鶴田ダムインフラツーリズムの取り組み
~ダムでも河川空間のオープン化やってます~
~ダムでも河川空間のオープン化やってます~
国土交通省 九州地方整備局
鶴田ダム管理所
専門官
鶴田ダム管理所
専門官
有 嶋 哲 朗
キーワード:都市・地域再生等利用区域、河川空間のオープン化、ダム見学
1.はじめに
鶴田ダムは、令和元年度に国土交通省が有識者のご意見を踏まえ立ち上げた「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」の社会実験を実施するモデル地区に選定された。
コロナ禍で一時取り組みが中断したが、令和4年度に「大鶴湖(鶴田ダム湖)インフラツーリズム関係者会議」を設置し、活動方針や具体的な取り組みを関係機関と議論・検討を行ってきた。
その成果として、令和5年10月に都市・地域再生等利用区域」の指定(以降、河川空間のオープン化という)を行い、ダム見学の案内ガイドによる平日・休日対応や、エイジング焼酎(ダム堤体内への焼酎貯蔵)販売などの本格運用を開始した。
令和5年11月に河川空間のオープン化記念として「秋の大鶴湖まつり in 2023」を開催するに至っており、本投稿ではモデル地区選定後の具体的な取り組み内容を紹介する。
2.鶴田ダムの概要
鶴田ダムのある川内川は、熊本県の白髪岳に発し、宮崎県を通って鹿児島県に入り、湯之尾滝を経て曽木の滝から鶴田ダムへ流入し、その後、川内平野を下り東シナ海へそそぐ、流域面積1,600km2、長さ137kmの九州屈指の大河川である。その流域は3県、3市2町(薩摩川内市、さつま町、伊佐市、湧水町、えびの市)にまたがり、流域内人口約20万人を抱えている。鶴田ダムは川内川河口から約51kmに位置しており、洪水調節と発電を目的に建設された多的目ダムである。
3.インフラツーリズム取組の契機
令和元年度に「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」のモデル地区に選定された。選定以降、イベントの開催など取り組んできたが単発的な催しとなり、継続性が無い状況となっていた。コロナ禍の影響もあり活動を中断していたが、コロナ収束後の令和4年度に活動を再開した。
4.インフラツーリズムの方向性
鶴田ダムは、鹿児島の社会科見学のメッカで、さつま町の代表的な観光資源となっており、地域振興に最大限に活かすべきダムである。鶴田ダム再開発事業の工事最盛期となった平成25年度以降は、4,000人程度の見学者数となっているが、それ以前は1,000人から2,000人程度の見学者が訪れている。
鶴田ダムでは、昭和41年の管理開始以降、大規模な洪水の発生により、昭和47年と平成18年の2度緊急放流を行っている。
直近の平成18年7月の鹿児島県北部豪雨災害では、 鹿児島県北部を中心とした記録的な豪雨に伴い、川内川の上流から下流に至る3市2町にかけて甚大な被害が発生している。鶴田ダムでは、洪水調節を行いダム下流域の浸水被害を最小限にくい止めるよう適正な操作を行ったが、洪水直後から「浸水被害はダム操作が原因である」という鶴田ダムへの批判がダム下流域の被災者の方々などから多く寄せられた。
鶴田ダムとしては、地域住民の方々へダム操作について十分な説明をしてこなかったことやダムの洪水調節容量には限界があることなどを説明してこなかったことを反省し、鶴田ダムの操作についてご理解を頂くため、一丁目一番地の仕事としてダムの説明、地域防災力の向上の職務を担ってきている。
ダム見学を通じて、継続的な地元への説明、また説明による信頼関係の構築が図られるよう、土木広報から更に発展したインフラツーリズムを目指すこととした。
5.大鶴湖(鶴田ダム湖)インフラツーリズム関係者会議の設置
インフラツーリズムの取り組みを進めるにあたり、大鶴湖が有する鶴田ダム、曽木発電所遺構、曽木の滝等の社会科見学地や観光地を最大限に活用したインフラツーリズムを推進するため、必要な事項について関係者が連携し協議する場として「大鶴湖(鶴田ダム湖)インフラツーリズム関係者会議(以後、関係者会議と記す)」を設置した。
構成機関は、鶴田ダムとダム湖が所在する市町、鶴田ダム乗りの発電事業者、鶴田ダム周辺で活動するNPO等で組織しており、メンバーについては、いつでも開催し連携ができるフットワークの軽いメンバーで組織した。
また、後述するが関係者会議にて「都市・地域再生等利用区域の指定(以後、河川空間のオープン化と記す)※」を目指すこととなったが、指定には地域の合意が必要である。そのため、関係者会議と同様の目的で設置されている、首長等で構成される既存組織の「奥薩摩水と緑の郷づくり推進協議会」に関係者会議での決定事項を報告し承認頂くことで、地域の合意を得た。
※都市・地域再生等利用区域の指定(河川空間のオープン化):河川敷地の占用は、原則として公的主体に限られており営業活動を行うことはできないが、「河川空間を積極的に活用したい」という要望の高まりを受け、平成23年に規則が緩和され、地域の合意を得たうえで、民間事業者による営利活動等の利用が可能となったもの。
6.具体的な活動方針・取り組み内容
関係者会議で議論・決定した活動方針や具体的な取り組み内容等を以下に示す。
・これまでの職員による土木広報を発展させる形で、地域振興と防災力強化を目的に、NPOが持続的に見学者の多い休日も含めて運営できる形を目指す。そのためにも、河川空間のオープン化を図り、これまで行っているダム見学を有料化し、NPOの自立を図る。将来的には、図-5 に示すようなインフラと地域が連携し、周辺観光資源等と一緒に一層の地域活性化が図られる段階を目指すが、まずはスモールスタートとして現実的な活動を行うこととする。
また、過年度より試行している堤体内に焼酎を貯蔵するエイジング焼酎も合わせてオープン化を目指す。
・ダム見学の有料対象は大人の一般客とし、これまで社会科見学として多くの学校が無料で見学をしてきた経緯を踏まえ、学校関係の社会科見学については、これまでどおり平日無料の対応とする(図-6 参照)。過去通常時に2,000人程度が訪れているため、身近な目標として2,000人の有料客を目標とし、NPOが安定的に運営できる体制を目指す(当面は、1,000人に達すれば成功ライン)。
・ダム見学ガイドは、NPOだけでなく地域から募集を行い、地域の方々がダムの役割等を伝える語り部となることで、地域全体で防災力強化を推進する(図-7 参照)。
7.河川空間のオープン化
関係者会議にて具体的な議論を重ね、図-4に示すインフラツーリズムの取組体制により地域の合意を得て、令和5年10月11日に河川空間のオープン化を行った。今回の河川空間のオープン化は鹿児島県初、ダム見学は九州初である。
令和元年度に「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」のモデル地区に選定されて以降、試行的に有料のダム見学やエイジング焼酎を行ってきた。多数の参加・申込があり好評を得ており、この指定により正式に本格的に運用が可能となった。また、ダム見学やエイジング焼酎と一体的にイベントや売店等の運用ができるよう、ダム堤体周辺のエリアもあわせて指定を行った。(指定範囲:図-8 参照)
8.「秋の大鶴湖まつりin2023」開催
河川空間のオープン化の記念イベントとして、11月26日(日)に、点検放流に合わせて、ダム放流見学やダム堤体内見学を盛り込んだインフラツーリズムのイベント「鶴田ダム 秋の大鶴湖まつりin 2023」を関係者会議主催にて開催した。イベント時には、鶴田ダム貯水池の大鶴湖を活用したダム湖遊覧船なども企画した。
開会セレモニーでは、さつま町長の掛け声で点検放流を開始し、発電事業者の協力もあり最大150m3/sの放流を行った。ダム見学を有料にて受け付け、点検放流を間近で見られるスポットまで案内した。他ではこの近さで見ることのできない大迫力の放流が見られ、参加者から好評を博した。
9.鶴田ダムインフラツーリズムの今後
イベントの開催は、ダムの役割を理解頂ける機会にもなるので、地域を代表する名物イベントとして毎年開催していく。
また、休日を含めたダム見学を行っていることを積極的に広報し、旅行会社等にツアーの一部として企画してもらえるような取り組みを進め、将来は周辺施設とも連携したツアーを企画、実施できることを視野に入れて活動していきたい。有料化に伴い見学者が減るというリスクもあるが、今後見学者が増加し成功すれば関係者のモチベーション向上になり、更なる取組の向上につながる。河川空間のオープン化は鹿児島県初、ダム見学は九州初の取組なので、周辺自治体への情報提供などの横展開を行い、鹿児島県内の地域振興に繋がればよいと考えている。
現在休日の見学時は、鍵の開け閉めなど、安全管理や施設管理の観点で職員が同行しており、ダムの役割を伝える一丁目一番地の仕事として引き続き頑張っていく。