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働き方改革に向けた九州地整独自の新たな取り組みについて
~5(ファイブ)ルールの理解を促す「勘所」や「支援の手引き」の作成~

国土交通省 九州地方整備局
企画部 技術管理課
課長補佐
山 本 恭 裕

キーワード:生産性の向上、5 運用基準(通称・5(ファイブ)ルール)、勘所(かんどころ)

1.はじめに
建設業では、令和6年4月1日から罰則付きの時間外労働の上限規制が適用される。上限規制の時間は月45時間、年360時間(月平均30時間)で、違反すると雇用主に6か月以下の懲役又は30 万円以下の罰金が課される。
時間外労働の上限規制については、大企業で平成31年4月から中小企業で令和2年4月から適用され、建設業では上限規制の適用までに5年の猶予期間が設けられた。建設業に猶予期間が設けられた理由は、長時間労働、休日出勤、人手不足の課題を早期に解決することが難しく、一般企業のように時間外労働の上限規制を遵守することが難しいと判断されたためである。

2.品確法_運用指針の改正
将来にわたる公共工事等の品質確保、その担い手の中長期的な確保・育成を図るため、令和元年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」が公布・施行された。
また、令和2年1月に改正品確法を踏まえた「発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)」の改正を行い、都道府県や市区町村を含む全ての公共工事等の発注者が適切に発注関係事務を運用し品確法に定められた発注者としての責務を果たしていくこととなった。
運用指針に定められた「発注者の責務」について、再度認識するためにも、以下に必ず実施すべき事項について示した。
① 予定価格の適正な設定
② 歩切の根絶
③ 低入札価格調査基準又は最低制限価格の設定・活用の徹底等
④ 施工時期の平準化
⑤ 適正な工期設定
⑥ 適切な設計変更
⑦ 発注者間の連携体制の構築

3.新たな取り組み
(1)生産性向上(≒時間外労働削減)を実感するための運用基準の再構築
これまでも運用していた、働き方に関する5運用基準(通称・5(ファイブ)ルール)について改正を行い、これらのルールをパッケージとして適正に運用し、理解と周知徹底に取り組むこととした(図- 1)。
①「土木工事書類省力化ガイド」の改正
⇒・名称変更:旧「土木工事書類簡素化の手引き(案)」
 ・現場からの意見を反映し、解釈に齟齬が出ないような具体的な表現や名言
②「いきいき現場づくり」の改正
⇒・業界との意見交換等を参考に、“ 工期末の第4・四半期集中” を改善する策を追記
③「設計変更ガイドライン(工事)」の改正
⇒・工事監理連絡会でクリティカル工程の共有、受発注者の役割分担等の確認を追記
④「土木工事施工条件明示の手引き」の改正
⇒・施工途中で発生しうる変更も想定した当初設計条件の積極的な記載
⑤「工事一時中止に係るガイドライン」
⇒・現場からの意見等を反映

図1 働き方改革5 運用基準(5ルール)

5ルールの理解を促す「工事の適正執行のための勘所」を作成し、5 つのガイドライン・手引きの運用上で、特に重要な事項や現場での留意・配慮事項等を見える化した。
発注者の責務として明確化された事項等に大きく反した運用とならぬよう、発注者として適正執行に努めるべく運用を“ 勘所(かんどころ)” として以下にまとめた(図- 2)。

図2.1 工事の適正執行のための勘所 表紙

図2 工事の適正執行のための勘所

特に現場において、陥りやすいこと、勘違いしやすいこと、これだけは気を付けて欲しいこと等の5つの項目について抽出し、各事務所に留意するように周知徹底した(図- 3)。
■変更が3 割を超えたことを理由に「設計変更に応じない」、「打ち切り竣工」などはあってはならない
■変更において、一方的な当初数量減は厳に慎むこと
■過去の変更事例に関わらず、適切な理由で現場施工されたものは設計変更の対象とする
■運搬可能な規格の製品であれば、現場打ちとの経済比較なしでプレキャストを採用してよい
■技術者の交代については、やむを得ない事情や区切りが認められる場合は、監理技術者は交代してよい。

図3 現場における留意点

受注者に責の無い設計変更に伴う設計図書の訂正・変更は発注者が行う事となっているが、現場では諸般の理由で対応困難な場合もある。変更設計の支援策として「工事図書等作成支援の手引き」を作成し、発注者が作成すべき工事変更図書について、やむを得ず発注者自ら作成できない場合の対応策を新たに整理した(図- 4)。

図4.1 工事図書等作成支援の手引き表紙

図4 工事図書等作成支援の手引き

詳細は九州地方整備局HP参照
https://www.qsr.mlit.go.jp/for_company/hatarakikatakaikaku.html

(2)現場の認識と適正運用の徹底のためブロック説明会(キャラバン)を実施
キャラバンは、各県単位に発注者、受注者の双方に対して対面により、発注者等がおかれている現状(品確法、労基法等の社会情勢の変化等含む)等も含め、「勘所(ガイド)」等による5ルールの適正運用の徹底を図る(写真- 1)。

写真1 管内出張所長・建設監督官等会議へ説明

(3)2024問題に特化した“ OODAループ” による集中管理
令和5年度中にキャラバンは終了するが、期間を限定し約1年間令和6年度末まで、例えば出張所長・監督官の代表者と連携してOODA ループ(※)を構築し、出張所長・監督官の代表者やブロック代表者と企画部(官)でweb 等において、5ルールの周知や運用状況、改善点などの情報収集及び必要により迅速なフォロー・情報共有(1回/月~ 4 回/年)を行い、さらに周知徹底を図っていく。

※OODA =迅速な意思決定を行うためのフレームワークのこと。Observe_「観察」、Orient_「状況判断」、Decide「意思決定」、Act「行動」スピーディかつ状況に合わせた柔軟な対応が可能。

4.まとめ
今回の取り組みは、単なる2024年問題対応だけでなく、従前から受発注者間に内在する課題(認識の相違、思い込み、慣習・しがらみ等)を解決するための一方策でもあり、建設業界全体(コンサル業務等も含め)として非常に重要なものである。
一方で、当該取り組みで受発注者間に内在する課題が一気に解決する訳ではない。
例えば、九州独自の「工事の適正執行のための“ 勘所”」については、大きな方針を示したものであり、いわば“ 宣言” 的なものである。
これを現場で適正に運用していくためには、先ずは現場で出来るものから実践してみて、新たに必要となる基準や考え方等の整備などのニーズが出てくるものと想定しており、そのニーズを迅速に把握し、必要なものから順次整備することが、真の“ 実践” であり、“ 定着” に繋がるものである。

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