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九州地方整備局のTEC-FORCE活動における
DX技術の活用について

国土交通省 九州地方整備局
総括防災調整官
工 藤 勝 次

キーワード:TEC-FORCE、DX技術

1.はじめに
近年では、毎年のように全国各地で自然災害が激甚化・頻発化し、甚大な被害が発生している。
特に、九州では平成28年4月の熊本地震を始め、気候変動の影響を受け、令和5年7月9日から10日にかけて発生した豪雨で、筑後川支川巨瀬川が氾濫し約3,000戸以上の浸水被害が発生するなど、九州管内では平成29年の九州北部豪雨から7年連続で大規模な水害に見舞われ、甚大な被害が発生している(写真-1、表- 1)。

写真1 九州における主な被害状況

表1 九州における近年の災害

2.TEC-FORCEとは
大規模な自然災害への備えとして、迅速に地方公共団体等への支援が行えるよう、平成20年4月にTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)を創設し、本省災害対策本部長等の指揮命令のもと、派遣され、「被災状況の迅速な把握」、「被災の発生及び拡大の防止」、「被災地の早期復旧」などに取り組み、地方公共団体等の支援を行っている。
全国で約16,000名(うち九州地方整備局で約1,300名)以上の職員がTEC-FORCEに登録され、令和6年3月末時点で、150 災害に派遣し、延べ約16万3千人・日を超える隊員が活動している(表- 2)。

表2 TEC-FORCE派遣実績(全国)

3.TEC-FORCE活動の実態
大規模災害時における活動実態としては、調査個所が多いことに加え、日頃から使い慣れたスタッフ、リボンテープ、赤白ポール等を用いたアナログ的な調査手法で行うため、被災箇所1 箇所当たりの調査に時間を要している。また、現場での被災状況調査後に内業(資料整理)を行うことから、多大な時間と労力を要している。さらに、被災直後の被災状況調査となるため、安全を確保しつつ現場に立ち入らなければならないことが多くあり、今後安全かつ効率的に取り組むことが重要な課題となっている(写真-2、3)。

写真2 TEC-FORCE活動状況 不安定構造物の裏に入っての計測

写真2 TEC-FORCE活動状況 身を乗り出しての被災箇所直上での計測

写真2 TEC-FORCE活動状況 足下が不安定な状態での計測

写真3 TEC-FORCE活動機器 多くの計測機器等を携行している

4.デジタル技術を活用した被災状況調査の効率化
九州地方整備局では、TEC-FORCE活動の安全かつ効率的に調査を行うため、デジタル技術の活用を行っている。
以下にデジタル技術の活用内容を示す。

1)レーザー距離計の活用
被災直後の現場は、2次災害等の危険があるため、従来の近接した計測調査から「レーザー測距計」を使用する事により、安全な場所からの計測が可能となり、TEC-FORCE隊員の安全性が向上する。また、従来では立ち入れない箇所の計測が可能となる(写真-4)。

写真4 レーザー測距計の使用状況 安全な場所から計測が可能

2)360°カメラの活用
現地の被災状況写真は、デジタルカメラによるピンポイントのみの撮影であるため、写真の撮り直しも多く発生していたため、通常のデジタルカメラから「360°カメラ」を使用する事により、1回の撮影で360°の写真を撮る事が可能となり、取り直し及び取りこぼしが無くなり、TEC-FORCE隊員の作業の効率化が図れる。また、自撮り棒に360°カメラを装着し撮影することで、危険・困難な場所からの撮影が可能となる(写真-5、6、7)。

写真5 デジタルカメラでの写真

写真6 360°カメラの撮影状況

写真7 360°カメラでの写真

3)ドローンの活用
九州地方整備局では、平成26年度にTECFORCE(UAV)部隊として、「Blue-Hawks(ブルー・ホークス)」を創設している。
大規模な被災現場では、地上からの被災状況の把握が困難な場合が多いことから、ドローンを活用することにより、上空からの被災状況の把握を容易にすることができる。また、被災直後は、交通網の遮断や2次災害の危険等が伴うが、安全な箇所からドローンを飛行させることによりTEC-FORCE隊員の安全性の向上並びに早期の現地状況を確認することができる。
また、ドローンには、上空に静止し上下左右方向を撮影し、上空の360°写真を撮る事ができるほか、写真からの点群データ(SfM)の取得が可能な機器も搭載している(写真―8、9、10)。

写真8 フライト状況 安全な場所からの飛行が可能(調査地点から1km離れた場所からフライト)

写真9 ドローンによる360°写真撮影状況

写真10 点群データ(SfM) 大規模な現場でも、PC上で容易に計測可能

4)バーチャルツアーの活用
バーチャルツアー作成ソフトを用いることで、短時間にGoogleストリートビューの様なデータを作成する事が可能である。
TEC-FORCE活動で取得した360°写真や動画、点群データ等様々なデータについても、一元的に管理・使用する事ができ、効率的な管理が可能である。
操作にあたっても、VR(360°映像)上の各種アイコンをクリックするだけで、各種情報にアクセスできる。
また、バーチャルツアーをクラウドにアップロードすることにより、URL 1 つで多くの関係者と瞬時に共有が可能となる(写真-11)。

写真11 作成したバーチャルツアー アイコンに様々なデータをリンク可能

5.近年のデジタル技術を活用したTEC-FORC活動実績・評価
令和4年9月(台風14 号)に発生した宮崎県での災害、令和5年6月に発生した奄美地方の災害、並びに最近では、令和6年1月に発生した能登半島地震の災害のTEC-FORCE活動において、今回紹介したデジタル技術を活用し、被災自治体の早期復旧に向けて効率的な活動を行っている(写真-12、13、14)。

写真12 令和4年 台風第14号被災調査

写真13 能登半島地震による河道閉塞状況

写真14 被災状況をSRD(立体映像装置)で共有

令和5年度には、これまでの活動実績やデジタル技術を生かしたTEC-FORCE活動が評価され、人事院総裁賞を受賞した(写真-15)。

写真15 人事院総裁賞授賞式

また、デジタル技術の活用の取り組みとして、令和5年度ワークスタイル変革取組アワードの2部門(業務見直し・デジタル化部門、人材開発部門)を受賞した(写真-16)。
・「デジタル技術を用いた安全で効率的な災害対応」
・「TEC-FORCE災害対応UAV 部隊「Blue-Hawks」の育成について」

写真16 ワースタイル変革取組 授賞式 赤枠:九州地整職員青枠:河野デジタル大臣、川本人事院総裁写

6.これから
デジタル技術を活用することにより、TECFORCE隊員の安全性向上、被災状況調査の効率化が可能となる。
また、今回紹介したデジタル技術は、被災自治体が進めるDX災害査定にも寄与する技術であり、令和5年度には鹿児島県で九州初となるDX査定の試行を行い、申請者からも好評を得たところである。
今後も、TEC-FORCE隊員の訓練や研修を進めるとともに、各自治体にも技術供与することで、デジタル技術を最大限に活用した災害対応能力の強化につながることを期待している。

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