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土工の全体プロセスへのICTの全面的な活用について
喜安和秀
森川博邦
重高浩一

キーワード:i-Construction、ICT土工、3次元データ

1.はじめに
国土交通省では、建設生産システム全体の生産性向上を図り、もって魅力ある建設現場を目指す取組みである『i-Construction』を進めている。
i-Constructionの基本方針や推進方策を検討するにあたっては、国土交通省に6名の有識者を委員とし関係業界団体をオブザーバーとする「i-Construction 委員会」が設置され、平成27年12月から4回にわたって議論が行われた。そして、i-Construction委員会における審議を踏まえ報告書がとりまとめられ、平成28年4月11日に小宮山宏委員長(㈱三菱総合研究所理事長)から石井啓一国土交通大臣に対して報告書が手交された。
現在、国土交通省はi-Constructionの取組みとして、トップランナー施策である「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)」、「施工時期の平準化」の実施や施策の検討等が行われている。国土技術政策総合研究所においても、平成28年3月にi-Construction推進本部を設置し、i-Constructionに関する①研究・開発の推進、②普及の推進、③関係機関との情報共有・連携により、魅力ある建設現場の実現に貢献することを目指している。
本稿では、i-Constructionのトップランナー施策の一つ「ICTの全面的な活用(ICT土工)」に関して、国総研がその実施に不可欠な基準類の策定・改訂の原案作成に関わったことを踏まえて、ICTの全面的な活用及び新たに導入される基準類について、その意義や期待される効果を整理する。

1.i-ConstructionにおけるICTの全面的な活用
1.1 i-Construction の背景と目的
我が国の人口構造に起因する将来の労働力不足は全産業に共通する課題であるが、建設産業においては、既に中高年層が建設現場を支える状況にあることから、より一層深刻な課題である。
(一社)日本建設業連合会によれば、現在、建設現場で働いている技能労働者約340万人(2014年時点)のうち、約1/3 にあたる約110万人が今後10年間で高齢化等により離職する可能性が高いことが想定されている。建設産業においては、いま生産性を向上させなければ、建設現場を維持し社会的使命を果たしていくことが困難な状況になると考えられる。
このため、i-Constructionの取組により建設現場の生産性を向上させることで、企業の経営環境を改善し、建設現場で働く方々の賃金水準の向上を図るとともに、安定した休暇の取得や安全な建設現場の実現を目指している。

1.2.ICTの全面的な活用(ICT土工)
施工現場において3次元設計データにより建設機械を制御する情報化施工は、2008年より試行され、国土交通省発注の土工工事の約13%(2014年度) で 実施されており、最大で約1.5倍に日当たり施工量が効率化することを確認している。
これまでの情報化施工は施工段階のみの情報化であったが、i-Constructionのトップランナー施策の1つである「ICT の全面的な活用(ICT土工)」については、測量から設計、施工、検査までの建設生産プロセスにおいて、3次元データを一貫して使用するICTを全面的に導入し、抜本的な生産性の向上を図ることとしている(図-1)。
ICTの全面的な導入により、建設現場の仕事の仕方は次のように変わる。
①設計
(従来)
設計は二次元で行われ、情報化施工を行うにあたっては、施工者が情報化施工用の3次元データを作成していた。
(i-Construction)
設計段階で3次元設計データを作成し、発注者に納品する。発注者は施工者に3次元設計データを渡すことにより、情報化施工用の3次元データの作成が効率化される。

②起工測量
(従来)
現場を歩きながら1点ごとに時間をかけて測量していた。
(i-Construction)
UAVを用いた写真測量等で起工測量を行い現場地形の3次元データを入手する(図-2)。

③施工計画
(従来)
設計図面から施工土量を計算算出。場所により断面でわかる範囲での近似計算結果を採用した。(i-Construction)
起工測量の3次元データと3次元の設計データとの差分計算により、施工土量が瞬時に把握でき、適切な施工計画立案も可能。

④施工
(従来)
人力での丁張り設置は労力を要し、丁張りを目安にした機械操作は熟練者でなければ困難である。
(i-Construction)
現場では情報化施工により、3次元設計データを搭載した建設機械がオペレータの作業を支援する。これにより初心者でも熟練者なみの精度や効率で作業が可能となる。

⑤施工管理
(従来)
機械施工の合間に労力をかけた検測作業を行い、施工管理をしていた。
(i-Construction)
UAVやLS等を使って出来形の3次元データをごく短時間で収集でき、施工管理(出来形管理、出来高管理)の労力を大幅に減らすことができる。

⑥検査
(従来)
断面毎に検査書類の作成と実地検査を行うため、発注者・受注者ともに大変労力がかかっていた。情報化施工を行っていても検査は書類で行っていた。
(i-Construction)
実地検査の頻度が大幅に削減され、発注者・受注者ともに省力化が図られる(図-3)。
また、特に発注者側のメリットとしては、以下のようなことが挙げられる。
ア.工事目的物の品質確保
1)2次元データから3次元設計データを作成するため、図面の照査が確実
2)空中写真測量(UAV)/ LSによる出来形計測は面的な計測データとなるため、出来形が確実で確認が容易
3)出来形を面的に計測することによる品質確保
4)面的な計測結果を用いた図面の作成および数量算出による品質確保
イ.業務の効率化
1)3次元設計データと3次元計測データをソフトウェアで比較することにより図面の照査が効率化
2)実地検査における検査頻度を大幅に削減
3)写真管理基準の効率化が可能
このように、ICT土工により、測量・設計から施工、検査までの建設生産プロセスで3次元データを一貫して活用することで、現場作業の大幅な省力化・効率化による生産性向上が期待されている(図-4)。

2.新たに制定された15基準の概要
調査・測量から設計、施工、検査の建設生産プロセスにおいて ICTを全面的に導入するため、3次元データを一貫して使用できるよう、国土交通省では15の新基準及び積算基準を整備し、直轄事業に平成28年4月より導入した(表- 1)。以下では、主な基準類について、その概要と策定・導入の意義等を述べる。

2.1 UAVを用いた公共測量マニュアル(案)
国土地理院は、無人航空機(U A V:Unmanned aerial vehicle 通称ドローン)を測量で使用できるように、「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」を作成し、公表した。このマニュアル(案)は、UAVで撮影した空中写真を用いて測量を行う場合における、精度確保のための基準や作業手順等を定めているものである。また、このマニュアル(案)と同時に「公共測量におけるUAVの使用に関する安全基準(案)」が公表されている。これらにより、円滑かつ安全にUAVによる測量が実施される環境が整備された。
2.2 3次元設計データ交換標準
「LandXML1.2に準じた3次元設計データ交換標準(案)」(以下、「3次元設計データ交換標準」)は、国土交通省の道路事業、河川事業における土工構造物の設計及び工事において、CIMやi-Constructionで必要となる交換すべき3次元設計データを、土木・測量分野のデータ交換の標準フォーマットである『LandXML』に準拠した形式で表記することとし、その内容及び、データ形式を定めたものである。
この3次元設計データ交換標準は、以下の利活用の実現を目指している。

①設計、工事の電子納品成果としての利活用
構造物の3次元設計データは工事完成後も保管すべき情報である。そこで設計・施工の成果として電子納品される3次元設計データの形式をLandXML準拠として標準化することにより、詳細設計、施工、維持管理業務など、設計以降の工程を含むあらゆる建設生産プロセスで利活用を図る。
②情報化施工や3次元CADへの利活用
3次元CADへのデータ入力や、3次元データによる可視化のための入力データ、及び、TSやマシンコントロール、マシンガイダンス、点群データを用いた出来形管理等の情報化施工への出力データなど利用を想定し、各CADベンダーや測量機器メーカー等の、データ交換の標準としての利活用を想定している。

2.3 UAV / LSを用いた出来形管理要領及び工事検査技術基準と出来形管理の監督・検査要領
施工管理にあっては、施工管理データの取得によりトレーサビリティが確保されるとともに、高精度の施工やデータ管理の簡略化・書類の作成に係る負荷の軽減等が可能となる。近年はレーザーで距離の測定を行えるトータルステーション以外にも、面的な広範囲の計測が容易なレーザースキャナー( 以下、LS) や無人航空機(以下、UAV) を用いた空中写真測量についても利用が進み、施工管理のための現場計測に使える方法が多様化するとともに、省力化が可能となってきている。
2.1で述べたように国土地理院は「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」を策定したが、この内容も踏まえて、空中写真測量(UAV) やLSを用いて土工の出来形管理を合理的に行うための要領を定めた。
この要領で特筆すべきことは、測量や検査時に空中写真測量(UAV)やLSを用いた3次元計測で形状を網羅的に取得し、その結果で生成される3次元点群デ ータを出来形管理に活用し作業を効率化出来るように、出来形管理基準に「面管理」の手法を導入するとともに、従来と同等の出来形品質を確保できる面的な測定基準・規格値を設定したことである(図-5)。
これらの要領並びに規格値の策定にあたっては、平成27年度に各地方整備局等の施工現場に協力いただき、空中写真測量(UAV)やLS活用による施工管理の実証確認を行っている。
今年度は、既にi-Construction型工事(ICT活用工事)が公告・発注されているところであり、これらの現場等でも引き続き要領に関して検証を行っていく予定である。
また、空中写真測量(UAV)やLSを活用した施工管理が行われる際に、監督・検査職員が「工事施工前における使用機器の精度の確認」「既済部分検査及び完了検査実施時における出来形管理・品質の確認」などを効率的かつ正確に実施するため、空中写真測量(UAV)/ LSを用いた出来形管理の監督・検査要領を定めた。
これにより、完成検査時の実地検査はTSやGNSSローバー等を用いて1工事あたり1断面の実地検査を行うのみとなり、検査頻度を大幅に削減することが可能となった。

3.3次元計測活用の意義と留意点
UAVやLSを利用した地形測量および出来形測量の方法を、従来の巻尺、レベルあるいはTSを用いる方法と比べた場合、以下の優位性がある。
(1)計測の準備作業が軽減でき、また計測時間も短いために測量作業が大幅に効率化する。
(2)測量結果を3次元CAD等で処理することにより、鳥瞰図や縦断図・横断図など、ユーザの必要なデータが抽出できる。
一方で、空中写真測量(UAV) やLSを用いた計測は、従来の巻尺、レベルやTSによる計測に比べ、以下の点に留意点する必要がある。
(1)計測箇所をピンポイントに計測できない
(2)樹木の下や草で覆われた箇所の計測は精度確保が困難
さらに、空中写真測量(UAV) を用いた計測では
(a)強風や雨などの天候により計測できない
(b)航空法等の規制により利用できない地域がある
といったことにも注意が必要であり、LSを用いた計測では
(c)取得データの計測密度にばらつきがある
ということにも注意が必要である。
今回新たに導入された新基準の「空中写真測量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)」、「レーザースキャナーを用いた出来形管理要領(土工編)(案)」及び「出来形管理基準及び規格値」は、こういったUAVやLSの優位性と弱点を踏まえた上で策定されているが、現場への導入にあたっては、これらの特徴をよく理解したうえで現場に応じた基準の適用を図る必要がある。

4.おわりに
平成28年度より直轄の工事現場で、土工においてICTを全面的に活用したi-Construction対応型工事(以下、ICT活用工事)が発注されICT土工の導入が始まった。しかし、新しい取り組み故に、受発注者ともに、その内容や方法の理解と習熟は大きな課題である。
国総研では、ICT土工の現場適用性や効果の実態調査を計画するとともに、新たに導入した基準類に関する相談窓口やホームページを開設し、技術相談やQ&A等の情報発信を行っている。また、研修等への講師派遣にも応じることとしているので活用いただきたい。
(国総研HP/i-Construction推進本部: http://www.nilim.go.jp/japanese/organization/ic_honbu/indexicon.htm )
参考文献
1)i-Construction ~建設現場の生産性革命~H28.4 i-Construction 委員会
2)(一社) 日本建設業連合会「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-」
3)国土地理院HP / UAVによる公共測量
 http://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/public/uva/index.html

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