建設後52年の吊橋の樋島 大橋(上天草市)における直轄診断
~「道路メンテナンス技術集団」を派遣~
~「道路メンテナンス技術集団」を派遣~
国土交通省 九州地方整備局
九州道路メンテナンスセンター
技術第一課長
九州道路メンテナンスセンター
技術第一課長
梶 尾 辰 史
キーワード:直轄診断、橋梁メンテナンス、樋島大橋
1.はじめに
国土交通省では、地方公共団体への支援として、地方公共団体からの要請により緊急的かつ高度な技術力を要する施設について、直轄診断を平成26年度より実施している1)2)。
直轄診断とは、「橋梁、トンネル等の道路施設については、各道路管理者が責任を持って管理する」(道路法第13 条~16 条)という原則の下、それでもなお、地方公共団体の技術力等に鑑みて支援が必要なもの(複雑な構造を有するもの、損傷の度合いが著しいもの、社会的に重要なもの、等)に限り、国が地方公共団体からの要請に基づき、地方整備局、国土技術政策総合研究所、国立研究開発法人土木研究所の職員で構成する「道路メンテナンス技術集団」を派遣し、技術的な助言を行うものである2)。
本稿では、今回、九州地方整備局の3例目として、図-1、写真-1 に示す熊本県上天草市竜ヶ岳町の樋島大橋にて直轄診断を実施したので、その内容について紹介する。


2.樋島大橋の概要
樋島大橋の橋梁諸元を表-1 に、橋梁一般図を図-2~3 に示す。
この橋梁は吊橋である。両端をアンカレッジで地盤に固定された主ケーブルに、ケーブルバンドで固定されたハンガーロープで上部構造を懸垂する構造であり、主塔間のみが吊構造である。補剛桁はハンガーロープ間の床版・舗装・活荷重等を支持するとともに、上部構造全体の剛性確保に寄与しており、橋全体の耐荷性能に大きな影響がある。主塔は主ケーブルを介して上部構造を支持する大きな圧縮力を受ける柱構造であり、座屈耐荷力に影響する変形や板厚減少、支承の機能障害に注意が必要である。主ケーブルは上部構造の全荷重を主塔、アンカレッジを介して地盤に伝達するとともに上部構造の形状保持を担い、橋の構造安全性に特に重要な部材である。ケーブル部材は、大きな張力を多くの素線で分担しており、ケーブル全断面が一度に破壊する危険性は少ないものの、素線が破断すると、それ以外の残った素線の負担が大きくなる。ケーブル内部の素線や定着部付近、ケーブルバンド部など外観できない部分もあり、素線の腐食・減肉による性能低下や破断の有無には注意が必要である。ハンガーロープはボルトで主ケーブルを締付けたケーブルバンドの摩擦で固定されており、締付力の低下によるバンドの滑りは橋全体の安定を損なう可能性がある。また、本橋は耐風安定性を確保するための耐風索が設置されており、その健全性が損なわれると耐風安定性に支障が生じる可能性がある。
本橋の取付高架橋(樋島側)は、鈑桁と箱桁からなる鋼製の曲線橋であり、特に曲率半径の小さい部分では箱桁となっている。よって、支承部には活荷重の載荷状態、温度変化、地震時の振動などによって複雑な応答が生じ、支承の損傷等による機能障害が生じると、耐荷性能に大きく影響するだけでなく、疲労損傷が生じやすくなるなど、様々な悪影響が生じる可能性がある。



3.調査内容及び調査方法
今回の直轄診断では、現地での近接目視に加えて、内視鏡調査や一部ケーブル内部の直接観察など診断に必要な情報を得るための詳細調査を行った。また、上天草市で実施された令和4年度点検結果及び既往損傷履歴、設計関係資料などの机上調査を実施した。
主な現地調査の内容を表-2 に示す。
吊り構造では剛性が低く、一部の構造の破壊や不安定化は、形状の異常として表れやすく橋梁全体の形状の把握をした。損傷状態の悪化が落橋に直接関係する主ケーブルにおいては、ケーブル補修箇所等での水の浸入の有無や損傷の進行状況等を確認するための開封(くさび割り)調査やセンターステイバンド内部の詳細調査、くさび割りによるケーブル内部の状態の詳細調査を行った(写真-2、3)。現地で腐食した主ケーブルの素線をサンプリングし、機械的性質試験(引張強度試験等)を実施した(写真-3)。
腐食による錆汁が見られる主塔では、これまで未調査の塔柱内部の腐食の有無や滞水の有無等を詳細調査にて把握した(写真- 4)。橋脚基礎の安定に関係する洗掘調査やアンカレッジ周辺の吹付モルタルの変状等についての目視調査も行った。




4.確認された主な損傷状況
(1)上部構造(吊橋区間、取付高架橋)
吊橋区間の鋼部材は全体的に防食機能が低下しており、一部の添接部や格点部などで顕著な発錆及び腐食・減肉が生じており、吊橋部の床組横構格点部では腐食による断面の一部欠損が生じている(写真- 5)。コンクリート床版下面に一部、漏水・遊離石灰が生じており、床版下に位置する横桁などで顕著な腐食が生じている箇所もある(写真- 6)。床版下側に過去に設置された補修材に浮きが生じている箇所があった。
取付高架橋の鋼部材は全体的に防食機能が低下し、添接部などの凹凸部では腐食及び減肉が生じており、箱桁内部においては水の浸入によって添接部周辺に腐食が発生している(写真- 7)。床版においては、床版下面に漏水・遊離石灰や豆板、補修材の浮きが生じていた。



(2)下部構造(吊橋区間下部工、アンカレッジ、取付高架橋区間下部工及び支承)
吊橋区間の下部構造のコンクリート製の主塔基部やアンカレッジにはひび割れ、遊離石灰、うき、剥離等の変状が散見される(写真- 8)。P1橋脚は干満帯に面しており、地盤の洗掘や柱部の摩耗が懸念されたが、そのような変状は認められなかった。坊主島側の地山吹付モルタルにひび割れ、剥離が生じており、地山に一部崩落が認められた(写真- 9)。
取付高架橋のP3橋脚は炭素繊維シートの上に塗布しているポリマーセメントモルタルに一部剥離が認められ、P4 ~ P7橋脚のRC巻立コンクリートに格子状のひび割れが認められる。ただし、ひび割れ部からの白色析出物は確認されていない。P3・P5・P7 上の支承に腐食が認められ、P5・P6 上の支承にサイドブロックの破断が認められた(写真- 10)。



(3)吊橋区間上下部接続部(主ケーブル、ハンガーロープ、ケーブルバンド)
主ケーブルを被覆している防食テープには一部破れた箇所があるものの、今回の調査範囲においては顕著な錆汁の発生などの異常は確認されていない。平成30年調査時に主ケーブル素線の破断が確認された9箇所を対象に、防食テープを撤去して内部を確認したが、新たな破断は認められていない(写真- 11)。素線の束の間にくさびを打ち込み、内部の素線を確認し、令和2年に実施したくさび割り調査結果との比較からは、腐食はほとんど進行していない。外周部の素線には顕著な腐食が生じている箇所もあったが、内部の素線で著しい腐食が生じている箇所は今回の調査範囲においては確認されなかった(写真- 12)。


引張強度試験を行った素線は耐荷力基準値を概ね満足しており、素線の機械的性質が大きく低下している可能性を疑う必要がある結果は得られていない。素線の疲労試験の結果からは、建設当初よりも疲労強度は低下している可能性があることが分かった。
平成30年の補修工事の際に更新されているハンガーロープ本体には特に変状は認められていないが、センターステイの鋼材には腐食が認めら れ、ハンガーロープ基部に塗膜割れが散見されている。センターステイバンド内部を内視鏡で調査した結果、プレート側面に腐食や防食機能の低下が見られた(写真- 13)。
ケーブルバンドを被覆している防食テープに局部的な破れが散見され、開封調査等を行った。今回の調査範囲においては、防食テープの異常な膨らみや破れた箇所からの錆汁、バンド本体の断面欠損等は認められていない(写真- 14)。防食テープ内のケーブルバンドボルトには腐食が認められた(写真- 15)。



(4)上下部接続部(主塔)
主塔の横梁のウェブが腐食しており、一部孔食が発生している以外に、主塔の水抜き孔と塔柱内のダイヤフラムに腐食が認められる(写真-16~ 18)。また、主塔基部には滞水が生じており、超音波による板厚計測では塔壁の一部に腐食減肉が生じている可能性がある(写真-19)。
主塔の塔頂サドル部を被覆している防食テープに破れが認められた。その防食テープが破れた箇所からの錆汁の流出は認められなかったが、主塔の塔頂サドル部本体に一部腐食が認められた(写真- 20)。





5.橋梁全体の構造的評価
耐荷性能への影響は限定的と推定されるものの架橋環境等を考慮すると、今後の損傷の進展等が見込まれることから早期に対策を行うのが適当と考えられる状態である。また、建設当初より耐荷性能は低下している状態と言え、ケーブルシステムの防食機能低下や一部腐食も確認されることから、耐久性能の回復措置が必要な状態と言える。なお、現状より耐荷性能を向上させるためには目標設定を行い、必要な調査や構造解析等による検討が必要であると言える。詳細は以下に示す。
(1)吊橋区間
今回、調査した範囲においては、耐荷性能の大幅な低下を疑うべき変状は確認されておらず、日常的な交通に対する供用安全性は最低限確保されているものと推定される。
一方で、多くの鋼部材で部分的に顕著な腐食発生、小規模な板厚減少や断面欠損がみられ、主ケーブルで一部素線に破断も生じている。また、主塔基部で滞水が生じており一部腐食による板厚減少の疑いがあるなど、建設当初と比べて橋の耐荷性能が低下していることは確実である。
防食機能は全体的に低下しており、既に生じている主ケーブル素線の腐食、主塔の滞水と板厚減少、桁部材の腐食による断面欠損は、現状のままでは今後も着実に進行すると見込まれ、現状母材の腐食に至っていない部位で今後急速に腐食が生じる可能性がある。橋全体の耐荷性能に支配的な影響を持つケーブルシステムでは、今回確認できた範囲だけでも防食テープの破れと腐食の進行により素線が一部破断している状態であり、現状維持の観点において耐久性能の回復は不可欠である。
さらに、一部で素線が破断している主ケーブルや大きな軸力下にある主塔の板厚減少は大規模地震などに対して被害を深刻化させる危険性も否定できないため、さらなる変状拡大の防止や耐荷性能の回復・向上も検討の余地がある状態と言える。
なお、今後の措置の検討においては、これからの維持管理計画に照らして目標性能を設定するとともに、吊橋の特殊な構造特性やケーブルシステム等を踏まえると、今回の調査では構造安全性や耐久性に関わる部材・部位の一部しか正確な状態の確認は行えていないため、重要な部材や部位の外観以外を含む必要な詳細調査を検討するとともに、構造解析の実施、現地計測の照合など現況の構造特性の精査も行うことが必要と考えられる。
(2)樋島側の取付高架橋とその他
取付高架橋区間においては、温度変化や活荷重載荷に対して複雑な挙動が生じる曲線橋であり、支承の損傷・機能障害により、現状では地震時に深刻な被害を生じる可能性も否定できない。
また、架橋位置周辺では一部地山崩壊や吹き付け工の変状も確認されている。アンカレッジを含む橋梁周囲の地盤や斜面・土工部などについても、本橋及び道路に対する影響の観点で必要な調査等を行って評価を行うのがよいと考えられる。
6.おわりに
今回、樋島大橋の直轄診断を実施し、その診断結果を紹介した。本橋は吊橋であって、その構造が特殊であり、特に主ケーブルの調査やその評価等については、高度な技術力をもって判断等を行う必要があった。令和7年度からは修繕代行事業として、国土交通省九州地方整備局が具体的な措置等を検討し、対策を実施していくことになる。九州道路メンテナンスセンターとしても、引き続き、技術的な助言等を行っていき、地方公共団体の皆様のご支援につなげていきたいと考えている。
結びに、本稿作成にてデータの提供等でご尽力頂いたパシフィックコンサルタンツ(株)に、この場をお借りして深く感謝申し上げます。
参考文献
1)国土交通省:道路分野における直轄診断・修繕代行「直轄診断・修繕代行について」、https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/_pdf/activity02_05_pdf01.pdf( 2025.6.10閲覧).
2)国土交通省九州地方整備局:令和6年9月18日記者発表資料「樋島大橋に「道路メンテナンス技術集団」を派遣」、https://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/newstopics_files/20240918/24091801.pdf(2025.6.10閲覧)