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中津日田道路「鹿熊かぐまふるさとトンネル」の貫通
~軟弱地盤と多量の湧水を克服して~

大分県 中津土木事務所       
中津日田道路建設室 室長補佐(総括)
奈 良 崇 史

キーワード:中津日田道路、鹿熊ふるさとトンネル、軟弱地盤、湧水

1.はじめに
中津日田道路は,大分県中津市から同県日田市に至る延長約50㎞の地域高規格道路であり、中津日田地域を生活・産業・観光面で支援するため、平成8年度より整備を進めている。令和元年度までに約17.8㎞が開通し、令和2年度現在は、3工区約23.8㎞を大分県及び国土交通省(直轄権限代行)で事業を行っている(図-1)。
耶馬溪道路は、中津日田道路の内、中津市耶馬溪町の耶馬溪山移ICから中津市耶馬溪町大島を結ぶ延長5㎞の事業区間であり、平成20年度より整備を進めている。本トンネルは、工事着手時は中津3号トンネル(仮称)と称し、耶馬溪道路の中央部に位置し、標高664mの鹿熊(かぐま)岳を東西に貫く延長2,986mのトンネルであり、開通すれば大分県管理では最長、県内では2番目に長いトンネルとなる。
平成27年より起点側(1工区)と終点側(2工区)からの2つの工区に分けて掘削を開始したが、その工事は、予想外の軟弱地盤や多量の湧水により、非常に困難なものであった。

2.トンネル工事の概要
全体延長:L=2,986m 幅員:W=7.0(10.5)m
1工区(起点側=中津側)L=1,546m
2工区(終点側=日田側)L=1,440m

3.地質状況
この地域は、主に新第三紀~第四紀にかけての活発な火山活動で形成された火山噴出物に覆われている。トンネル計画ルートは、新第四紀更新世の木ノ子岳安山岩類からなる鹿熊岳の南斜面に位置する。鹿熊岳の周囲には新第三紀鮮新世~中新世の耶馬溪層が広く分布し、深部には宮園安山岩類が分布している。トンネル基面は、耶馬溪層(Y)と宮園安山岩(MAn)からなり、耶馬溪層は下部層のうち凝灰角礫岩(Ytb1)とシルト岩・砂岩を主体とする下部互層帯(Yalt1)に分類される(図-2)。

4.軟弱層及び恒常湧水への対応 ~2工区~
2工区では、坑口から暫くは比較的安定した地山状況であったが、400m付近の鏡面において、未固結の脆弱な砂層上部のシルト岩が幅8m、高さ5m、奥行1mにわたり崩壊した(写真-1)。砂層は、圧縮強度0~2N/㎟程度(指で押しつぶせる程の硬さ)であり(写真-2)、吹付コンクリートの付着が悪く、エアーの圧力程度で吹付箇所が崩れるほど自立性が低かった。その後も、砂層は切羽面に出現し続け、範囲は拡大縮小を繰り返し、天端付近にまで広がった。切羽安定対策として、注入式長尺先受工(φ76.3㎜、L=12.5m、@45㎝、シリカレジン注入)と長尺鋼管鏡補強工(φ76.3㎜、L=12.5m、@1.5m、シリカレジン注入)等の補助工法を追加し安全を確保した(図-3)。

さらに、530m付近から湧水量が増加し(写真-3)、575m地点では先受工の鋼管の隙間から砂層の抜け落ちが生じた(写真-4)。湧水対策として水抜きボーリングを行うとともに、鋼管の打設間隔を45㎝から30㎝に縮めた。しかし、湧水量はさらに増加し、608m付近では切羽での湧水量が最大で毎分600リットルにまで達し、掘削は困難を極めた。また、砂層と互層を形成するシルト岩・泥岩についても、湧水の影響により自立性が乏しく、部分的な崩壊を繰り返した(写真-5)。増大する湧水への対応として、濁水処理設備を増設(60m3/h→120m3/h)するとともに、鋼管打設時に大量湧水が生じる箇所については、注入する薬剤を水と反応し発泡固化するウレタン系減水・止水剤(KOD-M)に変更し、さらに高圧注入(最大5MPa)により鋼管周辺に強固な改良体を形成し、湧水量を滴水程度まで減水することができた。

5.膨張性地山への対応 ~1工区~
1工区では、全体的に安定した地山状況であったが、坑口より約1,140m付近において、スメクタイト(粘土鉱物)を多量に含む膨張性地山が確認され(写真-6)、切羽の肌落ちや、坑内変位(最大約6㎝)によるロックボルト頭部のプレートの変形等が見られた(写真-7)。そのため、切羽安定対策として長尺鋼管鏡補強工(φ76.3㎜、L=12.5m、@1.5m、シリカレジン注入)等を追加するとともに、増ロックボルトやインバートストラット(鋼製支保工H-200、吹付厚25㎝)を施工し、変位を抑制した(図-4)。

6.貫通
このように軟弱な地盤や多量の湧水による難工事であったが、平成30年1月28日に貫通式を開催することができ、県・市・地元・工事関係者など約200人が出席した(写真-8)。式典で、トンネル名称は、地元中学校の生徒の意見を元にした「鹿熊(かぐま)ふるさとトンネル」を正式名称とする旨を発表した。
トンネル銘板の文字は、同中学校の3年生に揮毫していただき、銘板完成の際には、生徒達が卒業してからも「ふるさと」の思い出のひとつになることを願い、3年生を招いてのお披露目式を開催した(写真-9)。
貫通後は、トンネル本体工、舗装工(連続鉄筋コンクリート)、照明、換気、防災設備等の工事へと移り、令和2年7月時点ではこれらは完成し、残すはトンネル内装や交通安全施設のみとなっている。

7.供用開始に向けた気運醸成
耶馬溪道路は令和2年度中の供用を目指しており、いよいよラストスパートと言ったところである。
各工事の進捗管理や現場対応に追われる状況だが、供用後に多くの方がこの道路を利用し、この道路を活かした地域づくりが進むよう、気運醸成を図ることも併せて重要である。
その取組の一つとして、トンネルに隣接した本事業による橋梁の上で、地元中津市の高校の書道部による「書道パフォーマンス」が行われ、地上約30mの高さに位置するコンクリート床版の上面に、中津日田道路の早期開通や将来に寄せる想いなどを音楽に合わせて力強く書いていただいた。このイベントは、地域の若者の団体と県との共催によって開催されたもので、イベントを通じて、地域との交流や、明日を担う世代がふるさとの地域づくりにとって重要な社会資本への関心と気運を高める良い機会となったのではと思う(写真-10)。

8.おわりに
鹿熊ふるさとトンネル工事を含め、事業区間内では日々、様々な現場課題が生じているものの、着実に事業が推進できているのは、工事受注者やコンサルタント、および地域の方々など、多くの方々のお力によるものであり、深く感謝申し上げる。事業に関わった方々に報い、道路の開通を待ち望んでいる方々の期待に応えるべく、早期開通に向けて職員一丸となって取り組んでいくものである。

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