説明するとともに今後の技術的課題について述べよ。
次に,筆記試験選択科目Ⅰ-2(午後1時~5時の間に,Ⅱの問題と一緒に出題)の問題は,各選択専門科目ごとに,各専門技術分野における最近の技術動向をふまえ,専門的事項について解答論述させるもので,設問内容は本稿の次頁以降に土質および基礎,鋼構造およびコンクリート,河川砂防および海岸,道路の4科目についてそれぞれ一例を示したように,比較的各技術分野の基礎的技術にかかわるものが主体となっている。
Ⅰ-2の問題と一緒に出題させる筆記試験必須科目,Ⅱの問題は建設部門全体に共通する事項で例年2題出題し,いずれか1題を解答させる方式で,平成4年度の問題は次のとおりである。
必須科目(9)建設一般 1時~5時
Ⅱ 次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記して4枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-1 環境の保全が重要視されている現状を踏まえ,建設事業の推進に伴い生ずる「開発と環境」の問題について,どのように対処すべきか,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2 建設技術者の確保が困難になってきている現状を踏まえ,建設部門をより魅力あるものとするため,とるべき方策について,あなたの意見を述べよ。
以上のⅠ-1,Ⅱ-1,Ⅱ-2の3科目の問題のうち,Ⅰ-1は前述のとおり問題設問文章が本質的に固定化に近い状況のため,予定答案をあらかじめ作成し,完全に丸暗記して試験にのぞむことが可能であり,3時間の解答時間で制限文字数一杯の解答を書くのが普通である。しかし,Ⅰ-2およびⅡの午後からの科目問題に対しては,受験者自身の筆記速度を考慮し,各問題に対しバランスのとれた時間配分を行うことが肝要で,以降頁の解答例に付記しているような留意が必要である。
筆記試験合格者に対して行われる面接口頭試験における設問事項にも,これまでと異なった傾向は殆ど認められず,平成4年度試験においても設問項目は次の3項目に分類要約できるようである。
Ⅰ 受験者の技術的体験を主眼とする経歴の内容と応用能力を問う。
Ⅱ 必須科目および選択科目に関する,技術士として必要な専門知識と見識を問う。
Ⅲ 技術士としての適格性および一般的知識を問う。
以上が平成4年度技術士試験の概要と出題傾向であるが,以下に同年度筆記試験選択科目の4問題を選定し,当受験対策委員会の技術士に解答の執筆を求め,模擬解答例として参考のため例示する。
当技術士センター受験対策委員会は,例年,技術士試験受験者のための総合受験対策講座を継続的に実施し,九州地域受験者の受験対策に役立ってきており,技術士資格取得を目ざす技術者は気軽に当センターに相談されるようお奨めする。
土質および基礎 平成4年度Ⅰ-2-11-(C)
下図に示すように,道路建設において,最下段ののり面を梅雨期に施工中,矢印に示す位置にクラックと段差が発生し,最下段ののり面とその上の段ののり面が前面にはらみ出した。なお,各のり面の直高は7m,小段幅は1.5mである。以下の設問に答えよ。
(1)応急対策と恒久対策について述べよ。
(2)恒久対策を実施する場合の調査,設計,施工上の要点を述べよ。
Ⅰ 応急対策と恒久対策について
のり面工事における斜面崩壊を誘発させた原因として,①応力解放による斜面内のせん断抵抗の低下,②凝灰角礫岩の亀裂内への雨水侵入に伴う有効応力の低下,③凝灰角礫岩と頁岩との境界に存在する粘土層(軟質な凝灰岩層)による滑り面の形成等が考えられる。これらの諸原因を踏まえて応急対策と恒久対策について列挙すると次のとおりである。
1 応急対策
(1)のり面掘削残土により,前面にはらみ出したのり面の高さまで早急に押さえ盛土を実施して,斜面土塊の移動を阻止する。
(2)のり表面や,クラックおよび段差が生じたのり面頭部より雨水の侵入を防止するために,のり表面およびのり面頭部にシートおよび吹き付けモルタル等による防水工を設置し,さらに周囲に応急排水溝を設ける。
(3)押さえ盛土実施後も,地下水の供給により斜面土塊の移動を阻止できない場合,水平ボーリングによる応急地下排水工を設置する。
2 恒久対策
(1)用地境界に余裕がある場合,斜面安定解析を実施した上で,のり面勾配を現時点の1割2分から1割5分~2割に変更してのり面の切り直しを行い崩壊した土塊部分を極力撤去する。
(2)用地境界に余裕がない場合,①グラウンドアンカー併用のり枠工,②グラウンドアンカー併用もたれ擁壁工,③杭工およびシャフト工による抑止工等を設置する。これら工法の選定に当たっては,のり面の規模および重要度に応じて検討することが極めて重要である。
(3)斜面への雨水侵入を防止するために,斜面および斜面頭部を吹き付けコンクリートにより充分に被覆し,さらに周囲に地表排水溝を設置する。
(4)各段のり面より水抜きのための水平ボーリングを実施して斜面内に排水管を設置し,斜面外へ地下水排出を促進させて地下水位の低下を図る。
Ⅱ 恒久対策を実施する場合の調査,設計,施工上の要点
1 調 査
正確な滑り面の位置および地下水位等の確認のほかに,凝灰角礫岩および頁岩の風化の度合,地下水供給源,透水性,当該斜面の周辺地形等を詳細に調査する必要がある。併せて,応急対策実施後地滑り計等による斜面土塊の変位観測を行って,応急対策と斜面土塊の変位との相関を検討することにより,恒久対策工選定に当たっての基礎資料とすることも必要である。
2 設 計
当該斜面を構成する基礎地盤は土と岩との境界領域に位置するため,斜面安定解析においては従来の極限平衡に基づく解析のほかに,局所の応力解析を行うFEM解析も併せて実施し,総合的に斜面の安定性を評価する必要がある。また工法の選定に当たっては,斜面構造物の重要度に応じて検討することが極めて重要である。
3 施 工
再施工に当たっては,充分な動態観測体制(地滑り計・伸縮計・傾斜計等)を確立して二次災害の防止を図ることは極めて重要である。一般にのり面の切り直しは,周辺地形によってはスカイカットによるのり面長の極端な増大を招く場合があるため,周辺地形を充分に把握した上で実施することが極めて重要である。また地下水位が極めて高い場合,水平水抜きをボーリングのほかに集水井の設置も検討すべきであろう。
鋼構造およびコンクリート I-2-10-(C)
構造物に用いるコンクリート部材のプレキャスト化の現状について記し,具体的構造物を1例示し,設計施工上考慮すべき技術的留意点を挙げてあなたの意見を述べよ。
Ⅰ 現 状
主要な部材の多くはプレキャスト(以下PCa)部材を用いたフルプレキャスト方式と,部材を半分プレキャストとして型枠にも利用し,残り半分を場所打ちにして一体化するハーフプレキャスト方式とに大別される。いずれの方式も,労働集約型作業の代表とされるコンクリート構造物の施工の合理化に極めて有効な手段として不可欠であり,広く活用されている。
1 フルプレキャスト化方式の例
(1)PCaブロック橋梁(予めブロックに分割したT桁や箱桁を工場で製作し,架設地点に輸送して接合し,プレキャストを導入して一体化する。)
(2)沈埋トンネル(水底部にトレンチ(溝)を掘っておき,陸上で予め製作しておいた幾つかの沈埋函を敷設現場まで曳航し,トレンチ部に沈設して沈埋函どうしを接合した後埋め戻してトンネルを完成させる。)
(3)PCPCa版舗装(工場で製作したPC版を現場に敷き並べ,特殊構造体で結合し舗装とする。)
(4)半円形防波堤(PC構造の1/4円の部材2個をPCケーブルで連結して半円形とし,RCの底版に接合して防波堤本体とする。これをクレーン船で設置場所に運び,堤体内に砂を中詰めして完成させる。)
2 ハーフプレキャスト化方式の例
(1)埋設型わく橋梁床版(薄いPC板を工場で製作しPC桁あるいは鋼桁の上に並べた後,これを型わくとして鉄筋を組みコンクリートを打設する。コンクリート硬化後はPC板と一体となって,合成床版となる。)
(2)建築構造物のPCa床(トラス状に組んだ鉄筋を半ば埋め込んだ状態にしたハーフPCaを製造しておき,この部材を打ち込み型わくとして現場でトッピングコンクリートを打設して合成床版を構築する。)
(3)建築構造物の薄肉型わく柱PCa(単に型わくとして使用するPCaで,構造体の一部とは見なせない。タイルなどの仕上げ材を打ち込んで,付加価値を高めた使用が効果的である。)
Ⅱ 具体例
多摩川沈埋トンネルについて述べる。沈埋卜ンネルは,函体の見かけの比重が小さいため,軟弱地盤上でも建設できる。東京湾岸道路の多摩川沈埋トンネル(延長1,549.5m)もほぼ全長が軟弱地盤上に沈設された。沈埋部は,長さ130m,高さ10m,全幅39.9mのRC構造の函体12個と長さ4.5mの最終継手と称する鋼殻の函体から構成されている。函体は,車道空間および避難空間,企業者空間を持つ4室のRC構造である。
Ⅲ 技術的留意点および私の意見
(1)コンクリートの品質管理
沈埋後の浮き上がりに対する安全性から,比重管理に留意しなければならない。
(2)函体の水密性
コンクリートのひびわれ を極力抑える必要がある。コンクリート標準示方書の温度ひびわれ指数を1.2以上とするのが適当である。セメントは低発熱型高炉B種セメント等を使用すべきである。函体の底面および側面には防水鋼板(型わく兼用)を,頂面はブチルゴムなどの防水シートで止水を図るほか,函体軸方向に適当量のプレストレスを導入し,ひびわれ幅の減少を図ることが望ましい。
(3)接合部
函体間の継手には,函体部より剛性を大幅に低下させた可撓性継手と,函体とほぼ同等な剛性の剛継手とがある。軟弱地盤上に沈設する場合は,地震時にトンネルに生ずる断面力を大幅に低減し得る可撓性継手を用いるのが良い。これは,函体の端面に端部鋼殻を設けておき,継手部の止水を図るとともに,軸方向力に対する圧縮・引張バネ作用をするゴムガスケット,函体相互のずれを防止する水平および鉛直せん断キー,継手部トンネル軸方向に開こうとする変位に対し抵抗する部材として継手連結ケーブルを配置したものである。
河川砂防および海岸 Ⅰ-2-4-(B)
下流が既成密集市街地となっており,流下能力が不足している河川の治水安全度を高めるために考えられる治水方策について体系的に述べよ。
1 洪水規模の設定
どのような治水方策を実施するかを検討するにあたり,はじめに治水規模(対象とする洪水の規模)を設定する必要がある。
これについては,当該河川における過去の洪水状況および地域の重要性等を総合的に勘案して行い計画の対象となるべき洪水を設定する。
2 洪水処理方式
洪水処理方式としては,①河積拡大による疎通能力の向上,②洪水調節による流量削減,の2方策が考えられる。各方策の具体的対応策としては
◦河積拡大による疎通能力の向上
イ 現況河道の河積拡大(掘削,拡幅)による対策
ロ 分水路,放水路の設置による新たな河積確保
◦洪水調節による流量削減
イ ダムによる洪水調節
ロ 遊水池,調節池による洪水調節 がある。
治水計画を検討するにあたり,いずれの方式をとるか,あるいは,各方式をどのように組み合わせるかは,その河川の洪水の特性,流域の地形条件等により検討し定めることとなる。
3 洪水処理計画の立案
具体的に洪水処理計画を立案するにあたっては次のような項目について検討を行い,各項目を総合的に判断して,望ましい処理計画を策定する必要がある。
(1)事業効果について
洪水処理方式を検討する場合には,工事完成後の効果だけでなく,地域の動向や工事の進捗過程における事業効果についても検討する。特に,現況河道の治水能力が著しく劣る場合については,早期の治水整備目標を設定し,洪水処理方針の立案における評価項目とすることも考えられる。
(2)社会生活に与える影響
河道改修によった場合,密集市街部における河道の拡幅は多くの移転家屋の発生が考えられ,事業費の増大とともに,移転に対して社会的容認を得ることが難しく,事業の遅滞が予想される。
また,ダム,遊水池等についても補償範囲が拡大すること等があり,事業の社会へ与える影響についても充分な検討を行う。
(3)事業の経済効果
様々な組合せにおいて事業費を算出し,想定氾濫計算による被害額をもとに,事業の経済効果を検討し,経済的に妥当な方式を求める。
道路 Ⅰ-2-1
道路の役割は,地域の交流の促進,工業,観光等の振興などがあるが,地域の活性化という観点から道路の果たすべき役割について考察し,計画,整備上の留意すべき点について述べよ。
人の移動や物資の輸送に欠かせない最も普遍的な公共交通施設である道路は,自動車交通の急増を背景として渋滞や事故等の交通公害が社会問題に進展している。国土利用の面においては過密と過疎化が進み,多極分散型国土形成促進法の成立をみるまでに至っている。
1 道路整備の基本的視点
道路の機能は交通施設機能と公共空間機能に大別される。両者は道路本来の機能であり,トレードオフ関係のアクセス機能とトラフィック機能へ細分され,さらにアクセス機能の間接効果としての土地利用誘導機能を有する。他方後者は,都市骨格の形成,良好な居住環境や都市環境の形成,保全,災害時の防災空間,都市公共公益施設の収容空間等の多様な機能を有する。したがって,陸上交通の主要な担い手である道路を整備していく上では,国民生活の最大利益を追求するため,かような機能を十分に発揮させることが基本的視点であらねばならない。
2 道路の役割についての考察
鉄道・船舶等と共に総合交通体系を形成している道路は,自動車交通の多様性・機動性・戸口性から全ての交通手段を完結させる。その役割は,前項で述べたような多面的な機能が発揮されることに根源を有している。
かような認識にたって道路の役割を考察すれば,まず第一に産業基盤の形成がある。土地利用誘導機能から土地利用を拡大・促進し,地域経済のなかでの生産力増強等に寄与して交通立地条件改善・土地利用再編から工業・観光等産業の振興を担い,他交通手段との連動により地域間相互を結合する等,産業基盤が形成される。
第二に生活基盤の形成がある。安全迅速な住民の移動と資材の運送が経済活動を円滑化し,交通運輸企業が産業構造中に一分野を占めて経済活動全般へ波及し,公共事業である道路整備が需要創出や経済政策を担い,空間機能との相乗作用で生活圏を築いて交通量増からそれが広域化するように,地域交流の促進で生活基盤が形成される。
第三に文化基盤の形成がある。地域間交流から多くの市町村に埋もれた史跡や町村の個性を発掘して地域の歴史的特徴が認識され,地域文化の資産確立と興隆の促進により知的生産資源が形成される他,交通迅速化から流通コスト低減と労働時間の短縮とを果たして余暇時間が捻出される等,地域住民生活文化の向上が期待できる。
3 道路の計画・整備上の留意すべき点
道路を築造・維持していく目的は,国民経済の最大利益を追求することにある。それを達成するためには上記のような道路役割の効能発揮を目標に,次の3点を基本方針とした道路の計画・整備へ留意しなければならない。
第一には,各種の道路から構成される道路網を体系づけることである。国土構造の骨格となる幹線道路網,地方圏等地域社会の活動を支える地方幹線道路網,および圏域の小規模な地域内で居住環境を形成する一般道路網とにより構成される各道路網を有機的・機能的に結合できるような体系化を図り,道路網構成の各道路が各々の役割を発揮するように交流ネットワークを充実させて安定的な地方圏・都市圏を形成し,もって地域の特性を最大限に発揮するような地域集積圏を創造していく必要がある。
第二には,道路の交通機能と空間機能を保持しながら環境保全にも配慮の届いた道路空間を確保することである。交通量増加と車両大型化で悪化した沿岸環境に対するバイパス・環状道路等の建設や環境施設帯・植樹帯の設置などを,より一層推進する必要があり,さらに抜本的対策として,自動車交通に適する土地利用となるような道路建設の誘導や沿道との一体的な整備を進める総合的制度の確立のほか,道路と建物等との合体建設といった道路空間の多目的利用にもなお一層の推進が必要である。
第三には,道路整備の進捗に応じた維持・交通管理によって地域社会の豊かな生活を実現することである。このためにはまず,交通渋滞の解消や公共交通機関の使い易さにかなう道路構造を確立し,物流の高度化・効率化と情報サービスの高度化を図って生活の利便性を向上させる必要がある。加えて交通事故絶滅の安全対策を進め,歩行者・高齢者の安全確保にも資する沿道連携好景観となる憩える空間の充実や道路地下空間の有効な計画的利用を推進し,生活の安全快適性を向上させる必要がある。
他方,道路新設を計画する場合に限っていえば特に,整備効果を高めるために次のような留意が必要である。
まず,将来の道路整備需要を的確に予測することである。道路および道路交通の実態と問題点とを十分に把握し,将来の整備需要に応じた整備法とその順序を長期的視野で策定しなければならない。即ち,対象とする道路網や道路の性格・規模立地条件等の広範囲につき,整備の時期・位置・構造決定へ多方面からの検討が求められる。
次に,地域に関する上記計画と適合させることである。当該道路や道路網の存する地域における諸種の地域計画の中へ計画道路を位置付けしなければならない。即ち,国・地方や都道府県等諸レベルの機関別に各種の開発計画が策定されるために,これらを地域に関する上位計画として扱った道路計画の整合ある策定計画が求められる。
最後に,計画道路の構築で良好な環境を実現することである。道路を構築することによって活力ある地域づくりへ適した良好な生活環境を創造しなければならない。即ち,雇用機会を創出する企業立地と居住空間を支える宅地供給とを容易ならしめる道路の実現に加え,自然環境と調和した良好な生活環境の保全・形成が求められる。
国民生活水準の高まりに伴うニーズの多様・高度化から,道路に対し環境保全よりさらに進んだゆとりや潤いのあるような安全快適といった質の向上を望む声が増大している。従って,道路技術者に対する課題が益々膨らみ,その使命が一層重要度を進めていくものと考える。
付 記
解答用紙はB-5版の横書き・左綴じで,1行当たり25字を表面に14行,裏面に18行を配した800字詰めの原稿用紙である。答案の作成にあたっては,次の諸点に留意する必要がある。
① 筆記速度を養成し,問題Ⅰ-1以外の全問題答案へ指定枚数の80%以上が埋められること。
② 設問文の意図内容を十分に把握したうえ,なるべく多くの事柄が盛り込まれていること。
③ 報告文ではない論文となるために,自分の意見・見解が述べられていること。
④ 記載順序を体系づけて論述の展開へ配慮し,主張内容に一本の筋が通されていること。
⑤ 多義的に読める曖昧な表現を避け,一義的にしか読み取れない文章になっていること。