シラス(火山ガラス微粉末:VGP)を用いた
低炭素型コンクリートの活用について
低炭素型コンクリートの活用について
鹿児島県 総合政策部 総合政策課
技術補佐
鹿児島大学 非常勤講師
技術補佐
鹿児島大学 非常勤講師
宮 本 裕 二
キーワード:GX、シラス、火山ガラス微粉末、低炭素型コンクリート
1.はじめに
脱炭素・カーボンニュートラルが世界的な潮流となる中、社会資本整備に伴って発生する二酸化炭素(以下、CO2)排出量を削減するための対策として、ポルトランドセメントの一部分をCO2排出量の少ない混和材で置き換えた低炭素型コンクリート1)の利用がある。鹿児島県工業技術センターでは、入戸火砕流堆積物(シラス)を比重選別・粉砕し、コンクリート用混和材の火山ガラス微粉末(Volcanic Glass Powder:以下、VGP)を製造する技術を確立した。VGPの製造では焼成が不要でCO2排出量が少なく、VGPを混和材に用いた低炭素型コンクリートの活用は省CO2に資すると考える。
本稿では、シラスやVGPの特性、本県におけるインフラ・建設分野におけるGX(グリーントランスフォーメーション)の推進に向けた取組について述べるとともに、VGPを混和材に用いた低炭素型コンクリート製品におけるVGPの配合割合及びCO2排出量について若干の考察を加える。
2.シラスについて
(1)豪雨等による土砂災害
姶良カルデラから噴出した入戸火砕流堆積物の非溶結部(シラス)は、カルデラ周辺の南九州に広く分布2)し、シラス台地を形成している(図-1)。シラス斜面は乱さない状態では固結しており、自然状態の斜面は90 度近くで切り立ち、雨水の浸透、晴天時の地中水の蒸発を繰り返し徐々に風化が進み、表層すべり型の斜面崩壊が発生する3)、4)、5)(図-2)。本県は集中豪雨、台風の常襲地帯であり、過去において幾度も災害に見舞われ、1993年の鹿児島豪雨では多くのシラス斜面が崩壊し、県全体ではそれらの土砂災害も含め1 万件を超える公共施設災が発生した6)。県では道路の災害危険箇所を総点検し、道路防災対策工事を進めた結果、道路災件数は減少傾向で推移している(図-3)。
(2)土木材料での利用
前述のとおり、シラスは大雨等により災害をもたらす「厄介者」とされてきた。一方で、シラスは本県に豊富に賦存する貴重な地域資源であり土木材料として活用されている。1976年、鹿児島市中央部に位置する標高110mのシラス丘陵地を標高54mまで開削し、面積46.3haの城山団地が造成され、その発生土(シラス)は「水搬送工法」による運搬で鹿児島湾沿岸部の与次郎ヶ浜の埋立地に利用し7)、土地の利活用を図った。
また、本県の道路事業8)において良質なシラスが入手可能な場合、盛土材や下層路盤材等に使用し、タイヤローラー等の施工機械により繰り返し荷重を加え盛土等を構築する。図- 4 に突固めによる土の締固め試験(A-a法(繰返し)、A-b法(非繰返し))の試験後の粒径加積曲線9)を示す。A-a法では同じ材料を繰返し突き固めるため粒子破砕が生じ、A-b法に比べ粒径が小さい。つまり、シラスは外力により破砕しやすい材料であることがわかる。
(3)コンクリート細骨材での利用
本県では社会資本整備の円滑な推進において不可欠な骨材の確保するため、鹿児島県公共事業等骨材確保対策協議会を1998年に設立した。同協議会において、海砂削減に伴う代替骨材としてシラスの活用を要望する提言10)がなされ、県土木部では「シラスを細骨材として用いるコンクリートの設計施工マニュアル(案)」11)を策定した。現在、県土木部ではシラスをコンクリート製品等の細骨材に使用し、地域資源の活用を図っている。
3.VGP(火山ガラス微粉末)について
(1)シラスの全量活用
鹿児島県工業技術センターでは、シラスからコンクリート用混和材の火山ガラス微粉末(VGP:JISA 6209)を製造する技術を確立した12)、13)。シラスの鉱物組成(図-5)、乾式比重選別、粉砕工程の模式図(図-6、表-1)を示す。
3.VGP(火山ガラス微粉末)について
(1)シラスの全量活用
鹿児島県工業技術センターでは、シラスからコンクリート用混和材の火山ガラス微粉末(VGP:JISA 6209)を製造する技術を確立した12)、13)。シラスの鉱物組成(図-5)、乾式比重選別、粉砕工程の模式図(図-6、表-1)を示す。
(2)VGP等の特性
VGPの混和材での使用は、流動性の改善や強度発現、アルカリシリカ反応の抑制、塩化物イオンの浸透抑制効果13)、14)があり、鉄筋コンクリートにおける鉄筋の腐食防止や長期的な耐久性向上が見込まれる。また、結晶質はJISに適用するコンクリート用細骨材(海砂削減に伴う代替骨材:環境負荷低減)として、粘土質は陶芸(焼物)材料として利用でき、シラスの全量が活用可能である。
(3)JISA 5308の改正
2024年3月、レディーミクストコンクリート(いわゆる「生コン」)のJISA 5308 の改正において、VGPは生コン用の混和材料に追加された。同改正ではCO2排出量の少ない材料の使用を推進するため、セメントの混合使用や計量方法等を一部緩和している。本改正によりレディーミクストコンクリートの環境負荷低減の進展等が期待される。
4.本県のインフラ・建設分野におけるGXの推進に向けた取組について
(1)CO2排出量
本県の2020年度における温室効果ガス排出量11,808 千t-CO2のうち、エネルギー起源のCO2排出量は8,638 千t-CO2と県全体の約73% を占める15)。本県におけるエネルギー起源CO2排出量、部門別排出割合を示す(図-7)。本県は大都市圏に比べ車の使用頻度が高いことや離島が多く船舶のエネルギー消費量が多い。シラスのような地域資源の活用は、県外・海外からの運搬に比べ運搬距離が短くなり、CO2排出量削減に寄与するものと考える。
(2)セメント、VGP製造におけるCO2排出量
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品に対する原料採取から製造、使用及び廃棄に至るまでの製品のライフサイクル全体の環境への負荷を定量的に評価する手法である。その環境負荷物質はライフサイクルインベントリ(LCI)と呼ばれ、例えば、製造時のCO2排出量を比較する場合、LCI条件を揃える必要がある。本稿ではVGP製造工程を考慮し、購入電力を含めてCO2排出量を検証する。
表- 2 にセメント品種別LCI データ16)、表-3にVGP製造におけるCO2排出量の計算結果を示す。VGP製造におけるCO2排出量の計算は、(一社)LCA推進機構の技術指導のもと本県にてLCI 条件を整理した。VGPの製造では、セメントのような原料由来(石灰石:CaCO3)や焼成が不要であり、セメントに比べCO2排出量が小さいことがわかる。
表- 4にCO2排出量の比較(セメント、VGP)を示す。VGPはポルトランドセメントに比べ、CO2排出量が93%少ない。よって、セメントの一部分をVGPで置き換えた低炭素型コンクリートは、省CO2に資すると考えられる。
(3) VGPを混和材に用いた低炭素型コンクリート製品に係る配合試験、CO2排出量の計算
本県では今年度、混和材にVGPを用いた低炭素型コンクリート製品(歩車道境界ブロック)の試験施工を予定している。試験施工に当たり、VGPを55%(内割)とした配合試験を行い、製品の品質性能を確認した。配合試験結果に基づくコンクリート製品のCO2排出量の比較を行った(図-8)。VGPをセメント代替材として55% 置換した場合、CO2排出量を約5割削減可能と考えられる。
5.まとめ
本稿では、本県におけるシラス利用やVGPを用いた低炭素型コンクリートの活用に向けた取組について述べた。今後、関係団体や大学等と連携し、コンクリート製品の試験施工やVGPの生コン使用に係る検討、公共調達での課題整理等、地球温暖化の抑制に貢献する社会基盤整備、環境保全と経済成長の両立を目指すGXの取組を推進したい。
謝辞:鹿児島県工業技術センター袖山研一研究主幹に技術的助言をいただいた。VGPを用いたコンクリート製品の配合試験について、鹿児島県コンクリート製品協同組合、インフラテック株式会社に御協力いただいた。VGP製造に関するCO2排出量の算定について、一般社団法人LCA推進機構に技術指導をいただいた。ここに謝意を表します。
参考文献
1)(一社)日本建設業連合会:低炭素型コンクリートの利用促進に向けて,6p,2016.
2) 宝田晋治・西原歩・星住英夫・山崎雅・金田泰明・下司信夫:姶良カルデラ入戸火砕流堆積物分布図,産総研地質調査総合センター,2022.
3) 北村良介・井料達生・高田誠・福原清作・木佐貫浄治・宮本裕二・山田満秀:南九州しらす地帯での土砂災害対策,自然災害における地盤の防災および構造物の復旧と補強」シンポジウム発表論文集,pp.249-256,1997.
4) 宮本裕二・酒匂一成・島田龍郎・北村良介:不飽和シラス地盤での蒸発を考慮した伝熱・浸透挙動のモデル化,応用力学論文集,Vol.5,pp. 481-490,2002.
5) 落合英俊・北村良介・矢ヶ部秀美:1993年鹿児島豪雨災害の教訓,地盤工学会誌「土と基礎」No.43(6),pp.29-32,1995.
6) 宮本裕二:鹿児島県における近年の道路災害の傾向,道路区域外からの土砂崩落に関するレーザープロファイラ調査について,九州技報, 第72 号,pp.62-69,2023.
7)(公財)鹿児島県建設技術センター:鹿児島県史第六巻(土木編),pp.47-51,2017.
8) 鹿児島県土木部:道路事業の手引き,2018.
9) 宮本裕二・宇都洋一・荒木功平・酒匂一成・北村良介:しらすの締固め曲線に関する一考察,第64 回土木学会年次学術講演会Ⅲ部,pp.683-684,2009.
10)鹿児島県ホームページ:鹿児島県公共事業等骨材確保対策協議会提言,https://www.pref. kagoshima.jp/ah03/infra/kokyo/gizyutu/kanren/30kotsuzaichoutatsu.html
11)鹿児島県土木部:シラスを細骨材として用いるコンクリートの設計施工マニュアル(案),163p,2005.
12) 袖山研一・友寄篤・野口貴文・東和朗:乾式比重選別と粉砕によるシラスの建設材料への全量活用,日本材料学会, 材料,Vol.66,No.8,pp. 574-581,2017.
13)( 一財)日本規格協会:JISA 6209,コンクリート用火山ガラス微粉末,2020.
14)友寄篤・野口貴文・袖山研一・東和朗:火山ガラス微粉末と粘土微粉末の粉体特性と流動性に与える影響,セメント・コンクリート論文集,Vol.72,pp.438-445,2018.
15)鹿児島県環境林務部:地球温暖化対策実行計画,pp.32-43,2023.
16)( 一社)セメント協会:セメントの LCI データの概要,p.8,2023.