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建設業の次世代を託す担い手の確保・育成に向けた
学校キャラバン(出前講座)

国土交通省 九州地方整備局
建政部 建設産業課 課長補佐
富 永 洋 康

キーワード:担い手確保、学校キャラバン、出前授業

1.はじめに
建設業は社会資本整備の担い手であると同時に、地域経済や雇用を支え、災害時には最前線で地域社会の安全・安心の確保を担うなど、「地域の守り手」として、国民生活や社会経済を支える我が国に欠かすことのできない重要な産業である。
しかしながら、高齢化の進行など建設業をとりまく環境は非常に厳しく、建設業が将来にわたってこのような役割を担っていくために、いかに次世代の担い手を確保し技術を継承していくかが重要な課題となっている。
今回は次世代を担う高校生に建設業の魅力を伝えるため、九州地方整備局と建設産業専門団体九州地区連合会(九州建専連)が協力して実施している「学校キャラバン(出前授業)」について紹介する。

2.建設業を取り巻く現状
(1)建設業の就業者の現状
図- 1 は、建設業の職業別就業者数の推移を
表したものである。推移グラフを見ると、ピーク時の平成9年(685 万人)から減少を続けており、平成22年以降は500 万人前後で推移している。特に技能者は減少傾向が続いており、平成9年の455 万人から令和4年には302 万人(ピーク時の66%)になっている。

(2)高齢化の進行及び若年入職者の減少について
図- 2 は、高齢化の進行を表したもので、平成2年以降の建設業と全産業における、55歳以上と29歳以下の割合の推移である。令和4年では、55歳以上の割合は全産業の31.5% に対し、建設業が35.9%、29歳以下は全産業の16.4% に対し建設業は11.7% となっており、平成10年前後と比較すると、高齢化の進行状況が顕著であることが見て取れ、全産業と比べても、建設業は高齢化が深刻な状況である。

図1 建設業における職業別就業者の推移

図2 建設業就業者の高齢化の進行

また、図- 3 は、年齢階層別の建設技能者数を表したもので、60歳以上の高齢者が全体の25.7% と約4 分の1 を占めている一方、これからの建設業を支える29歳以下の割合は、全体の11.7% になっており、10年後に60歳以上の者の大半の方が引退すると考えると、若手入職者の数が不十分であるということがわかる。

図3 年齢階層別の建設技能者数

図- 4 は、建設産業における働き方の現状であるが、他産業と比較して出勤日数や労働時間が多く、また、休日の取得状況についても、「4週6休程度」が最多を占めており、改善が進んでいるとはいえ他産業の後塵を拝している状況が続いており、若手入職者の減少につながっていると考えられる。

図4 建設産業における働き方の現状

図4 建設産業における働き方の現状

3.担い手確保の取組
(1)学校キャラバン(出前授業)とは
このような状況の下、建設業界と行政が一体となって、生徒・保護者・教員に対して、建設産業の社会的役割やものづくりの素晴らしさ、楽しさ、そして建設業の魅力を肌で感じてもらい担い手確保につなげていくことを目的として、平成29年度から学校キャラバンを本格実施している。具体的には、学校に直接出向き、建設産業の紹介や生徒による専門工事業の作業体験等を行っており、令和2、3年度はコロナ禍により実施を見送ったが、令和4年度から再開し、昨年度は鞍手竜徳高等学校、福岡第一高等学校、長崎工業高等学校(定時制)の3校で実施し、今年度は福岡第一高等学校で実施済み、鞍手竜徳高等学校で実施予定である。

(2)学校キャラバンのプログラム

表 学校キャラバンのプログラム

上記プログラムは、令和5年3月に鞍手竜徳高等学校で実施したものである。プログラムとしては、オリエンテーションで専門工事業に関しての紹介等を行い、その後、各班に分かれて各職種を体験するような構成としている。満遍なく全員が各職種を体験した後に、就職した学校の先輩を含む、参加企業の方との意見交換を実施している。

写真1 オリエンテーション

写真2 足場設置体験

写真3 鉄筋ガス圧接体験

写真4 鉄筋結束体験

写真5 型枠組立体験

(3)アンケートから見る実施効果について
図- 5 は、学校キャラバン実施後に生徒に実施したアンケートの結果であるが、やりがいのある仕事、技能が身につく仕事など、建設業に対して良いイメージを持つ生徒が多数見られた。一方で危険な仕事、きつい仕事、いわゆる「3K」のイメージを持つ生徒もいた。
また、図- 6 は、職業を選択する際に意識する項目についての結果であるが、給料(福利厚生)、職場の雰囲気、休暇などが重視されている。

図5 建設業のイメージ

図6 職業を選択する際に意識する項目

図- 7 は、今回の学校キャラバンも含めて、「将来、建設業の仕事が職業選択の一つになったか」という質問に対する回答結果であるが、「他の産業に興味があったが、建設業にも興味がわいてきた」との回答が一番多かった。これは、建設業の魅力発信をより一層進める必要性を示している。

図7 建設業が職業選択になったか

図- 8 は、学校キャラバン全体を通しての感想や興味を引いた内容についてであるが、「色々な建設業の種類があることが分かって、どれか1つでも欠けたら成り立たなくなるので、すごい職業だなと感じた」、「実際に足場等の建設業を体験してみて、きつかったけどやりがいを感じた。来年の就職に活用する」と言った感想が得られた。

図8 主な感想、興味を持ったこと

図- 9 は、学校キャラバンにおいて、学校教員に対して実施したアンケート結果(感想)だが、「生徒が班全員で取り組む姿が印象に残った」、「生徒も楽しそうに普段できない体験をしていた」など体験を通して、生徒が専門工事業について知識を深めることができたことが感じられる。

図9 教員のアンケート結果

(4)今後について
アンケートの結果から、学校キャラバンについては、一定の効果があるものと考えられる。
しかしながら、『建設業のイメージ』に関しては、「建設業はやりがいがある仕事である」というよいイメージを持つ生徒が最も多い結果となっている一方で、『職業を選択する際に意識する項目』に関しては、「給与(福利厚生)」>「職場の雰囲気」>「仕事のやりがい」の順番となっており、処遇や労働環境が重視される傾向にあるというのが実情である。
現在、国、地方公共団体、業界が一体となって、建設業の担い手確保の取り組みを進めているところであるが、これから担い手確保を他産業より優位に進めていくためにも、さらなる処遇改善の取り組みが必要であることは間違いない。それに加えて、次世代を担う世代に、もの作りの楽しさ、建設業の魅力を発信していくことも、建設業に若者が入職してもらうための重要な取り組みのひとつであると考えている。
新型コロナによる制限が解除された今後については、さらに積極的に計画していきたいと考えている。

4.おわりに
おわりに、建設産業専門団体九州地区連合会(九州建専連)については、学校キャラバンの実施に当たり、ここに感謝の意を表すとともに、これからも担い手確保等について九州地方整備局としても協力して取り組んで参りたい。

建設産業専門団体九州地区連合会(九州建専連)
杉山秀彦会長((株)スギヤマ会長)の元、九州の各専門工事業(下請)の14 団体、約4,000社の会員で構成され、専門工事業の地位向上、働く人たちの労働条件や環境改善、専門工事業の技能・技術の継承等のため、各種取組を実施している。

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