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江見えみ(上流)排水機場不具合発生後の復旧対応と維持管理性の向上

国土交通省 九州地方整備局
筑後川河川事務所
管理課 専門官
東  亮 宏

キーワード:排水機場、故障対応、工期短縮

1.はじめに
筑後川は源流を熊本県阿蘇郡に発し、日田市においてくじゅう連山から流れ下る玖珠川を併せて山間盆地を形成し、その後再び渓谷を過ぎ多くの支川を合わせ、肥沃な筑紫平野を貫流し早津江川を分派して有明海に注ぐ幹線流路延長143km、流域面積2,860km2の九州最大の一級河川である。

図1 筑後川流域図

河川改修の歴史は古く、管理する施設は200を超える。排水機場にあって20機場を数え、建設時期の古いものが下流域に多く存在している。
今回紹介する江見(上流)排水機場は、筑後川右岸14k965に位置し、江見(下流)排水機場・江見排水機場の3機場で切通川・切通川放水路の排水を目的とした、流域面積が37.2km2の排水機場である。
江見(上流)排水機場は昭和26年10月に完成しており、経過年数は72年を超える。(※令和6年5月現在)これまで幾度となく設備の整備・更新が行われる中で、昭和61年3月にディーゼルエンジンからガスタービンエンジンに更新された機場である。以降、分解整備を繰り返しながら使用されてきたエンジンではあるが、令和3年8月の出水にて3号ポンプの主原動機が機能消失する故障に陥った。出水が頻発する中で、受発注者相互の工夫で応急復旧を短期化させ、恒久対策では維持管理性を改善することができたので紹介する。

江見(上流)排水機場仕様概要(故障発生当時)
ポンプ形式:横軸軸流
主原動機:ガスタービンエンジン
吐出量:4m3/s × 3台
製作メーカ:(株)荏原製作所
原動機メーカ:川崎重工業(株)

図2機場平面図

2.不具合発生当時の出水概要
8月11日から15日にかけ、前線が九州付近に停滞し、前線に向かって太平洋高気圧の周辺から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、九州北部地方では大気の状態が非常に不安定となった。このため、筑後川流域では広い範囲で長時間強い雨が継続し、下流域では48時間雨量が観測史上最大を更新した。
江見(上流)排水機場も8月12日の19時より運転を開始し、15日の3時まで56時間もの間ポンプを稼働することとなった。

図3 筑後川流域累加雨量

3.故障発生と応急対応の検討
(1)故障発生までの経緯
令和3年8月14日(土)20:00 頃、3号主ポンプ用原動機(ガスタービンエンジン)実負荷運転中に、爆発音と同時にガスタービン「排気温度高」の故障警報で3号主ポンプが停止した。発生から原因特定までの経緯は以下の表を参照。

表1 原因調査までの経緯<

(2)調査内容と結果
8月15日の調査内容は以下となる。
・エンジン手回し:異常なし
・燃焼器開放点検:燃焼器ライナーに多大なカーボン付着(下記写真- 1)
エンジン内部ボアスコープ点検
・1段目動翼(圧縮機部):異常なし
・1段目固定翼(燃焼器部):カーボン付着
・燃料噴射ノズル:多大なカーボン付着(下記写真- 2)
・1段目動翼(燃焼器部):カーボン付着(下記写真- 3)

写真1 燃料器ライナーのカーボン付着状況

写真2 燃料噴射弁ノズルのカーボン付着状況

写真3 動翼のカーボン付着状況

故障原因は、主原動機の老朽化及び長時間連続運転により、燃焼器内に異常なカーボンが付着し、ガスタービンエンジン運転中に異常燃焼が起こり、排気温度が上昇し「排気温度高」故障に至ったと推測する。
以上の調査結果により、3号ガスタービンエンジンは、工場整備が必要な状況となった。
また、3号ガスタービン故障に伴い、1号・2号ガスタービンエンジンにおいても内部ボアスコープ点検を実施した結果、1号ガスタービンエンジン固定翼に、軽微な内部亀裂が確認された。1号ガスタービンエンジンにおいても同様の故障停止のおそれがあることから整備又は更新が必要と判断した。

図4 ガスタービンエンジン断面図

(3)排水ポンプ車による初動対応
故障直後は消失した排水機能4m3/s分の排水ポンプ車を配置することで確保した(下記写真- 4)

写真4 初動の排水ポンプ車設置状況

合計4台(1台1m3 /s)の排水ポンプ車を16日から27日まで配置し、初動の対応を行っている。

(4)応急対応検討
工場分解整備を実施するにあたっては、交換部品調達に3ヶ月、整備に3ヶ月と概ね6ヶ月を要するため、復旧期間を短縮する方法を検討した。当該ガスタービンエンジンについては、エンジンメーカに同型のものが緊急用として保有されていることが協議の結果わかったため、リース(有償)で対応することとした。

写真5 緊急用ガスタービンエンジンへ交換状況<

3号ガスタービンエンジンを上記の緊急用ガスタービンに取替えることで故障発生から通常6カ月以上要する期間を約半月で応急復旧を可能にした。8月27日17時には交換を完了し試運転による実負荷排水を確認することができ、初動で利用した排水ポンプ車は撤収することができた。
また、緊急用ガスタービンエンジン(リース)への取り換えを行うと同時にガスタービンエンジン本体の購入・取替を検討した結果、エンジンメーカに使用済み整備品(リビルト品)が2 基あり、当該機場用に改造して10月以降に交換が可能であることが分かった。
当該機場へ対応させるための改造は必要となったが、3号ガスタービンエンジンを10月20日に、1号ガスタービンエンジンを11月5日に排水可能な復旧状態とすることができた。

4.恒久対策
当機は1986年(昭和61年)に設置され、分解整備など実施されてきたとはいえ、故障発生時点で設置後35年を経過しており、エンジンを構成する部品・機器が生産中止、供給困難であったため、令和3年度にディーゼルエンジンへの更新工事を発注予定であった。
更新の設計・検討では、既設のガスタービンエンジンとディーゼルエンジンを比較し、本体価格面・故障対応の容易さ、技術者確保の容易さ・ライフサイクルコストなどを考慮し、ディーゼルエンジンを採用する事となった。
検討する上で、問題となる土木躯体の耐力も、排水機場建設当時の主原動機がディーゼルエンジンであったことから問題無いと判断された。
ディーゼルエンジン化することで、燃料消費が著しく改善するといったメリットも現れている。当該排水機場では、燃料タンクの増設も環境(有明海特有の潮位変動)や地質の問題で地下タンク化が容易ではない。
近年の豪雨化から排水運転時間が長い傾向にあり、途中給油を心配しなければならない状況が、ディーゼルエンジン化されたことで、連続運転時間を約2 倍(40時間)に延ばすことができたことは維持管理性の向上として大きな成果と言える。
令和4年2月に江見(上流)排水機場は恒久対策となるディーゼルエンジン化・連動制御化を主目的として発注している。恒久対策の工事では原動機室内の換気容量変更、ディーゼルエンジン変更に伴う燃料の許容押込み圧の変化による燃料小出し槽位置変更、水冷方式によるラジエータの追加など施設の変更は伴ったが、令和5年度の出水期は更新後のディーゼルエンジンで運用している。

図5 故障発生から恒久対応までの流れ

写真6 更新前(ガスタービンエンジン)

写真7 更新後(ディーゼルエンジン)

5.おわりに
実際の運用面・管理面で期待した効果を発揮するか、これから管理する中で確認をする必要がある。
ガスタービンエンジンと比較して、定期的な分解整備時の部品価格や有事の際の材料調達時間が短縮されることを期待している。
当事務所の対応した経験は、メーカの代替機保有など偶然の要素もあり必ずしも参考にできるものではない。老朽化する施設の管理で苦慮されている管理者への一助になれば幸いである。
本件の故障不具合対応では、応急復旧・恒久対策を実施するにあたって、施工メーカである荏原製作所、エンジンメーカである川崎重工業の協力無くしては対応出来なかった。この場を借りて心より感謝の意を申し上げます。

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