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国道322号八丁峠道路開通1年後の整備効果等について

国土交通省 九州地方整備局
 北九州国道事務所 計画課長
楠 本 茂 人

キーワード:八丁峠道路、整備効果、防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策

1.はじめに
国道322号は、福岡県北九州市を起点に、田川市、嘉麻市、朝倉市を経由して、久留米市に至る延長約120㎞の福岡県北部の主要都市を南北に連絡する幹線道路である(図-1)。
かつては、豊前と筑前・筑後を結ぶ秋月街道として、江戸時代に長崎街道が整備されるまで、参勤交代などでも利用されるなど、古くから人や物の交流を支えてきた。
そのうち八丁峠においては、大型車の離合が困難な区間や線形不良区間といった交通の隘路が存在するとともに(写真-1)、異常気象時や冬期には通行規制が発生するなど課題が多かったため、平成18年度より国の権限代行にて八丁峠道路の整備に着手し、令和元年11月16日に開通を迎えた。
今般、開通から1年を経過したことから、現状での整備効果等を報告する。

写真1 国道322号八丁峠の状況

図1 位置図

2. 八丁峠道路の事業概要等
国道322号八丁峠道路は、交通安全性の向上と道路の信頼性確保等を目的に、平成18年度より、延長4.5㎞の完成2車線のバイパス整備事業として着手した。なお、本事業は、延長約3.8㎞の長大トンネルを含むことから、国の権限代行事業として、実施されることとなった(表-1)。

表- 1 事業概要

平成18年11月に測量着手式を開催後、平成20年度から用地買収及び工事に着手した。その後、平成24年度に嘉麻市側、平成26年度に朝倉市側のトンネル工事がそれぞれ発注され、両方向から掘削工事を行い、平成29年2月にトンネルが貫通することとなった。そして、令和元年11月16日に、13年の整備期間を経て、嘉麻市と朝倉市を結ぶ新たな道路が開通した。同日に行われた開通式では、多くの関係者が集まり、盛大に式典が開催された(写真-2)。

写真2 開通式の状況(令和元年11月16日)

3.防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策
 近年激甚化している災害により、全国で大きな被害が頻発していることから、重要インフラの緊急点検結果等を踏まえた「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の観点で、特に緊急に実施すべき対策について、平成30年度から令和2年度までの3年間で集中的に実施する「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」が実施されることとなった(図-2)。

図2 防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策(道路関係)

八丁峠周辺の国道322号現道は、土砂災害特別警戒区域・土砂災害警戒区域が指定されているだけでなく、異常気象時事前通行規制区間が設定されるなど、災害に対して脆弱な状態であることから、八丁峠道路整備を「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」に位置づけ、事業推進を図った。(図-3)。
八丁峠道路においては、冬期の規制が発生する前に開通を迎えることができ、異常気象時事前通行規制区間等のリダンダンシーの確保など、強靱で信頼性の高いネットワークが形成された。

図3 国道322号八丁峠の規制状況等

4.整備効果等
(1)交通量の変化
開通後の交通状況を把握するため、開通1ヶ月後、1年後に、八丁峠道路に加え、国道332号現道部、並行する国道200号で交通量調査を実施した(図-4)。
その結果、平日交通量を見ると、開通前には120台/日程度の往来であった国道322号においては、開通1年後の八丁峠道路の利用台数が3,302台/日となっている。一方で、並行する国道200号では、開通前後で約3千台/日が減少しており、国道322号に交通が転換したと想定される。また、八丁峠道路では大型車混入率が20%を超えており、福岡県内直轄国道の約1.5倍と高く、物流交通の利用が多いことが想定される(図-5、6)。
休日の交通量は、1ヶ月後、1年後ともに、平日交通量よりも多く、1年後には約4千台/日の利用が確認されており、観光や私用目的による利用が多いことが想定される(図-7)。

図4 交通量調査箇所図

図5 平日交通量 図6 八丁峠道路の大型車混入率

図7 八丁峠道路の休日・平日交通量

(2)信頼性の高いネットワーク確保
 重要インフラの緊急点検により、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」に位置づけられた国道322号八丁峠道路の現道区間では、延長11.9㎞区間において、連続雨量が170㎜を超えると通行止めとなる異常気象時事前通行規制区間に設定されている。また、峠部は標高が高いため、冬期には路面凍結による通行止めが発生するなど、災害に対して脆弱な状態にある(図-3)。そのため、平成22年度から令和元年度の過去10年間で、災害による規制が、嘉麻市側で7回、朝倉市側で13回発生しており、10年間の平均で、年間の約半分の期間で通行規制が発生している状況にあった(図-8)。
令和2年7月豪雨では、最大時間雨量51㎜の非常に激しい雨を観測したため、現道では災害による規制が生じたが、八丁峠道路は被災することなく、リダンダンシーが確保された。このように、強靱で信頼性の高いネットワークが形成されたことで、物流・人流の確保が図られたことが確認されている(写真-3)。

図8 国道322号八丁峠における規制実績

写真3 八丁峠道路の利用状況

(3)物流活動の効率化
 福岡県北部は、全国でも有数の自動車組立工場の集積地であり、その周辺には関連する企業が多く立地している(図-9)。八丁峠道路の整備により、物流輸送上の隘路区間となっている八丁峠を回避することができるため、物流ルートの選択肢の増加や物流効率化が期待されていた。
久留米市の自動車部品工場と苅田町の自動車組立工場を毎日2往復している物流業者によると、八丁峠道路を利用することで、片道約30分の短縮が図られ、1日で所要時間は約2時間短縮したという(図-10)。この2時間の短縮は、ドライバーの労働負担の軽減等に寄与しており、長期的には、走行距離の短縮による燃料経費の削減も期待しているという。このように、新たな道路ネットワークの形成により、物流活動の効率化が図られていることが確認されている。

図9 福岡県内の自動車関連企業の立地状況

図10 物流業者へのヒアリング結果

(4)地域の観光産業支援
国道322号周辺には、自然景勝地や歴史文化遺産といった豊富な観光資源が存在しており、八丁峠道路の整備により、移動時間の短縮が見込まれ、観光地での滞在時間の増加や観光地間の周遊性の向上など、観光振興が期待されていた(図-11)。今回の開通によって、観光地間の移動時間は整備前に比べて約20分短縮されている(図-12)。また、八丁峠道路利用台数は平日に比べて、休日の方が多くなっていることからも、観光目的での利用が多いことが考えられる。
具体な観光施設でみてみると、朝倉市秋月観光博物館では、八丁峠道路開通後の来館者数が、開通前年の同時期と比べて約4割増加していることが確認されている(図-13)。特に、開通直後の令和元年11月24日には、同博物館への入館者が4万人になるが、記念すべき4万人目の来館者は飯塚市在住のご家族で、新しく出来た八丁峠道路を利用し、秋月観光を行ったとの発言もあり、本道路整備が地域の観光産業へ貢献していることが確認されている。

図11 国道322号周辺の観光資源

図12 所要時間の変化 図13 朝倉市秋月観光博物館の来館者数

5.おわりに
開通1年を迎えた八丁峠道路においては、災害時にも機能する強靱で信頼性の高い道路ネットワークを形成しており、コロナ禍において改めてその重要性が確認された物流活動に対して、安定性を確保するとともに、物流活動そのものの効率化にも寄与していることが確認された。一方で、観光産業を中心に、コロナ禍による影響を受けている面があるものの、八丁峠道路が交流機会の創出に影響を与えている面が確認されている。
今後も地域の各種産業の振興に向けた取組を支援できるよう、引き続き、道路整備による効果を把握し、道路利用者へ発信していきたい。

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