技術と誇りを持った地元のプロが魅力を伝え繋げる
~手づくり郷土(ふるさと)賞 大賞受賞~
~手づくり郷土(ふるさと)賞 大賞受賞~
国土交通省 九州地方整備局
企画部 企画課
課長補佐
企画部 企画課
課長補佐
水 田 大 輔
国土交通省 九州地方整備局
菊池川河川事務所 流域治水課
課長
菊池川河川事務所 流域治水課
課長
星 子 智 明
キーワード:地域づくり、手づくり郷土賞
1.はじめに
「手づくり郷土(ふるさと)賞」とは、地域づくり活動によって地域の魅力や個性を生み出している良質な社会資本とそれに関わった団体の功績を讃えて表彰するものである。
昭和61年に創設され、令和5年度で38 回目を迎えた歴史のある国土交通大臣表彰である。
賞には2部門あり、1つは地域の魅力や個性を創出している、社会資本及びそれと関わりのある地域活動が一体となった成果を対象とする「手づくり郷土賞(一般部門)」、もう1つはこれまでに「手づくり郷土賞(一般部門)」を受賞したもののうち、なお一層の活動の充実が行われるなど地域づくりに貢献しているものを対象とする「手づくり郷土賞(大賞部門)」となっている。なお、大賞部門は、平成17年に創設されており、今年で20年目となる。
2.九州地方整備局管内の取組状況
日本の各地で魅力のある地域づくりの好事例が数多く生まれている中、九州地方整備局管内の地元のプロ達による地域活動も盛んに行われており、賞が創設された昭和61年から継続的に毎年受賞している。
昭和61年度から令和5年度までの累計受賞数は「手づくり郷土賞(一般部門)」で全国1,456選、内、九州は181選、「手づくり郷土賞(大賞部門)」で全国103選、内、九州は12選の受賞数となっている。令和4年度から令和5年度の直近2カ年における九州地方整備局管内の受賞一覧は表- 1 のとおり。
令和5年度の受賞結果については、大賞部門の受賞2選とも九州が受賞した。
令和5年度の大賞の1選「記紀の道~地域の宝をつなぎ心を育む~」は、日本最古の歴史書「古事記」「日本書紀」に記された日向神話にまつわる伝承地をめぐる道、「記紀の道」を活用した郷土愛を育む活動で令和元年度に一般部門を受賞。受賞後も環境整備など地道な活動や子ども達の郷土愛を育む「歩こう会」「稲作体験」などの教育活動を続け、新たにクラウドファンディングによる「記紀の道」の魅力を伝える映画を製作、市内外への積極的な広報活動を行っている(写真- 1、2)。
選定委員からは、クラウドファンディングを活用して映画製作を実現できたことは、特筆すべき成果であるなどの評価を受けている。
また、実際に「記紀の道」を歩いてみたが、巨木や水辺などの自然と調和した散歩道、その中に点在する神話の伝承地が繋がり溶け込む、とても心地の良い環境が整っていた。地域住民、地元のプロによる地道な活動と誇りがそこにあった
令和5年度の大賞のもう1選「米米惣門ツアー~永遠に続くストーリー~」は、平成26年度に一般部門を受賞。今回、選定委員からは、自主財源での活動、インバウンド対応など新たなことへのチャレンジ、そして、何よりも「手づくり郷土賞」の基本理念である社会資本と地域づくりのコラボレーションが上手く連携していることが評価されている(写真- 3)。
また、東京で開催された「受賞者記念発表会」では、活動への熱意やプレゼンの工夫が高く評価され、審査員特別賞を受賞した(写真- 4)。
なお、活動団体の下町惣門会と菊池川河川事務所との連携については次項で紹介する。
3.菊池川河川事務所と地域との連携
(1)菊池川「米米惣門ツアー」について
「米米惣門(こめこめそうもん)ツアー」は、熊本県北部に位置する山鹿をこよなく愛する商店主の方々が、平成12年、NHK 朝の連続テレビ小説のロケをきっかけに独自のアイデアで企画から実施まで行われている手作りの活動である。
ツアーは、この地区が昔から菊池川の水運による米の集散地として発展したことから、「米」をキーワードとして酒蔵、麹屋、寺院等を案内し、米せんべい作りを体験するといった内容で、「豊前街道」および「菊池川」を舞台としており、山鹿市および菊池川河川事務所が整備した社会資本を利活用し観光資源としている(図- 1)。
(2)「米米惣門ツアー」の主催者である下町惣門会と菊池川河川事務所との関係
下町惣門会と当事務所との関わりは、当時「菊池川流域連携会議(河川協力団体)」の井口氏がこの会の会長でもあり、一連の活動のキーマンとしてご活躍されていた。特に菊池川と惣門の歴史的経緯やその関わり、豊前街道の町並みと観光といった結びつきなど、身振り手振りで面白楽しく説明される姿に我々行政が引き込まれていったことが、事務所とのパートナーシップの始まりであった。
また、年1回以上の惣門付近の河川清掃といった取り組みをはじめ、流域連携会議に所属する各団体が繰り広げる菊池川流域での各種イベントは、各団体が相互に協力・支援しながら活動するなど、楽しく、無理なく、緩やかに連携する事で継続的な活動につながっている(写真- 5、6、7)。
(3)豊前街道周辺の整備について
山鹿市が平成14年に「街なみ環境整備事業」による豊前街道の電柱地中化などの街路整備や「山鹿市まちなみ整備事業」により歴史的景観にあふれた街並み再生、沿道家屋の修景を補助し、現在も継続されて歴史的景観を確保しながら市街地の活性化を促している (写真- 8) 。その後、菊池川河川事務所が「山鹿地区環境整備事業」により護岸及び船着場を整備した。
(4)山鹿地区環境整備事業について
事業は平成21年度から22年度にかけて実施し、菊池川右岸(豊前街道側)は豊前街道と菊池川のつながりの再構築を目的とした惣門の移設や堤防の階段護岸、船着場を整備し、豊前街道から菊池川の水面までアクセスを可能とした。また、左岸(豊前街道対岸側)においても菊池川の高水敷を日常利用できるようにキッズサッカー場や多目的広場、駐車場を整備した。なお、右岸の階段及び船着場の整備にあたっては、地域産出の鍋田石(切石)を積み上げ歴史ある周辺景観にも配慮した。
整備により、以前は豊前街道から菊池川へ向かうとブロック積で覆われた堤防が壁のように見え、惣門も建物の陰に隠れていた状態であったが、整備後は豊前街道と菊池川との連続性確保や惣門付近の堤防からは対岸で元気いっぱいに遊ぶ子供たちの姿を眺めることが可能となった(写真- 9)。
(5)社会資本の地域への定着状況
整備した護岸と船着場は親水施設として日常的に地域住民の憩いの場となっており、豊前街道、沿道に建ち並ぶ家屋は改修され八千代座~菊池川船着場までの間が明治から昭和初期の風情を感じる歴史的景観を復元している。下町の店舗においては山鹿市の事業を活用し現代的な看板を昔風の木製の構えに交換したり、真っ白の漆喰壁に仕上げられ、街道沿いに酒造りの道具などが展示されたりと、訪れた観光客の目を楽しませている。
また、米米惣門ツアーのシンボルとも言える惣門は、令和5年に雨風の影響や老朽化で取り壊されたが、地元要望を受けて山鹿市が令和6年9月に再建し以前の惣門に復旧している(写真- 10)。
※惣門:街の治安を守るために設置したといわれ、遺構は残っておらず、1763(宝暦13)年の「山鹿湯町絵図」に描かれた資料を元に復元した。
(6)ツアー活動の継続状況
米米惣門ツアーが平成26年度に手づくり郷土賞(一般部門)を受賞されてからマスコミ等の取材も増え、観光・商業・まちづくりなど多方面からの注目を集め広く知れ渡ることとなった。
一方で、菊池川流域が平成29年度に「米作り、二千年にわたる大地の記憶~菊池川流域「今昔『水稲』物語」~」が日本遺産に認定された際、下町惣門会は全面協力し、惣門会会長の井口氏は認定に向けた準備段階よりスタッフとして携わり、山鹿の地域活性化と観光ブランド力の強化に貢献されている(図- 2)。
(7)継続した連携に向けて
今回手づくりふるさと賞の大賞受賞となった下町惣門会の活動は、地域観光の活性化はもとより、そこを取り巻く地域や菊池川流域といった広いつながりへと関係性をうまく構築できている。それは個人の豊かな人間性と一人ひとりの絆がとても強く、喜びや楽しみの共有や関係性がとても素敵であることから、我々行政もその輪の中に入り、地域の一員として活動していることを誇りに思う。
なお、この周辺地域では台湾の半導体関連企業進出に伴い、今後外国人観光客が増えることが期待される。下町惣門会も若い次世代の会員を加え、益々のご活躍が期待されるとともに、河川管理者である国もこの菊池川の流域治水を推進し安全な生活基盤の確保、市民団体活動や地域の経済活動を安心して営んでいけるように、引き続き河川事業を展開して参りたいと思う(写真- 11、12)。
4.あとがき
令和6年度の受賞状況については、大賞部門の受賞2選の内、九州は1選受賞、大賞に選ばれた1選「いのち育む豊かな湿地」は、佐賀県唐津市松浦川の再生湿地「アザメの瀬」を活用した取組で、子供から大人まで、自然とふれあいながら学べる活動を行っており、一般部門を受賞した平成26年度以降は防災教育や米づくり体験(子供食堂へ提供)など新たな活動の広がりなどが評価されている。
今回の取組を紹介することで、各地で個性的で魅力ある郷土づくりに向けた活動がより一層推進されることを期待している。