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熊本天草幹線道路「本渡道路」開通と整備効果

熊本県 土木部 道路都市局
道路整備課 技師
永 田 聡 瑠

キーワード:熊本天草幹線道路、本渡道路、天草未来大橋

1.はじめに
熊本天草幹線道路(図- 1)は、熊本市から天草市に至る延長約70kmの高規格道路で、県内の幹線道路ネットワークの横軸となる主要な路線でもある。
さらには、天草地域の「90分構想」(4. (1)参照)の実現とともに、地方創生の取組みを進める上で不可欠な道路であり、国及び県で整備を推進している。
本路線の一部をなす本渡道路は、天草上島と天草下島を結ぶもので、本県が平成25年に事業着手し、令和5年2月25日に開通したところである(写真- 1)。
本稿では、開通した本渡道路の概要と整備効果について紹介する。

図1 熊本天草幹線道路路線図

写真1 本渡道路

2.天草地域の現況
天草地域は、熊本県南西部に位置し、天草上島や天草下島、御所浦島など大小120 余の島々からなる地域である。
天草下島に位置する天草市・苓北町は、産業・観光の面において、海に囲まれた地形や温暖な気候を活かし、新鮮で多様な農水産物に恵まれるとともに、風光明媚な自然が織りなす景観等、多くの観光資源に恵まれている。平成30年には、﨑津集落が世界文化遺産に登録され、﨑津集落に訪れる観光客が倍増した。また、熊本県の漁獲量・養殖量の約9割を天草地域が占めており、県内の水産業の大半を担っている。
一方で、人口の面においては、年少人口と生産年齢人口が減少する一方で老年人口は増加しており、令和12年には高齢化率42%と少子高齢化の進行が予測されているなど、課題を抱えている。これらの課題解決及び天草地域の発展に寄与する、熊本天草幹線道路の早期実現を図ることを目的とした熊本天草間幹線道路整備促進期成会及び熊本天草幹線道路整備促進協議会が設立されている。本渡道路の完成供用は、人流や物流の円滑な移動を実現化し、産業や観光振興の活性化、地域経済の発展の原動力になるとして、早期完成を求める700人規模の集会(写真- 2)や要望が熱心に行われているところである。

写真2 天草島民集会(H31)

3.本渡道路の概要
本渡道路は、天草市港町から天草市志柿町間の「天草未来大橋」を含む全長約1.3kmの2車線の高規格道路(図- 2)で、熊本天草幹線道路のうち、4番目に開通した区間であり、その全体事業費は203億円である。
なお、本渡道路が開通したことにより、天草幹線道路全体の開通済区間は約18km(約26%)になる。

図2 本渡道路概要図

4.本渡道路の整備目的
(1)「90分構想」の実現
「90分構想」とは、自動車交通により人流・物流の円滑化を図るため、熊本都市圏と県内主要都市を90分で結ぶ構想で、本県の道路施策における重要な基本方針の1 である。
天草地域は現在、「90分構想」を唯一達成できていない地域であり、熊本都市圏から天草市までの所要時間について、H 27 時点の139分に対して、熊本天草幹線道路全線整備後は79分で走行でき、「90分構想」の実現が可能となる(図-3)。本渡道路の開通により、所要時間は6分短縮し、「90分構想」に一歩前進する形となる。

図3 熊本都市圏から県内主要都市までの所要時間

(2)渋滞の緩和
天草地域では、通過交通、生活交通及び観光交通が限られた道路に混在していることから、平日朝夕や休日に慢性的な渋滞が発生していた。特に、天草上島と天草下島を自動車で渡るには、天草瀬戸大橋のみであったことから、日常生活や産業など地域活動に影響を及ぼしていた(写真- 3)。

写真3 天草上島側の渋滞状況

(3)代替路の確保
天草地域の二次救急医療施設の多くは天草下島にあり、天草上島側から搬送する場合は天草瀬戸大橋を渡る他なく、また、三次救急医療施設は熊本市内にあるため、天草下島から重篤な患者を搬送する場合でも、天草瀬戸大橋以外に代替路が無い状況で、災害等により通行不能となった場合は、住民の日常生活や経済活動に加え、救急医療活動にも支障をきたす状況であった(図- 4)。
本渡道路は上島と下島を結ぶ天草瀬戸大橋の代替路としての効果が期待されていた。

図4 天草地域周辺の救急医療施設

5.本渡道路の開通効果
本渡道路は平成25年に事業着手し、平成29年に工事着手、令和4年5月に上部工桁連結式、同年10月に「天草未来大橋」の橋名発表を経て、令和5年2月25日に開通した(写真- 4)。
開通式(写真- 5)では、本渡中学校による吹奏楽の演奏や、天草拓心高校のハイヤ節の披露など複数のイベントが行われた。
本渡道路の開通効果として、交通量調査結果や地元の声を紹介する。

写真4 本渡道路(開通後)

写真5 本渡道路開通式

(1)渋滞状況の検証結果
本渡道路の開通後に、夏の観光シーズンの平日と休日において、交通量調査を実施した。交通量の多い休日の検証結果では、上島と下島を行きかう総交通量は約2万台であり、そのうち、約6500 台(約3 割)が本渡道路に転換していることがわかった(図- 5)。

図5 瀬戸大橋断面交通量

また、開通前(令和元年8月10日(土))と開通後(令和5年8月11日(金・祝))の渋滞長の調査結果を比較した。開通前は天草瀬戸大橋の東側交差点を先頭に、熊本方面に向かって最大約4.9kmの渋滞長が確認されたのに対し、開通後は、本渡道路の瀬戸IC 交差点付近において最大約0.4kmの渋滞長が確認された。なお、東側交差点では、渋滞は見られなかった。(図- 6)。
これらの交通量調査の結果から、開通によって、天草瀬戸大橋周辺の平日朝夕や休日に発生していた慢性的な交通渋滞は概ね解消されており、市街地においても目立った混雑はなく、大きな効果をもたらした。

図6 本渡道路交通調査結果

(2)地元からの喜びの声
本渡道路開通後、天草市・苓北町の住民を対象として、本渡道路に関するアンケートを実施した。アンケート結果は、渋滞が概ね解消されたことで、利便性が向上したことに係る意見・感想が多く寄せられており、利用者から大変喜ばれている状況である(図- 7)。

図7 アンケート結果による地元の声(一部)

5.おわりに
熊本天草幹線道路は、国と県が連携して整備を進めており、現在、国においては、熊本宇土道路、宇土道路、宇土三角道路が事業中である。また、県においては、開通した本渡道路に続き、本渡道路Ⅱ期が令和5年度に新規事業化となり、既に事業中の大矢野道路と併せて、整備を進めている。本渡道路の開通後、これらの整備効果や地元からの声を受け、熊本天草幹線道路の重要性を再認識したところであり、今後も一日も早い全線開通に向けて、全力で取り組んでいきたい。

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